奇妙な魔術師の放遊録 ~ゆかいな仲間たちは今日も我が道を進む?~

遊爆民。

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第三章 王都への旅路

第二十二話 地上へ

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「そうだ!ウチの荷物、何処行った?」

 ヴルフの背中に担がれたアイリーンが突然騒ぎ出した。自らが背負っていた旅の荷物や罠の解除道具などが入っていた荷物が何処にも無い事に気が付いたのだ。。
 スイール達はアイリーンを救う事だけしか頭になかった為に、腰にしっかりと巻かれていた小物入れの鞄以外を気にする余裕を持ち合わせていなかった。

 アイリーンが騒ぎ出したことで、迷宮に挑むには軽装すぎると今頃気が付いた。
 それを悪いと感じたのか、ヴルフは”やれやれ”と背負子を下して彼女へと向き直った。

「それはどんなのだ?」

 荷物と言えども、何らかの特徴があるはずだ、大きさとか、何が入っているとかと尋ねてみる。

「アンタのより少し小さい奴。それに弓と短い剣!!」

 身振り手振りを混ぜて、バックパックの大きさや形を現して見せた。

「アレカ?スコシ マテ」

 先ほど休んでいた部屋から数歩の距離しか進んでいなかったのが幸いしたのか、顎に手を当てて考えていた蜥蜴人リザードマンが、近くの部屋へと入り込むと、大きな巨体にそぐわぬバックパックと弓を持ち戻ってきた。
 だが、聞き取れなかったのか、愛用していた剣は持っていなかった。

「コレデ イイカ?」

 ”あ、それ!”と声に出し喜んでいた。本来なら飛んで行ってしがみつきたいところだろうが、痛みの走る足を抱えては身動きもできぬとヴルフ謹製の背負子に座ったままであった。
 剣は拾い物で愛着がある訳でもないと、無くてもまぁいいかと安易に考えていた。

「さて、出口を探すか。ん?ここに入ったんだから、お前知ってるだろ?」

 出口を探して歩くより、案内できる人に頼む方が早いのではと気づいてアイリーンに聞いてみたのだが、

「多分わかると思うけど……。あっちに向かえばいいと思うわよ」

 適当な答えが返ってきたが、闇雲に探すよりはましだと、その指示に従い向かうことにして、ヴルフは再び背負子を背負うのであった。



「ところで、お前は何故こんなところに一人でいるんだ?」

 ゆっくりと足を進めているヴルフが、こんな場所で探索していたのか気になり尋ねてみた。

「トレジャーハンターの勘ってやつ?」
「よく言うよ」

 ヴルフは”フンッ!”と鼻で笑って見せた。

「正直言うと、渡し場で面白い場所が無いかって聞き回ってたら、西に向かう旅人からベルヘンの近くに誰も近付かない地下迷宮があるって聞いたのよ。それで、ベルヘンに到着したら一緒にいた仲間と別れて、ここへ来たのよ」

 ヴルフに笑われたからか、簡単に経緯いきさつを話した。だが、その話には納得しかねるのだ。

「それで一人で来たのか?無謀じゃないか」
「と、思うでしょ。でも、ベルヘンに来て聞く人聞く人が大丈夫だって言うのよ。そう聞いたら入るしかないでしょうが」

 アイリーンの楽観的な言葉を聞き、”はぁっ”とヴルフは溜息を吐いた。

「その情報って若い男か?」
「んん~、ほとんどがそうかもね~」
「お前、それ、お前の体が目当てだったかもしれんぞ……」
「えっ?」

 一度、この放置された地下迷宮に入ったことのあるヴルフは通路が崩れる可能性もあると一人での探索を危険視していた。
 人を襲うような獣が少ない事は近くの街では知られているだろうが、さすがに一人で送り出すはずも無いと不思議に感じた。それを考えればアイリーンの格好に原因があるだろうと結論付けた。

 身長は百五十五センチ程であるが、動き回り肉付きの良い体をして、肩を露出する格好を好むアイリーンを手籠めにしようと考えても不思議ではない。それが、若い男であればなおさらで、人の近付かぬ暗闇に連れ込もうと考えたのだろう。
 だが、アイリーンの行動が素早かったのか、蜥蜴人リザードマンと遭遇したのか、手籠めにしようとする男達に遭わなかったのだと予想したのだ。

「まだ、一人でいるんなら、そろそろ身を固めた方がいいんじゃないか?」
「アンタに言われる筋合いは無いわよ!」

 アイリーンは怒りを孕んだ表情を向けて、余計なお世話だと文句を言うのだった。

 ヴルフとアイリーンが口喧嘩を繰り広げながら進む事二十分余り。先頭を進むエゼルバルドの耳に、かすかに話声が入って来た。腕を大きく横に広げてその場に止まると、灯りを隠せと指示を出した。

 灯りを隠すと、右に折れる通路の先から赤い温かみのある光がゆらゆらと床を照らしていた。しかも、その光を遮る様に人影が幾つも動いていた。
 それは蜥蜴人に排除された帝国への残りではないかとスイール達は予想した。

「少し待ってて、ちょっと見てくる」

 エゼルバルドは一人、静かに石畳の通路を進み、折れ曲がった角に身を寄せると”そおっ”顔を少し出してその先へを見やる。
 彼の視線の先に轟々と燃え盛る赤い松明の炎に照らされた四人の姿が見えた。一・五メートルの台が組まれ、その上で松明が数本同時に燃やされ光源となっていた。
 共通の武装として腰に剣を帯びていたが、槍などの中距離武器は迷宮内では使い難いと持ち合わせてないようだ。
 防具は蜥蜴人達が殺した者達が身に着けていた胸当てと同じ形状で帝国兵で決まりだった。

「大丈夫そうだ。今見えるのは四人。数人増えたところで問題ない」

 忍び足で戻ってきたエゼルバルドが対処出来そうだ報告してきた。

「彼らは戦う意思があるのでしょうか?」

 蜥蜴人に多数の兵士を排除され、数が少なくなった帝国兵にこの場所で戦闘をする意思があるのかとスイールは疑問に思った。それが思わず口から漏れてしまい、エゼルバルドの耳に入ったのである。
 戦う意思の無い相手を殺したいとはエゼルバルドもそうだが、誰も思っていない。

「それなら、聞いてみてからにしようか」

 ”ぼそっ”と呟いたエゼルバルドの言葉を耳にしたアイリーンは我が耳を疑った。こんな所でのこのこと出ていけば、確実に戦闘になるはずだ。それに敵を奇襲すれば、有利に事が進めるのに、と。

「そうしかあるまい。ワシは参加できんから、エゼルとヒルダが前衛、スイールは援護だな」

 ヴルフは戦闘の指示を出す。二人の前衛と一人の後衛、ヴルフとアイリーン、そして蜥蜴人は非戦闘員となる並びだ。
 アイリーンは何を馬鹿な、と口に出したかったが大声を出して不利な状況にすべきではないと口を噤む。助けて貰った身で他人の戦闘に口を出す事はマナー違反だろう、と。

「では、行くぞ」

 エゼルバルドは鞘からブロードソードを抜き、ヒルダは軽棍と円形盾をしっかりと握りしめると、ゆっくりと歩き始めた。



    ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 ”ゆらゆら”と揺らめく炎を眺める。
 こんな真っ暗な場所に押し込められ、時間が過ぎれば飯を食べるだけ。
 何時が夜で、朝が明けたのか、正確な時間は分からない。
 この地下迷宮の奥へ向かった隊長を含む十数人の探索隊はまだ戻っていない。すぐ戻ると言ってたが、二日も経った今でも戻って来ない。
 この場に残ったのは自分を含めて数人で二桁もいないのだ。

 本国から後方の混乱を誘えと送り出され、最初の作戦は成功したが、隠れ家にする迷宮に得体の知らない”何か”が存在する可能性がわかるとおちおち眠る事も出来ない。
 作戦を止めてすぐにでも帰りたいが、隊長がいない今、それも叶わぬだろう。

「なぁ、もう帰りたいよな」
「まったくだ。こんな暗闇にいるのも気が滅入るな」
「隊長、早く帰ってこないかな~?」

 無駄な会話が多くなり、士気が低下して行く。それでも、この場を動く訳には行かない。起きている四人は、寝息を立てている者達を恨みがましく眺めるのだ。



 ゆっくりと流れる時間は唐突に終わりをもたらす。”ゆらゆら”と揺らめく炎が何者かを照らした。隊長が戻ってきた……ではない。
 赤い光がはっきりと捉え、姿を映し出す。
 二人?
 炎に照らされて赤い光を放つ剣を手にしている。敵である可能性は高い。

 炎の傍で士気の上がらぬ四人に緊張が走り、背中に冷たい汗が流れる。剣を鞘から抜くが、その手が”ジトっ”と湿っていた。
 だが、意を決しなければならない時もある、それが今だろう。

『戦う気が無ければ素直に通せ。でなければ敵とみなす』
「「!!」」

 アイツらは何を言っているのか?こっちは四人だ。それにまだ子供のようだ。
 厳つい隊長の元、毎日のしごきに耐えた俺たちに刃向って生きていた敵はいないのだ。

「馬鹿を言え。はい、そうですかと通せるか。そっちこそ武器を捨てて大人しくしろ」

 四人も敵に回せば勝ち目のない戦いなどするはずも無いだろうと思っていた。四人もいる、と慢心していたと言いたくはないが、少ない敵に都合よく考えてしまったのだ。

『何でそうなるかな?仕方ない……か』

 敵は首を横に振ると、一言、溜息を吐くかの如く呟きを口にした。

 それが合図になったのか、そこを守る四人の前から二人が消えたのだ。
 いや、消えたように見えた!が、正しいだろう。

 二人は呟きを合図に体を低く構えて走り出した。炎の揺らぐ光に慣れていた目では追えるはず訳もなく対応が遅れた。数歩の距離を取っていたが、一瞬でゼロへと変わった。

 走り来る敵に向け、剣を突き出す。毎日振っている剣だ、昨日今日、振り始めたのではない。しかもその剣速には自信があった。
 ”ビュッ”と空気を切り裂く鋭い音がしたが、敵を切り付けた感触が伝わってこない。何もない空間へただ突き出しただけだった。

 剣を突き出すと同時に、生暖かい液体が右側から掛かって来た、鉄臭い何かが。それに一瞬遅れ”ドサッ”と、人が倒れる音が右耳へと届いた。
 
 自分の左側にいる二人にも同じような事が起きた。
 何者かが二人の間を微かな音と共に通り抜け、同時に”ドゴッ”と鈍い音がし、一つの倒れ込む音が聞こえた。

 何が起こったのわからない。
 だが、鼻孔を突く、鉄の匂い、そして生暖かい何かが何かは一瞬で理解できた。
 右側に位置していた同僚の血であると、頭で警鐘が鳴り響く。
 左側に位置した同僚も一人は倒れたのだろう。
 四人いて、慢心していないとは言えないが、たった二人にあのしごきに耐えた俺たちが負けるはずはないと思っていたことは事実だ。

 だが現実は無慈悲であった。

 圧倒的な速度と暗闇に慣れた目に反応が遅れた。
 動きの鈍い体を呪いながら気配の方へと体を向ける。残念な事に、敵は剣を横に構え次の攻撃態勢を整え終えていた。

 赤く濡れた鋭い刃が”ギラリ”と光り、人の血を求めているかのようだ。

(勝てない……)

 全てにおいて勝つ事、いや、生き抜く事が出来ない。負けを認めるべきだ。

 だが、時は瞬く間に過ぎ去る。
 血に濡れた刃が血を求め、目の前に迫って来る。
 骨を砕く鈍い音と肉が切り裂かれる音が聞こえた気がした。
 感じられたのは、そこまでだった……。



    ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「あの二人、可笑しいよ!」

 背負子ごと床に下され、痛みと戦っているアイリーンがヴルフ声を上げた。ヴルフは眠りこけていた帝国兵士の手足を縛りあげている最中だ。

「何か可笑しいか?」

 さも当然とばかりに答えるのだが、アイリーンが納得するはずも無い。エゼルバルドとヒルダの戦いぶりをこっそりと除いていたが、あれを平然とやってのける兵士や傭兵が何処にいるのか?と。
 ヴルフはそれに対しても”そこにいるだろう”、と不思議な顔をしているた。

「だって、訓練された兵士でしょ。奇襲に成功した訳でも無いし」
「相手が兵士だからだろう」
「それが可笑しいんだって」
「いや、可笑しく無いぞ」

 何が可笑しいのかとヴルフはアイリーンに一度、顔を向ける。

「兵士ってのは隊長から命令をされてその通りに動く、言ってみれば集団戦のスペシャリストだ。だが、先ほどのバラバラに動く兵士に対し、個人戦に長けたエゼル達が圧倒しただけだ。可笑しい事じゃない」
「だけど……」
「だけど、じゃない。もし、優れた隊長の率いる四人の兵士相手だとエゼルは勝てないかもしれないからな。戦闘スタイルの違いが顕著に出ただけだ」

 話ながら黙々と兵士の手足、そして口を塞いでいく。
 無駄な殺生をしないに越したことはないのだ。

「それにだ。相手が四人でこちらが二人、こちらが相手の一人を始めに倒したとする。三人になる。ここまではわかるだろ」
「ええ、ただ相手が三人になっただけよね」
「その三人の心理はどうだと思う?どうなっているか考えてみた事あるか?」
「いいえ。でも、三人で当たれば倒せるかもしれない、って考えるんじゃない?」

 ヴルフは”フッ”と鼻で笑い、さらに続けた。

「違うな。”ばらばら”に考える事になるんだ。次は自分に来るのか。もしくは次は自分じゃないように、だ」
「それじゃ、戦闘にならないじゃない」
「そう、それが正しい。誰に攻撃するか、誰に集中するか、それにより少数が勝利できる。戦いは単純な力比べではない。それが戦術ってもんだ。あの二人は二対一を心理戦と速度で圧倒して見せた。個人技で勝ったわけではない」
「ふ~ん、そうなんだ」

 なかなか納得出来る説明だった。こんな話、戦争にならなければ聞けないものね、と頷くのだ。だが、ヴルフは一言、言葉を付け足すのであった。

「今回は相手が弱すぎて戦術も何もなかった。が、本当の正解だけどな!」

 ”あ、そうなの?”と、がっくりと肩の力が抜けるであった。



 帝国兵士の残りを全て縛り上げたヴルフ達はこれからのどうするかと話し合っていた。
 ベルヘンへ戻る事は変わらぬが、縛り上げた帝国兵士の処遇をどうするかと。縛られたと気が付いた帝国兵士達は”うごうご”と何かを話そうと口を動かしているが、猿ぐつわされた口からは言葉にならぬ呻きうめき声だけが漏れる。
 また、体をよじるが、手足を縛られ、満足に動く事もままならない。芋虫の様に這い回れるかと言えば、それも無理だった。

「炎をともして、この場に置いて行こう」

 帝国兵士たちは大声を上げ、何かを訴えている。言葉にはなっていないが、それだけは止めてくれと言っているようだ。

「それだと迷宮内の獣に襲われたときにどうする?」

 帝国兵士たちの声がトーンダウンし始めた。
 そうだそうだと。

「それもあるか。やはり、歩かせるしかないか」
「それ以外には無いでしょう」
「ここで無抵抗のまま、獣に襲われたら寝覚めも悪いからな」

 帝国兵士たちはこの場から離れられる事に安堵したのか、これ以上の抵抗は無意味と大人しくしていた。
 今後、過酷な取り調べを受ける事になるのだが、その事は頭には無さそうであった。トルニア王国勢力下で捕まれば、それ相応の対応をせざるを得ないのだ、が。



「さっさと迷宮を抜けてしまおう」

 スイール達や帝国兵士達は、暗闇の中は”こりごりだ”と、その意見に賛同する。特に帝国の兵士はもう四日ほど太陽を見ていなかった。
 四日と言えども、暗闇に投げ入れられれば日付の感覚が麻痺し、何日過ごしたのかわからないだろう。この暗闇に後一日置かれたりしたら、発狂していたかもしれない。
 暗闇を切り裂き襲い来る獣達。かすかに音を発する虫達など。精神を蝕むだけの環境は整っているからたちが悪い。

 それも、もうすぐ終わると感じれば、何もかもがどうでも良く感じてしまう。
 たとえ何があろうとも。

 白い魔法の光に先導され、迷宮の出口へと進む。
 カビ臭い鼻孔を突く匂いの空気が徐々に薄まっていくと感じる。出口が近くなってきたのだろうが、まだ安心するのは早い。一刻も早く外へ向かいたい衝動に駆られる。

 彼らの視線の先に待望の地上へと続くスロープを捉えた。
 なだらかに続く石畳のスロープに歓喜し、一歩一歩踏みしめながら登って行く。肌を掠める風が柔らかくなり、鼻孔を突いたカビの匂いも感じられない。
 ついには向かう先から白い光に包まれ始める。
 慣れ親しんだ暗闇の世界とも別れ、まもなく光が支配する世界へと戻れる。



 暗闇から抜けた先に見えたのは一面の雨模様の風景だった。
 ”サンサン”と降り注ぐ眩しい光を期待したが、”ザァーザァー”と降りしきる冷たい雨が地面を叩き付け、一面の水たまりを形成していた。
 降りしきる注ぐ雨を恨みながら、外套を羽織りフードを被る。最後尾を進む蜥蜴人だけは濡れて喜んでいるようだが。

 残念な事に、帝国の兵士たちは雨を避ける術を持ち合わせていなかった。
 降りしきる雨を全身に受け、ただ濡れるしかなかった。

「雨か……。仕方ない、ベルヘンよりも前衛砦が近いからそこへ向かおう。見えてるあれだ」

 街道から少し外れた地下迷宮の出入口から、雨の先に霞んで城壁が視線に入って来た。
 そこまで三十分も掛からずに到着出来ると思えば、顔が緩み喜びを体で表してしまうのだった。














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