奇妙な魔術師の放遊録 ~ゆかいな仲間たちは今日も我が道を進む?~

遊爆民。

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第三章 王都への旅路

第二十六話 素人尾行の正体

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 まもなく次の街に到着するだろう。
 ベルヘンを出発してから六日が過ぎようとしている。そして、後、数時間で日没だ。
 ここまでは天気に恵まれ、雨に降られることは無かったのはよかった。雨になっても寒くない季節なのでそれも良いかなと思うのだが。

 それより、ベルヘンから続いている素人パーティーの尾行はそのまま続いている。同じ時間に野営、同じ時間に出発、あからさまと言うか、バレていてもお構いなしなのだろうか?
 接触してこないのが多少不気味であるが、害を加える気は無いようなので放って置いた。次の街で何者なのか、はっきりさせておこうかと、意見は一致している。

「街に入った所で問い詰めよう」

 その一点だけ。同じ様に街に入ってくれば、の話だが。
 街道を進み、視界から余計な物がなくなると次の街、【サイウン】が見えてきた。

 河沿いにある街は、河に沿った場所だけ壁がある、独特の外観を持っている。壁は堤防と防御のための二つの役割を持っており、前面のベリル河を水掘として利用でき、天然の要害と化している。
 だが、その反対側は大きな壁は無く、こじんまりとした領地の境を示す位だ。

 この街は南東からの侵略を防ぐために作られた城壁を基に発展した歴史を持つため、いびつな構造なのだ。街の入り口も立派な壁とこじんまりとした壁の境目に作られており、なんとも頼りない場所に見えてしまうのだ。

「入場には身分証を見せてください」

 日没まであと一時間位の時間で、サイウンの街へ到着した。王都が近い事が関係しているのか、兵士の対応が丁寧になっている気がする。威圧する事が役目ではなく、守る事が役目だと言い聞かされているのかわからないが、他の街に比べるとそう思うのだ。
 装備品はどこの街も変わっていないようで、安物よりも少しだけ良い物らしい。

 この場は身分証とギルドカードを見せただけで、すぐに通ることが出来た。数日前滞在していたベルヘンとは警戒レベルが違うようだ。

「おすすめの宿とかって、ありますか?」

 門を通る人はまだまだいたのだが、エゼルバルドは対応した兵士に聞いてみた。忙しいときであれば「そんなこと聞くんじゃない」と一笑に付されてしまうだろうが、

「ん?ここをまっすぐ十分ほどで宿屋が何件かあるから、そこなら間違いないぞ」

 と、丁寧とは言えないが教えてくれた。いつものセリフと言えばそうなのかも知れないが、答えてくれるほど余裕を持っていると感心するしかなかった。ありがとう、とお礼を言い、街中に向かって歩き出す。

「少し待ってください」

 入り口から五十メートル付近でスイールが止まる。
 おそらくはと予想をしてみるがその通りで、素人パーティーの尾行が来ているのかを確認している。後を付けてきたパーティーは同じく、サイウンに入場してきた。

「間違いないですね。その角を曲がってお待ちしていましょう」

 少し進んだ角を曲がり、二手に分かれる。エゼルバルドとスイールは百メートルほど進んだ場所で物陰に隠れた。ヒルダとアイリーンは曲がってすぐ、十メートル程の場所の細い路地に隠れた。前と後ろで挟み撃ちで囲ってしまおう、との作戦だ。

 何も知らない尾行の一団は角を急いで曲がる。物陰から見ていたがその焦る様は異常ではないかと思うほどだった。”あれ、いなくなったぞ。どこだ?”など声が聞こえ、うろうろと周りを見ながら歩く。エゼルバルド達までちょうど五十メートル程になった時に、彼等の前にすぅっと姿を表す。

 尾行の一団は、まちまちの外套を着こみ暗がりの中で見えた顔で判断するには若い感じがする。エゼルバルドと同じくらいで十七~十五歳位だと見えた。何かの組織であればあからさまな焦りや素人尾行などしないとわかる。
 が、どう見ても素人でしかない。

 驚きの表情が何とも言えず、体は硬直し、蛇に睨まれた蛙の如しであった。

「さて、尾行していたのは何故か?説明してもらおうかな」

 両手の籠手を打ち合わせながら、付けて来た一団にゆっくりと近づくエゼルバルド。顔は笑っているように見えるが、睨みを効かせる目は猛禽類と同じ獲物を狩る目そのものだ。その目に睨まれて無事に済むわけがないと、悟るのに時間はいらなかった。
 さらに後ろからひたひたと近づく者があれば、それは生きた心地がしなかったであろう。

 そこに平伏すのは五人。両の膝を地面につけ、額を地面に付けるほどの状態だ。完全に降伏し、許しを請う格好となっている。腰に剣をぶら下げているが使い込んでいないことは持ち手を見れば一目瞭然だ。狩りをした事も無いのであろう。
 その他の装備も新品同様だ。使った跡がほとんど無い。

「許してください。悪気があってじゃないんです。僕は一応リーダーの【アルギス】と言います。僕らは旅とかギルドで依頼を受けるとかした事がなく、どのように旅をするとかを学んでいたんです。そこへお手本となる方々がいると聞いたのでどのようにされるのかチラッとでも見たかった。それだけなんです」

 呆れたとばかりに全身の力が抜けていくエゼルバルド達。
 経験が物を言うこの世界で、技術を盗めとは言われるが、尾行までしてするのはどうなのかと。それに尾行すれば何らかの意図があり、殺されてしまうかもしれないのがわかっていないのだろうか?

 ”はぁっ”とため息が出てくるのだが、この場にいても仕方ないとどこか休める場所で説教をする事にした。

「まぁいいや。信用したわけではないからな。宿に泊まるくらいのお金は持っているんだろうな?」
「ええ、持ってます」

 リーダー格の男がおどおどした口調で返事を返す。懐からゴソゴソと小さな袋--硬貨の入った財布--を取出し、「これです」を前に出すのだが、

「宿に泊希るかの確認ですから、仕舞って良いですよ」

 五人が出した財布をスイールが仕舞わせると、立ち上がらせ宿屋街へと歩き出す。宿屋街は十分ほどなのですぐに到着するだろうと思い、その間に少しでも理由を聞きだそうといろいろと話しかける。

「旅をしたいとか、依頼受けたいとか、何か理由があるのでしょうか?」
「えぇ、まぁ。僕たちは皆、探検とかそういうのに憧れてまして、いろいろと仲間内で勉強しているのですが、なかなか上手くいかず、教えてくれる人もいなくてどうしようかとしていた時に見たのが、ベルヘンで噂になっていたあなた方だったのです。長期滞在しているので、その間に教わろうかとしていた矢先、出発されると聞いて急いで追いかけてきたのですが……」

 スイールの質問に恐る恐る答えるアルギス達五人。
 それだけの理由でなのかとまた呆れてしまった。旅用の道具屋やワークギルドに行けば教えてくれる人は沢山いるはずなのだが、それが面倒なのか、思いつかなかったのか、どちらなのだろうかと。

「尾行していると思われてたって知ってたか?」
「あ、いえ。僕らはどのタイミングで野営をするのか、食事はどうするのかを見てましたので、それ以上は。でも、獣を狩る腕前だけは見事だなと話してまして。あれは僕らには出来ないなと」
「あのなぁ。一言声かけてくれれば邪険にする事はないんだぞ。そこまで鬼じゃないからな。それに、敵と判断された時点で、お前たちの頭と胴体が”さようなら”する事になるからな。気を付けろよ」

 脅しともとれるエゼルバルドの一言に、アルギスが”すいませんでした”」と頭を下げて謝罪する。と、説教をしている内に、宿屋街に到着していた。

 エゼルバルド達は、併設されている酒場の状況を見てから宿屋を決める。部屋は同じほどと思われるため、繁盛している場所にしたのだ。酒場がにぎわっていればおいしい料理に期待できる。いつもいつもそのように選んでいるので間違いはないだろうと。

「ここでいいかな?」
「うん、いいんじゃないかな?」
「ウチはどこでもいいで」
「お任せします」

 酒場の併設されている宿へと足を踏み入れる。
 ”ロランのお店”と掲げられている看板の入り口を入ると良い匂いが漂ってくる。肉系の匂いだが、独特の匂いで食欲をそそられる。エゼルバルドはこれを食べたいなと酒場の方を見ると、人が沢山で空いているテーブルが見えない程だ。

「いらっしゃいませ。何名ですか?」

 宿のカウンターへと向かうと受付にいる女性が声をかけてきた。歳は二十台後半だろうか?ぽっちゃりだが変に偏っていない体系で、声に張りがあり看板娘(?)と言ったところだろうか?声に色っぽいところが無いのが宿屋として好印象を持たれるだろう。
 色っぽいと、変な男に声をかけられてしまい大変そうである。

「四人だけど、大丈夫かな」

 不思議そうな顔をしている。後ろにいる人達とは無関係なのかなと。
 入り口から同時に入ってきたので不思議に思うのは仕方のない事であるが。

「四人でよろしいですか?後ろの方達とは違うグループですか」
「あぁ、違うグループ。そうだな、二人部屋を二つ用意できるかな?」
「ええ、ご用意できますよ。お食事は部屋代に含まれませんので、そこの酒場でお願いします。部屋のカギを見せればお飲み物一杯サービスですよ」
「いい事を聞いた。見ると酒場は人が沢山だけど、どの位で座れそうかな?」
「う~ん、そうですね。時間的にあと三十分くらいですかね」

 その笑顔だけでどの位のリピーターがいるのかな、とさわやかに感じる。少しだけ殺気を持った視線を感じ、そちらを見れば、怖い顔のお兄さんが睨んでいるのがわかる。
 初めて来たのに、それは無いだろうと思うのだが。

 一泊分の代金を支払い、「ありがとう」とカギを受け取る。木の札がカギに付けられ、首からぶら下げられるように長い紐も付いている。酒場でテーブルの上に置けば、部屋に入ってくださいとお願いしているようなものだからと、納得できる。

 あとから来た五人も同じように部屋を取っている。お金がもったいないのか、大部屋での雑魚寝のようだ。個室や数人の部屋よりも大勢で寝る大部屋の方が値段が安いのは当然だ。

「それじゃ、三十分後に酒場で」

 男性陣、女性陣に分かれて部屋へと別れていく。きっちり三十分で無くてもいいのだが、そのくらいあれば荷物を下し、足を伸ばすことが出来る時間であろう。それに、ちょうど、お腹も減る時間であろう。



 きっかり三十分後、酒場前にはヒルダ、アイリーンの二人に加え、例の五人の姿もあった。二人には伝えたのだが、五人には何も言ってないのだがと。合計九人となれば座れる場所も限られるので、五人には別の場所に座ってもらえばいいかなと深く考えないでいた。
 酒場を見れば先ほどの半分くらいの人数となっており、カウンターの女性の通りであった。しかも、先ほど殺気を含んだ視線を送っていた怖い顔のお兄さんたちがまだジョッキを片手にカウンターを見張っているのだった。性格も良さそう(第一印象)で顔も平均以上、人気が有るとは思うが酒場から見張る程では無いと思うのだが。

「いい匂いがするから、さっさと入ろう。お腹もすいたし」
「そうそう、お腹すいたわ~」
「久しぶりに椅子に座っての食事だわ。ウチもたのしみや」
「呑み過ぎないように。ヴルフがいないので大丈夫と信じてますよ」

 四人掛けのテーブルに座るが、五人が「あれ、僕らは一緒じゃないの?」と不思議そうな顔をしている。「食事一緒にとは言ってない」と告げると隣のテーブルに腰を下ろしていた。背中がさみしそうにしており少しだけ可哀そうな事をしたかなと思ったのは内緒だ。

 おススメの料理を頼む。
 若鶏と卵を使った料理がこの地方では有名だとかで、チキンステーキと卵料理の盛り合わせ、ジョッキにエール、スイールだけはワインを頼んだ。
 先ほどからする匂いは若鶏にかかるソースが鉄板の上で焦げる匂いだったようだ。数日ぶりにテーブルの上で食べる料理は格別であった。

「それでだ」

 ワイングラスを片手に持ちながらスイールが話を始める。

「丁度隣にいるから話をしてもいいだろう。明日街を出てもいいし、一週間ほど過ごしてもいいだろう。そっちの五人はどうするんだ。私たちは王都まで行くが、ここで帰るか?」

 半分ほどに減ったワイングラスを口にやり、一口ほど口に含むと舌で転がすようにワインを楽しむ。香りが口から鼻孔に抜け、一層ワインがおいしく感じられる。
 グラスのワインもあと少しとなり、同じものと再度注文をする。

「僕たちは予定も決めてませんのでどちらでもいいですが、少しだけでも教えてもらえるのならこれほどありがたい事はありません。旅する事もギルドで依頼を受ける事もしてませんし、ベルヘンにいながら武器もそこまで使ったことはありません」

 どうやら彼らは、武器を奮う訓練を本格的にしてこなかったらしい。最低限、身を守る程度の実力で練習がてら振るくらいしかしたことが無く、誰かに師事したり、自主的に訓練に参加するなどはしていないと申告した。
 つまりは街の外で獣を狩る実力は持ち合わせていないのだ。

「「それで、ギルドカードは持ってるんでしょ?」」

 横からヒルダとアイリーンのハモった声がする。別々に考えていたことだろうが、口に出したときは同じだったのだ。依頼を受けるには十五歳以上でワークギルドのカードを作る必要があるのだ。エゼルバルドもヒルダも十五歳の誕生日過ぎにすぐ作ったので、意識はしていなかった。

「いえ、まだ持ってないですけど」

 呆れたとしか言いようがない。何かワークギルドで依頼を受けるには登録が必要であるが、それを持っていないのであれば仕事として依頼を受ける事は出来ない。

「持ってないの?十五歳過ぎてればワークギルドで誰でも登録は出来るはずだけど」
「家の仕事を手伝ったり、別の仕事をしてるので今のところ必要に駆られなかったので、後回しになってまして……」

 確かに誰でも登録できるとは言え、すべての人が所持している事も無いので、彼らが持っていなくても不思議では無いが、憧れを持っているのであれば誰か一人、持っていてもおかしくはないと思うのだが。

 それならばこの際に五人とも登録をさせてしまえばと、思うのであった。
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