死を約束されたデスゲームの悪役令嬢に転生したので、登場人物を皆殺しにして生き残りを目指すことにした ~なのにヒロインがグイグイと迫ってきて~

アトハ

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10. これから

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「最後の最後まで、こうして騙されていて。愚かな女ね」
「いいえ。あなたは私を殺しませんよ」

「なんでそう思うの?」
「ティアナは優しいからです」

 私は、魔法の刃をエミリーに近づけ……頬に斬りつける。大した怪我にはならないが、明確に相手を傷つけるための行為。エミリーは信じられないというように見つめてきた。

「初対面のときは違ったわよね?」
「ええ。私を助けてくれたティアナが、悪い人のはずがないから信じたんです」

「今も、私のことを信じてるの?」
「もちろんです」

「それは何故?」
「ティアナは良い人だからです」


 ティアナは良い人だからです。
 こちらを見ていそうで、見ていないそんな言葉。


「気が変わったのよ。やっぱりもう少しだけこの世界が見てみたくなったの」

 まるで明日の天気は晴れね、とでもいうように。
 私は作り出した短刀を振り抜いた。言葉の刃はエミリーの心を、魔法の刃はエミリーの腕を深く切り裂く。


「ッ!」

 エミリーは、痛みに顔を引きつらせた。
 そして、思わずといったように私と距離を取る。その直後、距離を取ってしまったことを後悔するように、直後に「ち、ちがう……」と怯えるようにそう言った。


「なにが違うの?」
「わ、わたしはティアナのことを信じてる。信じてる。
 疑ってなんかいない、疑ってなんかいないんだから……」

 ここにいない誰かに対する懺悔のように。
 その言葉はうすら寒く響き渡る。「人を疑うな」と両親に言われ続けた呪いが、エミリーの精神を蝕み続けているのだ。


「いいのよ、それで」
「……?」

「人を疑うのは、その人を信じたいから。
 ただ盲目的にその人のポジティブな面を――見たいところだけ見るのは、信じるとは言わないわ」

 私は魔力で生み出したナイフをしまう。
 そして、きょとんとするエミリーに「痛かったでしょう、ごめんなさい」と謝る。


 エミリーは、やがて私の行動の意図を理解したのだろう。
 泣きそうになりながら、エミリーは笑って見せた。

「信じてました、信じてましたとも。
 信じたいけれど……殺されるかとも思いましたよっ!」


 怒りもせずに、私の意図を汲んだような言葉。私にはもったいない素晴らしい友達だ。
 
(友達なんかいないボッチな私には、こんな方法しか取れなかったけど。
 少しでも今後の人生をエミリーが楽しく生きれると良いな)

 柄にもなく、そんなことを祈る。



「これからも……元気でね?」

 しめっぽいのは嫌いだ。これがたとえ永遠の別れであっても、最後は淡々と立ち去りたい。
 私はエミリーに背を向けると歩き始めた。


「ティアナ。あなたは私の一番大事な親友でした。
 本当にありがとうございました。
 天国で再会した後に、あなたに胸を張れるような生き方をしますから」

 淡々と立ち去りたいと思っているのに、なんでそんなことを言うのか。前世・今世あわせても、そんなことを言われたことはもちろんない。これがヒロインの力でしょうか、攻略対象が好きになるのも納得である。


 流れる涙を見せないため。
 私は軽く手を挙げて応えることにした。




◇◆◇◆◇

 まもなく、ゲーム最後のときが訪れる。
 あと10分で勝利条件を満たせなければ死ぬ、と機械音声が嫌みのように私に告げる。

 ゲームの運営が望むのはエンターテインメントとしての殺し合い。
 このような静かな幕切れは望みではないのでしょう。



 ここは海岸。
 はじめて目覚めた場所と同じ波の音を聞きながら、私は静かに終わりの時を待つ。


 ――ざまあみやがれ、ゲームの運営。
 ――ざまあみやがれ、神様。


 ゲームをかき回すだけかき回して死ぬはずだった私は、たしかに幸せをつかみ取ったぞ。
 死の運命を回避することはできなかったけど、それよりも価値のあるものを見つけたぞ。


 胸の中の満足感とともに最後の刻を待つ。
 待ってーー待って。


 ……。
 それから10分経った。
 変わったことは"ほぼ"なにもない。

 たしかに体の中に毒物が流れ込んできた感覚はあったが……その程度の微弱な毒、あっというまに浄化してしまったぞ? その程度の毒で、私を殺せるとでも思ったのか。

 ……驚愕の事実!
 覚醒した悪役令嬢のチート魔力、デスゲーム運営による即死トラップすらもまさかの無効化。 
 私こそが最強だ。



「ふう。死に損なっちゃったね……」

 ノビをする。

 なんとも馬鹿らしい幕切れであった。
 あとはゲームの主催者がこの結果を認めてくれるかどうかであるが……

「まあ、だめだったらその時ね。
 思う存分、暴れてから死にましょう」

 もはや死は怖くない。そんな覚悟をあっさりと決める。
 そんなことよりも――


「あんな、永遠の別れみたいな別れ方をしてきたのに……」


 思い出すのは、エミリーとの別れ方だ。これで終わりだと思って随分と好き勝手なことを言ってしまった。かっこつけもしたものだ、黒歴史である。思い出すだけで恥ずかしい。



「……ゲームの勝者はこちらへ」
「あら、本当に勝者として認められるのね。
 秘密裏に抹消されるかと思って――暴れる準備もしていたのに」

「毒を魔力だけで打ち消す化け物と、やりあう気はありませんよ。
 どうぞ、こちらへ」

 こうして私は、ゲームの主催者に案内されゲームの勝利者が集まる部屋に通される。
 いかにも金ピカで悪趣味な部屋には、既にエミリーが座っていた。


「久しぶり!」

 そう声をかけると、まるで幽霊でも見るような反応をされた。
 それでもここに立っているのが、私だということを理解すると
 

「ティアナ!
 良かった、ほんとうに良かったよ~!」

 ガバッと抱きついてきたのだった。

(ここ、本来なら攻略対象と抱き合う感動のエピローグだぞ?)

 ゲームの主催者よ、可愛いヒロインの貴重な泣き顔だ。気を利かして出ていっておくれ。


「言ったでしょう。人を疑うことを覚えなさいって。
 私、死ぬ気なんてなかったのよ?」
「それ……それこそが、嘘ですね?
 あのときの泣きそうな表情。どう考えても、これから迎える死を覚悟している眼差しでしたよ」

 正解。チラリと舌を出して肯定する。


 何はともあれ、私はこれからもこの世界でエミリーと共に生きていくことになるのだろう。それもきっと――楽しい未来だ。
 抱きついてきたエミリーをなだめながら、私は満面の笑みを浮かべるのだった。
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