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1.子爵領編

7.借りが高くついたと感じた際は、ヘラヘラしてごまかすことのススメ

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 『主殿よ。もっと大きい都市へいくのじゃな。食べたことがない甘味があるといいのう』

 エクスが嬉しそうに聞いてくる。

 『王都の行政大学校に入学するため、まずはどこかの内官のところで書生になるんだよ。それと、王都はこの領都プライセの10倍以上の大きさ、ということだ、、、、そうだ』

 領都プライセなんて立派な名前がついているが、人口1万人程度の中規模な町だ。一方、王都はこの国の最大都市で、俺も行ったことがないので想像もつかないが、父上の話だと領都の10倍以上の大きさらしい。ひょっとして、父上が見栄を張って10倍以上といったものの実は領都の100倍とか1000倍だったりするのかな?

 それはさておき、今後の目標として、まず王都にいき、官僚を代々司る内官へ弟子入りすることになる。昨晩、父上、テリトー卿の爺さんとの間で詳細まで決まった。行政大学校の試験に合格するため、独学で勉強するという手もあるのだけど、テリトー卿の爺さんが、代々財務閥の官吏を司る内官に伝手があるということで、紹介してくれ、親切にも紹介状まで書いてくれた。

 父上は、地方貴族の中の下くらいの子爵位。中央の高級官僚に伝手なんてそんなにないだろうからな。テリトー卿の爺さんに感謝だ。




 そういえば、テリトー卿の爺さんは、王都の軍官の家系で、領地は持っていないけれど、代々、指揮官が勝手な行動をとらないように監視する「軍監」職を務めているそうだ。階級は中佐。

 また、国内に後ろ盾のない有望な人材がいたら、国軍に所属する王都騎士団か王家直轄の近衛騎士団にスカウトする役職を受け継いでいるらしい。ちなみに、軍官のうち、大佐、中佐、少佐といった佐官以上は貴族扱いとなる。大将、中将、少将といった将官が大貴族と同等、佐官が中貴族と同等という感じみたいだ。

 今回のシスプチン王国の精鋭兵による侵攻があったため、王命を受け、王都との伝令係兼軍監として派遣されてきたらしい。プライセン子爵領に到着してすぐに、俺から敵を撃退して追い返したという報告が入り、俺に興味をもったらしい。

 父上から、俺が「パン無駄」である三男というのを聞き、王都騎士団か近衛騎士団へスカウトするためにツバをつけておくか、というつもりだったが、まさか内官に取られるとは、大笑いしていた。




 父上が認めた条件の中に、入学後の在学中、卒業後5年間の学費・生活費の支援はあったが、入学前の弟子入り期間の生活費の支援は含まれていない。改めて父上に交渉しようとしたら、テリトー卿から、書生期間の1年は、師事する内官(中央官吏)の家に住み込みとなるため、生活費はそれほどかからないこと、弟子入り中は師事する内官の仕事も手伝わされるから、少しばかりの寸志という形で給金がでることを教えてくれた。

 「それでは、プライセン卿。私は今回の顛末を国王陛下へ報告するため、王都へ戻らせていただくことにする。卿もすぐに詳細報告のため、王都への召喚されることなると思うので遺漏なきようにお願いする。それと、アルフ殿。王都へついて、師事する内官家で落ち着いたら、ぜひテリトー家まで訪ねてきてほしい。約束だぞ」

 とテリトー卿は、軍監としての報告をするため、揚々と王都へ帰還していった。

 テリトー卿が王都へ帰還を見送った後、父上から

 「お前は、軍官閥の官僚に早くも目をつけられたな。しかも自分の伝手のある内官まで紹介してくれて、紹介状までよこす念の入れようとは。まったく行政大学校の入学前だというのに手が早い。恐れ入ったわ。」

 「父上、それは、どういう意味ですか?」

 「単なる親切心ではないということだ。お前が王都へ行き、中央官吏になったときに自分たちの派閥に役に立ちそうと思われたということだ。将来、この借りは高くつくぞ。世話になりすぎて、身動きがとれなくならないように気をつけよ。もっとも儂は、お前が気に入られたおかげで、今回の召喚で王都へ行っても、テリトー卿や卿の派閥の連中がいろいろと便宜をはかってくれるだろうな。」

 父上がニヤニヤしながら説明をしてくれたが、こちらは、内心冷や汗をかきながら、ただヘラヘラして聞く以外できなかった。

 生き馬の目を抜くという王都の官僚機構、恐るべし。

 この子爵領から抜け出せることになったけど、恩の借金をどうやったら値切れるか、愛書「小役人のススメ」を見ながら、考えてみることにしよう。
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