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2.王都書生編

12.異性に真剣な眼差しを向けることでごまかす「オプションB」のススメ

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 俺たちは、夜になり、腹ごしらえをして、活動を開始する。
 
 これから、俺に以前、からんできた「おっさんA」を探すこととなる。

 幹部の弟だと言っていたが、小者感が半端なかったので疑っていた。しかし、シルフェさんの情報からすると、獅子の牙のナンバー3のレスターが、おっさんAの兄貴で間違いないようだ。それにしても、幹部の弟のくせに、あの小者感。兄貴も大したことはないのか、と思うが、どうもそうではないらしい。

 おっさんAの兄レスターは、少年の頃、徒党を組んで、獅子の牙に歯向かったことがあるらしい。そして、返り討ちにあい、半殺しにされた。以来、獅子の牙に恭順し、地道に恐喝、誘拐などの犯罪ポイントを積み上げて、見事、ランクアップし、幹部に上り詰めたらしい。
 若手の出世頭ということみたいだ。こういう裏で爪を研いでそうな背面服従のやつは油断ならない。
 
 俺と同じニオイ? 全然違うよ。

 シルフェさんがトイレで席を外した際に、急いで探知魔法を発動し、おっさんAの気配を町中から探し出す。もちろん、周囲に探知魔法を発動していることに気が付かれないように、同時に隠匿魔法も忘れずに重ね掛けした。以前、回復魔法で治療してやった時に、おっさんAの魔素の雰囲気をなんとなく覚えていたので、すぐにおっさんAを発見した。

 『酒場におったな。魔法を使うまでもなかったのう。主殿よ。』

 そういうなよ。エクス。確かにおっさんAの行動はベタすぎた。「ならず者=酒場で飲んだくれる」の法則の通り。子供でも思いつく結果となってしまった。

 シルフェさんが戻ってきたので、隠れ家の一室から、急ぎ、酒場の区画へ向かうよう提案する。

 「ならず者=酒場で飲んだくれるのが相場なので、まずは酒場で情報収集が基本でしょう?」という自然体な提案に納得してくれたようだ。
 そして、見事、偶然、酒場でおっさんAを見つけたように装う。

 おっさんAが一人になるのを、見計らうため、俺らは酒場の外から監視する。1時間くらいして、おっさんAがようやく用を足すため外へ向かう。用を足す用事なので、シルフェさんを残し、俺だけで、後をつけ、おっさんAが立ちションをしようと立ち止まったタイミングで、声をかける。

「元気そうだな。おっさんA」

おっさんAがビックリした顔で、振り返る。

「お、お前は、あの時の、、、、」

「覚えていてくれてよかったよ。あの時はやりすぎて悪かったな。お詫びにおっさんAにとって良い話を持ってきた」

 第一印象がお互いに最悪で、わだかまりがあるだろうから、まずは警戒を解くため、満面の笑みとフレンドリーさを全面に出して話しかける。

「お詫びだと?ならば仲間たちを元の状態へ戻せ!お前のせいで、未だに起きあがれない奴もいるんだぞ!」

 そういえば、おっさんAのせいで俺は宿屋を襲撃されそうになったんだよな。
 優しく話しかけてあげたのに、いきなりケンカ腰でこられちゃったこともあわせてムカついてきた。なんか、もう面倒くさくなってきちゃったので、エクスから邪悪な魔素を出してもらい、まずは黙らせよう。うん。

「、、、、、、、、」

 見事、おっさんAがビビって黙った。初めからこうすればよかった。

 さて、こちらの用件をさっさと終わらせるとしよう。

 「おっさんAの仲間が俺の宿屋を襲撃したことは気にしていない。そんなことより話がある」

 俺は、おっさんAへ声をかけた理由を告げた。
 おっさんAの兄貴のレスターが、王都の地下組織の一つと裏で手を組んで、獅子の牙を裏切ろうとしていたこと。それが、獅子の牙の頭目バッカスとナンバー2のキースにバレちゃったこと。近々、レスターは粛清されることになるだろうから注意した方がよいよん♪、ということを告げた。

「なんで、お前みたいなガキがそんなことを知っているんだ!」

 当然の疑問をおっさんAが投げかけてくる。
 なぜかというと、俺の指示で、シンバたちが、レスターの裏切りの証拠(でっち上げた証拠を含む)を、今頃、キースの部下を通じて、キースへリークしているからだ。

 ただ、「でっち上げた証拠」といったが、シルフェさんからの裏帳簿の情報を見ると、レスターからの収支の報告記録こそ、完全に粉飾されていた。
 
 レスター君は、頑張って、帳簿の記載をいろいろと工夫したみたいだ。ただ、素人はごまかせても、内官(官僚)のタマゴである俺の目はごまかされないよ。虎の牙への上納金を減らすため、利益の額を帳簿上、減らすように操作されている。
  
 例えば、仕入れ値にあたる「売上原価」が不自然に高く、そして、「経費」も全く関係ない項目まで上乗せすぎて、完全にアウトだよ。これ。

 よく頭目のバッカスたちにバレなかったね。ほんと。
 
 浮いた利益と上納金の一部は、ご機嫌伺いとばかりに、王都の地下組織へ流れていた。
 おそらくは、バッカス達に内緒で、独自に王都の地下組織と関係を構築しようとしていたのだと思う。パルスキーでのシノギからの利益を、これ以上伸ばすのは限界と悟り、獅子の牙と王都の地下組織を両天秤にかけていたというところだろう。

 王都組織への賄賂額を少しだけ水増しするとともに、多少の裏切りの証拠を加えてナンバー2のキースへリークさせてもらった。これで、レスターは、この町の利権ごと獅子の牙を離反しようと画策しているように見えるはずだ。



 レスターに助力するためにも、本人に会わせるようにおっさんAを説得する。

「俺は、王都のその地下組織に所属している。王都の敵対している別の地下組織がバッカスとキースへ誘いにかけていることがわかった。この町の利権を手放すのはもったいないという組織の判断で、お前の兄貴のレスターに協力することになった」

 うん。今、俺、王都の地下組織に所属したことにする。
 地下組織名、、、、ニオイフェチーズとかにしよう。

 おっさんAは、俺の話を信じ、しばらく事の重大さに悩んでいたが、兄のレスターへまずは相談をする、という返答だった。粛清されるまであまり時間がないことを念押しし、明日の夕刻に街はずれにある墓地で再度待ち合わせることとなった。

 ちなみに、この時初めて知ったが、おっさんAの名前は、「A」ではなく、「キュロス」という名前で、まだ20代だった。

 でもすっかりおっさんAで俺の中で定着しているから、キュロスという名前を覚えられるか自信はないな。

 おっさんAことキュロスと別れ、一旦、シルフェさんと合流し、顛末を説明した。
 その後、二手に分かれるようにシルフェさんを説得にかかる。

 「今後の仕込みの準備があり、シンバたちと打ち合わせが必要」という理由と「おっさんA、もといキュロスの監視」のためということにして、別々に行動できるようにもっていく。

 実のところ、俺の次の一手が成功すれば、明日、レスターへ会おうと会うまいと、もうほぼ作戦は成功と言える。

 希望としては、危険の少ない、キュロスの監視をシルフェさんへお願いして、俺は単独行動を開始しようとするが、シルフェさんから胡乱な目を向けられる。

 「アルフ君。何か私に隠しているでしょう? 昨晩、シンバさんたちと打ち合わせした獅子の牙に同士討ちをさせる、と言っていた以外にもなにかあるんじゃないの?」

 シルフェ姉さん鋭い! いろいろ隠しています。
 少し言葉につまりそうになったところでエクスが助け船を出してくれた。

『主殿よ。今こそオプションBを発動じゃ!』

 そうだ!シルフェさん対策のため、エクスとともに考えた、どうしてもごまかし切れそうもない時に発動する作戦、その名は「オプションB」。
 
 恋物語となぜか交渉術の指南書にでてきていた会話をコントロールする技の一つだ。(フリを含め)異性に大切に思っているということを、その人の目を見据えてしっかりと告げることで、本来の話題をうやむやにする高級テクニック。
まさか、パン無駄の俺が使う日がくるなんて。


 「正直、まだ黙っていることも確かにある。けど、俺は、シルフェさんを危険な目にあわせたくない。この間も、追手に切られそうになっていたけど、もう二度とあんな目に合わせたくないんだ。まだ出会ってからの時間は短いけど、俺はシルフェさんを守れる男になりたい。俺のことを信じてほしい」

と、健気で、かつ真剣な眼差しをシルフェさんへ向ける。

俺に見つめられ、シルフェ姉さんの顔が真っ赤になり、つぶやくように声を出した。

「あ、ありがとう。わかったわ。アルフ君を信じて今は聞かないでおくね。でも、危険なことはあまりしないで」

 オプションB作戦見事に成功だぜ!!
 ちょろいねー。シルフェ姉さん。
 
 そういうところもかわいい!
 
 シルフェさんを軽くハグして、、、、ハグと言っても、身長差から頭を肩につけるだけだが、クンクンする。
 やっぱり、幸運を運んできてくれる良い匂いがした。
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