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2.王都書生編
13.役得で目の保養をすることのススメ
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俺の目の前の初老の男。
剣を構える姿は様になっているし、なかなかの闘気をまとっている。
傭兵業で長く生き残る古強者はダテではないな、と感心する。
『どうするな?主殿よ。得意の小太刀やナイフだけでは、よくて五分五分。贔屓目なしにみると、7対3で分が悪いぞ。久しぶりの荒事じゃ。我が変わってやってもよいぞ?』
エクスが言った通り、俺は貴族のたしなみである剣が得意ではないし、普段鍛錬もしていない。
愛書「小役人のススメ」で、武器を扱うならば、小太刀やナイフを鍛えるべきと推奨している。これは、官僚(内官)は、王宮の中で、剣などの長い武器を装備はしないので、官服の中に小太刀やナイフを隠し持つためである。
実家では、貴族にあるまじき、と、父上の重臣たちには蔑まされてきたが、俺は、剣ではなく、小太刀、ナイフなど、隠し持てる短い武器をずっと鍛えてきた。
『ちなみに、俺が魔法を使えば?』
『圧勝じゃな』
『ちなみにエクスがやる場合は?』
『瞬殺じゃ。1秒すらもたんぞ。クァッハッハッハ』
とエクスと初老の男についての戦力評価をしていたら、初老の男が、怒鳴ってくる。
「貴様、何者だ!儂の屋敷に侵入しよって!警護の奴らは何をやっている!誰か!侵入者だ!誰か!」
初老の男が、叫んで人を呼ぶが、屋敷の中は無音が続く。
「叫んでも無駄。全員、無力化した」
極力こちらの身元の証拠を与えないよう、最低限の単語のみを口にする。
屋敷に侵入する際に、護衛や使用人を身体強化魔法を発動させ、当て身で一人ずつ気絶させていった。もちろん、護衛たちは手荒く無力化していったが、メイドさんたちは優しく、頸動脈を指で押しあてて貧血にさせ、失神させていった。
メイドさんたちが倒れる際に、黒のガータベルトとパンツが見れてたのが、役得で、目の保養になったな。
それは、そうと、目の前の初老の男は、獅子の牙の頭目バッカス。
犯罪組織の長のくせに、町の繁華街のはずれに、立派な屋敷を構えている。
犯罪組織と言えば、地下下水道やスラム街に拠点を設けているのが相場なイメージだったのに、何を貴族みたいな屋敷を構えているんだよ、とよくわからない怒りがこみあげてくる。
俺がシルフェさんと分かれて、一人で行動をしたかったのは、俺の獅子の牙内での同士討ちをバックスに邪魔されないよう、今のうちに拘束しておこうと思ったためだ。でもそれはあくまで「表の理由」で、「裏の理由」は、同士討ち後組織が弱ったところで、バッカスを操り、獅子の牙の上層部すべてを入れ替え、その後、組織をそっくりそのまま、もらい受けるためでもあった。
ナンバー2のキースにナンバー3のレスターの造反の証拠を突きつければ、自然と潰しあいの内紛に発展する。この時、頭目のバックスが、どちらか片方に味方したりしたら、勢力差がどちらかに偏り、あっさり内紛が鎮圧されてしまう。
内紛の混乱を大きく長引かせつつ、組織の力を弱らせた段階で、幹部を総入れ替えして、俺の配下として獅子の牙は再出発させるつもりだ。そのため、あと数日は潰しあいを興じてもらわないとならない。
裏の作戦の第一歩として、バッカスを「俺のやり方で」拘束する。
「誰の差し金だ。その黒のローブとおかしな仮面。ま、ま、まさか、王都の地下組織ノーフェイスの手のものか?」
と再びバッカスが怒鳴り、その後、盛大に勘違いしてくれる。
念のため顔がわからないよう、お気に入りの黒いローブと仮面で隠している。
確かに、不審者がこんな格好で家に侵入してきたら、あやしさ満載で、暗殺者と勘違いしてもおかしくはない。
そういえば、「ノーフェイス」って聞いたことあるな。なんでも王都の地下組織の一つで、暗殺、殺人を請け負う犯罪組織だった、と記憶を呼び覚ます。
ホントは先ほど心の中で名付けた「ニオイフェチーズ」なのだけど、そのまま勘違いしてもらったままで、ある意味死んでもらおうか。
俺は、エクスの分析に従い、最初から身体強化魔法を使う。
体内の魔素を勢いよくはじけさせ、身体中に巡らせ、瞬時に全身を強化する。
小太刀を右手で構え、一気に、バッカスに肉薄し、頸部を峰打ちし、バッカスを気絶させる。
バッカスは俺の魔法で強化した動きに、全く反応できず、崩れ落ちる。
さあ、それでは、バッカスが意識を失っているうちに、バッカスを服従させよう。
俺は、エクスに教わった召喚魔法で、夢幻草を召喚した。
夢幻草は、高地に生息する植物で、周囲に幻覚作用のある花粉をばらまき、旅人を道に迷わせる。そのため、旅人には不吉草と言われている。
夢幻草を手にとり、夢幻草の花の核に自分の魔素を送り込み、魔素の形質転換を起こさせる。すると、夢幻草の色が毒々しい紫になり、茎から棘が出て、葉の形も丸形から人の手のような形へ変形した。
『主殿よ。これは、魔界に生える、全能草に似ているが、、、、。いったい、なにをやったのじゃ?魔素とが魔素に干渉したように感じたが』
『全能草?これは高地に生える幻覚を見せる夢幻草で、夢幻草の魔素の形質を俺の魔素の刺激で形質転換させたんだ。幻覚よりもより強い、催眠効果を与えられるように、新種をつくったんだよ。名付けて、「強力夢幻草」だ』
『新種でもなんでもないわ。これはやっぱり全能草じゃ。催眠の効果まで一緒じゃ。葉を対象者に食べさせることで、催眠効果が出てくる。その際、一度でも、なにかを刷り込まれた場合、その解除は非常に難しい。直接、精神へ浸食するからのう。しかも、全能草を使い続けると、精神を急速に衰弱させていくから、厄介な麻薬じゃ。それにしても、生きている生物の魔素を自分の魔素を使って形質転換させるというのは、我も想像の範囲外じゃったわ』
エクスがめずらしく、出来の悪い魔法師の弟子の術を誉めてくれて、うれしかった。俺もやるときはやるんだぞ。
生物には魔素の格納庫である核がある。その核にある魔素を別の生物の魔素で弄ると、その生物の性質が変わることに気が付いたのは、実は、自分自身の体験からだった。
エクスと同居し始めてから、俺の魔素が干渉をうけ、性質がかわった。俺の外見こそ変わらなかったが、魔素量や魔素の質も変わり、細かいところで言えば、味の好みまで、変化があったことに気が付いた。
エクスが別の事に意識を向けているとき、雑草で魔素‐魔素干渉実験をしてみたところ、見事、被検体の性質を変化させることができたので、今回も自信があった。
もっとも、元々被検体にある性質を、強くしたり、弱くしたりするだけで、大きく性質や状態を変えるところまではまだできない。でも、魔王師匠のいうとおり、魔法は「想像力がスパイス」ということが実感できた。
それはさておき、全能草の葉を気絶するバックスの口に指で押し入れ、無理やり食べさせる。バックスの身体が一瞬硬直した。しばらくすると、バックスが意識を回復したようであるが、焦点はボケており、よだれを垂らしていた。
催眠状態にはいっているようなので、バックスに、俺は主君であり、俺の命令は絶対であるという、説明を繰り返し行った。そのうち、バックスは、
「しゅ、主君。め、命令。」
と、うわ言のようにつぶやいていた。
徐々にバックスの目の焦点があってきて、俺のことを、「主様」と呼び、跪いてきた。
目はまだ少しうつろのままであったが、バックスに悪意の色が俺の左目には映らず、クンクンしても、敵意のニオイもしなくなった。
無臭無臭。
どうやら、催眠状態の刷り込みは完了したようだ。
剣を構える姿は様になっているし、なかなかの闘気をまとっている。
傭兵業で長く生き残る古強者はダテではないな、と感心する。
『どうするな?主殿よ。得意の小太刀やナイフだけでは、よくて五分五分。贔屓目なしにみると、7対3で分が悪いぞ。久しぶりの荒事じゃ。我が変わってやってもよいぞ?』
エクスが言った通り、俺は貴族のたしなみである剣が得意ではないし、普段鍛錬もしていない。
愛書「小役人のススメ」で、武器を扱うならば、小太刀やナイフを鍛えるべきと推奨している。これは、官僚(内官)は、王宮の中で、剣などの長い武器を装備はしないので、官服の中に小太刀やナイフを隠し持つためである。
実家では、貴族にあるまじき、と、父上の重臣たちには蔑まされてきたが、俺は、剣ではなく、小太刀、ナイフなど、隠し持てる短い武器をずっと鍛えてきた。
『ちなみに、俺が魔法を使えば?』
『圧勝じゃな』
『ちなみにエクスがやる場合は?』
『瞬殺じゃ。1秒すらもたんぞ。クァッハッハッハ』
とエクスと初老の男についての戦力評価をしていたら、初老の男が、怒鳴ってくる。
「貴様、何者だ!儂の屋敷に侵入しよって!警護の奴らは何をやっている!誰か!侵入者だ!誰か!」
初老の男が、叫んで人を呼ぶが、屋敷の中は無音が続く。
「叫んでも無駄。全員、無力化した」
極力こちらの身元の証拠を与えないよう、最低限の単語のみを口にする。
屋敷に侵入する際に、護衛や使用人を身体強化魔法を発動させ、当て身で一人ずつ気絶させていった。もちろん、護衛たちは手荒く無力化していったが、メイドさんたちは優しく、頸動脈を指で押しあてて貧血にさせ、失神させていった。
メイドさんたちが倒れる際に、黒のガータベルトとパンツが見れてたのが、役得で、目の保養になったな。
それは、そうと、目の前の初老の男は、獅子の牙の頭目バッカス。
犯罪組織の長のくせに、町の繁華街のはずれに、立派な屋敷を構えている。
犯罪組織と言えば、地下下水道やスラム街に拠点を設けているのが相場なイメージだったのに、何を貴族みたいな屋敷を構えているんだよ、とよくわからない怒りがこみあげてくる。
俺がシルフェさんと分かれて、一人で行動をしたかったのは、俺の獅子の牙内での同士討ちをバックスに邪魔されないよう、今のうちに拘束しておこうと思ったためだ。でもそれはあくまで「表の理由」で、「裏の理由」は、同士討ち後組織が弱ったところで、バッカスを操り、獅子の牙の上層部すべてを入れ替え、その後、組織をそっくりそのまま、もらい受けるためでもあった。
ナンバー2のキースにナンバー3のレスターの造反の証拠を突きつければ、自然と潰しあいの内紛に発展する。この時、頭目のバックスが、どちらか片方に味方したりしたら、勢力差がどちらかに偏り、あっさり内紛が鎮圧されてしまう。
内紛の混乱を大きく長引かせつつ、組織の力を弱らせた段階で、幹部を総入れ替えして、俺の配下として獅子の牙は再出発させるつもりだ。そのため、あと数日は潰しあいを興じてもらわないとならない。
裏の作戦の第一歩として、バッカスを「俺のやり方で」拘束する。
「誰の差し金だ。その黒のローブとおかしな仮面。ま、ま、まさか、王都の地下組織ノーフェイスの手のものか?」
と再びバッカスが怒鳴り、その後、盛大に勘違いしてくれる。
念のため顔がわからないよう、お気に入りの黒いローブと仮面で隠している。
確かに、不審者がこんな格好で家に侵入してきたら、あやしさ満載で、暗殺者と勘違いしてもおかしくはない。
そういえば、「ノーフェイス」って聞いたことあるな。なんでも王都の地下組織の一つで、暗殺、殺人を請け負う犯罪組織だった、と記憶を呼び覚ます。
ホントは先ほど心の中で名付けた「ニオイフェチーズ」なのだけど、そのまま勘違いしてもらったままで、ある意味死んでもらおうか。
俺は、エクスの分析に従い、最初から身体強化魔法を使う。
体内の魔素を勢いよくはじけさせ、身体中に巡らせ、瞬時に全身を強化する。
小太刀を右手で構え、一気に、バッカスに肉薄し、頸部を峰打ちし、バッカスを気絶させる。
バッカスは俺の魔法で強化した動きに、全く反応できず、崩れ落ちる。
さあ、それでは、バッカスが意識を失っているうちに、バッカスを服従させよう。
俺は、エクスに教わった召喚魔法で、夢幻草を召喚した。
夢幻草は、高地に生息する植物で、周囲に幻覚作用のある花粉をばらまき、旅人を道に迷わせる。そのため、旅人には不吉草と言われている。
夢幻草を手にとり、夢幻草の花の核に自分の魔素を送り込み、魔素の形質転換を起こさせる。すると、夢幻草の色が毒々しい紫になり、茎から棘が出て、葉の形も丸形から人の手のような形へ変形した。
『主殿よ。これは、魔界に生える、全能草に似ているが、、、、。いったい、なにをやったのじゃ?魔素とが魔素に干渉したように感じたが』
『全能草?これは高地に生える幻覚を見せる夢幻草で、夢幻草の魔素の形質を俺の魔素の刺激で形質転換させたんだ。幻覚よりもより強い、催眠効果を与えられるように、新種をつくったんだよ。名付けて、「強力夢幻草」だ』
『新種でもなんでもないわ。これはやっぱり全能草じゃ。催眠の効果まで一緒じゃ。葉を対象者に食べさせることで、催眠効果が出てくる。その際、一度でも、なにかを刷り込まれた場合、その解除は非常に難しい。直接、精神へ浸食するからのう。しかも、全能草を使い続けると、精神を急速に衰弱させていくから、厄介な麻薬じゃ。それにしても、生きている生物の魔素を自分の魔素を使って形質転換させるというのは、我も想像の範囲外じゃったわ』
エクスがめずらしく、出来の悪い魔法師の弟子の術を誉めてくれて、うれしかった。俺もやるときはやるんだぞ。
生物には魔素の格納庫である核がある。その核にある魔素を別の生物の魔素で弄ると、その生物の性質が変わることに気が付いたのは、実は、自分自身の体験からだった。
エクスと同居し始めてから、俺の魔素が干渉をうけ、性質がかわった。俺の外見こそ変わらなかったが、魔素量や魔素の質も変わり、細かいところで言えば、味の好みまで、変化があったことに気が付いた。
エクスが別の事に意識を向けているとき、雑草で魔素‐魔素干渉実験をしてみたところ、見事、被検体の性質を変化させることができたので、今回も自信があった。
もっとも、元々被検体にある性質を、強くしたり、弱くしたりするだけで、大きく性質や状態を変えるところまではまだできない。でも、魔王師匠のいうとおり、魔法は「想像力がスパイス」ということが実感できた。
それはさておき、全能草の葉を気絶するバックスの口に指で押し入れ、無理やり食べさせる。バックスの身体が一瞬硬直した。しばらくすると、バックスが意識を回復したようであるが、焦点はボケており、よだれを垂らしていた。
催眠状態にはいっているようなので、バックスに、俺は主君であり、俺の命令は絶対であるという、説明を繰り返し行った。そのうち、バックスは、
「しゅ、主君。め、命令。」
と、うわ言のようにつぶやいていた。
徐々にバックスの目の焦点があってきて、俺のことを、「主様」と呼び、跪いてきた。
目はまだ少しうつろのままであったが、バックスに悪意の色が俺の左目には映らず、クンクンしても、敵意のニオイもしなくなった。
無臭無臭。
どうやら、催眠状態の刷り込みは完了したようだ。
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