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3.行政大学校入学編
7 贅沢ができる潤沢な資金源があれば、すでに小さな幸せとはいえないことのススメ
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魔技研に入会できたので、後顧の憂いは断った。
これで、当面は一安心だ。
でも、これで、財務閥、財務研究会とは、微妙な関係になってしまったな。ジャームスさんとチャールズさんに砂をかけることにならないといいが、他に妙案がなかったから致し方なし。お詫びの手紙を出しておこう。
学校の講義も順調に進んでいる。
官僚(内官)になるための授業は、国家を回していくため、政治、経済にとどまらず、外交、交渉術など、多岐にわたる。でもその神髄はすべて「小役人のススメ」で説いているため、改めて感心することは少ない。
でも、講義自体は物足りないが、争いもなく平穏なのでなにより。
それはそうと、魔技研のサロンにご機嫌伺いとばかりにしばしば顔を出している。その際、外様の新参者であることを意識して、腰を低く、笑顔を絶やさず、敵を作らずということを徹底したら、逆に先輩たちから恐縮されてしまった。
どうやら、第三王女の直々の推薦で、しかも、たまに懐刀のシルフェさんが俺の様子を見に来る入れ込みようを見て、下手したら、俺が将来の出世頭になるのではと、思われているらしい。このままいくと、既成事実として、第三王女の直臣に召し抱えられかねない。
「小役人のススメ」で、「言三度の流れ、即ち虚実が変ず」とあり、噂であっても複数回流れると、当時者以外にはそれが事実のように映ってしまう、ということを説いている一説がある。
噂を流す側としても、流される側としても含蓄のある一説だ。
シルフェさんのおかげで魔技研に無事入れたけど、これ以上第三王女に近づくのは、今は得策ではないと自分を戒める。
エクスが甘味を食べたい(実際に食べるのは俺だけど)と何度も訴えてくるので、休みの日に寮から王都の商業地域へ探索に出た。そういえば、約1年前に王都に初めてきたが、その後、ほとんどをパルスキーで過ごしていたため、王都を見て回ったことがない。せっかくだから、一人で観光でもしようと、王都のメイン通りを歩いてみる。
エクスの要望に従って、屋台や露店で買った甘味を食べ歩きしながら一人で景色や人々の営みを楽しんでいた時に、ふと閃く。
そうだ。新しい魔法を開発するため、そのネタを探しに本屋へ行こう。
『それは、よい考えじゃ。主殿よ。我は、物質を複製する魔法を開発したいのう。そしたら、甘味が無限に増えるじゃろな』
『そんな夢の魔法が開発できるならば俺もやりたいよ。第一「魔素物体間交換不可の法則」に反するから不可能だよ』
魔法として万能ではない。魔法は魔素をエネルギー源として、特定事象を発現させることをいう。でも、魔素は物質を無から創造するほどのエネルギーを内包しておらず、したがってエネルギーから有形個体を創造することはできない、ということを昔、なんとかという魔法学者が証明し、「魔素物体間交換不可の法則」という名を名付けた。
でも、魔素は、空間や時間に干渉する莫大なエネルギーを内包するのに、それでも、物質を新たに創造するほどではないというのは、なんとも不思議に思う。もし俺が魔法師で魔法学者になるだったら、過去に証明されたものが本当に正しいのかをもっと突き詰めるのだけどな。そもそも、定説になっている魔法の系統を表す、五行説自体も怪しい状況だし。
『そんな「魔素物体間交換不可の法則」なぞ我は知らんが、物質創造の魔法は、年単位で研究が必要じゃな。それよりもどうじゃ?今から、役人になんぞ、なるのをやめて、魔法師になるのは?さすれば、この国は元より、大陸を支配する大魔法師になれるぞ。我が歴史に名を残させてやるぞ。主殿よ』
『そんなめんどくさいものになるつもりはないよ。俺は、小役人になって、小さいけれど幸せな家庭と無限の贅沢ができる潤沢な資金源があればそれで十分だよ』
『湯水のごとく使える資金源をもっている時点で、小役人の枠をはみ出しておるわ』
エクスとたわいもない話をしながら、大通りより路地に曲がって、すぐのところの一軒の大きな本屋にはいる。ここは初めてきたけど、学校でも名の通った本屋だ。
フランド王国でも大陸でも、本は手作業の写本か版画印刷で製本され、非常に手間がかかるため高級品である。ただ、俺には、パルスキーでネコババした隠し財産からの金貨があるので、予算の不安は全くないぞ。
魔法書を探そうとして、ふと視線を本屋の奥へ向けると、偶然にも、財閥の重鎮の息子の部屋の前で話をした、赤髪ロングヘア―のヘンレさんがいた。
これは、ヘンレさんと俺はなにか不思議な縁がある的な、なにかがあるのかな?と妄想を膨らませる。
俺には気が付いていないようなので、ヘンレさんへ挨拶をしようと声をかける。
これで、当面は一安心だ。
でも、これで、財務閥、財務研究会とは、微妙な関係になってしまったな。ジャームスさんとチャールズさんに砂をかけることにならないといいが、他に妙案がなかったから致し方なし。お詫びの手紙を出しておこう。
学校の講義も順調に進んでいる。
官僚(内官)になるための授業は、国家を回していくため、政治、経済にとどまらず、外交、交渉術など、多岐にわたる。でもその神髄はすべて「小役人のススメ」で説いているため、改めて感心することは少ない。
でも、講義自体は物足りないが、争いもなく平穏なのでなにより。
それはそうと、魔技研のサロンにご機嫌伺いとばかりにしばしば顔を出している。その際、外様の新参者であることを意識して、腰を低く、笑顔を絶やさず、敵を作らずということを徹底したら、逆に先輩たちから恐縮されてしまった。
どうやら、第三王女の直々の推薦で、しかも、たまに懐刀のシルフェさんが俺の様子を見に来る入れ込みようを見て、下手したら、俺が将来の出世頭になるのではと、思われているらしい。このままいくと、既成事実として、第三王女の直臣に召し抱えられかねない。
「小役人のススメ」で、「言三度の流れ、即ち虚実が変ず」とあり、噂であっても複数回流れると、当時者以外にはそれが事実のように映ってしまう、ということを説いている一説がある。
噂を流す側としても、流される側としても含蓄のある一説だ。
シルフェさんのおかげで魔技研に無事入れたけど、これ以上第三王女に近づくのは、今は得策ではないと自分を戒める。
エクスが甘味を食べたい(実際に食べるのは俺だけど)と何度も訴えてくるので、休みの日に寮から王都の商業地域へ探索に出た。そういえば、約1年前に王都に初めてきたが、その後、ほとんどをパルスキーで過ごしていたため、王都を見て回ったことがない。せっかくだから、一人で観光でもしようと、王都のメイン通りを歩いてみる。
エクスの要望に従って、屋台や露店で買った甘味を食べ歩きしながら一人で景色や人々の営みを楽しんでいた時に、ふと閃く。
そうだ。新しい魔法を開発するため、そのネタを探しに本屋へ行こう。
『それは、よい考えじゃ。主殿よ。我は、物質を複製する魔法を開発したいのう。そしたら、甘味が無限に増えるじゃろな』
『そんな夢の魔法が開発できるならば俺もやりたいよ。第一「魔素物体間交換不可の法則」に反するから不可能だよ』
魔法として万能ではない。魔法は魔素をエネルギー源として、特定事象を発現させることをいう。でも、魔素は物質を無から創造するほどのエネルギーを内包しておらず、したがってエネルギーから有形個体を創造することはできない、ということを昔、なんとかという魔法学者が証明し、「魔素物体間交換不可の法則」という名を名付けた。
でも、魔素は、空間や時間に干渉する莫大なエネルギーを内包するのに、それでも、物質を新たに創造するほどではないというのは、なんとも不思議に思う。もし俺が魔法師で魔法学者になるだったら、過去に証明されたものが本当に正しいのかをもっと突き詰めるのだけどな。そもそも、定説になっている魔法の系統を表す、五行説自体も怪しい状況だし。
『そんな「魔素物体間交換不可の法則」なぞ我は知らんが、物質創造の魔法は、年単位で研究が必要じゃな。それよりもどうじゃ?今から、役人になんぞ、なるのをやめて、魔法師になるのは?さすれば、この国は元より、大陸を支配する大魔法師になれるぞ。我が歴史に名を残させてやるぞ。主殿よ』
『そんなめんどくさいものになるつもりはないよ。俺は、小役人になって、小さいけれど幸せな家庭と無限の贅沢ができる潤沢な資金源があればそれで十分だよ』
『湯水のごとく使える資金源をもっている時点で、小役人の枠をはみ出しておるわ』
エクスとたわいもない話をしながら、大通りより路地に曲がって、すぐのところの一軒の大きな本屋にはいる。ここは初めてきたけど、学校でも名の通った本屋だ。
フランド王国でも大陸でも、本は手作業の写本か版画印刷で製本され、非常に手間がかかるため高級品である。ただ、俺には、パルスキーでネコババした隠し財産からの金貨があるので、予算の不安は全くないぞ。
魔法書を探そうとして、ふと視線を本屋の奥へ向けると、偶然にも、財閥の重鎮の息子の部屋の前で話をした、赤髪ロングヘア―のヘンレさんがいた。
これは、ヘンレさんと俺はなにか不思議な縁がある的な、なにかがあるのかな?と妄想を膨らませる。
俺には気が付いていないようなので、ヘンレさんへ挨拶をしようと声をかける。
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