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3.行政大学校入学編

6 魔女姉さんが油断しすぎであったことを想像しないことのススメ

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 シルフェさんがなぜ俺に魔法技術研究会(魔技研)の代表を紹介してくれるのか、の説明は、すごくシンプルだった。

 第三王女の同腹の姉、第二王女は、魔技閥と良好な関係を築いているとのことだった。有望な若手候補である「麒麟児」の俺と魔技閥そして魔技研究会との渡りをつけると、政敵の第一王子支持の財務閥の評判を下げるとともに、魔技閥と俺に恩がうれる、ということだった。

 加えて、シルフェさんは、第三王女に俺を取り込むように進言しているそうだ。

 パルスキーでの働きを見ると、情報収集力、作戦立案力そして作戦実行力もあり、おそらく、まだ、なんらかの力を隠している節がある。荒事から搦め手まで、なんでも器用にこなせる万能型、しかも、年齢から考えると、今後の成長も期待できる。
 他がまだツバをつけていない優良物件であると説明しているとのこと。

 さらに、できれば、第三王女のひも付き(直系)の部下にしたらよいとまで、言っているらしい。俺が中央政府で内官(官僚)になりたいという希望を持っているので、仮に、皇族の直系の部下へ引き込むことが無理だったとしても、今のうちに恩を売っておくことは最低限すべき、と力説いるとのこと。

 王女はその専属魔法師からの進言に従って、俺との接点をつくるため、シルフェさんを講師として行政大学校へ送り込み、恩を売りつけるタイミングを見計らっていたとのこと。

 「本人を目の前に、よくそこまで裏の話をしますね」

 俺は半分呆れながら、シルフェさんの話に反応する。

 「ここでアルフ君に隠し事をするのは悪手だわ。あなたが、殿下を信頼できるように行動をするのが、今は最善策だと思っているわ」

 それにしても、シルフェさんの俺の評価が高すぎることは気にはなるが、これまでの説明に違和感はない。
 
 うん。ここは素直に恩を売られておくことにしよう。
 ただ、実家のプライセン子爵家やエクリン家に、俺は何も影響力がないことは、念押ししておく。

 そしたら、

 「殿下は、中堅田舎貴族と没落官吏にそこまで、興味をお持ちではないわ」

 だってさ。

 シルフェさんの辛辣な言葉に、父上とジャームスさんの悲しそうな顔が浮かぶ。
 
 二人とも強く生きてくれ。

 「ありがたく、お話をお受けします。仲介の労をどうぞよしなにお願いします」

 と魔技閥への仲介をお願いした。シルフェさんから「お姉さんにまかせておきなさい」と元気な返事が返ってきたが、その後のセリフに警戒する。

 「それで、仲介するにあたり、2つほど「お願い」があるの」

 やっぱり、そう来たか。

 無料(ただ)で、一学生のために王族やその直系の部下が動いてくれるわけがない。

 しかも、「条件」ではなく、「お願い」といってきたところが、実にいやらしい。
 
 その「お願い」は、おそらく第三王女の判断ではなく、シルフェさんの独断だろう。それに、ここでお願いを断っても、仲介はしてくれるだろうけど、もしお願いを断れば、俺はシルフェさんへ引け目を感じ、恩以上の見返りを返すことを見越している。いや、シルフェさんは、俺の性格を理解した上で、この状況で俺がシルフェさんのお願いを断ることはできない、と踏んでいるのだろう。

 「そんなに構えないでよ。大したことではないのよ。一つは、第三王女殿下に謁見して、今回の件に対して御礼を直接伝えること、もう一つは、私がもし仕事で困ったときに、アルフ君に手を貸してもらいたいの」

 一つ目の「お願い」は問題ない。ただ、王族と直接面談したことが他の学生に知られると、「麒麟児」と呼ばれていること以上の嫉妬される恐れがあるので、内々で面会することを逆に「お願い」し返し了承された。

 二つ目の「お願い」は、手伝いは1回に限ることだったら了承することを伝えた。
 
 それと、

「俺は、魔法も使えないし、そもそも内官志望なので、荒事や戦働きは、期待しないでください」

 と念押しした。

 パルスキーでの「代官の不正問題口出し無用及びお漏らし隠匿の盟約」に次いで、シルフェさんと俺との二回目の「魔技研究会仲介及び王女へお礼謁見と仕事お手伝いしちゃうね盟約」が相成った。





 
 シルフェさんは、早速動いてくれて、2日後に、魔技研究会の代表と面会の場を設定してくれた。
 
 そして、今、魔技研究会のサロンのある談話室の目の前にいる。ドアをノックして談話室に入るなり、にぎやかな声が急に静まった。

 「よく来てくれました。アルフレッド・プライセン君。ジェシカ・ルートンです。魔技研こと、魔法技術研究会の代表をしています。私たちはあなたの入会を大いに歓迎するわ!!」

 透き通った声がサロンの部屋中に反響する。先日のハーベルとの面談の時と違い、その歓迎ぶりに逆にたじろいでしまった。
 
 サロンの部屋を見渡すと、おそらく魔技研究会の幹部たちと第三王女専属魔法師がいた。

「歓迎ぶりに驚いたでしょう?」

 と、いたずらっ子のように、笑いながら笑顔で話しかけてくるシルフェさん。
 思わず、「き、きれい、だ」、とその笑顔に見とれてしまった。

 『鼻の下が伸びておるぞ。主殿よ』

 エクスの声でで我に返る。気を取り直して挨拶する。

 「アルフレッド・プライセンです。ルートン様、皆々様、どうぞよろしくご指導のほどお願いいたします」

 「シルフェ様から、あなたが魔技研に入会希望と聞いたわ。優秀な学生の入会は大歓迎よ。ましてはパルスキー再建の道筋をつけた麒麟児で、しかも、第三王女殿下の直々のご推薦だもの。これで、麒麟児をみすみす手放した財務研究会や嫌味なハーベル・インフォの鼻もあかせるというものよ」

 財務閥と魔技閥が険悪なのは、中央政府内だけでなく行政大学校でも、同様のようだ。

 「最後のは、もちろん冗談よ」と明るく声で代表のジェシカさんが言い、談話室に笑い声が響く。

 次いで、ジェシカさんが魔女姉さんとの関係を教えてくれる。

 「シルフェ様は、魔術大学校に在学している時から、この行政大学校の魔技研と深いつながりがあったのよ。その関係は、先輩たちから引き継いでいるの」

 魔法と技術を研究する魔法技術研究会は、代々、魔術大学校との交流があったらしい。
 そんな中、第三王女が魔術大学校に入学し、魔法研究に勤しむ過程で、魔法の基礎研究をする魔術大学校と、魔法の応用開発を専門とする行政大学校の魔技研の関係をさらに強固にしたらしい。シルフェさんも第三王女とともに、魔技研と協働で研究に勤しむ一人だったとのことだ。

 魔技研は今も第三王女と親密な関係を継続しているとのことだ。そのため、第三王女専属魔法師のシルフェさんは、今でも行政大学校の魔技研にしばしば出入りしているらしい。

 それと、ジェシカさんの話によると、シルフェさんは「第三王女の懐刀」と内官の間で呼ばれているらしい。シルフェさんの進言により第三王女が動くくらいなので、第三王女のシルフェさんの信頼は厚いとは思っていたけど、そこまでの関係とは。

 加えて、第二王女は、第三王女の影響で、魔法技術開発を将来の国の柱だと考えているようで、第三王女は、国策の中枢、魔法技術の面で姉の副官の立ち位置にいることも分かった。

 そうすると、魔女姉さんは、第二王女の副官の参謀(懐刀)ということになるか。

 あれ?「懐刀」のくせに、獅子の牙の構成員に手傷を負わされ、失禁までさせられるとは、油断しすぎじゃない?との考えが一瞬頭に過ったが、シルフェさんに気が付かれないように一切顔に出さなかった。
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