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3.行政大学校入学編

5 コネがないのではなく、しがらみがないのだと信じ込むことのススメ

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 ハーベル・インフォとの後味の悪い面談が終わり、彼の部屋を後にする。

 寮の出口付近で、ヘンレさんが俺のことを待っていてくれた。

 「面談はうまくいった?財務研究会はいれることになった?」

 ヘンレさんの問いに俺は、首を横に振る。

 「やっぱりね」

 ヘンレさんがさも当然のように言ってきた。

 どういうことか理由を聞くと、インフォ家はエクリン家をライバル視してきた歴史がある。つまり、インフォ家が財務次官の座を狙い、エクリン家へ代々挑発をしかけてきた。でも、その都度、エクリン家に手痛いしっぺ返しをくらってきたことが何度もあったそうだ。

 そんな折、エクリン家の先々代以来、インフォ家が、念願の次官の座を奪取できた。その地位を強固にするため、将来のYesマンたる書生を多く抱えるなど、いろいろと腐心しているそうだ。

 そんな微妙な時期に、エクリン家の書生で、王都でちょっとした噂になっている俺が財務研究会に入りたいと挨拶に来たので、エクリン家が俺を使って次官の座を奪い返すつもりなのでは、と、ハーベル・インフォが警戒を強めた、ということのようだ。
 
 それと、ハーベルが個人的に、「麒麟児」と言われている俺へ嫉妬しているのではないか、とのヘンレの推測を語ってくれた。

 ヘンレさん。嫌われた原因がなにかわかったので、大いに感謝はする。

 でも、いくらエクリン家とのつながりがあるかといって、そんなにぶっちゃけ話を俺に教えてくれて大丈夫か?お前、ハーベルににらまれないか?と他人事ながら心配する。

 ヘンレさんが良い奴だということはわかった。

 さて、財務研究会に入れないとなると、どうするか?
「魔獣狩り」で重要な任務がまわってくるのも研究会単位だしな。

 悩ましいが、このまま無派閥でいくというのもありだが、ハーベルのように、「麒麟児」認定を受けた俺に嫉妬の牙を向けてくる輩もいないとも限らない。それに、コネも伝手もない俺を守ってくれる仲間がいたほうがよい。どうするか?とため息を心の中でつく。

 「新技術開発に興味があるのならば、魔法技術研究会が近道じゃない?」

 ヘンレさんが俺と歩きながら、よい情報を教えてくれた。
 俺が、新技術開発に興味がある、と話をしたら、ハーベルと同じ2回生に、魔法技術研究会(通称:魔技研)の代表をしている、魔法技術省次官の娘さんがいることを教えてくれた。

 おー!!
 魔法技術閥(魔技閥)へツテをつくろう!!

 ひょっとしたら、師事する内官の派閥を間違えたか?(笑)と、妙案が思いついたため、軽口を心の中でたたく。

 確か魔技閥は、財務閥と険悪だったはず。予算を握る財務閥の予算削減の方針に、新技術、新魔法を開発するため、予算を確保したい魔技閥がことごとく反発しているらしい。

 俺は、財務閥の次世代の次官候補に警戒されていて、しかも卒業後は、財務省ではなく、魔技省に行きたいと思っている。財務閥にコネがあるわけでもないことがわかった俺は、財務研究会にこだわる必要は全くない。むしろ選択肢は無限だ!

 ハーベルの小心者を無視して、しがらみのない強さを活かそう。

 ということで、さっさと魔技研の代表に挨拶に行き、研究会にいれてもらおう。

 でも、、、、いきなり押しかけても、初見なので、まずは、人となりを知ってから、と棚上げされるのがオチだな。どうやって知己を得るか?

 そんな今後の作戦を頭の中で考えながら、ヘンレさんと別れた。





 どうやって、魔技研代表に挨拶し、入会させてもらう機会をつくろうかと、一人、校庭の隅のベンチに座りながら考えていたら、エクスが声をかけてきた。

 『主殿よ。王女付魔法師が近づいてくるぞ。まぁ、敵意はないがな』

 エクスの声とほぼ同時に俺も左目の色彩に接近者を感知した。

 「入学早々、こんなところで一人、物思いにふけているなんて、なにか悩み事があるのかしら?優しいお姉さんが相談にのってあげるわよ」

 とシルフェさんがベンチの後ろから声をかけてきた。

 「シルフェさん、近づくならば後ろからではなく、前からお願いします」

 絶対、わざと後ろから接近してきたな。俺の反応を試すのはやめてほしい。

 「いきなり声をかけても驚かないとはさすがね。それとも私の接近を探知魔法で感知していたのかしら?」

 さぐりを入れてきたがつっぱねる。

 「以前も言いましたが、俺は魔法は使えません。足音は人によって微妙に違うものです」

 「そういうことにしておくわ。それで、財務研究会への入会を断られたアルフ君に朗報があるの。魔技研究会。興味ある?」

 こ、こ。この人は、なんで俺の行動を読んでいるんだ?ひょっとして俺のことをストーキングしているのかと疑ってしまうぞ。魔技研と言われ、迂闊にも一瞬、ピクっと反応してしまった。

 「フフフッ。やっぱり興味があるようね。あれだけで魔技研、魔技研、とつぶやいていたら、誰でも気が付くと思うけど」

 、、、、、、、迂闊にも、無意識に声に出してしまっていたようだ。

 シルフェさんから、この後、魅力的に提案がなされそうだけど、素直に話にのってしまって大丈夫だろうか。第三王女専属魔法師から恩を受けると高くつきそうだ。

 シルフェさんの狙いを探るため、一瞬、以前みたいに、エクスにシルフェさんの思考を読むように頼もうとして思いとどまる。

 あの時は、シルフェさんは、満身創痍で魔素も枯渇していたから、風魔法を使って追手をまいたことも、エクスが思考を読んだことも気が付かれなかった。しかし今回は、体調は万全だろうし、万が一にも、俺が魔法を使えることがバレるリスクをとりたくない。

 『主殿よ。我は娘っ子に気が付かれるようなヘマはせぬぞ』

 エクスが、文句を言ってきたが、でも万が一ということもある。
 すでに疑われているし、それに俺は小心者の小者なんだぞ。
 俺が返事をためらっているとシルフェさんが話を続けてきた。

 「警戒されているようだけど、私は純粋にアルフ君の力になりたいだけなのよ」

 キラキラした目をした魔女姉さんを、横目に「何を白々しいことを」、と思いながら、俺は無表情で目を細める。
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