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6.新派閥旗揚げ編

7.やはり王族は絶対油断ならないと思うことのススメ

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 ブラックストーンという新技術を使った国家プロジェクト(通称:マジカ計画)のおかげで、第三王女派閥(アリア派)は順調に規模を拡大してきている。優秀な人材も集まり始め、開発用にフランド王国へ次々と納品しているブラックストーン売上からの資金もかなり入っており、財政的には余裕が出てきている。

 初めの研究用は特別割引したけど、2回目以降は、しっかりそれなりの対価をもらっている。

 この財政状況ならば、さらに勢力拡大のためにいろいろな手が打てる。

 マジカ計画の本丸で、勢いのある魔技閥もアリア派をガッチリ後援しており、加えて、元々第二王女の頃から関係の深かった運輸流通閥も正式にアリア派に加わった。他の派閥もマジカ計画の利益に与りたいとの思惑から誼を通じてきている。

 4か月前にアリアさんが暗殺されかけたが、今では、第一王子派も簡単には手出しができなくなるまでの規模と政府内に影響力を持つようになった。それでもまだ第一王子派とは、10倍くらいの戦力差があるのだけど。

 俺は、アリアさん、シルフェさんの二人の命の危機は去ったと判断し、参謀職を返上しようと思った。もちろん、事前にシルフェさんにも伝えた。

 『「アリア殿下との約束を見事果たされた旦那様は本当にカッコいいです。ますます好きになりました」じゃとな。魔女っ娘も今では、すっかり主殿の婚約者の貫禄じゃのう』

 エクスがシルフェさんの口調を真似て茶化してくるが、シルフェさんに「カッコいい」と言われて、俺は照れる。





 アリアさんと二人の時に、アリアさんの命の危険は去ったこと、約束の時期が来たことの両方を理由に、参謀職を辞任すると伝えると、いきなり伝えたせいか、アリアさんが、ソファーから転げ落ち、急に向かいに座っていた俺の腰に組み付いてきた。

 そのまま床に両膝をついて、「もう少しだけ、もう少しだけお願いします!私を見捨てないで!」とツバを吐き、俺にしがみつきながら、膝の上で懇願してきた。

 「やっぱりこうなったか」と、心の中でため息をつきながら、アリアさんともすっかり長い付き合いになったこと思い出した。最終的には、「「うん」と言ってくれるまで離れないから!」と完全にゲファルナ卿という設定すら忘れさられ脅された。

 仕方ないので、あと半年間、行政大学校の2回生の10月末まで、という期限を設け、参謀職を続けることにした。

 新参謀の採用の話をなかなか進めなかったのは、やはり泣き落としで引き止める作戦だったのだな。まったくアリアさんにも困ったものだ。

 『すっかり王女っ娘に取りつかれたな。ゲファルナ卿よ。魔女っ娘だけでなく、王女っ娘とも契ってやったらどうじゃ?』

 とエクスはからかってくる。

 言っておくが、シルフェさんともまだ契ってないからな。俺は、そういうケジメはしっかりと弁えているんだぞ、と心の中で叫び声を上げる。

 それからというもの、アリアさんは、二人で会議を持つたびに、抱きついてきたり、肌を露出した服をきて、色仕掛けで誘惑してきたりしたが、俺は、動揺しながらも躱してきた。

 でも、一度だけ、危機に陥った。
 やばかった。思い出すだけで冷や汗がでる。
 
 アリアさんは、自分の使用済みパンツを対価に年単位で参謀職の任期をのばすよう勧誘してきた。その時は思わず錯乱してしまった。俺が重度の匂いフェチだと調べ上げて、俺に自分のパンツを握らせてきた。俺は、本能から左手で握ったものをクンクンしてしまい、迂闊にも、興奮しすぎて意識を失いそうになってしまった。アリアさんは、俺が朦朧としているどさくさに紛れて、任期延長の契約をさせるという強引な勧誘作戦を仕掛けてきた。

 いったい誰だ!入れ知恵したやつは!

 思い返しただけで腹が立つ。

 契約延長に同意する直前で、エクスの電撃魔法ショックで辛うじて我に返り、パンツを投げ出して、あわてて転移魔法で逃げ、窮地を脱することができた。

 やはり王族は絶対油断ならないと本気で思った。

 それからは、アリアさんに二人で会う時は、事前にシルフェさんの身体のいろいろな部位の匂いを(服の上からだけど)堪能させてもらい、匂いフェチの欲望に蓋をしてから、面会するようにしている。シルフェさんは俺がクンクンするたびに、真っ赤な顔をして、恥ずかしそうにしているが、俺の目が真剣すぎるので、何も言わずに全面的に協力してくれている。  

 さすがは婚約者。本当にありがたい。





 残りの任期もあと2か月となり、アリアさんの捨て身の勧誘作戦を頑として、拒否してきたので、ついにあきらめたのか、ようやくアリアさんは、新参謀を雇用した。そして、シルフェさんの抜けた穴を埋める、専属魔法師も探しはじめているようだ。

 それでも、アリアさんは、「ゲファルナ卿。ご帰国の予定は延期されたりしませんよね?」と会うたびに聞いてくる。

 結局、新参謀は、最有力候補として名前が挙がっていた、ルートン家の次男、シール・ルートンさんに決まった。俺は、アリア派の活動を引き継いでいく。残りの任期期間は、シールさんに業務を引き継ぎながら、第一王子、ウルフォン公爵や他の派閥などとの対外交渉を中心にさばいていく。異国の大貴族として一目置かれているため、前に出て、壁になっている状況だ。

 新参謀のシールさんやアリア派の他のメンバーのおかげで、以前より時間ができたので、俺は俺の準備をついに開始することにした。

 これまで、アリアさんからの参謀役の給金、ノーフェースや赤獅子会からの収入、そして、なにより稼ぎ頭の開発用のブラックストーンの国への販売収入から、俺とシルフェさんの将来の幸せのために動き始める。守役のシンバや乳母のエリカも少し早いけど、子爵領から呼び寄せ、計画に参加してもらうつもりだ。

 『主殿よ。それは「暗躍する」という表現の方が適切ではないかのう』

 エクスよ。いい感じでまとめたのに、いらんことを言わないでくれ。
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