オマケなのに溺愛されてます

浅葱

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撒き餌

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「ねえカナタさん、おとーさまのこと、どう思う?」
「え」

どう?とは??と着替えをしている最中のミノンに聞き返す。すると間髪入れずに「おとーさまって、顔が良いでしょ?」と真顔で言われる。

「え、えっと…」
「あのむさ苦しい髪と髭はね、モテ過ぎちゃうからなの」
「あ、なるほど」

そういうことね、と奏多は妙に納得する。詰所に潜入する前に町で必要なものを購入しに行ったナジは帰ってきた時には別人のようになっていた。そう、かなり、めちゃくちゃ唐突に、小綺麗になって戻ってきたのである。

(正直、髭を剃って髪を切っただけでこうはならんやろ…みたいな変貌ぶりだったけど)

あまり大袈裟にリアクションをするわけにもいかず、そこはグッと堪えた奏多であった。内心では二度見、三度見くらいは余裕でしていた。常日頃ジークベルトみたいな規格外の美形を見慣れていなければ、あまりのイケメンぶりに挙動不審になっていたことだろう。振れ幅が凄いんだもん…


「あたしね、毒の研究を頑張ってたのはね、おとーさまの為でもあったの」
「ナジさんの?」
「うん、だってね、放っておいたらおとーさま、いっつも襲われちゃうんだもん」
「お、おそっ」
「でもね、おとーさまは拒否出来ないの。そういう契約だったから。だからあたしがおとーさまを守らなきゃって、そう思ってたの」

だから本当はね、村の大人があたしを邪魔にしたのは、そのせいだったと思うのねとミノンは言った。

「………でも、ミノンちゃんは村の人たちにとって大事な魔力持ちでしょう?なのに殺そうとするなんて…」
「そうだけど、でもね、魔力を持ってるあたしより、おとーさまの方が村の人たちにとっては大事だったのよ」
「…………どうして?」

「それはね、おとーさまは、撒き餌だからなの」













(…………嫌な話を聞いてしまったなぁ)

ミノンが寝静まった後、風魔法習得の為のレベル上げをこなしながら奏多は昼間にした会話の内容をぼんやりと反芻する。

実のところ、前日までに聞いていたナジからの話だけでは納得し切れなかった部分がミノンからの情報で補完された感はあった。


ナジの話では彼は元は貴族の出であったのだそうだ。それが何らかの醜聞をきっかけに廃嫡となり、以降は冒険者や傭兵など職を転々としながら日銭を稼いでいたのだという。しかし足を負傷した為に身体を酷使する仕事は続けられなくなってしまい、その結果今の村に身を寄せることになったのだそうだ。

(そこで与えられた仕事が魔法使いとの間に子供を作ること、だなんて……この世界の倫理観はいったいどうなっているんだろう…?)

ナジの口からは、この村にいる理由は語られなかった。けれどその口ぶりからはそうしなければいけなくなったのだ、というニュアンスが感じられた。
本意ではないが、望まれるから仕方なく応じている。そんなふうにも感じた。ミノンの言うようにナジの容姿や人間的な魅力によって彼に惹かれる者が多かったのだとしたら、村としてもナジを手離すのは避けたかったことだろう。ミノンの言うところの、彼は魔法使いたちを誘き寄せる撒き餌の役割を果たしていたのだろうから。
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