オマケなのに溺愛されてます

浅葱

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抗えない香り

聖女の様子が以前とは違っていることに、最初のうちは気付かなかった。

それはおそらく、ヴァリエール自身がそれほど聖女に対して興味関心を抱いていなかった為である。勿論護衛対象として身辺には気を配っていたし、常に聖女の意志を尊重し彼女が快適に過ごせる為の環境に配慮はしていた。そういった意味での関心はあった。
だがどこか冷めた目で見ている自分がいたことは否めない。そういった意味から言えば、ヴァリエールにとって聖女は決して好ましい存在ではなかったと言えるだろう。

だが、異変は唐突に表れた。



(胸が、騒つく、)

聖女から放たれる香りに、いつからか意識が歪みはじめた。それは思考を溶かす、オリエンタルな甘い香り。
いったいいつから、彼女はこの香りを身に纏っていたのだろうか?

(思い出せない)

気が付いた時にはもう、彼女からこの香りが漂っていた。そして、この匂いを長時間嗅いでいると決まって思考が鈍化してくるのだ。その間彼女に触れられたり優しくされたりすると、堪らなく胸が早鐘を打つようになっていた。

(これは、一種の媚薬だ)

そう気付くのは容易かった。けれど、ヴァリエールは精神系の魔法に対する耐性アクセサリを既に身につけていたし、聖女には魅了の力があると噂されていることも知っていた。
だがそれ自体も確証のない話である。ヴァリエール自身も話半分に聞いていたし、実際この目で見て接してきた聖女からはそういった特殊な力があるようには感じられなかった。

現に、今この瞬間まで、ヴァリエールは聖女を性愛の対象として意識したことなど一度もなかったのだから。



「なあに?ヴァリエール、どうかしたの?」

揶揄うような声音で、甘く囁くように名前を呼ばれる。
自分が、自分じゃなくなる感覚。少しでも気を抜くと、この少女の前にかしづいて愛を請うてしまいそうになって、そんな自分にヴァリエールは恐怖した。まだ僅かに残っている理性が警鐘を鳴らしている。このままでは、いけないと───




(───何故いけないのか?自分の役目は、この少女の夫となり、子を成すことなのに)

ならばなんの支障もないではないか。このままこの愛らしい少女の前で膝を折り仮面を捨て、愛を乞えばいい。それが自分に与えられた役割でもある。拒否する必要も拒絶する理由もない。この甘い激情に駆られて、いったい何がいけないというのだろう?


「ねえ、ヴァリエール。お願いがあるんだけどさあ、その仮面の下の顔梨々香にみせてくれない?」


実はイケメンでした、なんてことないかなって思ってえ、と聖女がわらう。

その白く細い指が、ヴァリエールの仮面に無遠慮に伸ばされる。
それを、ヴァリエールは無抵抗のまま、受け入れるしかなかった。
感想 10

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