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インターハイ予選決勝1
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インターハイ県予選決勝が行われようとしていた。
先週とは違い、コートは一面だけ。ただでさえ広かった競技場がさらに広く使えるようになっていた。
私は準備運動をするチームの顔を見た。
多少緊張はしているが、雰囲気に呑まれていない。これなら力を完全に発揮できる。
試合時間になり、全員がエンドラインに並んだ。
相手はベンチ入りできる最大の一四人。さらに応援席にも大勢いる。選手層の厚さも、経験も、すべてが格上だ。
笛が吹かれ、コート中央に走っていき、握手が交わされる。
キャプテンの真希は相手キャプテンの莉菜と握手をしていた。
莉菜は真希より少しだけ背が高く、一七八センチくらいだろうか。中学のときは真希のほうが大きかったが、伸びたようだ。
「背伸びたね」
真希は何事もなかったかのように久しぶりに会った莉菜に声をかけた。握手した手はそのままだ。
「真希はあんまり変わらないな」
「今でも毎年一センチくらいは伸びてるよ」
「ようやく戦える」
一呼吸置いて莉菜が感慨深そうな表情をする。その間もお互い手を握ったままだ。
「ようやく真希より強いことが証明できる」
真希も手を離さず、小さく溜息をついた。
「まだそんなことに拘ってるの」
莉菜が少し眉をひそめた。
「そんなこと? 私にとっては大事なことだよ。今日の試合で真希に勝ってそれを証明する」
真希が口を開きかけたとき、私が横から割って入った。
「莉菜、それは無理だよ」
莉菜が少し私を睨んだ。
「勝つのは真希、そして私たち。でも安心して」
私は真希の腰を軽く叩いてから続けた。
「真希はそのうち世界一の選手になる。その真希に負けたって恥ずかしくなんかないでしょ」
私と莉菜がしばし睨み合っていたところを真希にむりやり引き離され、私はベンチに移動した。
「何で奈緒が熱くなるのさ」
真希は少し呆れている。
「あれだけ煽れば、莉菜にトスが上がったとき真希のほうに打つでしょ。ちゃんと考えての行動だよ」
ちゃんと考えての行動ではないが、それ以外は本当にそう思っている。真希が世界一になるのも、莉菜は真希と勝負するために真希のほうに打つことも。
最近の悪い癖だ。真希のことになるとなぜか自分のほうが熱くなる。何もこんなときまでと、私は自分で自分に呆れてしまう。
「相手は圧倒的格上だ。全員が春日さんより大きい。相手のエースに至っては私より大きい」
試合前最後のミーティングだ。
「それくらいのことで臆してたら勝てない。上背だけで決まるほど甘くはない。この試合にすべてを懸けるよ」
全員がはい! と返事をしたところで笛が吹かれ、コートに入った。
遂に試合が始まる。私のサーブによって火蓋が切られた。
サーブで相手レシーブが崩れる。
レフトすなわち莉菜か。私は身構え、真希は少しだけレフトにいる莉菜のほうへ寄った。
トスが莉菜に上がる。真希と一緒にブロックに跳ぶ良子にも緊張が走るのが分かる。
莉菜とほぼ同時に真希と良子も跳んだ。
エース対決、いきなり今後の明暗を分けるかもしれない、私は祈るようにボールを見つめた。
莉菜が強烈なアタックを打つ。ボールはすぐに真希のブロックに当たり、莉菜の真下に落ちた。
私と真希はハイタッチをした。まだ始まったばかりだが、幸先がいい。
続く私のサーブも相手レシーブを崩し、莉菜にトスが上がった。
莉菜はまた真希のほうに強烈なアタックを放つが、真希はこれを難なく止める。
私のサーブが続く。またも相手を崩し、莉菜にトスが上がる。
真希が三度ブロックを決め、3対0となったところで相手がタイムを取った。
「絶好調ですね!」
春日さんがベンチに戻るなり、大声で叫んだ。
「私は絶好調だけど、どちらかというと相手の不調に助けられてるね」
莉菜は真希との勝負に拘り過ぎている。
「わざわざ私のほうに打ってくる必要はないはず。それでも向こうのエースは私に打ってくる。調子よくなさそうだし、一気に畳みかけよう」
確かにわざわざ真希に打つ必要はないかもしれないが、意図は分かる。こっちのエースを早々に負かし、力の差を見せつけ、戦意喪失させようということだろう。莉菜にとっては真希と勝負もできて一石二鳥だ。相手が真希でなければ有効な手段だ。
笛が吹かれ試合が再開された。
流れはさっきと同じだった。私のサーブが相手を崩し莉菜にトスが上がる。莉菜のアタックを真希がブロックし、4対0で遂に莉菜が交代となった。
相手の絶対的エースが不在の今、全力で攻める必要がある。私がわざわざ指示するまでもなく全員がより集中力を高めているのが伝わってくる。それと相手の不安が手に取るように分かる。莉菜不在で真希を相手にできるのか、相手の表情から読み取れる。
莉菜の代わりの選手では真希の相手にならない。真希が得点を重ね、10対3で真希がサーブに、私が前衛に上がる。
こんなチャンスはこの試合もうない。無駄にはしない。
笛が吹かれるとほぼ同時にサーブを打つ音が響いた。
無回転のボールが相手コートに跳び込んでいく。いつものジャンプサーブじゃない。
相手は急なことに驚き、サーブレシーブがあらぬ方向に飛んでいく。
審判の笛と同時にサーブを打つ、いわば奇襲だ。笛が吹かれる前後はアタッカーがセッターにどんなトスを上げるか要求していたりするから思ったよりあっさり崩せる。ただ、何度も使える手ではない。
真希はさらに同じ方法でサーブを打ち、12対3で相手が二度目のタイムを使った。
「相手のエースがいない今、このセットは是が非でも取りたい。そのためにもありとあらゆる手段を使う。良子、少し早いけどあれを使おう」
良子は頷き、一年生たちは首をかしげていた。
「皆、ちょっと集まって」
真希は皆を小さくまとめ、声を潜めて今からやろうとすることを伝えた。
真希はジャンプサーブを打つため、エンドラインから大きく離れ、位置についた。
これから真希がやろうとすることは茨の道だ。その負担を私が少しでも軽くする。
真希が高くトスを上げた。
ボールと掌が当たる音が会場全体に響く。相手のレシーブがダイレクトにコートに返ってきた。今までみたいに一発で決まるほど甘くはない。
私はちらりと真希を見る。真希が小さく頷いたのを確認して、良子がジャンプトスの態勢に移行した。
良子は普段通り体をレフト側に向け、レフトにトスを上げるように見せかけ、真横のアタックライン上にトスを上げた。
相手のブロックがどこに上げてるんだと、一瞬不思議そうな表情を浮かべるのが視界に入る。
「バックアタック!」
相手のベンチから莉菜の声が聞こえた。
もう遅い。真希はすでに跳んでいる。ここからの真希は前衛も後衛も関係ない。打って打って打ちまくる。この試合に勝つにはそれしかない。
ボールは相手レフト側のエンドラインとサイドラインが交わるギリギリに突き刺さった。
「おおおお」
春日さんが目を丸くし、真希を見ていた。
「完璧だね」
私と良子も真希の元に駆け寄った。
「トスもバッチリ」
続く真希のサーブは点こそ取れないが、ボールが直接返ってくる。
これまでの全得点、真希だ。私はボールの下に入りながら考えていた。ここまでくると、相手のブロックが全員真希についている。それならトスを私に上げるだけだ。良子もそのことが分かっているようでトスが綺麗に私に上がってくる。それを確実に決め得点を重ねる。
「このまま一気に勝ちきるよ!」
真希がエンドラインから全員を鼓舞する。
真希の言葉通り、全員が鬼気迫る表情でプレーし、25対15で第一セットを奪った。
先週とは違い、コートは一面だけ。ただでさえ広かった競技場がさらに広く使えるようになっていた。
私は準備運動をするチームの顔を見た。
多少緊張はしているが、雰囲気に呑まれていない。これなら力を完全に発揮できる。
試合時間になり、全員がエンドラインに並んだ。
相手はベンチ入りできる最大の一四人。さらに応援席にも大勢いる。選手層の厚さも、経験も、すべてが格上だ。
笛が吹かれ、コート中央に走っていき、握手が交わされる。
キャプテンの真希は相手キャプテンの莉菜と握手をしていた。
莉菜は真希より少しだけ背が高く、一七八センチくらいだろうか。中学のときは真希のほうが大きかったが、伸びたようだ。
「背伸びたね」
真希は何事もなかったかのように久しぶりに会った莉菜に声をかけた。握手した手はそのままだ。
「真希はあんまり変わらないな」
「今でも毎年一センチくらいは伸びてるよ」
「ようやく戦える」
一呼吸置いて莉菜が感慨深そうな表情をする。その間もお互い手を握ったままだ。
「ようやく真希より強いことが証明できる」
真希も手を離さず、小さく溜息をついた。
「まだそんなことに拘ってるの」
莉菜が少し眉をひそめた。
「そんなこと? 私にとっては大事なことだよ。今日の試合で真希に勝ってそれを証明する」
真希が口を開きかけたとき、私が横から割って入った。
「莉菜、それは無理だよ」
莉菜が少し私を睨んだ。
「勝つのは真希、そして私たち。でも安心して」
私は真希の腰を軽く叩いてから続けた。
「真希はそのうち世界一の選手になる。その真希に負けたって恥ずかしくなんかないでしょ」
私と莉菜がしばし睨み合っていたところを真希にむりやり引き離され、私はベンチに移動した。
「何で奈緒が熱くなるのさ」
真希は少し呆れている。
「あれだけ煽れば、莉菜にトスが上がったとき真希のほうに打つでしょ。ちゃんと考えての行動だよ」
ちゃんと考えての行動ではないが、それ以外は本当にそう思っている。真希が世界一になるのも、莉菜は真希と勝負するために真希のほうに打つことも。
最近の悪い癖だ。真希のことになるとなぜか自分のほうが熱くなる。何もこんなときまでと、私は自分で自分に呆れてしまう。
「相手は圧倒的格上だ。全員が春日さんより大きい。相手のエースに至っては私より大きい」
試合前最後のミーティングだ。
「それくらいのことで臆してたら勝てない。上背だけで決まるほど甘くはない。この試合にすべてを懸けるよ」
全員がはい! と返事をしたところで笛が吹かれ、コートに入った。
遂に試合が始まる。私のサーブによって火蓋が切られた。
サーブで相手レシーブが崩れる。
レフトすなわち莉菜か。私は身構え、真希は少しだけレフトにいる莉菜のほうへ寄った。
トスが莉菜に上がる。真希と一緒にブロックに跳ぶ良子にも緊張が走るのが分かる。
莉菜とほぼ同時に真希と良子も跳んだ。
エース対決、いきなり今後の明暗を分けるかもしれない、私は祈るようにボールを見つめた。
莉菜が強烈なアタックを打つ。ボールはすぐに真希のブロックに当たり、莉菜の真下に落ちた。
私と真希はハイタッチをした。まだ始まったばかりだが、幸先がいい。
続く私のサーブも相手レシーブを崩し、莉菜にトスが上がった。
莉菜はまた真希のほうに強烈なアタックを放つが、真希はこれを難なく止める。
私のサーブが続く。またも相手を崩し、莉菜にトスが上がる。
真希が三度ブロックを決め、3対0となったところで相手がタイムを取った。
「絶好調ですね!」
春日さんがベンチに戻るなり、大声で叫んだ。
「私は絶好調だけど、どちらかというと相手の不調に助けられてるね」
莉菜は真希との勝負に拘り過ぎている。
「わざわざ私のほうに打ってくる必要はないはず。それでも向こうのエースは私に打ってくる。調子よくなさそうだし、一気に畳みかけよう」
確かにわざわざ真希に打つ必要はないかもしれないが、意図は分かる。こっちのエースを早々に負かし、力の差を見せつけ、戦意喪失させようということだろう。莉菜にとっては真希と勝負もできて一石二鳥だ。相手が真希でなければ有効な手段だ。
笛が吹かれ試合が再開された。
流れはさっきと同じだった。私のサーブが相手を崩し莉菜にトスが上がる。莉菜のアタックを真希がブロックし、4対0で遂に莉菜が交代となった。
相手の絶対的エースが不在の今、全力で攻める必要がある。私がわざわざ指示するまでもなく全員がより集中力を高めているのが伝わってくる。それと相手の不安が手に取るように分かる。莉菜不在で真希を相手にできるのか、相手の表情から読み取れる。
莉菜の代わりの選手では真希の相手にならない。真希が得点を重ね、10対3で真希がサーブに、私が前衛に上がる。
こんなチャンスはこの試合もうない。無駄にはしない。
笛が吹かれるとほぼ同時にサーブを打つ音が響いた。
無回転のボールが相手コートに跳び込んでいく。いつものジャンプサーブじゃない。
相手は急なことに驚き、サーブレシーブがあらぬ方向に飛んでいく。
審判の笛と同時にサーブを打つ、いわば奇襲だ。笛が吹かれる前後はアタッカーがセッターにどんなトスを上げるか要求していたりするから思ったよりあっさり崩せる。ただ、何度も使える手ではない。
真希はさらに同じ方法でサーブを打ち、12対3で相手が二度目のタイムを使った。
「相手のエースがいない今、このセットは是が非でも取りたい。そのためにもありとあらゆる手段を使う。良子、少し早いけどあれを使おう」
良子は頷き、一年生たちは首をかしげていた。
「皆、ちょっと集まって」
真希は皆を小さくまとめ、声を潜めて今からやろうとすることを伝えた。
真希はジャンプサーブを打つため、エンドラインから大きく離れ、位置についた。
これから真希がやろうとすることは茨の道だ。その負担を私が少しでも軽くする。
真希が高くトスを上げた。
ボールと掌が当たる音が会場全体に響く。相手のレシーブがダイレクトにコートに返ってきた。今までみたいに一発で決まるほど甘くはない。
私はちらりと真希を見る。真希が小さく頷いたのを確認して、良子がジャンプトスの態勢に移行した。
良子は普段通り体をレフト側に向け、レフトにトスを上げるように見せかけ、真横のアタックライン上にトスを上げた。
相手のブロックがどこに上げてるんだと、一瞬不思議そうな表情を浮かべるのが視界に入る。
「バックアタック!」
相手のベンチから莉菜の声が聞こえた。
もう遅い。真希はすでに跳んでいる。ここからの真希は前衛も後衛も関係ない。打って打って打ちまくる。この試合に勝つにはそれしかない。
ボールは相手レフト側のエンドラインとサイドラインが交わるギリギリに突き刺さった。
「おおおお」
春日さんが目を丸くし、真希を見ていた。
「完璧だね」
私と良子も真希の元に駆け寄った。
「トスもバッチリ」
続く真希のサーブは点こそ取れないが、ボールが直接返ってくる。
これまでの全得点、真希だ。私はボールの下に入りながら考えていた。ここまでくると、相手のブロックが全員真希についている。それならトスを私に上げるだけだ。良子もそのことが分かっているようでトスが綺麗に私に上がってくる。それを確実に決め得点を重ねる。
「このまま一気に勝ちきるよ!」
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