サプレッション・バレーボール

四国ユキ

文字の大きさ
29 / 35

インターハイ予選決勝2

しおりを挟む
 コートチェンジが行われ、各々休憩を取る。
 第一セットを取れたのは大きい。後がないという状況は相当なプレッシャーなはずだ。
「もしかして……」
 双海さんが何を言おうとしているのかすぐに察し、私は人差し指を立て自分の唇に当てた。
「そういうことは言っちゃ駄目。気が緩むからね。目の前のボールだけに集中」
 莉菜が真希の存在によって空回りし交代させられ相手ががたついたのと、秘密兵器である真希のバックアタック、さまざまな要因が有利に働いた結果だ。
「さて」
 真希がボトルの水を流し込み、仕切り直した。
「第一セットは相手の絶対的エースがいなかったから勝てたようなもの。本当はこんなもんじゃないよ」
 私は真希の息の上がり方に不安を覚えてしまう。普段の練習でも、先週の星和戦でもこんなに息は切らしていなかった。
「第二セットは必ず出てくる。エース不在で回りの動きがぎこちなかったけど、エースが出てくればいつも通りに戻る」
 真希の全身から汗が噴き出し、喋りながら何度も息継ぎをしている。私は真希の言葉が頭に入ってこなかった。真希の負担と疲労は今までの倍以上。今日は一試合だけとはいえ、大丈夫なのか。
「残り25点、取るよ」
 真希がそう言うと同時に笛が吹かれ、私たちはコートに入った。
 相手コートには莉菜がいる。それと同時に相手チーム全員の顔を見た。やはり、莉菜がいるときといないときとでは顔つきが全然違う。
 絶対的エース不在の隙に勝利をもぎ取ったが今度はそうはいかない。ここからが本当の勝負だ。
 相手のサーブから第二セットが始まる。レシーブが崩されたが、真希は上がってきたトスを難なく決め先制する。
 良子がサーブのためにエンドラインまで移動した。
 さて、莉菜はどう出るか、私はちらりと莉菜を見た。真希との勝負に拘り続けてくれるなら楽だが、そうはいかないだろう。
 良子のサーブが相手を崩す。トスが莉菜に上がり、第二セット最初のエース対決となる。
 莉菜は強烈なアタックを真希ではなく一緒に跳んでいた北村さんのブロックに当てた。ボールは弾かれ北村さんの真横に落ちる。
 真希との勝負には拘っているが今は抑えているのか、莉菜があまり嬉しくなさそうに仲間とハイタッチを交わす。個人の感情は抑え、勝負に徹している感じだ。
 真希と莉菜、両チームのエースを止められる人はいない。一点ずつ取り合い、3対2で真希のサーブとなる。
 真希のジャンプサーブが相手レシーブを崩す。さすがに対応してきている。楽にサーブだけで決まることはもうないか。それとも、威力が落ちているのか。私は嫌な考えを振り払うために頭を振り、目の前に集中する。
 莉菜が乱れたトスを決める。
 莉菜のサーブが北村さん目掛け飛んでくる。北村さんがレシーブを弾き、ボールが真希の真上に上がった。真希がそれを私が待つレフトに上げた。
 私はそれをストレートに力強く打ち込む。
 コート中央エンドライン際にいたはずの莉菜がすでに回り込んでそれを綺麗にレシーブする。
 何だその機動力、私が驚いているうちに相手のAクイックがノーブロックの状態で決まる。
 莉菜のサーブがまたも北村さんに飛び、真希がレフトにトスを上げた。
 ストレートが駄目なら、クロス。
 莉菜はすでにそこに回り込んでおり、またも綺麗にレシーブが返る。
 莉菜の守備範囲の広さには驚くが、とりあえずブロック、私は素早くネット際に移動した。真希のアタックは別として、本来女子バレーはラリーが続くことが多い。まずは粘る。チャンスはそこに生まれる、私は相手の動きを目で追った。
 相手アタッカーが二人同時にセッター目掛け走ってきた。二人はセッターを挟んで同時に跳ぶ。
 AクイックとCクイック同時? と私が驚きブロックに跳ぶも、トスはレフト側へ上げられる。
 莉菜と入れ替わりで上がってきた相手のもう一人のエースがそれを決める。
 莉菜のサーブで崩され、真希が私の代わりにトスを上げ、相手が返しに決める。これが繰り返され7対3となったところで私たちはタイムを取った。
「相手のエースがいると全然動きが違う。これが本来の力ってわけだ」
 真希は苦々しそうに呻く。
「まずはサーブレシーブを良子に返そう。バックアタックが封じられると、必然的にトスは奈緒か春日さんにしか上がらないから、相手もブロックがしやすい」
 笛が吹かれ試合が再開された。
 莉菜のサーブがまたも北村さんに飛んでくる。レシーブしたボールが真希の頭上に上がる。
 真希は二歩素早く後ろに下がり、すぐに力の向きを変え前に二歩踏み出し、その場で飛び跳ねた。真希の意表を突くアタックに反応したブロックがボールを弾き、何とか流れを切った。
 ようやく回ってきたサーブは、綺麗にレシーブされる。
 相手のセンターがAクイックを打つために走ってきた。
 星和より攻撃が速いんじゃないか、私はボールと相手の動きを見つめた。
 相手センターがセッターの一歩手前で急ブレーキをかけ、二歩でセッターの後ろに回り込みジャンプした。
 直前にAクイックからCクイックに切り替える? 相手のエースといい、化け物揃いか。必死にブロックに跳ぶが、ボールはレフトに上がり、それを相手が決める。
 今度もまたレシーブで崩され、真希がトスを上げ、私が打つ、が繰り返された。途中真希のバックアタックを挟んで点を取る。真希が前衛に上がってきたときにはすでに10点差がついており、逆転は不可能だった。
 第一セットとは真逆の展開になり、25対15で第二セットを落とした。
「随分やられたね」
 コートチェンジをし、私は動揺を表に出さないよう、努めて落ち着きながら振る舞った。
「とりあえず、サーブレシーブを何とかしよう。相手の狙う人が分かったら近くにいる私か真希か、春日さんと入れ替わる」
 真希は限界に近いんじゃないか、私は真希を見ながら嫌な感覚に捕らわれていた。息は切れっぱなしだし、何も喋っていない。それにサーブもアタックも一発で決まらなくなってきている。第二セットも10点差をひっくり返そうとずっと跳び続けていた。真希の頭に落としていいセットなど存在しない。たとえどんな点差であっても。それが真希をより窮地に追いやっている。
 私は不安を振り払った。自分が真希を信じないでどうする。それに真希の負担を軽くできるのは私だ。頼ってばかりじゃ、中学最後と変わらない。
 笛が吹かれ、私たちはコートに入った。
「泣いても笑っても残り25点。すべてを尽くして勝つよ!」
 真希が勝つと言えば勝てる気がするから不思議だ、私は心が軽くなった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

せんせいとおばさん

悠生ゆう
恋愛
創作百合 樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。 ※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

春に狂(くる)う

転生新語
恋愛
 先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。  小説家になろう、カクヨムに投稿しています。  小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/  カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

さくらと遥香

youmery
恋愛
国民的な人気を誇る女性アイドルグループの4期生として活動する、さくらと遥香(=かっきー)。 さくら視点で描かれる、かっきーとの百合恋愛ストーリーです。 ◆あらすじ さくらと遥香は、同じアイドルグループで活動する同期の2人。 さくらは"さくちゃん"、 遥香は名字にちなんで"かっきー"の愛称でメンバーやファンから愛されている。 同期の中で、加入当時から選抜メンバーに選ばれ続けているのはさくらと遥香だけ。 ときに"4期生のダブルエース"とも呼ばれる2人は、お互いに支え合いながら数々の試練を乗り越えてきた。 同期、仲間、戦友、コンビ。 2人の関係を表すにはどんな言葉がふさわしいか。それは2人にしか分からない。 そんな2人の関係に大きな変化が訪れたのは2022年2月、46時間の生配信番組の最中。 イラストを描くのが得意な遥香は、生配信中にメンバー全員の似顔絵を描き上げる企画に挑戦していた。 配信スタジオの一角を使って、休む間も惜しんで似顔絵を描き続ける遥香。 さくらは、眠そうな顔で頑張る遥香の姿を心配そうに見つめていた。 2日目の配信が終わった夜、さくらが遥香の様子を見に行くと誰もいないスタジオで2人きりに。 遥香の力になりたいさくらは、 「私に出来ることがあればなんでも言ってほしい」 と申し出る。 そこで、遥香から目をつむるように言われて待っていると、さくらは唇に柔らかい感触を感じて… ◆章構成と主な展開 ・46時間TV編[完結] (初キス、告白、両想い) ・付き合い始めた2人編[完結] (交際スタート、グループ内での距離感の変化) ・かっきー1st写真集編[完結] (少し大人なキス、肌と肌の触れ合い) ・お泊まり温泉旅行編[完結] (お風呂、もう少し大人な関係へ) ・かっきー2回目のセンター編[完結] (かっきーの誕生日お祝い) ・飛鳥さん卒コン編[完結] (大好きな先輩に2人の関係を伝える) ・さくら1st写真集編[完結] (お風呂で♡♡) ・Wセンター編[完結] (支え合う2人) ※女の子同士のキスやハグといった百合要素があります。抵抗のない方だけお楽しみください。

処理中です...