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おまけ1(奈緒と真希の恋愛談義@高校一年生)
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まだ五月だというのに、すでに暑い。夏用じゃない制服は生地が厚く、熱がこもりやすい。今すぐ脱ぎ捨ててしまいたい。
高校入学から約一ヶ月、真希とは別のクラスになってしまい、中学からの知り合いはだれもいなかったが、新しい環境でもそれなりにやれている。
「真希のクラスはどんな感じ?」
「まあまあかな」
真希がカップのアイスを頬張り、涼しそうにしている。
放課後の帰り道に真希とたまたま一緒になった。暑くてたまらないのと、真希の普段の様子が気になり、学校近くのコンビニでアイスを食べようと誘った。真希は快諾し、コンビニの外のベンチで並んで座ってアイスを食べている。
「まあまあなんだ」
「うん、まあまあ。……いや微妙かも」
今座っているベンチはひさしで陰になっていて直射日光を遮ってくれている。冷たいものと相まって少しは涼しくなった気がする。
「何か問題あるの?」
「問題というか、うーん……」
どうも真希は言いづらそうにしている。真希が微妙、と言う理由は何となく分かる。真希の生活にバレーがないことだろう。私は同好会に入ったが、真希は入っていない。
「それにしてもこうして話すの久しぶりな気がするね」
私は話題を変えることにした。ここ一ヶ月まともに顔を合わせることもなかった気がする。クラスが違うだけで接点がこれほどないとは思わなかった。
「そうだね。いつも一緒だったからなんか変な感じがする」
「王木さーん!」
突如真希を呼ぶ大声が聞こえた。見ると今いるコンビのベンチと一本通りを挟んだ向こう側で女子生徒が大きく手を振っている。ここからだと顔がいまいち識別できないが、真希のクラスメイトだろうか。
真希が小さく手を振り返すと、女子生徒は嬉しそうに飛び跳ね
「また明日!」
と言って走り去っていってしまった。
「クラスメイト?」
「まあ、そうだね」
真希が困ったような表情を浮かべている。居合わせたらまずかっただろうか。
「実はさ」
真希がカップに残った小さなアイスの固まりを口に入れ、カップは空になった。
「私結構人気あるんだよね」
突然の自慢に私は「え」とか「うん」しか言えなくなってしまった。人気? まあ結構なことで。
「人気って言っても、女子からなんだけどね」
「なんでまた」
「なんか、私がカッコいい、らしい。ファンクラブまであるよ」
真希は腑に落ちない様子だが、確かにそれなら納得の理由だ。一七〇を越える長身に、キリッとした表情。バレーだけじゃなくスポーツ全般できるし、筋肉の付き方も綺麗だ。幼馴染の私ですらカッコいいと思うのだから、真希と初対面の人ならなおさらそう思うのだろう。
「一人になるよりはよくない?」
「そうだけどさ、もう少し普通に接してほしいよ、普通に」
もしここが女子校だったら、真希は王子様的な位置づけにされてしまうのだろうか。何となくそんな気がする。女子校に通ったことがないから分からないが。
「奈緒と同じクラスだったらなあ」
私だってそう思うが、真希の人気に巻き込まれるのは目に見えている。それは勘弁願いたい。ただ、私の知らないところで真希がちやほやされてるのは、それはそれで納得いかない。
私は残ったアイスを一気に食べ、頭痛と戦う羽目になった。
まだ六月だというのに暑い。五月に比べ湿度も高くなり不快感が増している。衣替えで夏用の制服になったが涼しくなるわけではない。梅雨入りして雨の日が多くなったが、今日は朝から晴れていて、久しぶりに気持ちが明るくなる。暑いが。
「相変わらず真希は人気なの」
「うん」
一ヶ月前と同じように真希と学校近くのコンビニでアイスを買い、ベンチに座り食べている。私は棒アイス、真希はカップアイスだ。
一緒にアイスを食べた日から約一ヶ月、ほとんど顔を合わせることがなく、今日久しぶりに会えた。
「入学当初から比べれば、少しは落ち着いたけどね……」
真希が「あ」と小さく呟き、コンビニ前の通りに向かって小さく手を振った。真希の視線を追うと、通りを挟んで一人の女子生徒がいた。
その女子生徒も小さく手を振り返したかと思うと、俯きさっさと行ってしまった。
「今の、先月もここで見かけたよね」
「うん」
「随分様子が違ったね」
先月は向こうがこっちに気がついて手を振っていたし、何より楽しそうだった。
「ちょっと、あってね」
「けんかでもしたの?」
「いや……告白された」
「は……」
驚き、口が半開きになっているのが自分でも分かる。喋ろうとして口からシャーベット状のアイスがぽろっとこぼれ落ちたが、真希がアイスのカップでそれを素早く受け止めた。
「もーらい」
真希が努めて明るく言い、カップで受け止めた私のアイスを食べた。
「告白、されたの?」
「そう、付き合ってくださいって」
真希が人気だとは先月聞いたが、偶像崇拝に近いと思っていた。恋愛感情を本当に抱いている人も中にはいるわけか……。
「断ったけどね」
さっきの態度を見ていればそれは分かっていたが、真希から直接聞けてなぜかほっとした自分がいる。
「真希は彼氏とか、まあ彼女でも、欲しいと思ったことはないの」
私の記憶にある限り、真希と恋の話をするのはこれが初めてではないだろうか。中学の頃はバレーばかりで恋とは縁がなかった……はず。
「いままで考えたことなかったなあ。今も興味はないかな」
真希が一番欲しているものはよく分かっている。それの前ではどんなものも霞んでしまうのだろう。男子であろうと女子であろうと、告白されても真希の心は動かない。
「そういう奈緒は、どうなの」
「私?」
真希の切り返しに戸惑ってしまう。恋愛経験なんてない。クラスのだれそれがカッコいいとか、そういう話は聞くがいまいちピンとこない。
仮にだれかに告白されたとしよう。たぶん嬉しい。でもそれだけだ。真希より魅力的かとか、真希といるより楽しいかとか、隣にいる幼馴染となにかと比べてしまう気がする。すべてにおいて真希を上回る人が現れたら、と考えてそこでやめた。そんな人がいるとは思えない。
「私、真希のせいで一生一人かも」
「え、なんで私……」
今度は真希がアイスをカップごと落とした。私に比べて大惨事だ。
高校入学から約一ヶ月、真希とは別のクラスになってしまい、中学からの知り合いはだれもいなかったが、新しい環境でもそれなりにやれている。
「真希のクラスはどんな感じ?」
「まあまあかな」
真希がカップのアイスを頬張り、涼しそうにしている。
放課後の帰り道に真希とたまたま一緒になった。暑くてたまらないのと、真希の普段の様子が気になり、学校近くのコンビニでアイスを食べようと誘った。真希は快諾し、コンビニの外のベンチで並んで座ってアイスを食べている。
「まあまあなんだ」
「うん、まあまあ。……いや微妙かも」
今座っているベンチはひさしで陰になっていて直射日光を遮ってくれている。冷たいものと相まって少しは涼しくなった気がする。
「何か問題あるの?」
「問題というか、うーん……」
どうも真希は言いづらそうにしている。真希が微妙、と言う理由は何となく分かる。真希の生活にバレーがないことだろう。私は同好会に入ったが、真希は入っていない。
「それにしてもこうして話すの久しぶりな気がするね」
私は話題を変えることにした。ここ一ヶ月まともに顔を合わせることもなかった気がする。クラスが違うだけで接点がこれほどないとは思わなかった。
「そうだね。いつも一緒だったからなんか変な感じがする」
「王木さーん!」
突如真希を呼ぶ大声が聞こえた。見ると今いるコンビのベンチと一本通りを挟んだ向こう側で女子生徒が大きく手を振っている。ここからだと顔がいまいち識別できないが、真希のクラスメイトだろうか。
真希が小さく手を振り返すと、女子生徒は嬉しそうに飛び跳ね
「また明日!」
と言って走り去っていってしまった。
「クラスメイト?」
「まあ、そうだね」
真希が困ったような表情を浮かべている。居合わせたらまずかっただろうか。
「実はさ」
真希がカップに残った小さなアイスの固まりを口に入れ、カップは空になった。
「私結構人気あるんだよね」
突然の自慢に私は「え」とか「うん」しか言えなくなってしまった。人気? まあ結構なことで。
「人気って言っても、女子からなんだけどね」
「なんでまた」
「なんか、私がカッコいい、らしい。ファンクラブまであるよ」
真希は腑に落ちない様子だが、確かにそれなら納得の理由だ。一七〇を越える長身に、キリッとした表情。バレーだけじゃなくスポーツ全般できるし、筋肉の付き方も綺麗だ。幼馴染の私ですらカッコいいと思うのだから、真希と初対面の人ならなおさらそう思うのだろう。
「一人になるよりはよくない?」
「そうだけどさ、もう少し普通に接してほしいよ、普通に」
もしここが女子校だったら、真希は王子様的な位置づけにされてしまうのだろうか。何となくそんな気がする。女子校に通ったことがないから分からないが。
「奈緒と同じクラスだったらなあ」
私だってそう思うが、真希の人気に巻き込まれるのは目に見えている。それは勘弁願いたい。ただ、私の知らないところで真希がちやほやされてるのは、それはそれで納得いかない。
私は残ったアイスを一気に食べ、頭痛と戦う羽目になった。
まだ六月だというのに暑い。五月に比べ湿度も高くなり不快感が増している。衣替えで夏用の制服になったが涼しくなるわけではない。梅雨入りして雨の日が多くなったが、今日は朝から晴れていて、久しぶりに気持ちが明るくなる。暑いが。
「相変わらず真希は人気なの」
「うん」
一ヶ月前と同じように真希と学校近くのコンビニでアイスを買い、ベンチに座り食べている。私は棒アイス、真希はカップアイスだ。
一緒にアイスを食べた日から約一ヶ月、ほとんど顔を合わせることがなく、今日久しぶりに会えた。
「入学当初から比べれば、少しは落ち着いたけどね……」
真希が「あ」と小さく呟き、コンビニ前の通りに向かって小さく手を振った。真希の視線を追うと、通りを挟んで一人の女子生徒がいた。
その女子生徒も小さく手を振り返したかと思うと、俯きさっさと行ってしまった。
「今の、先月もここで見かけたよね」
「うん」
「随分様子が違ったね」
先月は向こうがこっちに気がついて手を振っていたし、何より楽しそうだった。
「ちょっと、あってね」
「けんかでもしたの?」
「いや……告白された」
「は……」
驚き、口が半開きになっているのが自分でも分かる。喋ろうとして口からシャーベット状のアイスがぽろっとこぼれ落ちたが、真希がアイスのカップでそれを素早く受け止めた。
「もーらい」
真希が努めて明るく言い、カップで受け止めた私のアイスを食べた。
「告白、されたの?」
「そう、付き合ってくださいって」
真希が人気だとは先月聞いたが、偶像崇拝に近いと思っていた。恋愛感情を本当に抱いている人も中にはいるわけか……。
「断ったけどね」
さっきの態度を見ていればそれは分かっていたが、真希から直接聞けてなぜかほっとした自分がいる。
「真希は彼氏とか、まあ彼女でも、欲しいと思ったことはないの」
私の記憶にある限り、真希と恋の話をするのはこれが初めてではないだろうか。中学の頃はバレーばかりで恋とは縁がなかった……はず。
「いままで考えたことなかったなあ。今も興味はないかな」
真希が一番欲しているものはよく分かっている。それの前ではどんなものも霞んでしまうのだろう。男子であろうと女子であろうと、告白されても真希の心は動かない。
「そういう奈緒は、どうなの」
「私?」
真希の切り返しに戸惑ってしまう。恋愛経験なんてない。クラスのだれそれがカッコいいとか、そういう話は聞くがいまいちピンとこない。
仮にだれかに告白されたとしよう。たぶん嬉しい。でもそれだけだ。真希より魅力的かとか、真希といるより楽しいかとか、隣にいる幼馴染となにかと比べてしまう気がする。すべてにおいて真希を上回る人が現れたら、と考えてそこでやめた。そんな人がいるとは思えない。
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