異世界帰りの魔王経験者、殺人事件を強引に解決する

遊野 優矢

文字の大きさ
3 / 22
FILE 0

FILE 0-3

しおりを挟む
 学校の屋上で、化け物と呼んで差し支えない姿に変貌したクラスメイトに、頭を握りつぶされそうになっている。
 魔王になる前だったら、比喩抜きでちびってるところだ。

「やめなさい! 今なら助かる方法もあるかもしれないわ!」

 恵流川は目の高さに拳を構え、じりじりと間合いを詰めている。

「嘘をつくな!」

「――っ」

 山田の一括で、恵流川は口ごもる。

「ここで説得材料がなくなるなら、最初から下手な嘘なんてつかない方がいいと思うよ」

「う、うるさいわね!
 あなたなんでそんなに冷静なのよ!」

 俺の意見に耳を貸す気はないらしい。
 まあ、今更なアドバイスだが。

「せっかく忠告してあげたのに、そんなに怒らなくていいんじゃないかな」

「てめえ、なめてんのか」

 山田は俺の頭をにぎる手に力を込めた。

「ん……む? ぐぐぐぐ……」

 俺が痛がると思ったのだろう。
 全くの手応えのなさに、さらに力を込めているようだ。

 なるほど。
 寝ているときも常時発動させていたパッシブ系のスキルは、こちらの世界でも有効らしい。

「なあ恵流川さん、この状況をどうにかする手段って持ってるか?」

 手柄を奪ってしまうのも申し訳ないので、一応聞いておこう。

「今考えてる! だからそいつを刺激しないで!」

「いやあ、それなら自分の身くらい自分で護ろうかなと思うよ」

 俺は自分の頭を掴んでいる山田の手首を軽く握った。

 ――ぼぎぃっ。

「ぐぎゃぁ!!」

 鈍い音を立てて山田の手首が粉砕した。
 体をひねりながら着地した俺は、山田と向かい合い、見上げる形になる。

「な、なんだ……何をした貴様!」

 涙目になる山田くんである。

「ちょっと手首を握っただけだ」

 どうせならかわいい女の子の手がよかったが。

「ふざけるな! 何も装備していないただの人間に、そんなマネができるか!」

 現実を認めないとは愚かなやつだ。
 とりあえず、物理攻撃力の上昇は、この程度なら使えるようだな。
 次は魔術を試してみるか。

「くそがぁっ!」

 山田はオリジナリティのかけらもない雄叫びとともに、無事な方の拳を繰り出してきた。
 物理防御力のチェックもしたいところだが、この程度の打撃では、テストにもならなさそうだ。
 俺は山田の拳を避けつつ、その腹部に二本の指で軽く触れた。

 ――『塵(ダスト)』

 魔術を発動した瞬間、山田の体は微細な塵となり、風に溶けていった。
 中級魔術も、問題なく発動するようだ。
 それにしても、追い風でよかった。
 塵をかぶっちまうと汚いからな。

「な、な、な……」

 恵流川は、口をぱくぱくさせながらこちらを指さしている。
 ヴァルキリースーツで強調された大きな胸がぷるぷる揺れている。
 あれを開発した人間は、よくわかっている。
 特に、下半身のデザインを黒タイツにしたのが素晴らしいね。
 うむ、現代最高!

「そんなに驚かなくても、証拠は残してないよ。
 痕跡を残すと色々面倒だろ?
 殺していいものかは迷ったが、どうせ人間には戻れないようだったし、恵流川さんも殺す気みたいだった。
 そもそも、元の山田君とは、中身は別人のようだったしね。
 違うかい?
 そうそう、恵流川さんが残した銃痕はそちらで処理してくれよ」

 何かの組織に属しているようだから、そういった部門もあるだろう。

「そういうことじゃないわよ!
 なんなの、その力!?」

 うん、まあ知ってておちょくった。

「病弱な深窓の令嬢が、リアクション系面白美少女になってるなあ。
 俺はこっちの方がスキだけど」

「そんなことどうでもいいのよ!
 なぜそんな力を持ったヤツが……。
 はっ! 言わなくていいわ。わかっちゃったから」

 まじで? わかっちゃったの?
 俺が思うに、キミのその洞察はたぶん間違ってるよ?

「『奪う者(プランダラー)』を見ても驚かないこと、そしてその強さ。
 あなたも、組織の人間だったのね!
 さっきのは組織の新兵器!
 そうでしょ?
 武器の発動すら死角で隠したのはすごいけど、私の目はごまかせないわよ!
 さしずめ、私が失敗したときのバックアップということね。
 事件から今日が期日の三日目。
 やっと追い詰めたヤツを逃がすわけには行かないものね。
 しかし、なめられたもんだわ。
 主任に文句言ってやらなくちゃ。
 私の推理、当たってるでしょ?」

 ドヤ顔に胸を反らせる恵流川だ。
 眼福だからもっとやってくれ。
 セリフの中身は大外れだけどな。

 さて……こちらに戻って来て早々、ろくでもない事態に巻き込まれたもんだ。
 本来なら放っておいて、平和な生活に戻りたいところだったのだが……。
 もし、今までの俺が気づいていなかっただけで、日常的にあんな化物が世の中に多数いるのだとしたら、大いに問題だ。
 俺が楽しみにしている、マンガやゲーム、アニメのクリエイターや声優さん達が被害にあったらどうする!
 手を出すべきかはまだわからないが、情報だけでも得ておきたい。
 ネットで調べて出てくるような内容じゃなさそうだしどうするか……。

 恵流川のセリフに出た『三日目』というキーワードが気になるが、ここで質問をするよりも、良い方法がありそうだ。

「さすが恵流川さんだ。
 一発で見抜かれるとはね」

「ふふーん、やっぱりね。
 私の洞察力にかかればこんなものよ」

 あー、これ、本気でそう思ってるやつだ。
 彼女、実はちょっと脳筋だったのかな。
 いや、頭が悪いわけじゃないな。
 ただちょっと思い込みが強いのか。

「これから報告に行くだろ?
 せっかくの戦果だ」

「あなたの、でしょ?」

「いや、俺はいいよ。
 俺が攻撃した時には、実はかなりダメージが蓄積しててね。
 じゃないと、あの新兵器は効果ないはずなんだ」

「ふーん。
 私に貸しを作ろうっていうの?」

「そんなつもりはなかったけど、もしそう感じてくれるなら嬉しいね。
 あの恵流川さんに、小さいとはいえ貸しを作れたんだ。
 俺が困った時に助けてくれると、とても嬉しい」

「ふ、ふんっ。あなた、なかなかわかってるじゃない。
 うちの学校では目立たないぼんくらだと思ってノーマークだったけど、ブラフだったってわけね。
 やるもんだわ」

 ぼんくらとか!
 魔王になる前の評価としては正解だわー……。

「まあね」

 と、答えておこう。

「わかったわ。
 報告は通信ですませようと思ったけど、日本支部に顔を出しましょう」

「主任に文句も言いたいしね。
 だろ?」

「ふふっ。あなた、気に入ったわ」

 恵流川はちょっといたずらっぽい笑みを浮かべつつ、サムズアップ。
 いつもの上品な笑顔より、断然こっちのほうがかわいいな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

{完結保証}規格外の最強皇子、自由に生きて無双する〜どこへ行っても、後世まで語られる偉業を残していく、常識外れの皇子〜

Saioonji
ファンタジー
母に殴られ、命を奪われた――そのはずだった。 だが目を覚ました先は、白く豪奢な王城の一室。 赤子の身体、仕えるメイド、そして“皇子”という立場。 前世では愛されず、名前すら価値を持たなかった少年が、 今度は世界の中心に生まれ落ちてしまった。 記憶を失ったふりをしながら、 静かに、冷静に、この世界を観察する皇子。 しかし彼の中には、すでに常識外れの思考と力が芽生えていた。 ――これは復讐でも、救済でもない。 自由を求めただけの少年が、 やがて国を、歴史を、価値観そのものを揺るがしていく物語。 最強であることすら、彼にとってはただの前提条件だった。 重複投稿作品です 小説家になろうとカクヨムにも投稿しています。

処理中です...