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FILE 01 女学園バラバラ死体事件

FILE01 女学園バラバラ死体事件-8

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「これで、今までわからなかった動機が見えてきたな」

「どういうこと?」

 俺のセリフに、疑問の声を上げたのはミカだ。

「まず前提として、彼は被害者にツールの機関部分の開発を依頼していた」

「さあね」

 肩をすくめる天ヶ崎だが、目を見ればわかる。
 YESだ。

「とぼけるのは自由だが、肯定として進めるぞ。
 被害者が殺される直前、データのやりとりが止まってたろ?
 彼女がデータ――この場合は、ソースコードだね。
 その受け渡しをしぶったか、報酬のつり上げを依頼してきたか……とにかくなにかトラブルがあったんだろう」

「それで、データを受け取るために殺した?
 もし彼が『奴ら』だとしたら、それくらいの動機があればやるわね」

 そういうことだ。
 ただ、彼は動画配信で十分儲けているため、今更金のために危ない橋を渡るかという疑問は残るのだが……。

「おいおい、待ってくれよ。
 たしかに結構な金になるのは認めるけどさ。
 それで殺人なんて割に合わないよ」

「あなたが普通の人間ならそう考えるでしょうね」

「人を異常者みたいに言わないでくれよ」

 殺人の犯人じゃなかったとしても、そんなツールを作らせてる時点で、正常ではないと思うが。

 こいつが人間なら犯人じゃない。
 ウソはついていない。
 だが、プランダラーは「お前が犯人か」という質問には、ウソが上手いという。
 もしかすると、罪悪感がゼロだからかもしれない。
 普通なら、ウソをつく罪悪感や焦りと、人を殺したというプレッシャーで独特の反応がでるものだ。
 殺人犯かと問われると誰でも緊張する。
 彼らはウソをついているという反応を、その緊張による反応に紛れるくらい小さくできるのだろう。

 それに、主任や学校で倒した山田の話から察するに、プランダラー同士が裏で繋がっているようだ。
 どの程度の絆があるのかはわからないが、相互扶助を目的とした集まりなのか、誰かサポートする有能なやつがいるのか……とにかく、何かしらの繋がりを持って訓練を行っているのだろう。
 参加率は個人によりそうだが。

「自分でプログラムを組もうとは思わなかったの?
 そうすれば、こんなややこしいことにはならなかったでしょう?」

 ミカの疑問も最もだが、答えはわかってる。

「僕は他にもプロジェクトを複数抱えていてね。
 さすがに自分で全てやっていては、手が足りないのさ」

 そういうことだ。
 どんなに優秀な人間でも、一人でやれる物量には限界がある。
 ならば、他人に任せられる部分は、任せてしまうしかない。

 これ以上、犯人かどうかを問い詰めても無駄だな。

「じゃあ質問を変えよう。『チップ』と聞いて、何かピンとくるか?
 ……ふむ、あるんだな」

「やれやれ、君に隠し事はできないな……。
 おそらく、『プログラム銀行』のチップだ」

 なんだそりゃ?

「噂は聞いたことあったけど、実在したのね」

 ミカが驚きの声を上げた。

「へえ……噂を聞いたことがあるだけでもたいしたもんだ。
 あそこは超一流のプログラマーしか、存在すら知らない」

「ミカはプログラマーなのか?」

「そうとは呼べないわね。ちょっとITに詳しいだけよ」

 彼女の言葉は自信でもあり、謙遜でもある。
 自分の力量を正確に測れているようだ。
 それだけの知識があるということか。

「で、その『プログラム銀行』ってのは?」

「プログラムソースのスイス銀行のようなものだ。
 ちょっとした関連画像や資料くらいなら一緒に保存できる。
 どこからもハッキングされない。
 それでいて必ず秘密は守られる。
 かつ、ネットワークにも接続できる。
 世界最高のセキュリティを持った、データ保存機関さ。
 アクセスに専用のチップとリーダーが必要なんだ」

 俺の質問に答えたのは天ヶ崎だ。

「リーダーはどれだ?」

「これだね」

 天ヶ崎が取り出したのは、500円玉のようなコインだった。
 よく見ると、ケーブルの接続口があるが、市販の規格ではないものだ。
 一見してカードリーダーとはわからない。

「たしか、被害者の部屋に残されてたな」

 俺は記憶の中にある被害者の部屋を思い出す。
 机の引き出しに入っていた。

「犯人は見つけられなかった……いや……」

「そもそも、リーダーの存在を知らなかったということ?」

「そういうことだ。
 チップの存在は知っていても、リーダーの存在は知らない。
 つまり、『プログラム銀行』と契約はできない程度だが、IT業界に詳しい……。
 ある程度の腕はあるが、そこまでではないプログラマーということか。
 ミカ、学内でプログラムに詳しい者をリストアップしてくれ」

「わかったわ」

「注意してほしいのは、成績上位者だけをピックアップするわけじゃないということだ。
 犯人はわざと実力を隠している可能性がある。
 テストの点数は低くても、実技でわざとバグをだしたりしつつも、ソースコードの書き方が独特かつきれいなヤツも探してほしい」

「今から? タイムリミットに間に合わないわよ」

 タイムリミットという単語に天ヶ崎は首を傾げた。
 これが全て演技だというならたいしたものだ。
 逆にここに来てから、後半の会話にウソがなさ過ぎる。
 それが怪しくもあるか……。

「実技テストのソースコードを全部入手してくれ。
 これから学園に移動する間に、俺がチェックする」

「あなた、ソースコードを読めるの?」

「いや、さっぱりだ。
 だからレクチャーしてくれ」

「はあ? それこそ今から覚えたって間に合わないわよ」

「要点だけ教えてくれればいい。
 問題はソースコードの違和感に気づけるかどうかなんだ」

「あなたの能力ならって思っちゃう……。
 わかった。やってみましょう」

「相棒に恵まれててうれしいね」

「急に褒めても何もでないわよ」

「本心だよ」

 魔王時代に一時、右腕として信頼していた参謀を失ったことがある。
 あの時が、魔王軍一番のピンチだった。
 チームや組織にとって、ナンバー2の実力は、本当に大切だ。

「そういえば、被害者がプログラマーだなんていつ気付いたの?
 データのやりとりをしてるからって、プログラマーだとは限らないでしょう?」

「PCのフォルダーの整理方法がプログラマーっぽいってのもあったが、何よりデータの削除方法が的確だった。
 スマホもな。
 あそこまで痕跡を消すことができるのは、相当腕のいいプログラマーだけだ。
 あとは予測からくるかまかけだったんだけど、天ヶ崎の反応で確信できたよ」

「こいつはまいったね。
 だが、二度とこんな失態はおかさないよ」

 天ヶ崎はどこか嬉しそうだ。

「そもそも、そんな機会が来ないことを願うさ。
 じゃあ行こうか」

 犯人である確率が限りなくゼロになったとはいえ、天ヶ崎に妙な動きをされても困る。
 俺がここを離れてから組織の人間が来るまでの間は、眠っていてもらおう。
 俺は天ヶ崎に睡眠の魔術をかけて眠らせると、学園へと向かった。
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