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2章:触手と姫騎士

2章:触手と姫騎士(9)

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『やめろって……言ってんでしょお!』

 赤石の気合とともに、触手は内側から弾けるが、彼女の鎧や盾はほとんどが溶けてしまっていた。

「ジュン君! まだ撃てそうにない!?」
「まだです!」

 ダムレイの時に感じたような、胸が熱くなる感じはない。

「マズイわ。赤石さんのエネルギーは防御にかなり費やされてる。彼女を呼び戻して! 補給を!」

 補給って、そういうことだよなあ。

「戻れ! 赤石!」
『でもまだ……』
「いいから!」
『くっ……!』

 イソギンチャクの触手を蹴った赤石が、轟音とともに僕達の近くに着地した。
 着地というより、ほとんど着弾に近いな。

 盾はおろか、剣も半ばまで溶けている。
 鎧にいたっては殆ど残っておらず、ほぼ全裸だ。

 その姿を見て、思わず興奮してしまう。
 どうしたんだよ僕の性欲!
 人並みの性欲は持ち合わせているつもりだったけど、この非常時にそんなことを考えられるほどではなかったはず。
 身体強化といい、大丈夫かな僕の体……。

「ジュン……様……はぁはぁ……」

 体を起こした赤石が、僕の脚にすがりついてくる。
 よくみると、背中に火傷のような跡もできていた。

 紅く染まった赤石の顔が、股間へと近づく。

「これはキスだけじゃだめね。そこのテントで注入してきて」

 真白さんが、近くの軍用テントを指差した。

「そんな給油みたいに……」
「早く!」

 生存本能が刺激されると、本能が子孫を残そうと性欲が増すらしい。
 それがどの程度本当かは知らないが、確かに僕の性欲は爆発寸前だった。

 貪るように僕の唇に吸い付いてくる赤石を、仮眠用のベッドに押し倒した。

……。
…………。
………………。

 エネルギー全快になった赤石がテントを突き破り、空へと飛び出して行った。

 前に構えた盾で、襲いくる触手を蒸発させながら、全身を赤熱させた赤石が害異に剣を突き立てた。

 ――ギオオオオッ!

 不快な声(?)を撒き散らしながら、害異は大きくのけぞった。
 自身のかかるのも構わず、触手の先から溶解液を赤石に浴びせる。
 全身に纏う赤いオーラで溶解液を弾きつつ、白い肉壁に剣を潜り込ませていく。

 ――ギオオオオッ!

 たまらず、害異は赤石を触手で飲み込んだ。

「赤石さん!」

 真白さんが叫ぶが、大丈夫だ。
 赤石はまだ生きている。
 それどころか――

 赤石の剣から伸びた赤いラインが、大きく弧を描いた。
 触手の中から現れた赤石が、大きく飛びのく。

 白い壁がばっくり裂け、朱と蒼に明滅しながらランダムに回転する立方体が浮いていた。
 見えた! 心臓部!

 胸が熱くなるのと同時に、『砲』の文字が浮かび上がる。

 いける!

 手のひらからエネルギーが放出されるのをイメージをすると、両手の前にバスケットボールほどの、赤く輝く球体が出現した。

 山頂から遠くの害異を見下ろし、狙いをつける。
 いくら対象が大きくても、この距離なら1度ずれただけでもハズれるだろう。
 だけどなぜか、絶対に当たるという確信があった。

「貫け!」

 僕の声に呼応し、真っ赤な光がダムレイの心臓へと伸びた。
 心臓の表面で一瞬止まった光は、そのままあっさりと貫通し、地面をえぐる。
 光の触れた地面は溶岩のように真っ赤になり、近くにあった木々が熱にやられて発火する。

 同時に、害異の心臓は色を失い、黒い塵となって消えた。

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