【本編完結】明日はあなたに訪れる

ぶんゆ

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デジタル時計の表示がカチッと0:00になった瞬間に西暦、日付が一気に変わる。
本日1月1日。謹賀新年!

「明けましておめでとうございます」

「あけましておめでとうございます」

ふたりして下げていた頭をそろっとあげて、にひっと笑いあう。
外はまだまだ暗いけど、すこし出歩けば賑やかな人々の声が聴けるだろう。

ふと新しい年をこうやって理央と迎えられたという幸せに浸る。
それは左手で光るアクアマリンのせいかもしれないし、目の前で目を細めて左手を撫でる奴の存在のせいかもしれない。

「今日晴れそうだね」

「そうだね。初日の出見れるかな」

「どうかな。ゆっくり寝ててもいいんじゃない?せっかく二人ともオフだし」

「オフだけど元旦じゃん」

「二人そろってゆっくり寝れることなんて、そうそうないんだからさ~」

「ひとりで初日の出見てやる!」

「腕から抜け出そうとした瞬間に抱きしめて逃げれなくする」

「じゃあ一緒に寝ない!」

「そんな選択肢はない!」

新年の訪れをにぎやかに祝っているテレビを消して、きゃっきゃと戯れる。

「そういえば新年の挨拶、いつ行く?」

「親に?」

「そう。おれ今年は三が日、まるまる空いてる」

「俺も空いてる。じゃあ三が日の予定父さんに聞いとくよ」

「ん。おれも洋子さんに聞くわ」

「うん。とりあえず今日はゆっくりしよ?いろんなとこへのとりあえずの挨拶はスマホで済ませてさ」

「そだな~賛成」

話がひと段落すると立ち上がった理央に手を差し出される。

「お手をどうぞ、お姫様。なんてね」

「りおの顔面で言ったらマジっぽ~い」


外は寒いだろうね、酔いはさめたのか、なんて話をしながら手を握り合って寝室に向かった。


***

(これはおれで…あ、これはりおのか)

すっかり日ものぼった、どころか時計の針は昼を示す。
結局初日の出なんか見れず、自堕落な時間に目覚めたおれは、ポストに入っていた年賀状の束を仕分けていた。
ふたり合わせてそこそこの量があるんだけど、知り合いの近況報告や家族写真を見ているといちいち手が止まってしまう。

ちなみに理央は朝昼兼用ご飯のためにキッチンで腕をふるっている。


「あ…」

「ん?どうした?」

思わず漏らした声にタイミングよくお皿を運んできた理央が反応する。

「誰からの年賀状?」

「えと…前言ったじゃん?おれに実の兄がいるって。そのひと」

「えっ!?」

ほら、と手に持った一枚の年賀状を差し出す。
そこには壮年の男性とその妻、息子と思しき三人の写真に新年の挨拶が添えてあった。
それを受け取った理央は首を傾げながらもまじまじとそれを見る。

「これがゆきのお兄さん……でもお兄さんのことっていうか実家のことは知らないみたいなこと言ってなかった?」

「うん、知らない。だからおれはそこに書いてある名前と住所しか分かんないんだよね。なんでか分かんないけどあっちには前の家の住所知られててさ」

「住所…ああ、訂正されてる」

くるりと表の住所を見た理央がつぶやく。確かに手書きの住所の上には郵便局が正しい住所を印刷したシールが貼り付けてある。

「歳が離れてるからおれが産まれたときも大分おっきくて、おれっていう弟が存在したってことを覚えてるんじゃないかって洋子さんが。
でも返信はするなっていうからさ。数年前から一方的に送られてくるだけ。だから引っ越したことも知らないんだよ」

「へえ…」

「いまいち納得してなさそうだな?」

「まあね…洋子さんと同じくらいゆきの元実家の人たちには怒り持ってるから」

「おれはあんま気にしてないんだけど…。でもさ、この子可愛いだろ?おれ達の『甥っ子』だよ」

兄と思われる男性の左横に立つ少年を指さす。
母親の面影が強いような可愛らしい子だ。

「名前、なんて読むの?」

「あおい、だよ」

漢字で書くと『亜緒生』。もの凄く当て字な感じが強いが、同じ名前は滅多にいないであろうし綺麗な名前だとも思う。

「は~。珍しいけどその分、その子しか居ない、って感じでいいね」

「だよね。…もう12歳になったのか~早いなあ」

毎年その子の名前の下には小さく歳が書いてあって、その数字が増えるごとに成長していく甥っ子の姿は確かな楽しみになっていた。

「お兄さんの歳は…分かんないのか」

「そうそう。毎年亜緒生君の歳しか書いてないの」

「まあ珍しい事ではないんだろうけど。でもやっぱかなり離れてそうだよね。12歳の子供がいるくらいだし」

「んね。…これやっぱ今の住所教えられないからいつか届かなくなっちゃうよね」

「う~ん、たぶんね。でもしょうがないよ。…はい」

「ありがと。こっち、りお宛の分」

返された一枚の年賀状の代わりに仕分けした束を渡す。

「ありがと。さ、ご飯食べるよ~」

「は~い。いいにお~い」


自分宛ての束の一番上に手の中の年賀状を重ね、机の端に寄せた。







もこもことしたガウンに体を包み、白のマフラーで首から口までもしっかり覆う。

「寒くない?」

「寒いは寒いけど、大丈夫」

”雪”なんて名前についててもおれは寒さにめちゃくちゃ弱い。
真冬は静かだし空気が澄んでて好きだけど、この寒さだけはいただけない。

今日は事務所の仕事始め。
向かう場所は一緒だが俺の方が少し先に家を出る。
トントン、と床をつま先で叩いてからくるりと振り向く

「これ被れば?」

そう言った理央にニット帽を被せられる。ちょっと出た前髪をちょいちょい、と人差し指で整えられて「これでよし」と頭を軽くたたかれる。
既に靴を履いているおれが一段下がった玄関に立っていることでただでさえある身長差がさらに広がってるのもあって、子供にでもなった気分だ。

「じゃあ、また事務所でね」

「ん。りおも防寒して出ないとやられるよ、寒さに」

「んふ、俺はゆきほど寒がりじゃないけどね。じゃ、気を付けて」

「うん。いってきます」


ガチャン、と閉まったドアを背に冷え込んだ世界に踏み出していった。





早々に自分のデスクにたどり着いたおれが愛用のひざ掛けと共にパソコンに向かっていると、トントンと肩を叩かれた。


「雪くん」

おれの両肩に手を置いてニコニコと頭上からのぞき込んでいるイケメン。

「はやと!おはよ」

「おっはよう!そして明けましておめでとう!」

「ふふ、あけましておめでとう。今年もよろしくね」

「こちらこそ。…んで、お年玉は?」

「ないに決まってるでしょ~」


キーボードをたたく手も止めて、隼人とのおしゃべりに興じていれば洋子さんの声が響く。

「はーい、朝礼はじめるよー」


その言葉に事務所にいた社員がぞろぞろと彼女の元へ集まっていく。
普段は事務所にいる社員だけが出席する朝礼も、新年一発目なのでタレント達まで総動員で随分とにぎやかだ。

微かに首をまわせば端の方にひとつとびぬけた理央の頭が見えて、無事出勤していることに安堵する。


「はい。じゃあ皆さん明けましておめでとうございます」

洋子さんの声にそれぞれが応える。

「今年も精いっぱい共に頑張り、いい会社・いいエンタメを創り上げていきましょう。ということで早速連絡事項、伝えるぞ」

「え~まず共通のものとして1月の20日から22日にかけて今年一回目の健康診断。それぞれにスケジュールは送っとくから把握しておくように。うちは二回目は10月ごろなんでまたその時は連絡します。
あと有給に関してだけど、消化しきれてなくて年末に声かけた人も結構いたから早いうちから気にかけといて。こっちも声かけていこうとは思うから遠慮せずどんどん使ってください。それと__」

その後も細々とした連絡を受けて、最後に社訓の唱和。
洋子さんの言葉を合図に、皆それぞれの仕事へと散っていった。


「さ、隼人!12時から早速仕事だぞ~」

「うん!任せといて!」
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