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「お次の方どうぞ~」
看護師さんの声に従って、薄いピンクのカーテンをめくる。
そこには椅子に座った医師と女性の看護師さんがひとり。
「え~塩沢さんでよろしいですか?」
「はい。よろしくお願いします」
「はい。じゃあまず簡単に診ていきますのでリラックスしていてくださいね」
今回の健康診断のお医者さんは優しそうだとこっそり安心する。
喉奥をみられて、聴診器をあてられて、といった一般的な検査がなされる。
「はい、オッケーです。ゆっくり次のところへ進んでくださいね」
「ありがとうございました」
まくり上げていたシャツの裾を直して、立ち上がって一礼する。
そしてまた看護師さんに案内されるがまま隣の部屋へと移っていく。
近年定期的な健康診断が義務化され、しかもより精密な検査を求められるようになったことで、病院側の体制も変わってきた。
一般の外来で受け付けていては限界を超えてしまうので、新たにそれ専用の施設やスペースを設置し担当の医師を配置するようになった所がほとんどだ。
この病院も例に漏れず専用の棟があり、順番に各部屋を回っていくことで検査をひとつずつ受けていく。
例えるなら、小学校とかの学校内健康診断といったところだろうか。より精密検査バージョンかな。
次におれが入ったところは血液採取。その次は脳検査……とまあ一日食いつぶしそうな勢いで検査は続いていくのだ。
さらに自宅で尿便検査の採取と提出もしなきゃならない。
手厚く安心は与えてくれるが、正直疲れてしまうというもの。お国もこれ以上人口が減らないために必死なんだろうけど。
「__他に気になることはありませんか?」
「ん~…あ、最近立ちくらみが激しいくらいです」
「立ちくらみ、ですか……」
「元々体質的なものだとは思うんですけど」
「分かりました。では、これで検査はすべて終了となります。結果は一か月後を目安に会社の方にお送りしますので」
「はい。ありがとうございました」
最後の問診も終え、診察室を出て長い廊下を進む。
(隼人ももう終わったかな……)
仕事を進めやすいように大抵タレントとマネージャーは同じタイミングで入れられているので隼人もそろそろ終わっている、はず。
(あ、いた)
どうやら先に終わっていたらしく、約束しておいた待合室の椅子に腰掛けている隼人を見つける。
近づいて肩を叩く。
「お、雪くんお疲れ~」
「うん。おまたせ」
隼人を促しさっさと駐車場に向かう。
マスクや眼鏡をしているとはいえ、一般人も集まるこの場所に長居するのは得策ではない。ということでおなじみの車に移動した。
「あ~相変わらず疲れるわー」
いつも元気な隼人も、元気だからこそ少々辟易しているようだ。
「ま~ね。今日はあと事務所に行くだけだしゆっくりしときな」
「ん~運転任せちゃってごめんねぇ~」
「いやいや、それがおれの仕事だから」
何年一緒にやってても、時折こうやって妙な遠慮をしてくる隼人に思わず笑いがこぼれる。
エンジンをかけ、地下駐車場をくるくると上がっていく。安全運転安全運転。
「そういやさ~雪くん前回再検査なったんでしょ?」
「ん~?ああ、そうなんだよね~」
「今回は大丈夫そ?」
「まだ分かんないけど、前回のは体質の問題だし今のところ元気だし大丈夫でしょ」
「え~もう。そんなこと言ったら今のご時世大抵の人が体質に問題あるに決まってんじゃん。その上で心配してんの!」
「はは、確かに。ごめんごめん、きっと大丈夫だから心配しないで」
「雪くんは身体強くないんだからさ……リオくんも心配してたでしょう?」
「再検査のときはめっちゃ心配かけちゃったね…」
前回の結果を告げた時の理央の様を思い浮かべながら答える。ゆっくり目が見開かれていっておれを慌てて抱きしめて、まさにパニックといった感じだった。涙目でおれの体中を確かめるようにくまなく触る様子には罪悪感が凄かった。
「今日も心配してたんじゃない?」
「今日っていうか昨日の夜から機嫌は悪かったな」
「なんで??」
「健康診断って『知らない野郎にゆきがこねくり回されるのが許せない』からだって」
「……え~…」
「あっはっは!ドン引きじゃんー!」
「いやだって……健康診断だよ??」
「んね~言わんとすることはよーく分かる」
「リオくんって僕の想像以上なのかもしれない……」
「そうかも」
何気ない会話が続く車内がとても幸せな午後だった。
看護師さんの声に従って、薄いピンクのカーテンをめくる。
そこには椅子に座った医師と女性の看護師さんがひとり。
「え~塩沢さんでよろしいですか?」
「はい。よろしくお願いします」
「はい。じゃあまず簡単に診ていきますのでリラックスしていてくださいね」
今回の健康診断のお医者さんは優しそうだとこっそり安心する。
喉奥をみられて、聴診器をあてられて、といった一般的な検査がなされる。
「はい、オッケーです。ゆっくり次のところへ進んでくださいね」
「ありがとうございました」
まくり上げていたシャツの裾を直して、立ち上がって一礼する。
そしてまた看護師さんに案内されるがまま隣の部屋へと移っていく。
近年定期的な健康診断が義務化され、しかもより精密な検査を求められるようになったことで、病院側の体制も変わってきた。
一般の外来で受け付けていては限界を超えてしまうので、新たにそれ専用の施設やスペースを設置し担当の医師を配置するようになった所がほとんどだ。
この病院も例に漏れず専用の棟があり、順番に各部屋を回っていくことで検査をひとつずつ受けていく。
例えるなら、小学校とかの学校内健康診断といったところだろうか。より精密検査バージョンかな。
次におれが入ったところは血液採取。その次は脳検査……とまあ一日食いつぶしそうな勢いで検査は続いていくのだ。
さらに自宅で尿便検査の採取と提出もしなきゃならない。
手厚く安心は与えてくれるが、正直疲れてしまうというもの。お国もこれ以上人口が減らないために必死なんだろうけど。
「__他に気になることはありませんか?」
「ん~…あ、最近立ちくらみが激しいくらいです」
「立ちくらみ、ですか……」
「元々体質的なものだとは思うんですけど」
「分かりました。では、これで検査はすべて終了となります。結果は一か月後を目安に会社の方にお送りしますので」
「はい。ありがとうございました」
最後の問診も終え、診察室を出て長い廊下を進む。
(隼人ももう終わったかな……)
仕事を進めやすいように大抵タレントとマネージャーは同じタイミングで入れられているので隼人もそろそろ終わっている、はず。
(あ、いた)
どうやら先に終わっていたらしく、約束しておいた待合室の椅子に腰掛けている隼人を見つける。
近づいて肩を叩く。
「お、雪くんお疲れ~」
「うん。おまたせ」
隼人を促しさっさと駐車場に向かう。
マスクや眼鏡をしているとはいえ、一般人も集まるこの場所に長居するのは得策ではない。ということでおなじみの車に移動した。
「あ~相変わらず疲れるわー」
いつも元気な隼人も、元気だからこそ少々辟易しているようだ。
「ま~ね。今日はあと事務所に行くだけだしゆっくりしときな」
「ん~運転任せちゃってごめんねぇ~」
「いやいや、それがおれの仕事だから」
何年一緒にやってても、時折こうやって妙な遠慮をしてくる隼人に思わず笑いがこぼれる。
エンジンをかけ、地下駐車場をくるくると上がっていく。安全運転安全運転。
「そういやさ~雪くん前回再検査なったんでしょ?」
「ん~?ああ、そうなんだよね~」
「今回は大丈夫そ?」
「まだ分かんないけど、前回のは体質の問題だし今のところ元気だし大丈夫でしょ」
「え~もう。そんなこと言ったら今のご時世大抵の人が体質に問題あるに決まってんじゃん。その上で心配してんの!」
「はは、確かに。ごめんごめん、きっと大丈夫だから心配しないで」
「雪くんは身体強くないんだからさ……リオくんも心配してたでしょう?」
「再検査のときはめっちゃ心配かけちゃったね…」
前回の結果を告げた時の理央の様を思い浮かべながら答える。ゆっくり目が見開かれていっておれを慌てて抱きしめて、まさにパニックといった感じだった。涙目でおれの体中を確かめるようにくまなく触る様子には罪悪感が凄かった。
「今日も心配してたんじゃない?」
「今日っていうか昨日の夜から機嫌は悪かったな」
「なんで??」
「健康診断って『知らない野郎にゆきがこねくり回されるのが許せない』からだって」
「……え~…」
「あっはっは!ドン引きじゃんー!」
「いやだって……健康診断だよ??」
「んね~言わんとすることはよーく分かる」
「リオくんって僕の想像以上なのかもしれない……」
「そうかも」
何気ない会話が続く車内がとても幸せな午後だった。
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