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21話
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オルテンシアはしばらくの間ネブラが面倒を見ることになった。
彼女が落ち着いたらあの少年を探すというネブラと軽く手を振りあって別れ、ルークスは魔物の姿となったルアの背中にまたがった。
「痛くないのか?ルア」
『はい。ほとんど重みも感じないほどです。しっかりつかまっていてください』
「こ、こうか?」
上半身を倒して大きな首に腕を回すようにしてしがみつく。
『はい。ではいきますね』
「うん、よろしくな」
ルアがすっと身を低くしたと思ったら、ビュウッとすさまじい向かい風が襲ってきた。
思わずぎゅっと目を閉じたルークスだったが、やがて風の勢いが緩やかになって恐る恐る目を開ける。
「わ、ぁ…」
そこはもう森の上空だった。
生い茂る緑が眼下に広がり、星々に体を包まれているかのような感覚に陥る。ルアはまるで地を駆けるように俊敏に空を飛んでいく。
森は広いがすぐに街が見えるだろう。そうすればすぐ屋敷につく。
随分と長く感じたが、まだ夜は深く家を抜け出してから数時間しかたっていないことを示している。明日は学校だ。きっと居眠りをしてしまうだろう。
ルークスだけは帰るのだ。子供たちが帰れなかった日常へと。
『大丈夫ですか』
唐突にルアが口を開いた。不思議とルアの声は風に邪魔されることもなくはっきりとルークスの耳に届いた。
だがルアが魔物の姿の時の声は人の姿の時よりも幾分か低くなるので、ルークスは反応が少し遅れる。
「え?あ、うん。大丈夫だよ。快適だ」
『いえ、そうではなく…。あの魔物の話を気にしているようでしたので』
「あ……」
『冷たいかもしれませんが、子供らの話であればルークスが責任を感じることではありません』
「…うん。分かってるんだ、勝手に責任を感じて落ち込むなんてこと独りよがりの自己満足なんだって。だけどさ、今回のことで考えたんだ」
『………』
「これまで魔物が見えるってこの体質をどうしようとも思ってなかったけど、プラスに使っていけるんじゃないかって。
今回みたいに魔物の被害に困っている人がいるかもしれない。逆に人のせいで困っている魔物がいるかもしれない。僕ならその2つの世界をつなげられるかもしれないって」
『…俺は反対です。あなたの心身を危険にさらすことは』
「うん。それにこれこそ最高の自己満足だしな。…だから、少しずつ。僕の目標のために動く中で少しでも周りを幸せにできたら…」
それこそ本当のハッピーエンドだ。
『目標?』
「うん。ふふ、ルークスには内緒」
『えっ!そんな、ルークスに隠し事をされるなんて』
「ちょっと!そんなに動揺するなよ!ゆれる、揺れるって!」
彼女が落ち着いたらあの少年を探すというネブラと軽く手を振りあって別れ、ルークスは魔物の姿となったルアの背中にまたがった。
「痛くないのか?ルア」
『はい。ほとんど重みも感じないほどです。しっかりつかまっていてください』
「こ、こうか?」
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『はい。ではいきますね』
「うん、よろしくな」
ルアがすっと身を低くしたと思ったら、ビュウッとすさまじい向かい風が襲ってきた。
思わずぎゅっと目を閉じたルークスだったが、やがて風の勢いが緩やかになって恐る恐る目を開ける。
「わ、ぁ…」
そこはもう森の上空だった。
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ルークスだけは帰るのだ。子供たちが帰れなかった日常へと。
『大丈夫ですか』
唐突にルアが口を開いた。不思議とルアの声は風に邪魔されることもなくはっきりとルークスの耳に届いた。
だがルアが魔物の姿の時の声は人の姿の時よりも幾分か低くなるので、ルークスは反応が少し遅れる。
「え?あ、うん。大丈夫だよ。快適だ」
『いえ、そうではなく…。あの魔物の話を気にしているようでしたので』
「あ……」
『冷たいかもしれませんが、子供らの話であればルークスが責任を感じることではありません』
「…うん。分かってるんだ、勝手に責任を感じて落ち込むなんてこと独りよがりの自己満足なんだって。だけどさ、今回のことで考えたんだ」
『………』
「これまで魔物が見えるってこの体質をどうしようとも思ってなかったけど、プラスに使っていけるんじゃないかって。
今回みたいに魔物の被害に困っている人がいるかもしれない。逆に人のせいで困っている魔物がいるかもしれない。僕ならその2つの世界をつなげられるかもしれないって」
『…俺は反対です。あなたの心身を危険にさらすことは』
「うん。それにこれこそ最高の自己満足だしな。…だから、少しずつ。僕の目標のために動く中で少しでも周りを幸せにできたら…」
それこそ本当のハッピーエンドだ。
『目標?』
「うん。ふふ、ルークスには内緒」
『えっ!そんな、ルークスに隠し事をされるなんて』
「ちょっと!そんなに動揺するなよ!ゆれる、揺れるって!」
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