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49話
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それから、2人は時々ルアも交えながら話に花を咲かせ、あっという間に日が暮れる頃に近づいた。
ルアが行きと同じように連れ帰ると腰を浮かせ、ラディオスもそれに従う。
「今日は本当にありがと」
「こちらこそ」
「君が暇なとき…またいつか会えたらうれしいな」
「もちろん!」
留守番のルークスに手を振って、ルアに促されその手のひらに自らの手を重ねる。
次の瞬間にはもう、ここ数か月でみなれた貴賓館の自室の中だった。
「は~すごいな全く」
「本日はありがとうございました」
「!!」
感嘆の声を漏らして床を踏みしめていたラディオスは、ルアに話しかけられ、驚いてその顔を見上げた。
彼はラディオスに対してぶっきらぼうに用件だけを伝えるのみで、会話になるような声掛けはこれが初めてだった。
すこしは認められたか…?とラディオスはにんまり笑う。
「なんですか、その顔は」
「いや~?」
「…まあいい。貴方に渡しておくものがあります」
「?」
「こちらです」
ルアがポケットから何かを無造作に取り出す。
そしてぽい、と渡してくるのでラディオスは慌てて受け取った。
それは拳より一回り二回り小さいくらいの黒い石だった。
「石?」
「特殊なものです。それを3回撫でると指定の場所に転移できます」
「はあ!?」
「この場合指定は、我が家と貴方の部屋、ここですね」
「俺でも瞬間移動ができるってコト!?」
「そのために渡したんですよ」
蔑むような目線に睨み返すことで応えながら、ラディオスは石を恐る恐る両手で包み込んだ。
「いいのか?いつでも行って。そういうことだよな」
「番としての営みがありますのでいつでもは困りますが」
「ああそうですか…」
「ただ、昼間などぜひルークスの話し相手になってもらいたい。来た時に次回の約束をする形をとれば入れ違いも減るでしょう」
それなら、とラディオスが転移ができるならメッセージのやり取りなどもできないのかと問えば、ルークスが自分以外と接点を持つ手段はすべて排除していると一刀両断された。
その石に関してもルークスに触らせたり彼を転移させたりしないようにと釘をさされる始末だ。
そこまでしてルークスを囲っているのに、自分を家に招き入れていいのかと純粋に疑問に思ったのでまた問いかける。
するとルアは表情を変えないまま言った。
「苦肉の策です。最近私の周りが少々騒がしい。なにやら私を探ったり接触をはかったりしているようです。出来るだけしたくはないが、今後彼の傍を離れる場合もあるかもしれません。その場合の彼のストレスをなるべく減らしたいのです」
「なるほどね…。それなら俺も喜んで使わせていただこうかな。普通に話したいし遊びたいし。
それはそれとして、その騒がしい奴らがルークスに危害を与える可能性は?」
「そういう連中かどうかも含めて探っているところです。しかし…知れば知るほど面倒な連中のようだ。とはいえ誰であろうとルークスに危害は加えさせませんよ」
「そ。ならいいや」
ラディオスは手の中の石を大切そうに引き出しの一番上の段に仕舞うと、ポケットから鍵の束を取り出しそのうちのひとつでしっかりと鍵をかけた。
こんこん、と引き出しを叩くラディオスを見守り、ルアは襟を正す。
「貴方以外では発動しませんが、そうそう与えられるものでもないため、なくさないよう。では、私はこれで」
「はいはい。お気をつけて」
ラディオスが言い終わる頃にはもうルアの姿はない。
ラディオスは苦笑しつつ、無意識に力の入っていた肩をぐるりと回した。
ルアが行きと同じように連れ帰ると腰を浮かせ、ラディオスもそれに従う。
「今日は本当にありがと」
「こちらこそ」
「君が暇なとき…またいつか会えたらうれしいな」
「もちろん!」
留守番のルークスに手を振って、ルアに促されその手のひらに自らの手を重ねる。
次の瞬間にはもう、ここ数か月でみなれた貴賓館の自室の中だった。
「は~すごいな全く」
「本日はありがとうございました」
「!!」
感嘆の声を漏らして床を踏みしめていたラディオスは、ルアに話しかけられ、驚いてその顔を見上げた。
彼はラディオスに対してぶっきらぼうに用件だけを伝えるのみで、会話になるような声掛けはこれが初めてだった。
すこしは認められたか…?とラディオスはにんまり笑う。
「なんですか、その顔は」
「いや~?」
「…まあいい。貴方に渡しておくものがあります」
「?」
「こちらです」
ルアがポケットから何かを無造作に取り出す。
そしてぽい、と渡してくるのでラディオスは慌てて受け取った。
それは拳より一回り二回り小さいくらいの黒い石だった。
「石?」
「特殊なものです。それを3回撫でると指定の場所に転移できます」
「はあ!?」
「この場合指定は、我が家と貴方の部屋、ここですね」
「俺でも瞬間移動ができるってコト!?」
「そのために渡したんですよ」
蔑むような目線に睨み返すことで応えながら、ラディオスは石を恐る恐る両手で包み込んだ。
「いいのか?いつでも行って。そういうことだよな」
「番としての営みがありますのでいつでもは困りますが」
「ああそうですか…」
「ただ、昼間などぜひルークスの話し相手になってもらいたい。来た時に次回の約束をする形をとれば入れ違いも減るでしょう」
それなら、とラディオスが転移ができるならメッセージのやり取りなどもできないのかと問えば、ルークスが自分以外と接点を持つ手段はすべて排除していると一刀両断された。
その石に関してもルークスに触らせたり彼を転移させたりしないようにと釘をさされる始末だ。
そこまでしてルークスを囲っているのに、自分を家に招き入れていいのかと純粋に疑問に思ったのでまた問いかける。
するとルアは表情を変えないまま言った。
「苦肉の策です。最近私の周りが少々騒がしい。なにやら私を探ったり接触をはかったりしているようです。出来るだけしたくはないが、今後彼の傍を離れる場合もあるかもしれません。その場合の彼のストレスをなるべく減らしたいのです」
「なるほどね…。それなら俺も喜んで使わせていただこうかな。普通に話したいし遊びたいし。
それはそれとして、その騒がしい奴らがルークスに危害を与える可能性は?」
「そういう連中かどうかも含めて探っているところです。しかし…知れば知るほど面倒な連中のようだ。とはいえ誰であろうとルークスに危害は加えさせませんよ」
「そ。ならいいや」
ラディオスは手の中の石を大切そうに引き出しの一番上の段に仕舞うと、ポケットから鍵の束を取り出しそのうちのひとつでしっかりと鍵をかけた。
こんこん、と引き出しを叩くラディオスを見守り、ルアは襟を正す。
「貴方以外では発動しませんが、そうそう与えられるものでもないため、なくさないよう。では、私はこれで」
「はいはい。お気をつけて」
ラディオスが言い終わる頃にはもうルアの姿はない。
ラディオスは苦笑しつつ、無意識に力の入っていた肩をぐるりと回した。
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