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1章

1話

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さらの町には昔から、子供たちの間で繰り返し繰り返し流行る、あるおまじないがありました。

町に唯一の小学校、その4年生になったとき。大抵はすこしおませな女の子から始まります。密やかに『内緒だよ』なんて枕詞をつけて囁かれるそれはあっという間に教室中に染み込みます。

子供たちは、学校でそのおまじないのことを聞くと逸る心を抱きつつ『大人に知られてはいけない』という言いつけを守って家族に知られないように胸の内にそっとしまっておくのです。

そういう時の子供の結束力って意外と強いもので、クラスのだれひとりとして大人はもちろん年下の下級生にだって言いふらしたりなんてしません。なのになんとも不思議なことに毎年欠かすことなくそのおまじないは小さな口から口へと広まっていくのでした。

もう何十年も繰り返されていることですから、他所の町からやって来た人たちを除けば町の大人のほとんどが、秘密のおまじないを胸にしまったまんまです。ですが、多くの大人たちは忙しない日常の中で、少しわくわくしてドキドキしてソワソワ落ち着かない、そんな気持ちにさせてくれるおまじないの存在なんてすっかり忘れてしまいます。

それでもやっぱり、ふとした時にぽろりと思い出す時だってあるんです。

悲しいとき困ったとき誰かに頼りたいとき。確かに子供だったときのことを振り返って、ああ、あれはなんだったかな、と。



_あのね

ないしょだよ

まちのね真ん中にある、さらの神社にはねカミサマがいるんだよ。

カミサマはね、困ったことをなんでも解決してくれるんだって。

でもお願いしにいくにはおまじないが必要なの。

忘れちゃあだめよ。

まず神社のなかの大きなクスノキの横に立つの。そこから真っ直ぐおさいせん箱を見て、5円玉を投げ入れるのよ。

クスノキのところより近くても遠くてもだめ。5円玉以外でもだめ。1回でおさいせん箱に入らなくってもだめなのよ。

5円玉が入ったらこう言うの。もちろんカミサマに聞こえるようにね。

『ギンキョウサン ギンキョウサン

  ワガウセモノ トブライタマエ』

…え?意味?

う~ん…、わかんない。でもおまじないを間違ったらだめなの。

あとね、大人に言ったらぜったいにだめ。ぜったいよ。
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