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2章

4話

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みゆうちゃんのお家は、さらの町の西の方にある淡いピンク色のアパートでした。神社とはちょっぴり離れています。
アパートは2階建て。上に2部屋、下に2部屋あるようで、慣れた足取りのみゆうちゃんに続いて1階の奥側の部屋の扉の前までやってきました。

「あー!またぱぱ、かぎしめてる!みゆうがでかけてるときはあけといて、っておねがいしてるのに」

ぷりぷり怒るみゆうちゃんにねだられて、石丸は彼女の両脇に手を差し込んでインターホンの目の前まで小さな身体を抱えあげました。これでカメラにみゆうちゃんが映ります。
そのままみゆうちゃんがインターホンのボタンを押すのかと思いきや、彼女の指の力では押せないそうで、石丸はみゆうちゃんを抱える腕を器用に片手に変えて、もう片方の手でインターホンを押しました。

「はい…」

ぶつッ、という音の後に怪訝そうな男性の低い声が聞こえてきました。
見覚えのない男である石丸…というか真っ白な紙をつけた怪しすぎる男がうつっているからでしょう。

「お届けものにあがりました」

「……はあ」

石丸が言うと大分長い空白のあと、未だに怪訝そうな硬い声ではあるものの返事があって、やがて鍵が開く音がしました。

「どうも…」

「初めまして」

少し錆びついた蝶番の甲高い音を響かせて、扉から顔を出したのは暗めの茶髪でTシャツにスキニーを履いたラフな格好の若い男の人です。

「ぱぱ!」

みゆうちゃんがぱあっと嬉しそうな声をあげました。
この人がみゆうちゃんのお父さんのようです。
やはりカメラ越しで見るのと実際に見るのとでは違うのか、本当に紙の面をつけている石丸にみゆうちゃんのお父さんはぎょっとしてわずかに上体を引きました。特に石丸は書生服のまま出てきましたからなおさらです。
そんなことよく分からないみゆうちゃんは、ピンクのクマさんを得意げに掲げてぴょんぴょんとはねています。
怪訝そうな顔のままだったお父さんがクマに気付き、大きく目を見開きました。
そうしてそのまま、驚いたような表情で固まってしまいます。
「ぱぱ、ただいま~!」
と横をすり抜け家の中に消えていったみゆうちゃんに反応できないほどです。
石丸はもう一度繰り返しました。

「お届け物にあがりました」

「あがってください…」

みゆうちゃんのお家は、比較的新しく綺麗で日当たりもいい建物で、中もずいぶんと広々していました。
しかし、机の上にはコンビニ弁当のゴミが出しっぱなしだったり椅子にはくしゃくしゃになったスーツがかけてあったりとどこか少し汚れている印象を受けます。
石丸はきちんと靴をそろえて家にあがらせてもらいました。靴をそろえてからくるりと振り返ると石丸の顔の紙がひらりと翻って、背後にいたみゆうちゃんのお父さんを大きくビクつかせてしまいました。

みゆうちゃんのお父さんは石丸を連れて、家の奥にある和室へと入っていきます。みゆうちゃんはどこかで遊んでいるのか姿が見えません。
和室にはこじんまりとした仏壇がありました。
お父さんは無言で仏壇の前に進み、座布団に腰を下ろすと静かに手を合わせます。
何も言わずお父さんが仏前からどけたので石丸もすいっと前にでて手を合わせました。

仏壇には、綺麗な額に入れられて2人分の遺影が飾ってありました。
少し古びたショートカットの綺麗な女性と、
ツインテールの幼い女の子の真新しい写真です。
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