2 / 11
謎の文言
しおりを挟むまず初めにこの作品は、犯人の暴露から始めるので、ミステリーかと言われると疑問が残るが、悪戯好きの美枝子という女子高生が起こした事件である。
「悦子!」
「えっちゃん!」
「ホームズ!」
立て続けに三人の女子の声が響いた。
悦子は親友の国子と一緒に下校していたが、驚いて、振り返った。
すると、そこには、才色兼備で、「美女三人娘」と言われている、悦子や国子の同級生である、一実(かずみ)、治江(ちえ)、夕子(ゆうこ)らの姿があった。
悦子も才色兼備だし、国子は悦子に続く成績だが、美形だったので、美人が五人揃う光景は、特に男子生徒にとっては注目の的だった。
悦子は、「ホームズ!」と叫んだ夕子に向けて、恥ずかしそうな顔をした。
「夕ちゃん、ホームズなんて恐れ多いから言わないで……悦子でいいのよ」
夕子は首を横に振った。
「何、言ってるのよ。あなたは名探偵ホームズ、国子はホームズの良きパートナー、ワトソン君と決まっているのよ」
そんなやり取りをしている中に一実が割って入ってきた。
「ごめんね。ちょっと問題が起きてね」
「どうしたの?」と悦子は尋ねた。
「実はね、私と治江と夕子は放課後、いつも図書室で勉強しているんだけどね、私たち三人それぞれの試験対策に使っている大事なノートが消えちゃったのよ」
悦子は心配そうな顔になり、「あら、たいへん。でも、どうしてそんな状況になったのかしら?」と聞くと、今度は治江が口をひらいた。
「ちょっと息抜きしようって、少しだけ席を離れたのよ。そうして、戻ってきたら、失くなっていたって訳」
国子も横から顔を出した。
「それで、私たちを呼んだの?力になりたいけどさ、現場にいた訳じゃないしなぁ。ねぇ、悦子」と言って、国子は悦子の方を見ると、いつの間にか、悦子の目はランランと輝いていた。
「確かに国子の言う通りだけど、何か手掛かりらしきものはある?」
すると、夕子が身を乗り出した。
「それが大ありなのよ!ノートの代わりに、これが置いてあったの」と、便箋を差し出した。
悦子は受け取って、読んでみたが、首をかしげた。
国子は半ばひったくるように、悦子の手から便箋を取ると、そこには次のように書いてあった。
「K↓+C↓+Y↓=☆」
国子は訳が分からんと言った顔をして、悦子に便箋を返した。
悦子はまた首をかしげて、じっと謎の文言を見つめた。
あまりの悦子の真剣さに、国子らは圧倒され、何も言えないまま、数分が経った。
やがて、悦子がゆっくりと話し出した。
「何となく分かった気がするんだけどね……多分、大したことないと思うよ」
すると、一実が悲しいような、驚いたような顔をした。
「悦子、大したことがないって言うけどさ、私たちにとっては大切なノートなのよ」
治江も泣くような表情で言った。
「えっちゃん、一実の言うように、凄く大事なものなんだ。あなたと国子が仲良いように、私たち三人も結束して、受験に立ち向かっているの。だから、困っちゃった……」
すると、夕子が治江の両手を持った。
「治江、大丈夫だよ。ホームズが必ず解決してくれるはずだから……」
悦子は夕子の方を照れながら見た。
「夕ちゃん、本当、悦子でいいからね。でも、治江ちゃん、大丈夫だよ。私、これ、悪戯だって、分かっちゃったから。きっと、あなたたちが仲良いので、ちょっと意地悪したくなったんじゃないかな?もし良ければ、明日にはノート、渡せると思うので、ちょっとだけ待ってくれる」
そう言って、また真面目な表情となった悦子の姿に再び口をつぐみ、皆、黙って頷くのだった。
次の日の放課後、悦子はニコニコ笑って、国子と一緒に一実らがいる図書室を訪れた。
声が響くといけないので、外に出ると、悦子はハイと言って、鞄から三冊のノートを取り出した。
一実は、「悦子、有難う!」
治江は、「えっちゃん、サンキューね!」
夕子は、「さすが、ホームズ!感謝よ!」と三人娘はそれぞれ言って、悦子や国子としばらく談笑した後、別れたのだが、一実らはノートが無事戻って来たことに喜び、どこで見つけたのかなどを悦子に聞くことは無かった。
すると、国子は、悦子の顔を覗き込んだ。
「さぁ、説明してちょうだい。どうして分かったの?」
悦子は満面の笑みを浮かべた。
「ほら、これよ」と言って、謎の文言が書かれた便箋をポケットから取り出した。
「「K↓+C↓+Y↓」のKは一実のK、同じくCは治江のC、そして夕子のY。それで、それぞれ下を指す↓印は、名前の一番下を読めと言う意味よ。つまり、一実は、み、治江は、え、夕子は、こ。+は、足すだから、つなげるということ。結果、みえこ、となる訳。それで、=☆だから、みえこは☆、つまりホシ、犯人てことよ」
「そういうことか!……何だ、簡単じゃん!」
悦子は膨れっ面をして、「簡単って何よ!国子は分かったの?」と言うと、国子は舌を出して、手を合わせた。
かくして、みえこ、つまり同級生の美枝子が悪戯半分で謎の文言を残し、試験のために三人娘のノートを無断拝借したことが判明し、悦子は美枝子を問い詰めると、渋々ノートを差し出した。
さらに土下座した美枝子から、二度としないから私の名前は出さないでと、涙ながらに懇願されたので、悦子も渋々了解したのだった。
悦子は「まぁ、めでたしめでたしで良かったけど、私も犯罪を見逃すなんて、まだまだ甘いわね」と言いつつも、得意気に一人笑うのだった。
(Prologueに投稿したものを加筆など、修正し、再投稿したものです)
応援ありがとうございます!
1
お気に入りに追加
1
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる