【完結】零れる水の策略

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第1章

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 シャワーをと言ったのに、鷹野は柴原の声が聞こえないかのようにシャツのボタンを外し、薄い胸を手のひらで撫で、胸の頂にくちびるを寄せた。柔らかく食まれる感覚に息を詰めると、無駄だというように腰を、背中を撫でられる。背中は柴原の弱いところで、セクシャルな雰囲気の中では触れられるだけでもだめだった。鷹野の指が触れるか触れないかのタッチで背中を撫でるのに、それだけで膝から力が抜けて立っていられなくなってしまう。鷹野に縋りつくようにしてなんとか姿勢を保とうとする柴原に気づくと、鷹野は柴原の体を抱きとめてベッドへ導かれた。中途半端に脱げかけていたシャツを脱がされ、うつ伏せになるように体を転がされる。広い性感帯をさらけ出す姿勢に、自然と呼吸が上がった。

「とてもきれいな肌だ」

 囁き声が落ちてきて、背骨をなぞるように上から下へと指で撫でおろされる。その感覚に小さな声が漏れた。

「これだけで感じるの?」

 高い湿度を孕む囁き声が嬉しそうに言って、今度は下から上へとゆっくり辿られた。それだけで体が震え、下肢に熱が集まってくる。感じやすいとはよく言われるけれど、こんなに最初から背中が性感帯だと見抜かれ、そこを責められるのは初めてだった。腰からうなじまで辿ると、今度は手のひらでマッサージするように肩甲骨から脇腹を撫でられる。

「ふ、んぅ……っ」

 思わず漏れる声を耐えるように、目の前にあった枕を引き寄せて抱きしめ、くちびるを引き結んだ。

「撫でているだけなのに」

 鷹野の声がおかしそうに言って、もう一度、下から上へと撫でられた。ぞくぞくする感覚にきつく目を閉じ、枕を強く抱きしめる。触れるか触れないかのタッチで肌をなぞられると、剥き出しになった神経をさわさわと触られているかのように感じてしまう。ふいに肩甲骨のあたりにやわらかな感触がした。次いで、ちりっとした痛み。それにも感じて身を震わせると、背後で笑う気配がした。

「かわいい」

 淡い痛みの名残を無意識に追っていると、今度はその場所に濡れた感覚がした。

「あっ」

 舌だ。それが、縦横に動く。

「……ぁ」

 ねっとりと舌を這わせる動きが、柴原の官能を高めていく。背中を撫でられて舐められているだけなのに。ボトムスの内側ではすでに性器が張り詰め、シーツに押し付けている胸の尖りも硬くなっているのがわかった。

 最初から、こんな、背中ばっかり。

 小さな反応からあっという間に性感帯を知られてしまったことにも驚いたけれど、そこばかりを集中的に愛撫されたことは今までになかった。柴原は戸惑いながらも自分ばかりされることに気が咎め、後ろを振り返ろうとわずかに身を起こす。すると待っていたように鷹野の手が上半身にできた隙間に入り込み、小さな胸の尖りを摘まんだ。

「あ……っ」

 背中を舐められながら胸の粒を愛撫される。体の前と後ろ、両方から与えられる刺激にどうしていいのか分からず背中を丸めると、また背中にチリッとした痛みが走った。

 キスマーク、つけられてる。

 指で転がされる乳首が硬くしこって鷹野の送り込む快感を鋭く伝えてくる。それと同じくらい彼の舌が辿る背中のあちこちで、甘いうずきが柴原の熱を上げていった。

「……っ、んぅ」

 胸の粒を優しく撫でるように愛撫されて、気持ちいいのだけれどすぐに物足りなくてもどかしくなってしまう。けれどそれを補うように、背中のいたるところに小さな快感の火種を散らされ、柴原は抱きしめた枕に顔を埋めて自然と漏れてしまう甘い声を羽毛に吸わせた。

「聞かせて、声」

 するとそれに気づいたのか甘く囁かれ、ついでに喘ぎ声を煽るかのように胸の粒に軽く爪を立てられた。

「ッ……」

 淡い痛みはすぐに快感に塗り変わり、下着の中で張り詰めている性器が痛いくらいになっている。もどかしくてきつくて、自然と腰を上げるようにベッドの上に膝を立てると、柴原の体の変化に気づいたのか乳首をいじらない方の手が後ろから回って、服の上からその部分に触れてきた。

「ああ、もうこんなになっていたんだ。これじゃ、つらいね」

 優しくそう言われて、つい甘えるように腰をその手に押し付けてしまう。そんな柴原の動きが気に入ったように鷹野は小さく笑うと、下着ごとボトムス押し下げた。勢いよく飛び出した柴原のそこを、背中を撫でたように指先で輪郭を辿る。もどかしい刺激にぐずるように腰を揺らすと、指はかえって離れていって、鼠径部を、内ももをくすぐるように撫でた。

「……んっ、ん……っ」

 皮膚の薄い感じやすい部分を愛撫されながらも、鷹野の舌は柴原の背中の筋肉の流れを辿るように舐め回し、胸に回った指は乳首を摘まんでゆるやかに揉みこんでくる。体のあちこちから与えられるもどかしい快感に、どんどん体温が上がり息が浅くなる。けれど、一番感じる性器からは指が離れてしまって、じれったくてたまらない。

「吸いついてくるような肌だね。とても触り心地がいい」

 背中から声がする。内ももをざらりと撫で上げられ、思いがけない刺激に鳥肌が立った。

「ひぁ……っ」

 柴原を覆いつくす「気持ちいい」がどんどん濃く大きくなり、性的な色が強くなる。

「あっ……あ、さわっ、って……」

 せわしない呼吸の合間に上擦る声で強請ると、「いいよ」と優しい声で返事が返ってきて、期待したのに、あたたかい手に包まれたのは双果が入る袋だった。

「んぁあ……っ」

 そこじゃない、という思いと、初めて肌を合わせる相手に急所を握られている本能的な恐怖、そして温かな温度に包み込まれる心地よさが混じり合う。

「ほら、こうしたらもっといい」

 大きな手が、壊れ物を扱うようにその部分を手のひらで転がしながら撫でて、袋越しにまるい果実の表面をなぞり形を辿る。得も言われぬ快感に体の力が抜けベッドに突っ伏しそうになったところで、背中に鋭い痛みを感じてびくりと緊張した。舌で辿られていた背筋に噛みつかれたのだ。痛みは甘さの中に落とされたスパイスとなって柴原の性感をさらに尖らせた。

「あぁあ……」

 噛んだことを謝るように、今度はそこに舌を押し付けられる。ゾクゾクしたものが背中を這いあがり、顔の下にある枕を握りしめて耐えた。

「我慢しないで。君の声を聞かせて」

 鷹野に甘く乞われて、でも首を横に振った。いつもはもっと奔放にふるまう。むしろ、自分の痴態を見せつけるようにすることもある。でもなぜか、鷹野の前ではそれができなかった。まるで処女のように恥じらってしまう。そんな自分がわからなくて、わからないことが怖かった。いままでされたことのないような、優しく丁寧な愛撫を受けているからかもしれない。あっというまに性感帯を把握され、そこばかり執拗に責められているからかもしれない。

 鷹野は自分の快感を優先しない。そんなセックスは初めてだった。

「歯型がくっきり残ってしまった。つい、きつくしすぎた。ごめんね」

 背中につけられたばかりの歯型を癒すように何度も舌で辿られて、そのたびに襲い来る快感に耐えた。でも、柴原が今感じているのは快感だけで、痛みも「気持ちいい」にスイッチされている。頭の中では、もっときつくしてもいいとすら思っていた。ふいに、鷹野の指が二つの果実を分ける部分を指先でくすぐるように撫でた。

「……っ!」

 強くなる快感に自然と背中が丸まる。かと思うと、また袋全体を手に包まれ、優しく転がされた。

「ここ、気持ちいい? ここで気持ちよくなれるかどうかは、生まれついての差があってね。君は才能があるみたいだ。感じてくれてうれしいよ」

 言われた内容を理解すると、顔面が熱く火照った。恥ずかしすぎる。けれど、甘くてもどかしい愛撫に感じているのは正解で、さっきから一向に触れてもらえないペニスの先端からは、とめどなく先走りが垂れ続けていた。それが糸を引いてシーツに落ちる。ふいに鷹野の指が袋から離れた。そこへの愛撫はもう終わったのかと思ったけれど、そうではなかった。先端を濡らすペニスの下に手をかざし、シーツへと垂れる先走りを指先に受け止めると低く笑った。

「たったこれだけで、こんなに濡らすなんて、……いやらしい子だ。……ほら、わかる?」

 そう問いながら先走りで濡れた指で、へその下に触る。ぬるりと滑る感覚が柴原の官能をさらに刺激した。

「かわいいよ。もっと感じて。淫らになっていい」

 甘やかすような低い声の甘ったるさに溺れるように、柴原のそこはまた蜜を滲ませる。蜜をこぼし続けるそこを撫でて、扱いてほしいけれど、鷹野が与えるぬるま湯のような快感の海も心地よい。ずっとここにいたいと思ってしまうくらいだ。けれど、そんな願望をあざ笑うように鷹野の指が乳首をきつく押しつぶした。

「……っ」

 次いで、先端に爪を立てる。

「……いっ」

 痛みにうめくと、すぐに指が外されて今度はなだめるように撫でられた。痛みの後のじんじんと痺れる感覚にも煽られ、熱い息がこぼれる。全身が気持ちよくてたまらない。

「ここで、もっと感じて」

 先ほど痛みを与えたことなどなかったかのように、鷹野はずっと手に包んでいた柴原の双果が入る袋を手の上で揺らすと、今度は根元を摘まんだ。

「ここも、違う感覚がしていいでしょう」

 根元から揺らされると、言葉にできないもどかしい快感が這い上がる。直接的な刺激とは程遠いのに、じわじわと射精にむけて体が高まっていくのが分かり、混乱した。

「……そこ、だけじゃなくて」

 このまま続けられたら出してしまいそうで、それが怖くて強請る。

「……も、触って」

 鷹野の前で、直接的な言葉を言うのは思いのほか勇気が要った。けれど強請らずにはいられなくて掠れる声で懇願したが、鷹野は「もうちょっと」とだけ答えて先ほど噛みついた背中の歯型にまたねっとりと舌を這わせ胸の尖りを摘まんで引っ張る。そうしながら溢れる先走りがシーツに落ちる直前で手を差し出し受け止め、そのぬめりを借りて袋を撫でまわした。

「……っ」

 気持ちよくて、もどかしい。こんな刺激じゃ物足りなくて達することなどできないと思うのに、全身をとろ火であぶられているかのように、熱が高まっていく。

「あ、あ、……っ」

 柴原が追い詰められるのがわかるかのように、鷹野は反対側の胸の粒を摘まんで捻りながら、肩甲骨に歯を立てた。

「んぅ……っ!」

 それは突然だった。覚えのある感覚が腰からせり上がり、あっと思う間もなく、ぽたぽたと何かが性器からあふれてこぼれていく。射精の絶頂感とも違うけれど、それは明らかに快感だった。もっと温くて、けれど長く尾を引く。

「あぁあ……」

 自分の声が自分のものだとは思えなかった。満足げな息を多く含んだ溜息のようなこの声は、自分が発しているのか。柔らかな枕に額を擦り付けるようにして、腰を高くあげたまま緩やかな絶頂に達した柴原の双果は、まだ鷹野の手に包まれていた。ふたつの果実の縫い目を変わらず軽いタッチで撫でられていたが、柴原が達したのに気づいたらしい鷹野が、ようやく性器を包むように触れる。まだとろとろと液体を垂れ流す先端を指先で擦られて、背中が反った。その動きのせいで、摘ままれたままの乳首が引っ張られ、さらにきつい快感に襲われる。

「んぁあっ……」

 それが呼び水となって、また性器からぽたぽたと精液が溢れた。体のあちこちに続けざまに与えられる快楽が、これまでの自分が知っている絶頂とは違う高みから降ろしてくれない。風に吹き上げられた木の葉のように、いつまでもそこに留まり続けてくるくると回る。鷹野のちょっとした動きに柴原は細い声を上げ、そのたびに少しずつ精液をこぼした。

 やがてそれが落ち着くと、鷹野の手で仰向けになるように促され、中途半端に脱がされたままのボトムスと下着を、靴下と一緒に取り払われた。されるがままに身を預けながら、鷹野の眼下で裸体を晒す。まだ息は整わず、初めて知った快感に目の前がかすんでいた。

「とてもすてきだ。君の体は感受性が高いんだね」

 鷹野が柔らかく笑い、柴原を見下ろしたままジャケットを脱ぎ、ネクタイを緩める。荒い呼吸のまま鷹野が衣服を脱ぎ捨てていくのを、ぼんやりと見上げた。ちょっとした動きが、全部絵になる男だ。ネクタイを抜くしぐさ、ベストのボタンを外す指、シャツを腕から抜くさま。全てが上品で色気があった。そんな鷹野を見ていたら、先ほど中途半端に達した性器が、また硬く張り詰めてきた。

「今のはアペリティフ。メインはこれからだ。楽しもう」

 鷹野はそう微笑むと柴原に覆いかぶさり、深くくちづけた。

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