【完結】零れる水の策略

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第1章

7

 絡まる舌が、熱い。

 そこから何か流し込まれているかのように、口の中全部が、喉まで、気持ちよくてむず痒くて、もっとほしくなる。鷹野の舌を吸いたいのにまだ先ほどの快楽が体の中に残っていて、舌すら満足に動かせない。柴原はされるがままに鷹野の舌を受け入れ、舌先があちこちを擽り舐め回すのに何度も腰を跳ねさせた。そうしながらも、重なる鷹野の肌があまりに心地よくて、猫のように喉を鳴らして抱きつく。鷹野が低く笑い、肩を、腹を撫でた。それだけでまた体の芯を快感が走り、甘く呻いて身をよじってしまう。

「全身が敏感だね。とてもかわいらしいよ」

 キスを解いてうれしそうに鷹野が言うから、恥ずかしいけれどこれでいいのだと安心して力を抜くと、鷹野の手が頬を撫でて顔を覗き込んできた。

「柴原くん」

 近い距離で視線を合わせる。鷹野の目に、とろんとした自分が映っているのが見えた。

「もっと気持ちよくなって。声も我慢しないで聞かせて――君の声は、とても好ましい」

 それは自分のセリフだと思いながら首に腕を回して引き寄せ、もう一度キスを強請った。柴原の意図に気づいた鷹野がすぐにくちびるを重ね、深く舌を差し込んでくる。熱くしっかりと存在感のあるそれに舌を絡めて表面を擦り付けると、鷹野の手が褒めるように柴原の髪を撫でた。

 気持ちいい。

 何もかもが気持ちいい。鷹野の唾液が流れ込んでくるのすら、うれしい。もっとほしい。

 その気持ちのまま太ももで鷹野の腰を挟む。勃ち上がった先端が、引き締まった腹筋に触れてわかりやすい刺激に思わず腰が上がった。

「んんっ……」

 目の裏に火花が散る。もっと押し付けて擦り付けようとすると逃げるように、鷹野が腰を引いて柴原の欲望から遠ざかってしまう。

「……悪戯っ子だね」

 甘やかすように言われて、快楽で蕩けた目を向けると、唾液に濡れたくちびるを指で拭われた。

「……ぁ」

 思わず口を開いてその指を舐めようとした。それなのに、するりと逃げていく。物欲しげに指を目で追うと、「なんて色っぽい顔をするんだ」と困ったような声が落ちてきた。

「どうして今まで会わなかったのかが、本当に不思議だよ。――今夜は、黙って僕に任せて、君はただ気持ちよくなって。いい?」

 そう言われ、理解しないままに頷いた。柴原が解ってないのを察した鷹野が苦笑する。顔が近づいてきたからまたキスをもらえるのかと思ったが、鷹野のくちびるは首筋を辿った。

「――あぁあ」

 血管の上を熱い舌が辿る。まるでその部分に媚薬を塗られたかのように、柴原は鷹野の体の下で悶え、反射的に首を竦めて逃げようとした。

「ダメだよ、ほら」

 鎖骨の下を舐められて、身を反らせる。胸の中心へと移動する舌に、敏感に尖る乳首を舐めてもらえるのかと期待したが、そこは躱されて脇の下を舌先でくすぐられた。

「やぁ、あっ、そこ……っ」

 そんなところ、今まで誰にも舐められたことはない。感じるとも思わなかった場所なのに、鷹野の舌が触れた途端に腰が跳ねあがった。

「いいでしょう?」
「やぁ、あ……っ」

 くすぐったいのか気持ちいいのかわからない。でも、たぶん気持ちいいほうだ。だって、性器がまた、硬く張りつめているのが分かる。

「本当にかわいい。ここは?」

 脇から脇腹へと、舌で辿られてまた甘く高い声が上がった。そうしながら鷹野の手は腰を、尻を撫でまわす。気持ちいい。全身がどこもかしこも気持ちよくて、蕩けて形を無くしてしまいそうだ。

「た、かの、さっ……、も……っ」

 つんとしこる胸の尖りと、また先走りを零しているペニスと、性器にもなっている後孔と。わかりやすい場所への愛撫を求めて鷹野の名を呼んだが、鷹野は柴原のへそのくぼみに舌先を押し付けてちらりと目を上げるだけで、その舌を骨盤へと移す。欲しい場所にもらえないことに焦れて膝を立て、つま先でシーツをひっかくと、鷹野がそのふくらはぎを掴んで引き上げた。

「行儀の悪い脚だね。……君は、ここも感じやすそうだ」

 そう言いながら、柴原を見つめたままでふくらはぎの筋肉に沿って舌先を走らせる。

「あ、あぁ……っ」

 そんなところ、と思うのに柴原の性器は先端に雫を滲ませ、それはたらりと幹を伝って薄い下生えへと流れ落ちた。

「――うぅっ、んっ」

 その感覚にすら悶えて逃げようとするのに、鷹野はしっかりと足を掴んで離さない。足首を掴んで高く引き上げ、膝の裏にキスをして軽く吸いついた。

「やぁっ、あ、……っ」

 それだけで、目の裏で何かが弾けた。絶頂に達したかのような感覚に呼吸が一瞬止まる。おそるおそる下肢へ目を向けたが射精はしていなくて、それに少しだけほっとして鷹野を見ると、鷹野は薄い笑みを浮かべて柴原を見下ろしていた。

「君は、何もかも僕の好みだよ。――ほんとうに、とてもかわいらしい」

 低くなめらかで甘い声。それはこっちのセリフだと思いながら浅く息を弾ませる。鷹野は足の付け根に向かっていくつもキスを降らせた。そのまま、性器か後孔に愛撫をしてもらえるかと柴原の期待が高まる。いじらしく勃ち上がって震える性器も、ひくひくと収縮する後孔も、鷹野を今か今かと待ちわびていた。

 鷹野と目が合う。やさしい微笑みを向けられる。――ついに、触ってもらえる。

 そう思ったのに、鷹野のキスは鼠径部へとずれ、もどかしい快感に柴原はついに涙をこぼした。

「や、だっ……、そこじゃなくて……っ!」
「気持ちいいでしょう?」

 足のつけ根を強く吸われてキスの痕を残される。それだって気持ちがいいけれど。柴原の求めている場所じゃない。思わず手を伸ばして自分で自分のものを握ろうとすると、鷹野の手が伸びて指を絡められた。

「手を握りながら、しよう」

 そう言って笑いかけると、強く手を握り締めたまま、また鼠径部へとくちびるを落とし、肌を吸い上げた。

「や、だっ、もう、それ……っ、そこじゃない」

 泣き濡れた声でせがむのに、鷹野は楽しくてたまらないという表情を返すだけで、肝心の場所には触れてくれない。

「お願い、お願い鷹野さん、もう、触って……」

 熱い雫が目尻から零れ落ちる。腰が浮いた。けれど鷹野は、今度は骨盤の上を噛んで握り合う指で柴原の手の甲を撫でるだけだ。

「あぁああ……っ」
「もっと感じて、柴原くん。とろとろになったところを見せて」
「もう、いや……っ」

 触ってもらえない性器から白濁が混じった雫がとろりと流れる。腰の奥で何かが爆発しそうに渦巻いていた。これ以上、気持ちよくなるのが怖い。気持ちよすぎて、知らない扉を開けてしまいそうで。

「怖がらないで、大丈夫。僕がいるから」

 なのに鷹野は何もかももを見透かしたようにそう言って、柴原の薄い下映えをくちびるで食んで軽く引っ張った。

「いやぁ、それ……っ、ああぁ」

 皮膚が引っ張られる感覚。
 それにまた、性器の先端から雫が溢れて玉になり零れ落ちる。壊れた蛇口のようにたらたらと先走りだか精液だかわからないものを垂れ流すのが恥ずかしくて仕方ないのに、自分の意思では止められない。

「お願い、お願い鷹野さん、触って、もう、触って……」

 泣き濡れた声がかすれ始めた頃、ずっと繋いでいた指がそっと解かれたことに、柴原は気づかなかった。鷹野が互いの汗でじっとりと濡れた手で柴原の両方の太ももに手をかけ大きく左右に開かせた時、涙で滲んだ視界に、刺激を求めて何度も何度も収縮を繰り返す後孔を鷹野が見ているのに気づいた。

「あ、ぁ……っ」

 恥ずかしい。恥ずかしいのに、期待している。

 そこに触れてほしくて、中を埋めてほしくて。

 見られていると認識したとたん、キュウっと後孔が窄まり、ふわりと緩んだ。

「……なんて、愛らしい」

 その様子を見届けた鷹野が顔を寄せて、ぺろりとその部分を舐める。長い時間待ち望んでいた場所への刺激に、柴原は細いく長い声をあげてのけぞった。

「――ぁ、ああ……っ」

 性交に慣れた柴原のそこは、緩くほどけて鷹野の舌を誘い込もうとうごめく。鷹野は唾液を送りこむように何度も窄めた舌を内部へ押し込み、親指で肉輪の縁を押した。

「や、あっ、あっ、あぁ」

 悶える柴原の性器から、またとろりと白濁が流れる。いつの間にかそれは薄い腹の上に小さな水たまりを作っていた。柴原が身を捩ると、その水たまりが肌の上を滑り、シーツへと落ちる。そのわずかな感覚にも快感をあぶられて切羽詰まった声を漏らした。

「う、ぅうう、んっ、あ、はぁっ」

 なぜこんなに感じるのかわからない。全身の皮を薄く剥かれ神経が剥き出しになったかのように、どこに何が触れても、いつもの倍以上の快感が柴原を襲った。

「あ、あぁぁっ」

 ついにすぼまりから舌が抜けて、ローションを纏った指が中に入ってきたときはのけぞって悲鳴を上げ、とろとろと精液を放った。

「これだけでイケるんだね、いい子だ」

 満足そうに鷹野が言って、二本揃えた指で熱く滾る内部を撫でる。指を引き抜き、また入れられると、入り口を擦られる感覚に涙がこぼれた。

「……っひ、は、はっ……」

 感じすぎてもうろくに声も出ない。涙で視界は揺れて、柴原はシーツを握りしめて腰を震わせた。

「最初からこんなに柔らかいなんて。これなら解す必要もなさそうだね。……でも、君が感じるのを見たいから、もう少し」

 鷹野はそんな残酷なこと言い、指を引き抜いてまた押し込む。びくりと大きく腰を跳ねさせる柴原の反応に満足そうに微笑み、顔を伏せふるふると震えて濡れそぼるペニスの先端を口に含んだ。

「あ、あぁぁあああ……っ」

 快感に蕩けきった体に、甘い刺激は通常の何倍にもなって襲い掛かり、柴原は切羽詰まった悲鳴を上げて、中にいる鷹野の指をきつく締め付けた。その締め付けに逆らうように、鷹野の指が中の感じるところをなぞる。それにまた嬌声を上げ、柴原は再びとろとろと長く続く射精をした。

「中で感じるのも上手なんだね」

 満足げに微笑んで鷹野は指を引き抜いた。ベッドサイドに置かれた紙袋からコンドームを取りだすと手早く装着し、その先端をローションで濡れそぼる後孔にぴたりと押し当てる。柴原はその感覚だけでまた達しそうになり、焦点を失った目で天井を仰ぎながら、浅く激しい呼吸を繰り返した。

「君のここ、欲しがっているみたいだよ。僕のを飲み込もうとしている……すごいな。貪欲で、魅惑的だ」

 感極まった呟きを漏らし、柴原の腰をしっかり掴むと、鷹野は快感に浸りきっている柴原に笑いかけた。

「……最高だよ、柴原くん。君も僕を、感じて」
「……っ、あ、……っは、」

 自分の後孔が鷹野を飲み込もうとヒクヒクしていることは自覚していた。涙で潤んだ目を向け、手を伸ばす。鷹野がそれに応えるように上体を倒しながら、太い雄で柴原の中を貫いた。

「あ、あっ、ああぁぁああ」

 鷹野の肩に縋った柴原のくちびるから、甘く満たされた声が漏れる。熱くうねる肉筒が絡むのに鷹野もまた、熱い息を吐いて柴原へと口づけた。

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