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17-1 ディーク暴発回避
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(なんだ? なにか違和感が……)
ディークは椅子に座りながら周囲を見回す。壁一面に並ぶ本棚。そのなかにはぎっしりと並ぶ本。何百冊とあるだろうか、天井近くにまで敷き詰められた本を眺め違和感を探る。
一体どれほどの時間眺めていただろうか、ぐるりと全体を見回し、やはり分からないか、と机に突っ伏した。
そして今日はもうおしまいにするかと、と椅子から立ち上がろうとしたとき、ふと気付く。
(ん?)
ディークはおもむろにひとつの場所へ身体を向ける。
本棚に並ぶ本はアルファベット順に並んでいる。そうやって並ぶのは本を探す上では当たり前だ。だからどこの図書館でも本屋でも著者名順に並んでいる。
王立図書館などと少し違うのは本の種類が分類されてはいない、というところか。
この塔自体が王立図書館ほどの大きな規模ではない上に個人所有だということからか、分類などはなく、著者名のみの並びになっている。だからアルファベット順で並んでいるのだ。
しかし、よく見ると一箇所アルファベットが間違えて本が入っていた。
たまたま間違えて入ってしまったのか、と、ディークはその本を正しい順に戻そうかと手に取ろうとした。
「ん?」
そう手を伸ばしたとき、違う場所にも同様に違う順で入れられた本がある。
「なんだ?」
ディークは周りを見回した。じっくりと意識しながらアルファベットを探る。すると何箇所か間違えて本が入っている。
ディークは手に取ろうとしていたのを止め、それらを眺めた。
順に眺めていくが、それが違和感の元だったのだ、ということは分かったが、それがなにか意味があるのか、と問われると、全く分からない。
(ただ単に間違えて入れてあっただけかもしれないが……)
なんの関係もないかもしれない。しかし、これだけ古い塔に古い書物でも、この場所自体は管理が行き届いているかのような整然さだった。
初代王妃が余程の几帳面な性格だったのかもしれない。そんな持ち主であるのに、果たして間違えた並びのまま放置するだろうか。長年開けられていないような錆び付いた状態の扉から考えても、人の出入りがなくなって数年ということはないだろう。
初代王妃の時代から全く誰も出入りしていないという確証はないが、この塔の鍵を王家の者が管理しているのなら、呪いの件でこの書庫を調べない、というのがおかしな話だ。個人所有の書庫に呪いに関するものなどない、との判断だったのか。
ということは、やはりこの塔へ出入りした人間が、初代王妃の生きていた時代以降にいるとは考えにくい。それならばこの配列もなにか意味があるのかもしれない、とディークは少しの違和感でも確かめずにはいられない。どうしても気になるディークはアルファベットを記憶していく。
(殿下に聞いてみるか)
セルヴィならばこの間違えて並んでいたアルファベットからなにか分かるかもしれない。ディークはそう判断した。
「あっ」
セルヴィを思い出した瞬間、慌てて外へと飛び出す。
「やべっ。今何時だ!?」
すでに辺りは真っ暗闇に。時間を忘れるほどこの場所に居座り、呪いの手がかりを探すために夢中となっていた。
そのせいでいつの間にやら夜も更けてしまっていた。
「殿下との約束の時間が!」
そう思い出し、慌てて走り出すが、昨晩のことを思い出してしまい、「ふぐっ」と暗闇のなか、ディークの変な声が小さく響いたのだった。
(ち、違うだろ! 殿下の痛みを和らげるためだ! 決してキスしたいとかじゃ……ない!)
自身の不埒な考えを否定するように頭を振り、急いで食堂へと向かうと、やはり皆すでに食事を終えイアンとノアが片付けも終わり帰ろうとしていた。
「あれ、ディーク? お前、遅かったな。トルフさんから書庫にいる、とは聞いていたが、もしかして今までずっと書庫にいたのか?」
「あ、あぁ」
息を切らせつつ、イアンと話すが、ノアに睨まれたままだ。
「なんかよく分からんが、お前の分の夕食はそこに置いてあるから食べて良いぞ。後片付けだけしといてくれ」
イアンが指差したところには、トレイに置かれたパンと肉料理とスープがあった。
「あぁ、すまない、ありがとう」
イアンは肩をポンと叩くとノアと共に厨房をあとにした。ノアはディークに冷ややかな視線を投げかけてから、「料理長の手を煩わせないでくださいね」とボソッと呟き、嬉しそうにイアンの後に付いて行った。
ディークは苦笑しながらも、取り置いてくれていた夕食に感謝しつつ、すこし冷めてしまった夕食を急いで食べるのだった。
夕食の食器を片付け、慌ててセルヴィの部屋へと走る。
約束の時間よりも遅くなってしまい焦る。行かずとも大丈夫なのかもしれないが、それでもやはり倒れてはいないかと心配になるディークは急いだ。
「殿下、申し訳ありません。ディークです。遅くなりました」
セルヴィの部屋へと到着したと同時にすぐさま扉を叩く。
しかし、部屋からセルヴィの声はない。ディークは嫌な予感がし、扉に手をかける。
「殿下! 入りますね!」
ガチャリと扉を開けなかへと入ると……
「殿下!!」
ディークの嫌な予感の通り、初めてセルヴィが倒れていたのを見た日と同様に、机の傍で倒れていたのだ。
ディークは慌てて駆け寄り、セルヴィを抱き起こす。セルヴィは眉間に皺を寄せ、苦悶の表情に荒い息で汗ばんでいる。
「殿下! 仮面と手袋取りますね!?」
そう叫んだディークはセルヴィの返事を待たずに、仮面と手袋を外した。そして勢い良く抱き上げ、ベッドへと運ぶ。
そっとベッドへ寝かせ、胸元を少し緩め、靴を脱がせる。そしてディーク自身もセルヴィの横へと腰を下ろし、片手は手を握り、もう片方の手は頬を撫でた。
「殿下! 大丈夫ですか!?」
汗ばむセルヴィの前髪を掻き分け、頬を撫でる。何度も何度も頬を撫で、手を握り締めるが、セルヴィの苦悶の表情は変わらない。
「殿下……!!」
(くそっ、どうしたら……)
ベッドから立ち上がり、バスルームから濡れタオルを持って来ると、セルヴィの顔や首筋を拭いた。
そのたびにセルヴィは身悶えるが、意識を取り戻す気配がない。
「殿下、服を脱がしても良いですか?」
ディークは椅子に座りながら周囲を見回す。壁一面に並ぶ本棚。そのなかにはぎっしりと並ぶ本。何百冊とあるだろうか、天井近くにまで敷き詰められた本を眺め違和感を探る。
一体どれほどの時間眺めていただろうか、ぐるりと全体を見回し、やはり分からないか、と机に突っ伏した。
そして今日はもうおしまいにするかと、と椅子から立ち上がろうとしたとき、ふと気付く。
(ん?)
ディークはおもむろにひとつの場所へ身体を向ける。
本棚に並ぶ本はアルファベット順に並んでいる。そうやって並ぶのは本を探す上では当たり前だ。だからどこの図書館でも本屋でも著者名順に並んでいる。
王立図書館などと少し違うのは本の種類が分類されてはいない、というところか。
この塔自体が王立図書館ほどの大きな規模ではない上に個人所有だということからか、分類などはなく、著者名のみの並びになっている。だからアルファベット順で並んでいるのだ。
しかし、よく見ると一箇所アルファベットが間違えて本が入っていた。
たまたま間違えて入ってしまったのか、と、ディークはその本を正しい順に戻そうかと手に取ろうとした。
「ん?」
そう手を伸ばしたとき、違う場所にも同様に違う順で入れられた本がある。
「なんだ?」
ディークは周りを見回した。じっくりと意識しながらアルファベットを探る。すると何箇所か間違えて本が入っている。
ディークは手に取ろうとしていたのを止め、それらを眺めた。
順に眺めていくが、それが違和感の元だったのだ、ということは分かったが、それがなにか意味があるのか、と問われると、全く分からない。
(ただ単に間違えて入れてあっただけかもしれないが……)
なんの関係もないかもしれない。しかし、これだけ古い塔に古い書物でも、この場所自体は管理が行き届いているかのような整然さだった。
初代王妃が余程の几帳面な性格だったのかもしれない。そんな持ち主であるのに、果たして間違えた並びのまま放置するだろうか。長年開けられていないような錆び付いた状態の扉から考えても、人の出入りがなくなって数年ということはないだろう。
初代王妃の時代から全く誰も出入りしていないという確証はないが、この塔の鍵を王家の者が管理しているのなら、呪いの件でこの書庫を調べない、というのがおかしな話だ。個人所有の書庫に呪いに関するものなどない、との判断だったのか。
ということは、やはりこの塔へ出入りした人間が、初代王妃の生きていた時代以降にいるとは考えにくい。それならばこの配列もなにか意味があるのかもしれない、とディークは少しの違和感でも確かめずにはいられない。どうしても気になるディークはアルファベットを記憶していく。
(殿下に聞いてみるか)
セルヴィならばこの間違えて並んでいたアルファベットからなにか分かるかもしれない。ディークはそう判断した。
「あっ」
セルヴィを思い出した瞬間、慌てて外へと飛び出す。
「やべっ。今何時だ!?」
すでに辺りは真っ暗闇に。時間を忘れるほどこの場所に居座り、呪いの手がかりを探すために夢中となっていた。
そのせいでいつの間にやら夜も更けてしまっていた。
「殿下との約束の時間が!」
そう思い出し、慌てて走り出すが、昨晩のことを思い出してしまい、「ふぐっ」と暗闇のなか、ディークの変な声が小さく響いたのだった。
(ち、違うだろ! 殿下の痛みを和らげるためだ! 決してキスしたいとかじゃ……ない!)
自身の不埒な考えを否定するように頭を振り、急いで食堂へと向かうと、やはり皆すでに食事を終えイアンとノアが片付けも終わり帰ろうとしていた。
「あれ、ディーク? お前、遅かったな。トルフさんから書庫にいる、とは聞いていたが、もしかして今までずっと書庫にいたのか?」
「あ、あぁ」
息を切らせつつ、イアンと話すが、ノアに睨まれたままだ。
「なんかよく分からんが、お前の分の夕食はそこに置いてあるから食べて良いぞ。後片付けだけしといてくれ」
イアンが指差したところには、トレイに置かれたパンと肉料理とスープがあった。
「あぁ、すまない、ありがとう」
イアンは肩をポンと叩くとノアと共に厨房をあとにした。ノアはディークに冷ややかな視線を投げかけてから、「料理長の手を煩わせないでくださいね」とボソッと呟き、嬉しそうにイアンの後に付いて行った。
ディークは苦笑しながらも、取り置いてくれていた夕食に感謝しつつ、すこし冷めてしまった夕食を急いで食べるのだった。
夕食の食器を片付け、慌ててセルヴィの部屋へと走る。
約束の時間よりも遅くなってしまい焦る。行かずとも大丈夫なのかもしれないが、それでもやはり倒れてはいないかと心配になるディークは急いだ。
「殿下、申し訳ありません。ディークです。遅くなりました」
セルヴィの部屋へと到着したと同時にすぐさま扉を叩く。
しかし、部屋からセルヴィの声はない。ディークは嫌な予感がし、扉に手をかける。
「殿下! 入りますね!」
ガチャリと扉を開けなかへと入ると……
「殿下!!」
ディークの嫌な予感の通り、初めてセルヴィが倒れていたのを見た日と同様に、机の傍で倒れていたのだ。
ディークは慌てて駆け寄り、セルヴィを抱き起こす。セルヴィは眉間に皺を寄せ、苦悶の表情に荒い息で汗ばんでいる。
「殿下! 仮面と手袋取りますね!?」
そう叫んだディークはセルヴィの返事を待たずに、仮面と手袋を外した。そして勢い良く抱き上げ、ベッドへと運ぶ。
そっとベッドへ寝かせ、胸元を少し緩め、靴を脱がせる。そしてディーク自身もセルヴィの横へと腰を下ろし、片手は手を握り、もう片方の手は頬を撫でた。
「殿下! 大丈夫ですか!?」
汗ばむセルヴィの前髪を掻き分け、頬を撫でる。何度も何度も頬を撫で、手を握り締めるが、セルヴィの苦悶の表情は変わらない。
「殿下……!!」
(くそっ、どうしたら……)
ベッドから立ち上がり、バスルームから濡れタオルを持って来ると、セルヴィの顔や首筋を拭いた。
そのたびにセルヴィは身悶えるが、意識を取り戻す気配がない。
「殿下、服を脱がしても良いですか?」
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