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16-2 初めての感情

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「痛みはないですか? 今夜はもう大丈夫そうですか?」
「あ、あぁ」
「なら良かった……身体は……」
「?」
「その……直接触れたほうが、効果があるのなら、身体も……」

 そう言いかけたところで、ディークはガバッとセルヴィから身体を離し立ち上がった。

(アホか! 身体って! 何言ってんだ!)

「で、では、今日はこれで戻ります! 明日はまた俺は書庫を調べてみますね! では、失礼します!」

 セルヴィは突然ディークが立ち上がったことに驚いた顔となり、そんなディークは自分の言いたいことだけを捲し立てたかと思うと、セルヴィの言葉を待たずに部屋をあとにした。

 部屋には唖然としたセルヴィだけが残された。



(まずい……本当にまずい気がする……このままじゃ、いつか手を出してしまいそうだ……いや、すでにキスしてる時点で手を出してる……?)

 暗闇のなか頭を抱え悶絶する。

(我慢出来る自信ねーな……)

 先程までの妖艶なセルヴィの姿を思い浮かべ、それだけで自身の下半身が疼く。そんな自分に辟易とし情けなくなる。

(俺ってこんな性欲強かったのか……くそっ)

 今まで女に対してここまで夢中になったことはない。むしろ女相手にはいつもどこか冷めていたかもしれない。過去を忘れるために必死だったこともあるのだろうが、女に執着するよりも力を求める感情のほうが強かった。
 だから同僚に女遊びに誘われても、それほど興味を示さなかったのだ。それなのに今ディークが感じる欲情。男であるセルヴィにこれほどまでに欲情するとは。自分自身で意味が分からないと頭を抱える。

「あぁぁあ! もう!!」

 暗闇に一人頭を掻きむしるディークの声が響き渡った。



 結局興奮状態のままなかなか寝付けず、一人悶々とした夜を過ごしたディークは、今日は一日書庫に籠ろう、と無心となることを心に決めた。

 一人書庫で様々な本に目を通していく。書物自体は古いものだが、この塔自体が保管するに適切な環境だったのか、読めないものや劣化しているものなどはなかった。
 塔自体が不思議な雰囲気を醸し出していて、窓は一切ないのになかは明るい。それほど広くもない塔の壁一面に本棚が並ぶ割には圧迫感もなく、どちらかといえば解放感のあるような不思議な感覚だった。

 塔の真ん中にある机は、古い重厚な木材で出来てあり、一目見るだけでも高価なものだと分かる。それが王妃のために用意されたものなのだろう、ということは容易に想像がついた。

 しばらく読み漁っていると、扉のほうから声が聞こえて来る。

「ディークさん、おられますか?」
「?」

 外へと顔を出してみると、そこにはトルフがいた。

「あれ? トルフさん?」
「あぁ、やはりここにおられたのですね。昼食をお持ちしました」
「え? 昼食?」

 確かにトルフの手元にはトレイがあり、その上にはティーポットとサンドイッチが乗っていた。
 トルフはにこにことしながらそれをディークに手渡す。

「殿下が、ディークさんがここにおられるから、昼食を持って行ってやってくれ、と。きっと昼食を取るのも忘れているだろうから、とおっしゃっておられました」
「え、殿下が!?」
「はい」

 ひたすらにこにこと嬉しそうなトルフに、ディークはたじろいだ。

「あー、ハハ、ありがとう」
「いえ」

 にこりと笑い去って行くトルフの後ろ姿を見詰め、無性に恥ずかしくなるが、しかし、セルヴィが自分を気にかけていてくれるということに、なにやらそわそわと心が踊るのだった。

 サンドイッチを頬張りながらも汚さないようにと、気を付けながら本を読み続ける。

「なにも出ないな……」

 呟きながら椅子に凭れ掛かり、全体を眺める。そのときなにやら違和感を覚える。

「?」

 部屋内部全体に広がる本棚。塔自体は城の二階ほどまでの高さがある。その高さ目いっぱいの本棚が天井まで続き、本が埋め尽くされている。見上げる全てが本。それ自体は特に変わったことなどないはずだ。王城にあった王立図書館も似たようなものだった。壁一面の本棚。ただこの塔のほうが狭い、というだけだ。

 しかし、なにやら違和感を覚えるのはなぜだ。ディークはその違和感がなんなのか気持ち悪さを感じ、その原因を見付けるために集中した。


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