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29-1 断ち切られた関係
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「王城へと戻り、国王になってください」
(国王になることが幸せなことだとは思わない。おそらく国王としての重圧もあるだろう。しかし呪いがなければそのまま王である父親や、弟殿下とも仲良く暮らしていたはずだ。呪いがなければ才能豊かな殿下がそのまま順当に国王として跡を継いでいたはずだ。それが本来の殿下の人生のはず……)
ディークはグッと拳を握り締める。
(殿下の人生に俺との関わりはないんだよ……)
「ディーク……」
泣きそうな顔でディークを見詰めるセルヴィ。ディークの言わんとしていることは理解出来る。セルヴィ自身もそれが正しい選択だとは理解していた。しかし、頭ではそう思っていても心が追い付かない。
「お前は……」
そこまで言いかけたセルヴィはグッと言葉に詰まる。ディークは自分のことをどう思っているのか、自分は必要ではないのか、それだけがセルヴィの頭を占めてしまった。しかし、ディークがセルヴィのこれまでの人生を想い、セルヴィのために言葉にしているのだ、とそう思い至ると、それ以上言葉を続けることが出来なくなった。
セルヴィは俯き、溢れそうになる涙を必死に堪える。拳を握り締め呟いた。
「少し時間をくれ」
顔を逸らしたセルヴィの絞り出すような声に、ディークは胸が締め付けられる思いとなるが、血が滲むほどに拳を握り締め、そしてトルフと共にお辞儀をし、部屋を後にした。
「良かったのでしょうか?」
トルフは眉を下げながらディークに問うた。
「あのように騙し討ちのようになってしまって……」
「うん……でも殿下はこうでもしないときっといつまでも悩むから……」
ディークは、きっとセルヴィはディークのことを気にして、王城へと戻ることを躊躇うのではないかと考えた。自惚れだろうとなんだろうと、それだけセルヴィにとって特別な存在であるだろうと自覚があった。だからこそ、自分のせいでセルヴィにとって大事なことを見誤ってほしくはなかった。
ディークはトルフに眉を下げつつ微笑むと、トルフももうそれ以上言葉にはしなかった。
セルヴィは一人執務室で泣いた。
(ディークにとって私は一体なんなのだろう)
お互いが特別な存在であると思っていた。このままこの関係が続くと思っていた。しかし、ディークは自分よりももっと先を見ていた。
(情けない……私自身よりもディークのほうが私のことを考えていてくれたのだな……)
呪いがなくなれば、王城を離れている理由もない。早逝する訳でもないのなら、国王の跡を継げないということもない。それならば、王城へ戻るのも、国王となることも、第一王子であるセルヴィにとっては当たり前のこと。呪いがなければ元々手にあった人生。
呪いがなくなったのに、幼い弟に全てを丸投げし、自分だけ自由に生きるという選択肢。それをセルヴィが選ぶはずがない。それがディークによってはっきりと突き付けられただけ。
(ディークは私以上に私のことをよく分かっている)
そうセルヴィはクスッと笑った。そしてポロポロと流れ出る涙をグイッと拭い、父王からの手紙を開いた。
父王からの手紙は呪いがなくなったという報告を受けたこと、それを喜んでくれているということ、そして王城へ戻って来て王位を継いでくれ、というものだった。城へ戻り、呪いがなくなったことを確認次第、立太子の儀を執り行い、国や周辺国へと周知を行い、王位継承のための即位式を行う旨が書かれてあった。
それを読んだセルヴィは大きく深呼吸をし、決意を固めた。そして、父王への返事をしたためた。
(国王になることが幸せなことだとは思わない。おそらく国王としての重圧もあるだろう。しかし呪いがなければそのまま王である父親や、弟殿下とも仲良く暮らしていたはずだ。呪いがなければ才能豊かな殿下がそのまま順当に国王として跡を継いでいたはずだ。それが本来の殿下の人生のはず……)
ディークはグッと拳を握り締める。
(殿下の人生に俺との関わりはないんだよ……)
「ディーク……」
泣きそうな顔でディークを見詰めるセルヴィ。ディークの言わんとしていることは理解出来る。セルヴィ自身もそれが正しい選択だとは理解していた。しかし、頭ではそう思っていても心が追い付かない。
「お前は……」
そこまで言いかけたセルヴィはグッと言葉に詰まる。ディークは自分のことをどう思っているのか、自分は必要ではないのか、それだけがセルヴィの頭を占めてしまった。しかし、ディークがセルヴィのこれまでの人生を想い、セルヴィのために言葉にしているのだ、とそう思い至ると、それ以上言葉を続けることが出来なくなった。
セルヴィは俯き、溢れそうになる涙を必死に堪える。拳を握り締め呟いた。
「少し時間をくれ」
顔を逸らしたセルヴィの絞り出すような声に、ディークは胸が締め付けられる思いとなるが、血が滲むほどに拳を握り締め、そしてトルフと共にお辞儀をし、部屋を後にした。
「良かったのでしょうか?」
トルフは眉を下げながらディークに問うた。
「あのように騙し討ちのようになってしまって……」
「うん……でも殿下はこうでもしないときっといつまでも悩むから……」
ディークは、きっとセルヴィはディークのことを気にして、王城へと戻ることを躊躇うのではないかと考えた。自惚れだろうとなんだろうと、それだけセルヴィにとって特別な存在であるだろうと自覚があった。だからこそ、自分のせいでセルヴィにとって大事なことを見誤ってほしくはなかった。
ディークはトルフに眉を下げつつ微笑むと、トルフももうそれ以上言葉にはしなかった。
セルヴィは一人執務室で泣いた。
(ディークにとって私は一体なんなのだろう)
お互いが特別な存在であると思っていた。このままこの関係が続くと思っていた。しかし、ディークは自分よりももっと先を見ていた。
(情けない……私自身よりもディークのほうが私のことを考えていてくれたのだな……)
呪いがなくなれば、王城を離れている理由もない。早逝する訳でもないのなら、国王の跡を継げないということもない。それならば、王城へ戻るのも、国王となることも、第一王子であるセルヴィにとっては当たり前のこと。呪いがなければ元々手にあった人生。
呪いがなくなったのに、幼い弟に全てを丸投げし、自分だけ自由に生きるという選択肢。それをセルヴィが選ぶはずがない。それがディークによってはっきりと突き付けられただけ。
(ディークは私以上に私のことをよく分かっている)
そうセルヴィはクスッと笑った。そしてポロポロと流れ出る涙をグイッと拭い、父王からの手紙を開いた。
父王からの手紙は呪いがなくなったという報告を受けたこと、それを喜んでくれているということ、そして王城へ戻って来て王位を継いでくれ、というものだった。城へ戻り、呪いがなくなったことを確認次第、立太子の儀を執り行い、国や周辺国へと周知を行い、王位継承のための即位式を行う旨が書かれてあった。
それを読んだセルヴィは大きく深呼吸をし、決意を固めた。そして、父王への返事をしたためた。
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