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30-1 王族と騎士
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王城へは数日かけて到着した。道中、セルヴィとディークは必要最低限の会話しかしなかった。城からも護衛が派遣されていたからだ。
セルヴィの乗る馬車の周りにはディークを含め前後四人の護衛が付いていた。
内二人は城にいた頃の顔見知りでもあり、ディークは再会を喜び、一人は貴族の者だったため、ディークを訝しんでいた。
ディークは王城へと戻れば、元々所属していた騎士団の人間に様々な目を向けられるであろうことは予想していた。だからこの護衛からの訝しむ目も予想通り過ぎて苦笑する。
王城へは先触れが出されていたため、城へはすんなりと入城することが出来た。城の扉前には多くの人間がセルヴィの帰還を歓迎するかのように待ち構えていた。
馬車が動きを止め、セルヴィが降りると、一人の男が胸に手を当て、頭を下げる。
「セルヴィ殿下、よくぞお戻りになられました。おかえりなさいませ」
「サイラス、出迎えご苦労」
白髪の混ざる茶色の髪に翠の瞳の優し気でありながら、どこか鋭さも持ち合わせたサイラスと呼ばれた男は目を細め微笑んだ。
サイラスはこの国の宰相、王の右腕であり、セルヴィの事情を知る王に最も近しい人間だ。
今回のセルヴィの帰還を望んだのはサイラスの意見でもある。
現在、この国の国王は体調が芳しくない。セルヴィが王城を去る以前から、病がちとなっていた国王は次第に病状が悪化していた。
セルヴィの弟である、第二王子フェリオは現在十五歳。成人するまでまだ三年もあった。成人前では王位を継ぐことは出来ない。
従って無理を押して、国王は政務を続けていた。そこにきてセルヴィの呪いがなくなったという吉報。
国王とサイラスは、信じられない思いではいたが、本当ならばこれほど嬉しいことはない、と、セルヴィが帰城することを望んだ。
サイラスに先導され、セルヴィは王の執務室へと向かう。ディークは近衛騎士として傍にいることを許されたが、セルヴィの背中を見詰め、その距離感に胸の奥がチクリと痛む。
ミルフェン城にいた頃には感じなかった『壁』。『王族と騎士』という、どうやっても越えられない見えない壁が、セルヴィを遠く感じさせる。
王城という威圧感。
以前王城にいた頃には感じなかった、場違いなところへと迷い込んだような違和感。自分が異物のようだ、とディークは苦笑する。
執務室へと到着すると、サイラスは扉を叩く。
「陛下、セルヴィ殿下がご到着されました」
「入れ」
中からは初老の男の声。
セルヴィはチラリと視線を背後に移し小さく言った。
「ディークはここに」
「はい……」
視線を合わせることなく、セルヴィはそう指示すると、王の執務室へと姿を消した。
ディークは扉の前で後ろ手に直立し、扉前に立つ二人の近衛騎士と同様にセルヴィが出て来るのをその場で待った。
近衛騎士たちとは面識はないが、おそらくディークの噂を知っているのだろう。チラチラとディークに視線を寄越す近衛騎士たちにディークは苦笑する。
小一時間ほどするとセルヴィが部屋から姿を現す。
「待たせた、行こう」
セルヴィはディークにそう言うと、スタスタと歩き出す。
ディークは近衛騎士たちにぺこりと頭を下げ、慌ててセルヴィのあとに続く。
「で、殿下、あの、どのようなお話に……」
廊下をスタスタと早足で歩き続けるセルヴィに声を掛けるが、なにも話さずスタスタと……。
道行く途中にすれ違う者たちは、セルヴィとすれ違うたびに、仮面に気付きギクリとし、慌てて頭を下げる。
そんな様子を一切気に止めるでもなく、セルヴィは迷うことなく歩き続け、ひとつの部屋の前にたどり着くと、バンッと勢い良く扉を開け、なかへと入った。
そこはセルヴィの私室。王城から離れミルフェン城へと移り住んだあとも、そのままセルヴィの部屋として残されていたのだろう。埃などがかぶった様子もなく、定期的に掃除をされ、いつセルヴィが戻っても良いように手入れをされていたのだろう、ということが容易に想像がつく。
それだけセルヴィは跡継ぎとして国王から信頼されていたのだろう。出来ることなら呪いを解いてやりたい、と一番強く願っていたのは国王かもしれない。
ディークに家族愛は分からない。家族がいない、ましてや今までそういった相手がいなかった。無償の愛というものを知る術もなかった。しかし、セルヴィを愛する気持ちを知り、国王がどれほど自分の子の呪いを解きたいと思っていたかは理解が出来た。
(殿下は愛されている……俺がいなくてももう大丈夫だ……)
ディークは立ち止まり、扉の前に佇む。
セルヴィの乗る馬車の周りにはディークを含め前後四人の護衛が付いていた。
内二人は城にいた頃の顔見知りでもあり、ディークは再会を喜び、一人は貴族の者だったため、ディークを訝しんでいた。
ディークは王城へと戻れば、元々所属していた騎士団の人間に様々な目を向けられるであろうことは予想していた。だからこの護衛からの訝しむ目も予想通り過ぎて苦笑する。
王城へは先触れが出されていたため、城へはすんなりと入城することが出来た。城の扉前には多くの人間がセルヴィの帰還を歓迎するかのように待ち構えていた。
馬車が動きを止め、セルヴィが降りると、一人の男が胸に手を当て、頭を下げる。
「セルヴィ殿下、よくぞお戻りになられました。おかえりなさいませ」
「サイラス、出迎えご苦労」
白髪の混ざる茶色の髪に翠の瞳の優し気でありながら、どこか鋭さも持ち合わせたサイラスと呼ばれた男は目を細め微笑んだ。
サイラスはこの国の宰相、王の右腕であり、セルヴィの事情を知る王に最も近しい人間だ。
今回のセルヴィの帰還を望んだのはサイラスの意見でもある。
現在、この国の国王は体調が芳しくない。セルヴィが王城を去る以前から、病がちとなっていた国王は次第に病状が悪化していた。
セルヴィの弟である、第二王子フェリオは現在十五歳。成人するまでまだ三年もあった。成人前では王位を継ぐことは出来ない。
従って無理を押して、国王は政務を続けていた。そこにきてセルヴィの呪いがなくなったという吉報。
国王とサイラスは、信じられない思いではいたが、本当ならばこれほど嬉しいことはない、と、セルヴィが帰城することを望んだ。
サイラスに先導され、セルヴィは王の執務室へと向かう。ディークは近衛騎士として傍にいることを許されたが、セルヴィの背中を見詰め、その距離感に胸の奥がチクリと痛む。
ミルフェン城にいた頃には感じなかった『壁』。『王族と騎士』という、どうやっても越えられない見えない壁が、セルヴィを遠く感じさせる。
王城という威圧感。
以前王城にいた頃には感じなかった、場違いなところへと迷い込んだような違和感。自分が異物のようだ、とディークは苦笑する。
執務室へと到着すると、サイラスは扉を叩く。
「陛下、セルヴィ殿下がご到着されました」
「入れ」
中からは初老の男の声。
セルヴィはチラリと視線を背後に移し小さく言った。
「ディークはここに」
「はい……」
視線を合わせることなく、セルヴィはそう指示すると、王の執務室へと姿を消した。
ディークは扉の前で後ろ手に直立し、扉前に立つ二人の近衛騎士と同様にセルヴィが出て来るのをその場で待った。
近衛騎士たちとは面識はないが、おそらくディークの噂を知っているのだろう。チラチラとディークに視線を寄越す近衛騎士たちにディークは苦笑する。
小一時間ほどするとセルヴィが部屋から姿を現す。
「待たせた、行こう」
セルヴィはディークにそう言うと、スタスタと歩き出す。
ディークは近衛騎士たちにぺこりと頭を下げ、慌ててセルヴィのあとに続く。
「で、殿下、あの、どのようなお話に……」
廊下をスタスタと早足で歩き続けるセルヴィに声を掛けるが、なにも話さずスタスタと……。
道行く途中にすれ違う者たちは、セルヴィとすれ違うたびに、仮面に気付きギクリとし、慌てて頭を下げる。
そんな様子を一切気に止めるでもなく、セルヴィは迷うことなく歩き続け、ひとつの部屋の前にたどり着くと、バンッと勢い良く扉を開け、なかへと入った。
そこはセルヴィの私室。王城から離れミルフェン城へと移り住んだあとも、そのままセルヴィの部屋として残されていたのだろう。埃などがかぶった様子もなく、定期的に掃除をされ、いつセルヴィが戻っても良いように手入れをされていたのだろう、ということが容易に想像がつく。
それだけセルヴィは跡継ぎとして国王から信頼されていたのだろう。出来ることなら呪いを解いてやりたい、と一番強く願っていたのは国王かもしれない。
ディークに家族愛は分からない。家族がいない、ましてや今までそういった相手がいなかった。無償の愛というものを知る術もなかった。しかし、セルヴィを愛する気持ちを知り、国王がどれほど自分の子の呪いを解きたいと思っていたかは理解が出来た。
(殿下は愛されている……俺がいなくてももう大丈夫だ……)
ディークは立ち止まり、扉の前に佇む。
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