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30-2 王族と騎士
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「ディーク?」
それに気付いたセルヴィは扉のところで立ち止まっているディークに目をやり、首を傾げた。
「なにをしているんだ? 入らないのか?」
「え、いや、私は近衛ですので、扉前で待機致しますね」
そう踵を返し、扉に手を掛け外へと出ようとすると、セルヴィがつかつかと歩み寄り、バンッ! と、扉を閉めた。
「ここにいろ」
「えっ」
扉を閉め、ディークの腕を掴むと、応接椅子まで引っ張り座らせた。
そしてセルヴィはその横にドカッと腰を下ろし、項垂れ深い溜め息を吐いた。
「あー、あの……」
「少しの間だけでも良いからここにいてくれ……頼むから……」
項垂れていたセルヴィはチラリとディークの顔を見ると、そっと手を伸ばしディークの手を握り締めた。手袋越しではあるが、温かいセルヴィの手にギクリと身体を強張らせる。久しぶりのセルヴィの手。触れ合いを止めてからは一切触れていない。
ディークは触れられたその手に身体がカァッと熱くなるのを感じる。しかし、今はもう触れ合うことを許される立場ではない。
ディークは自身のなかに湧き上がる感情をグッと力尽くで抑え込む。
「どうかされましたか?」
セルヴィの手を握り返すこともなく極めて冷静に言葉にした。そのことにセルヴィは酷く悲し気な顔となる。
「二人きりのときでも……もう、触れてはくれないのか? 今までのようには接してくれないのか?」
泣きそうな顔となるセルヴィに、ディークは胸を締め付けられるが、しかし、今までのような関係を続ける訳にはいかない。今後このような関係が万が一にもどこかに漏れたとしたら、セルヴィの立場が危うくなる。それだけは避けなければならない。そうディークは必死に自分に言い聞かせる。
「貴方と私では立場が違います……」
「…………そう、だな……」
グッと涙を堪えるように眉間に皺を寄せたセルヴィは、ディークの手を握っていた自身の手をそっと離した。
「陛下には仮面を外し、痣が消えたことを伝えた。とても喜んでくれたよ。それから今後主治医に呪いが完全に消えたかを確認してもらい、確認取れ次第、立太子の儀についてや、即位までの様々なことを説明された。今後具体的な日程を決めていくことになった」
「…………そうですか。おめでとうございます」
ディークは必死に笑顔を作った。そんなディークにセルヴィはやはり悲しそうな顔となるが話を続ける。
「そして明日の夜には夜会を行い、私の帰還を報告するから出席するように言われた」
「夜会、ですか……」
「あぁ……ディークも傍にいてくれ……」
「もちろんです……が、私はおそらく会場の端のほうで目を配るだけでしょうけどね」
夜会、しかも、陛下主催の夜会となれば、警護は抜かりなく完璧のはず。会場にも武器となる物の携帯は許されない。ディーク以外の護衛も大勢配置されるはず。だから、ディークがピタリと傍に張り付く必要はないのだ。すっかりと遠い人間になってしまったとディークは苦笑する。
(しかし、それは俺が望んだことだ……自分で望んだくせに傷付く資格なんてない)
セルヴィが求めようが、突き放した態度しか取れない自分が傷付く資格などないのだ、と自分を戒める。
「それでは私は少しだけ席を外しますね。騎士団に帰還を報告し、今後殿下の護衛についての話をして参ります」
「私の護衛はディークだけだ!」
そう叫ぶセルヴィは立ち上がったディークの袖を掴んだ。そんな姿に愛おしくなり、今すぐにでも抱き締めて唇を合わせ、身体ごとセルヴィを愛したい、そう思うが、ディークはグッと拳を握り締める。
「もちろんですよ。しかし、私にも休息は必要ですからね。私が席を外すときの交代の人選をしてきます」
袖を掴むセルヴィの手をそっと包み込むように触れ、そして自身の腕から外した。
「それでは少し失礼致します」
姿勢を正し、頭を下げるとディークはセルヴィの部屋をあとにした。
それに気付いたセルヴィは扉のところで立ち止まっているディークに目をやり、首を傾げた。
「なにをしているんだ? 入らないのか?」
「え、いや、私は近衛ですので、扉前で待機致しますね」
そう踵を返し、扉に手を掛け外へと出ようとすると、セルヴィがつかつかと歩み寄り、バンッ! と、扉を閉めた。
「ここにいろ」
「えっ」
扉を閉め、ディークの腕を掴むと、応接椅子まで引っ張り座らせた。
そしてセルヴィはその横にドカッと腰を下ろし、項垂れ深い溜め息を吐いた。
「あー、あの……」
「少しの間だけでも良いからここにいてくれ……頼むから……」
項垂れていたセルヴィはチラリとディークの顔を見ると、そっと手を伸ばしディークの手を握り締めた。手袋越しではあるが、温かいセルヴィの手にギクリと身体を強張らせる。久しぶりのセルヴィの手。触れ合いを止めてからは一切触れていない。
ディークは触れられたその手に身体がカァッと熱くなるのを感じる。しかし、今はもう触れ合うことを許される立場ではない。
ディークは自身のなかに湧き上がる感情をグッと力尽くで抑え込む。
「どうかされましたか?」
セルヴィの手を握り返すこともなく極めて冷静に言葉にした。そのことにセルヴィは酷く悲し気な顔となる。
「二人きりのときでも……もう、触れてはくれないのか? 今までのようには接してくれないのか?」
泣きそうな顔となるセルヴィに、ディークは胸を締め付けられるが、しかし、今までのような関係を続ける訳にはいかない。今後このような関係が万が一にもどこかに漏れたとしたら、セルヴィの立場が危うくなる。それだけは避けなければならない。そうディークは必死に自分に言い聞かせる。
「貴方と私では立場が違います……」
「…………そう、だな……」
グッと涙を堪えるように眉間に皺を寄せたセルヴィは、ディークの手を握っていた自身の手をそっと離した。
「陛下には仮面を外し、痣が消えたことを伝えた。とても喜んでくれたよ。それから今後主治医に呪いが完全に消えたかを確認してもらい、確認取れ次第、立太子の儀についてや、即位までの様々なことを説明された。今後具体的な日程を決めていくことになった」
「…………そうですか。おめでとうございます」
ディークは必死に笑顔を作った。そんなディークにセルヴィはやはり悲しそうな顔となるが話を続ける。
「そして明日の夜には夜会を行い、私の帰還を報告するから出席するように言われた」
「夜会、ですか……」
「あぁ……ディークも傍にいてくれ……」
「もちろんです……が、私はおそらく会場の端のほうで目を配るだけでしょうけどね」
夜会、しかも、陛下主催の夜会となれば、警護は抜かりなく完璧のはず。会場にも武器となる物の携帯は許されない。ディーク以外の護衛も大勢配置されるはず。だから、ディークがピタリと傍に張り付く必要はないのだ。すっかりと遠い人間になってしまったとディークは苦笑する。
(しかし、それは俺が望んだことだ……自分で望んだくせに傷付く資格なんてない)
セルヴィが求めようが、突き放した態度しか取れない自分が傷付く資格などないのだ、と自分を戒める。
「それでは私は少しだけ席を外しますね。騎士団に帰還を報告し、今後殿下の護衛についての話をして参ります」
「私の護衛はディークだけだ!」
そう叫ぶセルヴィは立ち上がったディークの袖を掴んだ。そんな姿に愛おしくなり、今すぐにでも抱き締めて唇を合わせ、身体ごとセルヴィを愛したい、そう思うが、ディークはグッと拳を握り締める。
「もちろんですよ。しかし、私にも休息は必要ですからね。私が席を外すときの交代の人選をしてきます」
袖を掴むセルヴィの手をそっと包み込むように触れ、そして自身の腕から外した。
「それでは少し失礼致します」
姿勢を正し、頭を下げるとディークはセルヴィの部屋をあとにした。
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