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36-1 再会

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「はい、どちらさま?」

 その声にセルヴィの心臓がドクンと大きく跳ねた。

(あぁ……ディークの声……)

 セルヴィはゆっくり扉を開けた。緊張で足が竦む。しかし、深呼吸をし、小屋のなかへと足を踏み入れた。
 小屋のなかはそれほど広くはないが、綺麗に片付けられていた。入ってすぐの部屋にはキッチンらしきところとテーブル。窓からは海が見える。

「誰だ? 誰か入って来たのか? なら、帰ってくれ。何の用か知らんが、俺には誰かと会う予定もなければ、用もない」

 続き部屋らしいところから声がする。

(ディーク……)

 懐かしいディークの声。聞き間違えるはずがなかった。久しぶりでも、その声音にドキリとし、涙が出そうになるほど嬉しくなる。しかし、ディークの声は冷ややかで、人を拒絶する言葉。そのことにセルヴィは違和感を覚える。

(ディークはあんな人を避けるようなことはしないのに……)

 嬉しい反面、なにやら少し不安になってくる。セルヴィは恐る恐る足を進める。

(もしディークが嫌がったらどうしよう。私の顔を見て嫌悪の表情になったらどうしよう。もう二度と会いたくはなかったと言われたらどうしよう……)

 セルヴィはそんな不安が頭を巡り、身体が震える。

(怖い……でも……)

 ゆっくりと続き部屋を覗き込むと、そこにはベッドに腰かけたまま、こちらを見詰めるディーク……。

「ちっ、誰だ。入って来るなって言っただろうが。物取りか? なにもないぞ? ここには俺だけだし、女もいない。金目のものもなにもない。さっさと帰れ」

 怪訝そうな表情のディーク。セルヴィの入って来た続き部屋の入り口に顔を向けている。しかし、その目は焦点の合わない目……。

 顔はディークであることに間違いはない。少し年を取った雰囲気はする。痩せたようにも見える。しかし、それ以上に……。

 ディークの赤かった瞳は黒く、焦点の合わない目。そして……顔の頬から額にかけては……黒ずんでいた。

「ディーク!!」

 セルヴィは駆け寄り、ディークの顔を両手で包み上を向かせた。

「!? だ、誰だ!? 離せ!!」

 ディークは掴まれた顔を振り払い、自身の顔を掴んでいた手をガシッと掴んだ。しかし、その手はディークの顔から離れることなく、がっしりと掴んだままぐいっと再びディークの顔を上に向かせる。

「どういうことだ!! ディーク!! ディーク!! なぜ!? なぜ、ディークに痣が!!」

 セルヴィは涙を落としながら叫んだ。

「え……その声……まさか……で、殿下?」

 ディークは固まり震える声で呟いた。

「あぁ……あぁ、私だ。セルヴィだ。ディーク……ディーク……まさか……目が……」

 ポタポタとディークの頬へ涙を落とす。

「は、離してください! なぜ殿下がここに!? い、いや、そんなのはどうでもいい。帰ってください……」

 ディークは顔を逸らそうと、横を向くが、セルヴィはディークの顔を離さない。

「嫌だ!!」

 セルヴィはディークの唇に唇を重ねた。

 しかし、ふにっと重ねられたそれにディークはビクッとし、セルヴィの手を思い切り引き剥がし、顔を離す。

「私のことが嫌いになったのか? 喜んでくれないのか?」

 セルヴィは涙を流す。ディークは顔を背けながら眉間に皺を寄せる。

「嫌いな訳がないでしょう!!」

 苦しそうな顔のディーク。絞り出すように言葉を続ける。

「でも……会いに来て欲しくはなかった……」
「ディーク……それはお前が私の呪いを引き継いだからか?」
「!!」

 セルヴィの言葉にガバッとディークは振り向いたが、その瞳にはセルヴィの姿は映さない。なにも見ることの出来ない瞳。黒く染まったディークの瞳は、しかし、涙を浮かべた。

 セルヴィはディークの上着を力任せに剥ぎ取った。シャツのボタンを引き千切る。ぶちぶちと音を響かせたシャツは、ボタンを弾け飛ばせディークの胸を露わにした。

「!!」

 ディークの上半身はすでに真っ黒に染まっていた。

「殿下!! やめっ!!」

 ディークは隠すように身体を捻るが、セルヴィはディークの腕を掴みベッドに押し倒した。そして腰に馬乗りになると、ディークの身体を見下ろす。そして、真っ黒に染まったディークの胸に手を這わせる。

「んっ、ちょ、ちょっと殿下!」

「私の呪いはお前に移っただけだったんだな?」
「…………」
「触れ合う行為……もしかして体液と共に呪いがうつるのか? 愛し合う行為……そのことで行う口付けや性行為での体液の移動……それに乗って呪いも移動するんだな?」
「…………」
「だからあのとき……最後のあの日……お前は口付けをしなかったんだな? お前のものも私のなかには出さなかった……」
「…………」
「それに……服を脱がなかったのは……あのとき、もうすでに痣が出ていたんだな?」
「…………」

 ディークはなにも言葉に出来なかった。目にまで痣が広がり失明した。そんな目ではセルヴィの顔を見ることが出来ない。しかし、それでも今セルヴィがどんな表情をしているのかが容易に想像がつく。

「なんで……そんな……」

 苦しそうに言葉を繋ぐセルヴィにディークはフッと笑った。

「そんなもん、好きだから……愛しているからに決まってるでしょう」

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