70 / 76
35-2 それから…
しおりを挟む
それからセルヴィは何年もかけディークを探した。どこへ行ったのか全く分からないディークの行方をひたすら探した。自身が赴いたり、人を雇い探させた。
ミルフェン城へ行ったのかと聞いても、誰も行方を知らなかった。ダトス村があったところへ戻ったのか、と探しても、ディークは見付からない。
国中の街や村に黒髪で赤い目の男を見たことはないかと聞いて回る。黒髪は比較的珍しい。見る機会が少ないため、黒髪の男が来たら分かりやすそうなものなのに、ディークの目撃例は一切聞こえてこなかった。聞こえて来たにしても、かなり昔……ディークが王城を出た当初の話だけだった。
しかし、そんなある日、ようやく黒髪の男を見た、という話が聞けたのだ。セルヴィはその話を聞けた村へと急いで向かった。そこで黒髪の男を見掛けたという人間に話を聞く。
平民の服装ではいたが、セルヴィの容姿は人目を惹く。小さな村に現れたセルヴィの姿に皆、村の者は驚き、じろじろとその姿を遠巻きに眺めるが、セルヴィはそんなことを構うことなく、目撃したという男に話を聞いた。
「黒髪で赤い目の男を見掛けたというのは貴方ですか?」
「え? あー、黒髪の男は確かに少し前に見掛けたな。村へ食料を買いに来ていたようだった。あまり見掛けない男だから、店の者に聞いたんだよ。そしたら、ごくまれに現れて、調味料とかを買って行くって言ってたな。でも、そいつ、赤い目じゃないぞ?」
「え!?」
セルヴィは驚きの顔をし、その男に詰め寄る。
「黒髪なんですよね!? 赤色の目ではなかったんですか!?」
赤い目でないのならディークではない。そう考えるとセルヴィはあからさまにショックを受けた顔をする。ようやくディークを見付けたと思ったのに、別人だったのか、そうセルヴィは落胆する。
「あ、あぁ、赤色ではなかったと思う。遠目だったけど、赤い目なら目立つしな。黒目だったと思うぞ?」
「黒目……」
「お、おう……な、なんか悪いことしたか? 黒髪のことしか聞かれなかったから見たと言ったんだが……」
男はセルヴィのあまりの落ち込みっぷりに少し申し訳なさそうな顔となった。そんな姿にセルヴィは慌てて身体を離し苦笑する。
「い、いえ、すみません。私が早とちりしたのが悪いので……。ちなみにその方が住んでいるところって分かりますか?」
「あー、なんか村の外れの丘に住んでるってさ」
「丘?」
「あぁ、その丘からは眼下に海が見えるんだが、そこに小さな小屋を建てて住んでんだって。景色は良いが、崖っぷちだし、風が強くて暮らすには不向きな場所なのにな。物好きだな、って村の人間は笑ってる」
そう言いながらアハハと笑う男。セルヴィはなにかを思い出すように考え込んだ。そして、ハッとし男にその丘のある場所を聞く。
「そこに行くつもりか? やめといたほうが良いぞ? その男、人嫌いなのか、滅多に村の人間にすら会わない。たまに村の人間が心配して様子を見に行くらしいんだが、いつもフードを被って顔すらよく見えないような姿で、すぐに追い出されるそうだ。まさか犯罪でも起こした人間なんじゃないだろうな、と疑われていたこともあるくらいだ」
「分かりました。ありがとうございます。少し様子を見て、追い出されるようなら退散しますよ」
そう言ってセルヴィはその男にお礼をし、丘へと向かった。
(ディークだろうか……しかし、ディークならば誰とでも気さくに仲良くなるはず……人嫌いだと思われるような人間ではない。……ならば、やはりディークではない、のか……)
そう考えながら溜め息を吐く。無駄足かもしれない。ディークではないのなら、時間の無駄かもしれない。しかし、セルヴィはどうしても確認したい思いが抑えられなかった。
(海……海の見える小屋……)
遠い記憶。ディークと想いを通わせたあの日。最初で最後に繋がった心と身体。あの日ディークが話した夢。老後は海の見えるところで暮らすのが夢だと言っていた。それを今思い出す。
別人かもしれない。しかし、緊張で胸の高鳴りが耳に煩く響く。
教えてもらった丘へと進むと、開けた場所にぽつんと一軒の小屋が建てられてあった。村の男が言うように、強い風が吹きすさぶ。眼下には真っ青の海が広がっていた。波の音、海の香り。
ザザァという音色が心を落ち着かせる。
セルヴィは小屋の前に立ち、深呼吸をした。ドキドキと心臓の音が煩い。セルヴィはゆっくり手を持ち上げたかと思うと、扉を叩いた。
ミルフェン城へ行ったのかと聞いても、誰も行方を知らなかった。ダトス村があったところへ戻ったのか、と探しても、ディークは見付からない。
国中の街や村に黒髪で赤い目の男を見たことはないかと聞いて回る。黒髪は比較的珍しい。見る機会が少ないため、黒髪の男が来たら分かりやすそうなものなのに、ディークの目撃例は一切聞こえてこなかった。聞こえて来たにしても、かなり昔……ディークが王城を出た当初の話だけだった。
しかし、そんなある日、ようやく黒髪の男を見た、という話が聞けたのだ。セルヴィはその話を聞けた村へと急いで向かった。そこで黒髪の男を見掛けたという人間に話を聞く。
平民の服装ではいたが、セルヴィの容姿は人目を惹く。小さな村に現れたセルヴィの姿に皆、村の者は驚き、じろじろとその姿を遠巻きに眺めるが、セルヴィはそんなことを構うことなく、目撃したという男に話を聞いた。
「黒髪で赤い目の男を見掛けたというのは貴方ですか?」
「え? あー、黒髪の男は確かに少し前に見掛けたな。村へ食料を買いに来ていたようだった。あまり見掛けない男だから、店の者に聞いたんだよ。そしたら、ごくまれに現れて、調味料とかを買って行くって言ってたな。でも、そいつ、赤い目じゃないぞ?」
「え!?」
セルヴィは驚きの顔をし、その男に詰め寄る。
「黒髪なんですよね!? 赤色の目ではなかったんですか!?」
赤い目でないのならディークではない。そう考えるとセルヴィはあからさまにショックを受けた顔をする。ようやくディークを見付けたと思ったのに、別人だったのか、そうセルヴィは落胆する。
「あ、あぁ、赤色ではなかったと思う。遠目だったけど、赤い目なら目立つしな。黒目だったと思うぞ?」
「黒目……」
「お、おう……な、なんか悪いことしたか? 黒髪のことしか聞かれなかったから見たと言ったんだが……」
男はセルヴィのあまりの落ち込みっぷりに少し申し訳なさそうな顔となった。そんな姿にセルヴィは慌てて身体を離し苦笑する。
「い、いえ、すみません。私が早とちりしたのが悪いので……。ちなみにその方が住んでいるところって分かりますか?」
「あー、なんか村の外れの丘に住んでるってさ」
「丘?」
「あぁ、その丘からは眼下に海が見えるんだが、そこに小さな小屋を建てて住んでんだって。景色は良いが、崖っぷちだし、風が強くて暮らすには不向きな場所なのにな。物好きだな、って村の人間は笑ってる」
そう言いながらアハハと笑う男。セルヴィはなにかを思い出すように考え込んだ。そして、ハッとし男にその丘のある場所を聞く。
「そこに行くつもりか? やめといたほうが良いぞ? その男、人嫌いなのか、滅多に村の人間にすら会わない。たまに村の人間が心配して様子を見に行くらしいんだが、いつもフードを被って顔すらよく見えないような姿で、すぐに追い出されるそうだ。まさか犯罪でも起こした人間なんじゃないだろうな、と疑われていたこともあるくらいだ」
「分かりました。ありがとうございます。少し様子を見て、追い出されるようなら退散しますよ」
そう言ってセルヴィはその男にお礼をし、丘へと向かった。
(ディークだろうか……しかし、ディークならば誰とでも気さくに仲良くなるはず……人嫌いだと思われるような人間ではない。……ならば、やはりディークではない、のか……)
そう考えながら溜め息を吐く。無駄足かもしれない。ディークではないのなら、時間の無駄かもしれない。しかし、セルヴィはどうしても確認したい思いが抑えられなかった。
(海……海の見える小屋……)
遠い記憶。ディークと想いを通わせたあの日。最初で最後に繋がった心と身体。あの日ディークが話した夢。老後は海の見えるところで暮らすのが夢だと言っていた。それを今思い出す。
別人かもしれない。しかし、緊張で胸の高鳴りが耳に煩く響く。
教えてもらった丘へと進むと、開けた場所にぽつんと一軒の小屋が建てられてあった。村の男が言うように、強い風が吹きすさぶ。眼下には真っ青の海が広がっていた。波の音、海の香り。
ザザァという音色が心を落ち着かせる。
セルヴィは小屋の前に立ち、深呼吸をした。ドキドキと心臓の音が煩い。セルヴィはゆっくり手を持ち上げたかと思うと、扉を叩いた。
応援ありがとうございます!
228
お気に入りに追加
507
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる