【完結】呪われ王子は生意気な騎士に仮面を外される

４－２ ミルフェン城の使用人たち

「ま、マジか。そ、それは大変だったな……」

　それがどれだけ大変なことか、ディークにすら理解出来る。いくら人嫌いで使用人の数も最低で良いとはいえ、王子が暮らすにはそれなりに人手がいるのは当たり前だ。
　ましてやこんな広い城だ。通常ならば何十人、下手すると百人近く使用人がいてもおかしくないかもしれない。

　トルフも当時を思い出しているのか、遠い目をしていた。

　男三人で乾いた笑いが起こる……。

「ま、まあノアも他の使用人も皆良いやつばかりだからよろしく頼むよ」
「ハハハ……ノア、よろしくな」

　そう言い頭にポンと手を置くと、ビシッと手を払われた。

「子供扱いしないでください」

　ジロリと睨まれディークは固まった。

「あ、すみません」

　思わず謝ってしまう。

（可愛い顔して性格悪そうだな）

「おいおい、仲良くしろよー？」

　イアンが苦笑しながらノアの頭に手を置くと、ノアは顔を赤らめ俯いた。

（おい、なんだその差は！）

　イアンに撫でられ嬉しそうなノアは、チラリとディークに視線を向けるがフンッと人を馬鹿にするような目。

（イラッ。こ、こいつ！）

　基本負けず嫌いであるディークは顔を引き攣らせながらもなんとか耐えたのだった。



　腹が減ったと軽食をもらい、その後トルフに部屋を用意してもらう。

「ディークさんはこちらをお使いください。この階の部屋はほぼ使用人のための部屋になっています」
「へぇ、ありがとう。セルヴィ殿下の護衛は明日から就くことになったから、今日のうちに使用人みんなに挨拶したいんだが、夜にでも集まってもらえるだろうか」
「分かりました。基本的にセルヴィ殿下の身の回りの世話などは一切ありませんから、殿下のご夕食後に使用人全員食堂に集まるよう伝えます」
「ありがとう、頼むよ」

（身の回りの世話は一切ないとかも気になるが、まあ……人嫌いの上、これだけ使用人が少なけりゃ当然……か？）

　部屋は使用人が使うにはあまりにも豪華だった。
　部屋はメインルーム、ドレスルーム、バスルームがあり、メインルームには大きなベッドと机が置かれていた。

「すげーな」

　一通りの使用人たちのタイムスケジュールやルールなどをトルフに尋ねると、食事の時間や誰がいつどこで作業しているかなどが書かれた書類をもらうことが出来、使用人たちと顔合わせまでの時間で確認をする。


　基本的には、朝、セルヴィの朝食時間の二時間前から始業する。
　セルヴィの朝食前に使用人たちが軽めに朝食。予定がある者以外は皆一緒に厨房横にある使用人食堂で食事をする。昼と夜はセルヴィの食事後ということが朝食とは違うが、厨房横の食堂で皆一緒に食事をすることは同様。
　各々仕事内容は別途。
　夜はセルヴィの食事が終わり部屋に戻ると、その後使用人たちは自由時間。

　メイドがセルヴィの部屋の掃除や洗濯物を回収したりはするが、基本的にはセルヴィの部屋には入室しない。
　側仕えの執事が仕事を持ち込むときは部屋でやり取りはあるが、必要以上には滞在しない。


「とりあえず特に覚えたほうが良いことはこんなもんか」

　セルヴィと使用人たちの関わり方がやはり極端に少ないな、とディークは書類を見ながら考え込む。

「まあある意味気楽か？　いや、でも俺は近衛だもんな……護衛が必要あるのかは疑問だが……」

　明日からの護衛にげんなりしながら、背もたれにぐったりと凭れかかった。

「さて、明日からどうなるやらだな」

　そう考えつつ、周りをきょろっと見回し呟く。

「こんだけ広いと部屋で訓練出来そうだな」

　おもむろに剣の鞘を抜いて振り回し、夢中になりすぎ早速ベッドの柱に小さな傷を付けてしまい「やべっ」と一人呟くのだった。