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5-1 賑やかなメイドたち
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セルヴィはディークが出て行った扉を見詰め、盛大な溜め息を吐いた。
「苦情の手紙でも書くか……」
おもむろにペンを取り、ディークの任命取消申請の手紙を父王に送ろうかと机に向かった。
「いや……無駄か……」
元々セルヴィは使用人ですらほぼ必要ないと訴え、王城からはトルフとイアンしか同行させなかった。
そのせいで使用人をこちらで雇うはめになり、トルフたちには苦労をかけてしまったことを、セルヴィはよく分かっていたし後悔もしていた。
ある程度は使用人を受け入れたら良かった、と。
しかし、今さらそれを言ったところですでに遅い。それも分かっていたため、使用人の選出に対して、セルヴィは口を出さなかった。丸投げと言われたらそうなのかもしれないが、セルヴィが口を出したところで、教養的にも人間的にも自身や周りが完璧に納得出来る人材を選べるとは思っていなかった。
そのためトルフとイアンに全てを任せ、責任は自身が取れば良い、という判断に至った。
そんなセルヴィが国から任命され派遣されてきた近衛騎士を、自身がいらないから、と追い返せるはずもないことを理解していた。
(おそらく何か理由があり、ここへ配属されたのだろう。でなければ、わざわざこんな場所へ好んで来る者などいないだろうしな……)
セルヴィは自嘲気味に笑った。手にしていたペンを机に置き、再び溜め息を吐いた。
「しかし……私のこの仮面を見て顔色を変えず普通に接して来たやつは初めてかもしれないな……いや、普通というか……無礼だったな……」
あのときのディークの顔や無礼な行動を思い出しイラッとしたセルヴィだった……。
「殿下、夕食のお時間です」
「分かった」
扉が叩かれ、側仕えから声をかけられる。声をかけられてからもセルヴィはしばらく部屋からは出ない。
そして外の気配がなくなったことを確認すると、ようやく部屋を出て食堂へと向かうのだ。
側仕えの執事ももう慣れたもので、セルヴィに声を掛け終わると、早々に食堂まで素早く戻る。
セルヴィが使用人たちとほとんど顔を合わせないことを分かっているからだ。
セルヴィが食堂へ向かい、無駄に大きいテーブルの席へと着くと、先程声をかけた側仕えの執事が給仕していく。
食事をするときも仮面をしたままのセルヴィ。異様な姿だと、初めてこの姿を見たときの使用人はたじろいでいたが、今やもう皆慣れたものだ。使用人たちは仮面を不気味だとは思っても、セルヴィ本人は、口数は少なくとも理不尽なことを命令したりすることはない、理性的な王子だと認識している。
そのためこの城の使用人たちは、セルヴィのことを嫌っている者は一人もいない。
セルヴィは出された料理に文句をつけることはないが、美味いと口にしたこともない。
ただひたすら黙々と食事をし、終われば私室へ戻るだけ。
そんな黙々と一人で食べる姿にトルフはいつも少なからず心を痛めていた。広いテーブルでたった一人で食べる食事は寂しいのではないか、と。
しかしセルヴィは表情を変えたことは一度もない。常に無表情。傷付かないように感情を抑え込んでいるだけではないのか、とトルフは思っていた。
「あれはどうした」
そんなセルヴィが今日はなぜか言葉を発した。
傍に控えていたトルフは驚き慌てたが、そこはベテランの執事として顔には出さない。極めて冷静に答える。
「あれ、とは?」
「…………今日来たやつだ」
「あぁ、近衛騎士のディーク様ですか?」
セルヴィは特に視線を向けるでもなく、ボソッと聞く。
「そうだ」
「ディーク様にはお部屋をご案内し、明日からの任務のため、本日使用人と顔合わせをされたいとのことでしたので、この後皆で顔合わせをする予定です」
今まで食事のときに、さらには他人のことなど聞いてきたことはなかったセルヴィが、ディークのことを聞いてきたという事実にトルフだけでなく、側仕えの執事も驚いた顔をしていた。
「そうか……」
「なにかお伝えすることがごさいますか?」
トルフはセルヴィのその少しの変化がなにやら気になったのだが、極めて冷静に対応していた。
「いや、別に……部屋へ戻る」
「かしこまりました」
セルヴィが食堂を後にすると、側仕えの執事は興奮するようにトルフに詰め寄った。
「トルフさん! なんですかあれ!? 殿下が喋った!」
いや、セルヴィも喋りはするだろう、とトルフは苦笑するが、確かに普段は食事中に喋ることなどないセルヴィが他人に興味を示すとは。執事二人はそのことに動揺した。
「まあ、今まで私とイアンしか王城から来た者はいませんからね。王城からやって来たディークさんが気になるのかもしれません」
「王城かぁ……」
側仕えの執事は街から募集した人間。王城に憧れるのも無理はない、とトルフは微笑んだ。
「さあ、ロイス、片付けますよ? この後ディークさんが食堂に来ますから、色々お話を聞かせていただいたらどうです?」
「!! はい!!」
ロイスと呼ばれた側仕えの青年は目を輝かせ、急いで後片付けを行うのだった。
「苦情の手紙でも書くか……」
おもむろにペンを取り、ディークの任命取消申請の手紙を父王に送ろうかと机に向かった。
「いや……無駄か……」
元々セルヴィは使用人ですらほぼ必要ないと訴え、王城からはトルフとイアンしか同行させなかった。
そのせいで使用人をこちらで雇うはめになり、トルフたちには苦労をかけてしまったことを、セルヴィはよく分かっていたし後悔もしていた。
ある程度は使用人を受け入れたら良かった、と。
しかし、今さらそれを言ったところですでに遅い。それも分かっていたため、使用人の選出に対して、セルヴィは口を出さなかった。丸投げと言われたらそうなのかもしれないが、セルヴィが口を出したところで、教養的にも人間的にも自身や周りが完璧に納得出来る人材を選べるとは思っていなかった。
そのためトルフとイアンに全てを任せ、責任は自身が取れば良い、という判断に至った。
そんなセルヴィが国から任命され派遣されてきた近衛騎士を、自身がいらないから、と追い返せるはずもないことを理解していた。
(おそらく何か理由があり、ここへ配属されたのだろう。でなければ、わざわざこんな場所へ好んで来る者などいないだろうしな……)
セルヴィは自嘲気味に笑った。手にしていたペンを机に置き、再び溜め息を吐いた。
「しかし……私のこの仮面を見て顔色を変えず普通に接して来たやつは初めてかもしれないな……いや、普通というか……無礼だったな……」
あのときのディークの顔や無礼な行動を思い出しイラッとしたセルヴィだった……。
「殿下、夕食のお時間です」
「分かった」
扉が叩かれ、側仕えから声をかけられる。声をかけられてからもセルヴィはしばらく部屋からは出ない。
そして外の気配がなくなったことを確認すると、ようやく部屋を出て食堂へと向かうのだ。
側仕えの執事ももう慣れたもので、セルヴィに声を掛け終わると、早々に食堂まで素早く戻る。
セルヴィが使用人たちとほとんど顔を合わせないことを分かっているからだ。
セルヴィが食堂へ向かい、無駄に大きいテーブルの席へと着くと、先程声をかけた側仕えの執事が給仕していく。
食事をするときも仮面をしたままのセルヴィ。異様な姿だと、初めてこの姿を見たときの使用人はたじろいでいたが、今やもう皆慣れたものだ。使用人たちは仮面を不気味だとは思っても、セルヴィ本人は、口数は少なくとも理不尽なことを命令したりすることはない、理性的な王子だと認識している。
そのためこの城の使用人たちは、セルヴィのことを嫌っている者は一人もいない。
セルヴィは出された料理に文句をつけることはないが、美味いと口にしたこともない。
ただひたすら黙々と食事をし、終われば私室へ戻るだけ。
そんな黙々と一人で食べる姿にトルフはいつも少なからず心を痛めていた。広いテーブルでたった一人で食べる食事は寂しいのではないか、と。
しかしセルヴィは表情を変えたことは一度もない。常に無表情。傷付かないように感情を抑え込んでいるだけではないのか、とトルフは思っていた。
「あれはどうした」
そんなセルヴィが今日はなぜか言葉を発した。
傍に控えていたトルフは驚き慌てたが、そこはベテランの執事として顔には出さない。極めて冷静に答える。
「あれ、とは?」
「…………今日来たやつだ」
「あぁ、近衛騎士のディーク様ですか?」
セルヴィは特に視線を向けるでもなく、ボソッと聞く。
「そうだ」
「ディーク様にはお部屋をご案内し、明日からの任務のため、本日使用人と顔合わせをされたいとのことでしたので、この後皆で顔合わせをする予定です」
今まで食事のときに、さらには他人のことなど聞いてきたことはなかったセルヴィが、ディークのことを聞いてきたという事実にトルフだけでなく、側仕えの執事も驚いた顔をしていた。
「そうか……」
「なにかお伝えすることがごさいますか?」
トルフはセルヴィのその少しの変化がなにやら気になったのだが、極めて冷静に対応していた。
「いや、別に……部屋へ戻る」
「かしこまりました」
セルヴィが食堂を後にすると、側仕えの執事は興奮するようにトルフに詰め寄った。
「トルフさん! なんですかあれ!? 殿下が喋った!」
いや、セルヴィも喋りはするだろう、とトルフは苦笑するが、確かに普段は食事中に喋ることなどないセルヴィが他人に興味を示すとは。執事二人はそのことに動揺した。
「まあ、今まで私とイアンしか王城から来た者はいませんからね。王城からやって来たディークさんが気になるのかもしれません」
「王城かぁ……」
側仕えの執事は街から募集した人間。王城に憧れるのも無理はない、とトルフは微笑んだ。
「さあ、ロイス、片付けますよ? この後ディークさんが食堂に来ますから、色々お話を聞かせていただいたらどうです?」
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