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5-2 賑やかなメイドたち

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 ディークはセルヴィの食事が終わっただろうという時間になると厨房へと向かった。厨房の横に使用人食堂があるからだ。

 厨房へと到着すると案の定セルヴィの食事は終了していたらしく、厨房は落ち着いた雰囲気となっていた。
 イアンとノアが使用人用の夕食を用意し、隣の部屋へと運んでいた。

「手伝うよ」
「あぁ、ディーク、ありがとう」

 声を掛けるとイアンが振り向き、テーブルに並んでいる大皿を持って行ってくれ、とディークに頼んだ。
 ディークは頷きそれをイアンに続き隣の部屋へ。

 スイングドアで隔たれただけの続き部屋に使用人食堂がある。大きなテーブルが二台並び、ベンチタイプの長椅子が両脇に並ぶ。
 すでに何人かは集まっており、後はメイドだけだろうか、とディークは食堂全体を眺めた。

 イアンとノア、それにトルフともう一人執事らしき男、それにダンと、もう一人庭師のような男。

(男ばかりだな)

 そうディークは苦笑した。しかしすぐ後からキャッキャと楽しそうな甲高い声が響き渡ってきた。どうやらメイドたちがやって来たようだ。

 食堂の入り口付近に立っていたディークの真後ろに登場し、声が近付いて来たと同時に振り向くと、メイドたちはあからさまに驚いた顔をした。

「キャァア!! もしや騎士様ですか!?」

 一人のメイドが目を輝かせながらディークに詰め寄った。

「あ、あぁ」
「王城から来られたって本当ですか!?」
「え? あぁ、うん」
「キャァア!!」

 異様に興奮したメイドに前のめりに迫られたじろぐ。今までディークの周りにはあまり女性はいなかった。特に女嫌いな訳でも、逆に女好きでもない。騎士団は男所帯だからだ。
 女性騎士もいない訳ではないが、男よりもやはり圧倒的に人数が少ないため、ディークの部隊にはいなかった。
 今まで騎士団にいたときには、団員に付き合わされ、それなりには女と遊んだこともある。
 しかし基本的に騎士団でのし上がることしか考えていなかったディークは、女遊びにうつつを抜かすよりも己の身体を鍛えることに時間を割いた。

 だからこそ平民で副団長まで上り詰めたのだが、付き合いの悪いディークのことをよく思わない者もやはり多かった。

 そんなディークにしてみれば、このメイドのディークに対しての食い付き方が、異様に見えて腰が引ける。

「ちょ、ちょっとメリッサ、落ち着きなさいよ!」

 ラナがメリッサと呼んだメイドの肩を掴みディークから引き剥がす。

(た、助かった……)

「ブッ」

 背後から噴き出す音が聞こえ、ジロリと振り向くとイアンが笑いを堪えていた。

 ディークがじとっと睨むと、イアンは堪え切れずに盛大に笑い出す。

「アッハッハッハッ!! メリッサの勢いに負けたな、ディーク! さすがの騎士様も女の子には弱いか!」
「うるさい」

 ディークは不貞腐れるようにムスッとし、しかしメリッサからそろりと距離を取るのだった。

「いやん、騎士様ぁ!」
「ちょ、こら! メリッサ、いい加減にしなさいよ!」

 ラナがなんとかメリッサを抑え込み、その後ろからやって来るメイドたちは呆れたように笑う。
 そして一人のメイドがメリッサの頭にビシッと手刀を浴びせた。

「い、痛ったーい! ちょっとリン! なにするのよ!」

 頭を叩かれ怒り心頭のメリッサは、緑色のクルクルとした巻き毛に金色の大きな瞳。
 メリッサに手刀を浴びせ、リンと呼ばれたもう一人のメイドは、濃紺の髪をピチッと後ろに束ね、同じく濃紺の瞳に眼鏡でキリッとした印象だ。

「あんたは興奮し過ぎ。ちょっと落ち着きなさい」
「だって! 騎士様ってだけでも最高なのに、こんなかっこいいならまさに理想のせ……むぐっ」

 なにかを言いかけたメリッサを他のメイドたちが慌てて羽交い絞めにした挙句、口を手で抑え込みずりずりと後ろへと引きずった。

「ば、馬鹿!! なに言ってんのよ!!」
「き、騎士様、騒がしい子で申し訳ございません。気になさらないでください……おほほ……」

 メイドたちはメリッサを叱責したり、ディークに取り繕ったり、となにやらあわあわとしていたが、ディークは気を取り直し背筋を伸ばした。

「改めまして、セルヴィ殿下の近衛騎士として配属されました、ディークと申します。これからよろしくお願いします」

 全員を見回し、騎士らしい仕草で挨拶をすると、メイドたちからの悲鳴が上がり、男たちは苦笑したのだった。


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