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11-2 セルヴィの頼み

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 その夜、ディークはセルヴィとの約束通りにセルヴィの部屋を訪ねた。扉を叩き、声を掛ける。

「殿下、ディークです。参りました」
「入ってくれ」

 今夜はすんなりと返事がある。ということは意識を失っている訳ではないようだ、とディークは安堵した。

「失礼致します」

 部屋へと入るとセルヴィは昼間と同じ応接椅子に座っていた。しかし倒れてはいないが、やはり顔色は悪く呼吸が荒い。

「どうされましたか!? やはり持病ですか!?」

 慌てて駆け寄ったディークはセルヴィの様子を伺った。

「ち、違う……持病では……」

 セルヴィは荒い息のまま答える。ディークはセルヴィの前に跪き、手を握る。ビクッとしたセルヴィは潤んだ瞳でディークを見詰めた。
 熱でもあるのか、セルヴィの手は手袋越しでも熱く、白い肌はほんのり赤らんでいた。薄っすらと汗ばんだ肌に前髪が少し貼り付いている。

 あまりに妖艶な雰囲気でディークはごくりと唾を飲み込んだ。必死に理性を保とうとするが、悪魔の魅了のように抗えない力を感じてしまう。

 ディークはそっと手を伸ばし、セルヴィの額に貼り付く前髪をそっと後ろに掻き分けた。ビクッとしたセルヴィはしかし抵抗するでもなく、ディークの手を受け入れている。

 額の髪を撫で、仮面と反対側の左頬にそっと手を這わせる。汗ばんだ頬はディークの手のひらに吸い付くように馴染んだ。
 セルヴィは目を瞑り、ディークの手のひらにすりっと擦り寄る。

 その瞬間ディークの心臓はドクンと跳ねた。

(ヤバイヤバイヤバイヤバイ!! だ、駄目だ!! は、早く手を離せ!!)

 必死に理性を取り戻し、セルヴィの頬から手を離そうとすると、セルヴィは目を開けた。そしてとんでもないことを言う。

「もう少しこのままでいてくれないか」
「えっ」

 セルヴィはディークの手の上から自身の手を重ね、そしてくいっと自身の頬にディークの手を押し当てた。少し離れていたディークの手は再びセルヴィの頬に押し当てられ、ディークはカァァアッと顔が熱くなるのを感じた。

「で、殿下!!」

 再び目を瞑っていたセルヴィは目を開き、上目遣いでディークを見る。

「なんだ?」

(なんだじゃねー!!)

「な、なにがしたいのですか!?」

 頭に血が上り、情けなくもその質問が精一杯だった。ディークはもう完全に思考能力が停止してしまっている自身にげんなりとする。

「…………」

 じっと上目遣いで見詰めていたセルヴィは、再び目を瞑ってから深呼吸をするように息を吐き、そしてようやくディークの手を解放した。

「やはりそうだ……」
「は?」

 セルヴィは考え込むような仕草を見せたかと思うと、再び顔を上げディークを真っ直ぐに見詰めた。

「これから毎日こうして私に触れてもらえないだろうか……」
「はぁぁぁあああ!?」

 言っている意味が全く分からず、ディークは目を見開いたのだった。


「あぁ、すまない……説明をするから聞いてもらえるだろうか」

 セルヴィはディークに隣へ座るように促し、ディークは妙な緊張感を覚えながらも隣に座った。

「この国の建国の話を知っているか?」
「は? え、まあ、もちろん」

 ディークはセルヴィの突拍子もない話に唖然とした。セルヴィの持病の話なのかと構えてみれば、なぜか全く関係のない建国の話。
 先程からディークの思考は完全に停止してしまった。今まで思考が停止する経験がないディークはなんとか必死に考えを巡らせていたのに、突拍子もないセルヴィの言動に、もう考えても無駄だ、と遠い目をした。


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