23 / 76
12-1 セルヴィの秘密とディークの秘密
しおりを挟む
この国、エルザイアは初代国王が不思議な力を持っていた。
国王となる前、その青年は不思議な力を持って現れ、その力のおかげで争いの絶えなかった近隣諸国を制圧し国を統一した。そしてその青年は勇者として称えられ、初代国王となった。それがエルザイアの始まり……、とされている。
それがよく聞く世間一般的に知られている建国物語だ。
「それがなにか?」
建国物語が今現在セルヴィの持病とどう関わるのか全く分からない。ディークは訝し気にセルヴィを見る。
「その話以外に王家にだけ聞かされる話がある」
「…………」
セルヴィは自分の手を見詰めながら語り始めた。
「初代国王の不思議な力の背景には一人の魔女がいた」
(魔女!?)
ディークは思わず口に出そうになったが、話を遮らないよう必死に口を噤む。
「魔女は初代国王に力を貸し、その力で国を統一したんだ。魔女は世間的に知られることはなくとも感謝し褒賞を与えたらしいのだが、その魔女が次第に王家に仇をなすようになってきた……」
「え? それはなぜ……今まで国王の味方だったわけですよね?」
「それは分からない。そういった記録は残っていないんだ。ただ魔女が国に逆らうようになってきた、とだけ」
「…………」
「そして王家の人間が命を狙われ出した。そのため国は魔女を処刑することになったのだ」
「処刑……」
ディークはなにやら嫌な予感がしてきた。国に逆らう魔女、そこになにがあったのかは今さら知る術はないのだが、魔女を処刑した、というならばそこにはおそらく恨みが残る……。
どちらがどう、というものでもない。殺し殺され、というものはどちらかに明確な正義があったにしろ、必ずどちらにも遺恨が残るものだ。
魔女がなにをして処刑されるはめになったのかは分からないが、セルヴィがこの話をし出したということは、セルヴィの持病に、この魔女関連の遺恨が関わっているのだろう。ディークはそう判断した。
「そしてその魔女が処刑されるとき、最期に残した言葉があるそうだ」
「………」
「『お前の跡継ぎたちは皆呪われる。次第に力は失われ、いつしか国は滅びるのだ。そのとき思い知るだろう』と」
「呪い……」
「あぁ。その魔女は死ぬとき王家に呪いをかけた。それ以来王家に生まれる第一王子は、跡継ぎに相応しい優れた能力を持って生まれても、十八歳で成人と同時に呪いが発動し、いずれ死に至る」
「!!」
(死に至る!?)
ディークは大きく目を見開きセルヴィを見た。セルヴィは苦笑し、そして自身の右目に装着された仮面をゆっくりと外した。そっと仮面を外し、ディークのほうへと向けたセルヴィのその顔は……右目から頬にかけて黒い痣が広がっていた。
「っ……そ、それは……」
ディークは言葉が出なかった。美しい顔に明らかに不自然な黒い痣。セルヴィはそんなディークの反応を予想していたのか苦笑する。
「醜いだろう? これが私の呪いだ」
諦めたような、卑下するようなそんな笑い。そんなセルヴィの姿に胸が痛む。ディークはガバッとセルヴィの頬に手を伸ばす。
「醜くなどありません。いや、どちらかというと美し……んん!!」
咄嗟に自分の口から出た言葉に自身で驚き慌てて口を噤んだ。
(な、なにを口走ろうとした! 俺! 美しいってなに言ってんだ!! キモイわ!!)
「フッ、無理をするな。この醜い痣を見て怪訝な顔をしないものはいない。私自身が醜いと思うのだ。そんなことではもう傷付かない」
セルヴィの言葉はどこか諦めのようだった。今まで傷付いてきた結果、仮面で隠し、人と距離を置き、なるべく人と関わらないように生きてきたのか。ディークはそんなセルヴィの心の内が伝わり切なくなった。
「殿下ご自身がどう思われているのかは知りませんが、俺は醜いなどとは思いません。というか、そんな痣くらい大したことないですね。男ならば怪我や痣などしょっちゅうです」
そう言うとディークはおもむろに自身の上着をガバッと脱ぎ捨てた。
「は!? な、なにを!?」
上半身裸になったディークは、驚き目を見開いているセルヴィにクスッと笑い、そしてくるりと後ろを向いた。
「俺の背中を見てください。酷い怪我の痕でしょう? これも十分醜いです」
そうやって見せたディークの背中には、筋肉質な肉体とは似つかわしくない、大きな傷痕があった。背中に斜めに斬り裂かれたような、大きく裂けた痕。今はもうすっかりと塞がった傷痕だが、この怪我をした当初はおそらく致命傷となりうる傷だったのだろう、ということは想像に難くない。
「これは……」
「俺はダトス村の出身なんです。その村の唯一の生き残りです。そのとき魔物に襲われ傷を負いました」
「この傷は醜くはない!」
「ハハ、ありがとうございます。ならば殿下の痣も醜くはないですよ」
「いや、私のは……名誉の負傷とは比べ物にはならない」
「ハッ、名誉の負傷か……」
自嘲気味に笑うディークにセルヴィはなにを笑っているのか分からない、といった顔。
「この傷は名誉の負傷でもなんでもないですよ。俺にとっての戒めです」
「戒め?」
国王となる前、その青年は不思議な力を持って現れ、その力のおかげで争いの絶えなかった近隣諸国を制圧し国を統一した。そしてその青年は勇者として称えられ、初代国王となった。それがエルザイアの始まり……、とされている。
それがよく聞く世間一般的に知られている建国物語だ。
「それがなにか?」
建国物語が今現在セルヴィの持病とどう関わるのか全く分からない。ディークは訝し気にセルヴィを見る。
「その話以外に王家にだけ聞かされる話がある」
「…………」
セルヴィは自分の手を見詰めながら語り始めた。
「初代国王の不思議な力の背景には一人の魔女がいた」
(魔女!?)
ディークは思わず口に出そうになったが、話を遮らないよう必死に口を噤む。
「魔女は初代国王に力を貸し、その力で国を統一したんだ。魔女は世間的に知られることはなくとも感謝し褒賞を与えたらしいのだが、その魔女が次第に王家に仇をなすようになってきた……」
「え? それはなぜ……今まで国王の味方だったわけですよね?」
「それは分からない。そういった記録は残っていないんだ。ただ魔女が国に逆らうようになってきた、とだけ」
「…………」
「そして王家の人間が命を狙われ出した。そのため国は魔女を処刑することになったのだ」
「処刑……」
ディークはなにやら嫌な予感がしてきた。国に逆らう魔女、そこになにがあったのかは今さら知る術はないのだが、魔女を処刑した、というならばそこにはおそらく恨みが残る……。
どちらがどう、というものでもない。殺し殺され、というものはどちらかに明確な正義があったにしろ、必ずどちらにも遺恨が残るものだ。
魔女がなにをして処刑されるはめになったのかは分からないが、セルヴィがこの話をし出したということは、セルヴィの持病に、この魔女関連の遺恨が関わっているのだろう。ディークはそう判断した。
「そしてその魔女が処刑されるとき、最期に残した言葉があるそうだ」
「………」
「『お前の跡継ぎたちは皆呪われる。次第に力は失われ、いつしか国は滅びるのだ。そのとき思い知るだろう』と」
「呪い……」
「あぁ。その魔女は死ぬとき王家に呪いをかけた。それ以来王家に生まれる第一王子は、跡継ぎに相応しい優れた能力を持って生まれても、十八歳で成人と同時に呪いが発動し、いずれ死に至る」
「!!」
(死に至る!?)
ディークは大きく目を見開きセルヴィを見た。セルヴィは苦笑し、そして自身の右目に装着された仮面をゆっくりと外した。そっと仮面を外し、ディークのほうへと向けたセルヴィのその顔は……右目から頬にかけて黒い痣が広がっていた。
「っ……そ、それは……」
ディークは言葉が出なかった。美しい顔に明らかに不自然な黒い痣。セルヴィはそんなディークの反応を予想していたのか苦笑する。
「醜いだろう? これが私の呪いだ」
諦めたような、卑下するようなそんな笑い。そんなセルヴィの姿に胸が痛む。ディークはガバッとセルヴィの頬に手を伸ばす。
「醜くなどありません。いや、どちらかというと美し……んん!!」
咄嗟に自分の口から出た言葉に自身で驚き慌てて口を噤んだ。
(な、なにを口走ろうとした! 俺! 美しいってなに言ってんだ!! キモイわ!!)
「フッ、無理をするな。この醜い痣を見て怪訝な顔をしないものはいない。私自身が醜いと思うのだ。そんなことではもう傷付かない」
セルヴィの言葉はどこか諦めのようだった。今まで傷付いてきた結果、仮面で隠し、人と距離を置き、なるべく人と関わらないように生きてきたのか。ディークはそんなセルヴィの心の内が伝わり切なくなった。
「殿下ご自身がどう思われているのかは知りませんが、俺は醜いなどとは思いません。というか、そんな痣くらい大したことないですね。男ならば怪我や痣などしょっちゅうです」
そう言うとディークはおもむろに自身の上着をガバッと脱ぎ捨てた。
「は!? な、なにを!?」
上半身裸になったディークは、驚き目を見開いているセルヴィにクスッと笑い、そしてくるりと後ろを向いた。
「俺の背中を見てください。酷い怪我の痕でしょう? これも十分醜いです」
そうやって見せたディークの背中には、筋肉質な肉体とは似つかわしくない、大きな傷痕があった。背中に斜めに斬り裂かれたような、大きく裂けた痕。今はもうすっかりと塞がった傷痕だが、この怪我をした当初はおそらく致命傷となりうる傷だったのだろう、ということは想像に難くない。
「これは……」
「俺はダトス村の出身なんです。その村の唯一の生き残りです。そのとき魔物に襲われ傷を負いました」
「この傷は醜くはない!」
「ハハ、ありがとうございます。ならば殿下の痣も醜くはないですよ」
「いや、私のは……名誉の負傷とは比べ物にはならない」
「ハッ、名誉の負傷か……」
自嘲気味に笑うディークにセルヴィはなにを笑っているのか分からない、といった顔。
「この傷は名誉の負傷でもなんでもないですよ。俺にとっての戒めです」
「戒め?」
162
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
ヤンデレ王子と哀れなおっさん辺境伯 恋も人生も二度目なら
音無野ウサギ
BL
ある日おっさん辺境伯ゲオハルトは美貌の第三王子リヒトにぺろりと食べられてしまいました。
しかも貴族たちに濡れ場を聞かれてしまい……
ところが権力者による性的搾取かと思われた出来事には実はもう少し深いわけが……
だって第三王子には前世の記憶があったから!
といった感じの話です。おっさんがグチョグチョにされていても許してくださる方どうぞ。
濡れ場回にはタイトルに※をいれています
おっさん企画を知ってから自分なりのおっさん受けってどんな形かなって考えていて生まれた話です。
この作品はムーンライトノベルズでも公開しています。
【完結】白豚王子に転生したら、前世の恋人が敵国の皇帝となって病んでました
志麻友紀
BL
「聖女アンジェラよ。お前との婚約は破棄だ!」
そう叫んだとたん、白豚王子ことリシェリード・オ・ルラ・ラルランドの前世の記憶とそして聖女の仮面を被った“魔女”によって破滅する未来が視えた。
その三ヶ月後、民の怒声のなか、リシェリードは処刑台に引き出されていた。
罪人をあらわす顔を覆うずた袋が取り払われたとき、人々は大きくどよめいた。
無様に太っていた白豚王子は、ほっそりとした白鳥のような美少年になっていたのだ。
そして、リシェリードは宣言する。
「この死刑執行は中止だ!」
その瞬間、空に雷鳴がとどろき、処刑台は粉々となった。
白豚王子様が前世の記憶を思い出した上に、白鳥王子へと転身して無双するお話です。ざまぁエンドはなしよwハッピーエンドです。
ムーンライトノベルズさんにも掲載しています。
【完結】悪役に転生したので、皇太子を推して生き延びる
ざっしゅ
BL
気づけば、男の婚約者がいる悪役として転生してしまったソウタ。
この小説は、主人公である皇太子ルースが、悪役たちの陰謀によって記憶を失い、最終的に復讐を遂げるという残酷な物語だった。ソウタは、自分の命を守るため、原作の悪役としての行動を改め、記憶を失ったルースを友人として大切にする。
ソウタの献身的な行動は周囲に「ルースへの深い愛」だと噂され、ルース自身もその噂に満更でもない様子を見せ始める。
【完結】その少年は硝子の魔術士
鏑木 うりこ
BL
神の家でステンドグラスを作っていた俺は地上に落とされた。俺の出来る事は硝子細工だけなのに。
硝子じゃお腹も膨れない!硝子じゃ魔物は倒せない!どうする、俺?!
設定はふんわりしております。
少し痛々しい。
みにくい凶王は帝王の鳥籠【ハレム】で溺愛される
志麻友紀
BL
帝国の美しい銀獅子と呼ばれる若き帝王×呪いにより醜く生まれた不死の凶王。
帝国の属国であったウラキュアの凶王ラドゥが叛逆の罪によって、帝国に囚われた。帝都を引き回され、その包帯で顔をおおわれた醜い姿に人々は血濡れの不死の凶王と顔をしかめるのだった。
だが、宮殿の奥の地下牢に幽閉されるはずだった身は、帝国に伝わる呪われたドマの鏡によって、なぜか美姫と見まごうばかりの美しい姿にされ、そのうえハレムにて若き帝王アジーズの唯一の寵愛を受けることになる。
なぜアジーズがこんなことをするのかわからず混乱するラドゥだったが、ときおり見る過去の夢に忘れているなにかがあることに気づく。
そして陰謀うずくまくハレムでは前母后サフィエの魔の手がラドゥへと迫り……。
かな~り殺伐としてますが、主人公達は幸せになりますのでご安心ください。絶対ハッピーエンドです。
異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる
七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。
だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。
そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。
唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。
優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。
穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。
――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる