【完結】呪われ王子は生意気な騎士に仮面を外される

りゆき

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12-1 セルヴィの秘密とディークの秘密

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 この国、エルザイアは初代国王が不思議な力を持っていた。

 国王となる前、その青年は不思議な力を持って現れ、その力のおかげで争いの絶えなかった近隣諸国を制圧し国を統一した。そしてその青年は勇者として称えられ、初代国王となった。それがエルザイアの始まり……、とされている。

 それがよく聞く世間一般的に知られている建国物語だ。

「それがなにか?」

 建国物語が今現在セルヴィの持病とどう関わるのか全く分からない。ディークは訝し気にセルヴィを見る。

「その話以外に王家にだけ聞かされる話がある」
「…………」

 セルヴィは自分の手を見詰めながら語り始めた。

「初代国王の不思議な力の背景には一人の魔女がいた」

(魔女!?)

 ディークは思わず口に出そうになったが、話を遮らないよう必死に口を噤む。

「魔女は初代国王に力を貸し、その力で国を統一したんだ。魔女は世間的に知られることはなくとも感謝し褒賞を与えたらしいのだが、その魔女が次第に王家に仇をなすようになってきた……」
「え? それはなぜ……今まで国王の味方だったわけですよね?」
「それは分からない。そういった記録は残っていないんだ。ただ魔女が国に逆らうようになってきた、とだけ」
「…………」
「そして王家の人間が命を狙われ出した。そのため国は魔女を処刑することになったのだ」
「処刑……」

 ディークはなにやら嫌な予感がしてきた。国に逆らう魔女、そこになにがあったのかは今さら知る術はないのだが、魔女を処刑した、というならばそこにはおそらく恨みが残る……。
 どちらがどう、というものでもない。殺し殺され、というものはどちらかに明確な正義があったにしろ、必ずどちらにも遺恨が残るものだ。
 魔女がなにをして処刑されるはめになったのかは分からないが、セルヴィがこの話をし出したということは、セルヴィの持病に、この魔女関連の遺恨が関わっているのだろう。ディークはそう判断した。

「そしてその魔女が処刑されるとき、最期に残した言葉があるそうだ」
「………」

「『お前の跡継ぎたちは皆呪われる。次第に力は失われ、いつしか国は滅びるのだ。そのとき思い知るだろう』と」

「呪い……」
「あぁ。その魔女は死ぬとき王家に呪いをかけた。それ以来王家に生まれる第一王子は、跡継ぎに相応しい優れた能力を持って生まれても、十八歳で成人と同時に呪いが発動し、いずれ死に至る」
「!!」

(死に至る!?)

 ディークは大きく目を見開きセルヴィを見た。セルヴィは苦笑し、そして自身の右目に装着された仮面をゆっくりと外した。そっと仮面を外し、ディークのほうへと向けたセルヴィのその顔は……右目から頬にかけて黒い痣が広がっていた。

「っ……そ、それは……」

 ディークは言葉が出なかった。美しい顔に明らかに不自然な黒い痣。セルヴィはそんなディークの反応を予想していたのか苦笑する。

「醜いだろう? これが私の呪いだ」

 諦めたような、卑下するようなそんな笑い。そんなセルヴィの姿に胸が痛む。ディークはガバッとセルヴィの頬に手を伸ばす。

「醜くなどありません。いや、どちらかというと美し……んん!!」

 咄嗟に自分の口から出た言葉に自身で驚き慌てて口を噤んだ。

(な、なにを口走ろうとした! 俺! 美しいってなに言ってんだ!! キモイわ!!)

「フッ、無理をするな。この醜い痣を見て怪訝な顔をしないものはいない。私自身が醜いと思うのだ。そんなことではもう傷付かない」

 セルヴィの言葉はどこか諦めのようだった。今まで傷付いてきた結果、仮面で隠し、人と距離を置き、なるべく人と関わらないように生きてきたのか。ディークはそんなセルヴィの心の内が伝わり切なくなった。

「殿下ご自身がどう思われているのかは知りませんが、俺は醜いなどとは思いません。というか、そんな痣くらい大したことないですね。男ならば怪我や痣などしょっちゅうです」

 そう言うとディークはおもむろに自身の上着をガバッと脱ぎ捨てた。

「は!? な、なにを!?」

 上半身裸になったディークは、驚き目を見開いているセルヴィにクスッと笑い、そしてくるりと後ろを向いた。

「俺の背中を見てください。酷い怪我の痕でしょう? これも十分醜いです」

 そうやって見せたディークの背中には、筋肉質な肉体とは似つかわしくない、大きな傷痕があった。背中に斜めに斬り裂かれたような、大きく裂けた痕。今はもうすっかりと塞がった傷痕だが、この怪我をした当初はおそらく致命傷となりうる傷だったのだろう、ということは想像に難くない。

「これは……」
「俺はダトス村の出身なんです。その村の唯一の生き残りです。そのとき魔物に襲われ傷を負いました」
「この傷は醜くはない!」
「ハハ、ありがとうございます。ならば殿下の痣も醜くはないですよ」
「いや、私のは……名誉の負傷とは比べ物にはならない」
「ハッ、名誉の負傷か……」

 自嘲気味に笑うディークにセルヴィはなにを笑っているのか分からない、といった顔。

「この傷は名誉の負傷でもなんでもないですよ。俺にとっての戒めです」
「戒め?」

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