【完結】呪われ王子は生意気な騎士に仮面を外される

りゆき

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12-2 セルヴィの秘密とディークの秘密

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 ディークは一瞬躊躇ったが、ここまで話してしまえばもう黙っているのも難しいか、と覚悟を決めて話す。ディークがずっと心の内に抑え込んでいたこと。誰にも知られたくなかった自分の醜い部分。それを初めて他人に晒す。

「俺は逃げたんですよ……」
「…………」

 セルヴィはぽつりぽつりと語るディークの言葉をじっと聞いた。

「あの日、村が魔物に襲われたとき……俺は襲われ森に吹っ飛ばされて気を失っていたことになっていますが……俺は怪我を負ったとき、まだ村にいました。でも……死にそうな傷を負い、痛みと恐怖と、そして次々に死んでいく村の皆を目にし……俺は怖くなって逃げだした……」

 背を向けたままのディークは項垂れ、セルヴィにその表情は分からない。しかし声だけで辛い想いが伝わった。

「森へと必死に逃げたんです。村の人間を置いて……。そしてそこで気を失った……気付いたときには騎士団に助けられ、村は全滅していました」
「ディーク……」
「それから俺は騎士団に保護されましたが、逃げ出したことはずっと隠し通していました。それがずっと俺のなかに抜けない棘となっている。騎士団へ入団を希望したのも、その卑怯な自分を忘れたかったからです。敵討ちとかそんな綺麗なものじゃない」

 魔物を誘き寄せたのではないか、と噂されたのも、否定せずにいたのは自身に負い目があったから。誘き寄せたのではないが、見捨てて逃げたのは事実。そんな事実がディークのなかではずっと抜けない棘となっていた。
 だからひたすら訓練に身を費やした。なにも考えないで良いくらい、ひたすらに無心に訓練を繰り返した。そうすることで特別なことでもなく順当に副団長まで上り詰めることとなってしまったのだ。

 そんなとき例のあの暴行事件が起きたのだ。団長から『お前は村人を見捨てたんだろう』と罵られたとき、カッとなって殴ってしまった。いつもならば冷静なディークだが、この団長の発言が自身の負い目を見透かされた気がして冷静さを失った。団長が事実を知っている訳はないのだが、ディークにとっては一生付いて回る負い目となっていた。

 セルヴィはディークの胸のうちを聞き、ディークの背中にそっと手を伸ばし、傷痕に触れた。
 ディークはビクッと身体を震わせ、緊張する。セルヴィの指がツツツと傷痕を撫でぞくりとする。

「ちょ、で、殿下!?」

「お前の傷痕は醜くない」

 背後から聞こえるセルヴィの声に、触れる指先に、ドキリと心臓が跳ねる。ちらりと振り向くと、セルヴィの顔は悲しそうな、しかし怒りにも似た表情に見えた。

「殿下の痣も醜くないですよ。他の人間がどう見るかは知りませんが、俺にはあんたは十分綺麗だ」

 ガバッと顔を上げたセルヴィの反応を見て、一瞬しまった、と焦るディークだったが、綺麗だと思ったことに間違いはない。セルヴィの美しい顔は痣があろうともその美しさを損なうことはないと思ったからだ。自分らしくないと思う台詞だが、もうこの際だ、とディークは素直に言葉にした。

「殿下の痣は俺にしてみたら気になるものじゃない。俺はあんたの顔は綺麗だと思うし、仮面があろうがなかろうが、大した問題じゃない。この城の使用人たちもあんたを信頼しているし、俺も……」

 こうやって仮面の下を見せるというセルヴィの行為、ディーク自身も己の暗い過去を話すことになった、ということがディークのなかで大きくなっていることに気付く。
 今まで他人とは上手く付き合ってきた。しかし心の奥底まで見せることはなかった。そんなディークからすると、セルヴィとの関係は特別なものとなっている気がして、今までにない感情に戸惑った。

 そこを深く追求しては駄目だ、とディークは内心焦った。

(特別な感情などない! セルヴィ殿下は……そ、尊敬? 共感? そ、そうだよ、ただお互い他人にも言えないことを共有しただけだ……)

「そ、そういえばその痣! で、その痣があの発作のような症状になにか関わりが!?」

 焦ったディークは持病へと話を戻すのだった。


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