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14-2 焦りと無自覚とニヤニヤと
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「え!? だ、だからなにもない!!」
「殿下がお心を開かれるときがこようとは……嬉しい限りでございます」
トルフが若干涙ぐみながら拝むかのようにディークを見る。
(いやいやいや、な、なんでそんな話に……殿下が心を開いたって……え? いや、まあ、そうなのか? いや、しかし、なんでそんなこと皆が分かってんだよ!)
なにやらニヤニヤとした目で見られている気がして、ディークは明らかにたじろいだ。
(や、ヤバい、なんかよく分からんが、俺のイメージが!)
そそくさと朝食を食べ終え、ガタッと勢い良く立ち上がる。
「お、お先!」
ディークはそう言うと、食器を片付けそそくさと食堂を後にした。明らかなニヤニヤ顔で見送られ、ディークは内心叫び出しそうだった。
(くそっ。なんなんだよ、皆して変な目で見やがって!)
最初のイメージが肝心だとばかりに、今日まで頑張ってきたディークのイメージは先程の数分で見事に崩れ落ちたのだった。
ディークは勢いのまま食堂を出て来てしまい、どうしたものかと悩む。セルヴィの朝食に合わせ、近衛として傍にいようかとも思ったが、先程のトルフの微笑みがディークの足を止めた。
「ど、どうするかな……」
呟きながら歩いているうちに、いつの間にやらセルヴィの部屋の前に来てしまっていることに気付く。
「!!」
(やべっ! いつの間に!)
セルヴィの部屋の前であわあわと慌てふためいたが、心を落ち着け大きく深呼吸をする。
(ダメだ、こんなのは俺じゃない。冷静になれ)
すん、と無表情となったディークは冷静さを取り戻す。そして冷静になるとふと思い出したことがあった。
(そういえば……書庫があると言っていたな。呪いに関する書物とかないのだろうか)
そう考え、セルヴィに書庫へ入る許可をもらおうと考え、扉を叩いた。
「おはようございます、殿下。少しよろしいでしょうか」
朝食前の時間、セルヴィがすでに起きているのか分からなかったが、扉の前でしばし待つ。するとなかからは声が聞こえてきた。
「おはよう、入れ」
セルヴィの声が聞こえ、ドクンと心臓が跳ねる。せっかく冷静さを取り戻したのに、と、ディークは頭を振り、必死に気持ちを落ち着ける。
「失礼します」
部屋のなかへと入ると、もうすでに起きていたのだろう、服装は整い、仮面も手袋もすでに装着されたセルヴィが立っていた。少し顔を赤らめ視線を逸らしながら立つ姿に、ディークはやはり魅入られたかのように自然と足がセルヴィに向かってしまった。
スタスタとセルヴィの元まで歩み寄り、左手でセルヴィの右手を掴むと、右手で頬を撫でた。
びくりと身体を震わせたセルヴィは大きく目を見開きディークを見た。
「昨夜はあれから痛みは大丈夫でしたか?」
「あ、あぁ、大丈夫だ」
間近で見詰め合い、またしても無意識に顔を近付けそうになり、ディークはハッとする。鼻先が触れそうなほど近付いてしまい、その距離で見詰め合うことに恥ずかしくもなりながら、しかし、目を逸らすことが出来なかった。吐息が口元にかかり、心臓が高鳴る。
(あぁ、キスしたい……このまま近付けば……)
思考が真っ白になろうとしていたそのとき、セルヴィが呟く。
「ディ、ディーク?」
その瞬間、一気に思考が戻って来る。カァァアッと顔が熱くなり、ガバッと俯く。慌ててセルヴィの頬から手を離し、握っていた手を離そうとした。
するとセルヴィはディークの手をぐっと握り、俯くディークの頭上から声を掛ける。
「もう少し握っていてくれないか」
「!!」
俯いたまま顔を上げることが出来ないディークは、無言のままだった。
「ディーク?」
(くそっ! この王子は!! 俺のこと試してんのか!? 誘ってんのか!? 無自覚なのか!? 無自覚だとしたらタチ悪い……)
なんとか心を落ち着けるために、ひたすら長い溜め息を吐いた。そしてセルヴィの手をぎゅうっと強く握り締めるのだった。
俯き沈黙したまま、静まり返った部屋。握り締めるその手は温かく、ディークは必死に無となった。どれくらいの時間が経ったのか分からないが、その沈黙は部屋の扉を叩く音で破られた。
「殿下、おはようございます。朝食の準備が整いました」
ロイスの声だ。ギクゥッと心臓が飛び出そうなほど驚いたディークは思わず顔を上げてしまった。そこには頬を赤らめ嬉しそうなセルヴィの顔があった。
再び手を伸ばしそうになってしまったが、ロイスが部屋の外にいるのだ、ということを必死に認識し、なんとか耐える。
「分かった」
セルヴィは扉の外にいるロイスに声を掛け、外の気配がなくなることを確認していた。そしてディークはパッと手を離すと、一歩後ろへと下がった。そのとき少し寂しそうな顔となったセルヴィに脳内で突っ込む。
(無自覚か! 無自覚なのか! 本当に勘弁してくれ、くそっ)
「あー、すみません、殿下はこれから朝食ですよね」
「あ、あぁ。だが、お前はなにか用事があったんじゃないのか?」
「あっ」
部屋へ入った途端、セルヴィの魔性に惹き付けられてしまい、すっかり忘れていた、とディークは頭を抱える。
「あの、書庫に入っても良いでしょうか」
「書庫?」
「はい。呪いについて調べてみようかと」
「…………」
セルヴィは顎に手をやり考え込んだ。
「殿下がお心を開かれるときがこようとは……嬉しい限りでございます」
トルフが若干涙ぐみながら拝むかのようにディークを見る。
(いやいやいや、な、なんでそんな話に……殿下が心を開いたって……え? いや、まあ、そうなのか? いや、しかし、なんでそんなこと皆が分かってんだよ!)
なにやらニヤニヤとした目で見られている気がして、ディークは明らかにたじろいだ。
(や、ヤバい、なんかよく分からんが、俺のイメージが!)
そそくさと朝食を食べ終え、ガタッと勢い良く立ち上がる。
「お、お先!」
ディークはそう言うと、食器を片付けそそくさと食堂を後にした。明らかなニヤニヤ顔で見送られ、ディークは内心叫び出しそうだった。
(くそっ。なんなんだよ、皆して変な目で見やがって!)
最初のイメージが肝心だとばかりに、今日まで頑張ってきたディークのイメージは先程の数分で見事に崩れ落ちたのだった。
ディークは勢いのまま食堂を出て来てしまい、どうしたものかと悩む。セルヴィの朝食に合わせ、近衛として傍にいようかとも思ったが、先程のトルフの微笑みがディークの足を止めた。
「ど、どうするかな……」
呟きながら歩いているうちに、いつの間にやらセルヴィの部屋の前に来てしまっていることに気付く。
「!!」
(やべっ! いつの間に!)
セルヴィの部屋の前であわあわと慌てふためいたが、心を落ち着け大きく深呼吸をする。
(ダメだ、こんなのは俺じゃない。冷静になれ)
すん、と無表情となったディークは冷静さを取り戻す。そして冷静になるとふと思い出したことがあった。
(そういえば……書庫があると言っていたな。呪いに関する書物とかないのだろうか)
そう考え、セルヴィに書庫へ入る許可をもらおうと考え、扉を叩いた。
「おはようございます、殿下。少しよろしいでしょうか」
朝食前の時間、セルヴィがすでに起きているのか分からなかったが、扉の前でしばし待つ。するとなかからは声が聞こえてきた。
「おはよう、入れ」
セルヴィの声が聞こえ、ドクンと心臓が跳ねる。せっかく冷静さを取り戻したのに、と、ディークは頭を振り、必死に気持ちを落ち着ける。
「失礼します」
部屋のなかへと入ると、もうすでに起きていたのだろう、服装は整い、仮面も手袋もすでに装着されたセルヴィが立っていた。少し顔を赤らめ視線を逸らしながら立つ姿に、ディークはやはり魅入られたかのように自然と足がセルヴィに向かってしまった。
スタスタとセルヴィの元まで歩み寄り、左手でセルヴィの右手を掴むと、右手で頬を撫でた。
びくりと身体を震わせたセルヴィは大きく目を見開きディークを見た。
「昨夜はあれから痛みは大丈夫でしたか?」
「あ、あぁ、大丈夫だ」
間近で見詰め合い、またしても無意識に顔を近付けそうになり、ディークはハッとする。鼻先が触れそうなほど近付いてしまい、その距離で見詰め合うことに恥ずかしくもなりながら、しかし、目を逸らすことが出来なかった。吐息が口元にかかり、心臓が高鳴る。
(あぁ、キスしたい……このまま近付けば……)
思考が真っ白になろうとしていたそのとき、セルヴィが呟く。
「ディ、ディーク?」
その瞬間、一気に思考が戻って来る。カァァアッと顔が熱くなり、ガバッと俯く。慌ててセルヴィの頬から手を離し、握っていた手を離そうとした。
するとセルヴィはディークの手をぐっと握り、俯くディークの頭上から声を掛ける。
「もう少し握っていてくれないか」
「!!」
俯いたまま顔を上げることが出来ないディークは、無言のままだった。
「ディーク?」
(くそっ! この王子は!! 俺のこと試してんのか!? 誘ってんのか!? 無自覚なのか!? 無自覚だとしたらタチ悪い……)
なんとか心を落ち着けるために、ひたすら長い溜め息を吐いた。そしてセルヴィの手をぎゅうっと強く握り締めるのだった。
俯き沈黙したまま、静まり返った部屋。握り締めるその手は温かく、ディークは必死に無となった。どれくらいの時間が経ったのか分からないが、その沈黙は部屋の扉を叩く音で破られた。
「殿下、おはようございます。朝食の準備が整いました」
ロイスの声だ。ギクゥッと心臓が飛び出そうなほど驚いたディークは思わず顔を上げてしまった。そこには頬を赤らめ嬉しそうなセルヴィの顔があった。
再び手を伸ばしそうになってしまったが、ロイスが部屋の外にいるのだ、ということを必死に認識し、なんとか耐える。
「分かった」
セルヴィは扉の外にいるロイスに声を掛け、外の気配がなくなることを確認していた。そしてディークはパッと手を離すと、一歩後ろへと下がった。そのとき少し寂しそうな顔となったセルヴィに脳内で突っ込む。
(無自覚か! 無自覚なのか! 本当に勘弁してくれ、くそっ)
「あー、すみません、殿下はこれから朝食ですよね」
「あ、あぁ。だが、お前はなにか用事があったんじゃないのか?」
「あっ」
部屋へ入った途端、セルヴィの魔性に惹き付けられてしまい、すっかり忘れていた、とディークは頭を抱える。
「あの、書庫に入っても良いでしょうか」
「書庫?」
「はい。呪いについて調べてみようかと」
「…………」
セルヴィは顎に手をやり考え込んだ。
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