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15-2 初代王妃の書庫塔

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 塔のなかへと足を踏み入れると、そのなかは壁一面にぎっしりと本棚があり、本が埋め尽くされていた。しかも一般書物から専門書物のような小難しそうな本まで、様々な本が並んでいた。

「すげーな」

 思わず呟いた言葉にセルヴィも頷く。

「私も初めて入ったが、これは……」
「これって全て初代王妃様の所有されていた本、ということですかね?」
「…………そうなのだろうが……これはしかし……」

 二人で手分けをしながらあちこちの本を開いては中身を確認する、という作業を続けた。途中、昼食のために二人で食堂へと戻ると、使用人全員が驚いた顔となり、またしてもニヤニヤとされる。それをなんとか逃げ切り、再び塔へと戻る。

 塔のなかにある書物はやはりかなり古い本が多く、初代王妃が使っていた書庫なのだろう、ということはディークもセルヴィも納得したのだった。
 しかしいくらこのなかの書物を読み漁っても、『呪い』に関することが書かれたものは出てこなかった。


 その夜、ディークはセルヴィの部屋へと訪れ、お互い緊張しながらも応接椅子に並んで座る。

「なにも出なかったな……」

 セルヴィがぼそりと呟いた言葉にディークはフッと笑う。

「今日一日見ただけで、全ての本を読めた訳じゃないですしね。これから俺が探してみますよ」

 そう言葉にし、思わず頬に手が伸びかけたが、ギシッと我に返り、なんとか思い留まった。

(あ、危ない……また無意識に手が伸びるところだった)

 セルヴィに気付かれないように、深呼吸をし、思い留まったは良いが、無意識でないと逆に触れて良いのか分からなくなる。
 いきなり触れて良いものか、ディークは悩むが、しかしだからと言って「触りますね」と声を掛けるのもおかしい気がして、躊躇った結果、セルヴィ自身に動いてもらうことにした。
 ディークは片手を差し出し、セルヴィが自分から手を伸ばすことを待つ。

 その意図を理解したのかセルヴィはおずおずとディークの手の上に自身の手を重ねる。

「手袋を外しますね?」
「あ、あぁ」

 ディークはそっとセルヴィの手袋を外し、そして両手を自身の両手で包んだ。痣を優しく撫で、包み込むように手を重ねる。

 こんなことで本当に痛みがなくなるのか、とディークは疑問になるが、ちらりと見たセルヴィの顔が穏やかなことが、間違っていないのだな、と納得させる。ひとしきり手を撫で、そっと頬に手を伸ばす。

「仮面も外して良いですか?」
「……自分で……」

 そう言うとセルヴィは自身で仮面を外した。少し俯き、顔を赤らめたセルヴィの顔がどうにもディークの思考を刺激する。気分は高揚し、こんな姿を見られるのは自分しかいないのだ、ということに興奮した。

 頬に手を伸ばし、痣にそっと触れる。セルヴィがビクッと一瞬震えるその感触にすら、悦びを感じていることに気付く。

(気持ち悪いな、俺)

 苦笑しながらも、触れることを止められない。両頬に手を伸ばし、セルヴィの艶やかな肌を撫でる。赤面するセルヴィの頬は温かく、撫でるたびに恥ずかしそうに目を伏せるセルヴィの姿になんとも言えない感情の昂ぶりを覚える。

 頬を撫でていた手は綺麗な柔らかい銀髪を撫で、もう片方の手は頬を撫でていたかと思うと、親指で唇をすりっと撫でる。

「んっ」

 ふにふにと柔らかい唇はディークの指によって少し開かれ、色っぽい声が漏れた。その声にセルヴィ自身が驚いた顔となり、一瞬にして顔は真っ赤に。
 その瞬間ディークのなかでプツンと糸が切れたかのように、身体が勝手に動いた。触れていた柔らかい唇に触れるか触れないかの距離で自身の唇を重ね、お互いの熱い吐息が重なる。

 セルヴィの瞳は大きく見開かれ、金色の綺麗な瞳にディークの姿が映る。少しでも動けば唇が触れ合う距離。セルヴィは固まっているが、そんなセルヴィの髪を撫でていた手がそっと背中へと降りた。

 そっと背中を撫でたディークの手に、セルヴィはびくりとし、その瞬間、ふにっと唇が触れ合う。

「あっ」

 この距離でしか聞こえないだろう、とても小さく漏れたその声に、脳内が痺れるような感覚に襲われる。頭が真っ白となったディークはそれを飲み込むかのように唇を合わせた。再び背筋にチリッと電撃が走る。それには気にも留めず、ディークの意識はセルヴィに触れる自身の身体の感覚だけに集中していた。

 ふにふにと軽い口付けから、ちゅっと音を立て、そして唇をぺろりと舐める。

「あっ、んっ」

 セルヴィは目を見開いたまま、相変わらず真っ赤な顔。その顔がおかしくてディークはクスッと笑った。

(あぁ、もう男だとかどうでもいい。キスしたい……)

「嫌なら殴ってください」

 そう言うとディークの片手はセルヴィの背中撫で上げ、もう片方の手は頬を撫でつつ首に触れる。そのたびにセルヴィはビクリと身体を震わせ見悶える。
 混乱しているのか抵抗する様子を見せないセルヴィに、ディークは鼻先が触れる距離で見詰めたが、もう待たない、とばかりに唇を強く合わせた。


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