72 / 120
36-2 再会
しおりを挟む「ラ、ラウル!! 自分で歩くからいいよ!!」
「いまだに震えているではないですか。怪我のこともありますし、そんな脚で城まで歩かせるなんてさせられるはずもありません」
さらりと言われ、確かにいまだ震えている自分に気付く。な、情けない……男のくせにいつまでも震えて、こんな女の子みたいに抱き上げられて運ばれるなんて……。そう思うと居た堪れない気持ちにもなる。
そんなことを考えているのがリョウには分かったのか、頭にポンと手を置かれた。
「今は気にするな。運ばれとけ」
フッと笑ったリョウ。チラリとラウルを見ると、ラウルもフフッと笑った。な、なんかどっちが兄なんだか、といった感じだが、リョウに頭を撫でられ、仕方がないので大人しくふたりに従った。
そしてラウルに抱えられたまま、小屋を出ると……
「アキラ!!!!」
こちらに駆け寄って来るジウシードの姿が……。
「ジ、ジウシード?」
駆け寄って来たかと思うと勢いのまま、ラウルから奪い取るかのように、俺を抱えぎゅうっと力の限り抱き締めた。そのまま地面へと崩れ落ち、俺の首筋に顔を埋める。
ジウシードが来てくれた……ジウシードの匂いを感じる。震えるジウシードは力の限り俺を抱き締め苦しくもなるが、その苦しさが嬉しくなる。毛布でぐるぐる巻きにされている俺は腕を出すことが出来ず、抱き締め返すことが出来ない。抱き締め返したい……。
心配をかけた、怖かった、再び会うことが出来て嬉しい、そんな様々な感情が入り混じるが、今ただ抱き締め返したかった。
「ジウシード……ジウシード……顔を見せて」
何度もジウシードの名を呼びかける。その声にそろりと顔を上げたジウシードの顔は涙で濡れていた。
「ハハッ、色男が台無しだぞ?」
目を赤くし、拭うこともなくひたすら流れる涙。光を浴びキラキラとしている。そんな涙が綺麗だとも思った。
もぞもぞと毛布の隙間から腕を出し、ようやくジウシードに触れることが出来た。ジウシードの頬に両手を伸ばし包む。そしてそっと親指で涙を拭った。
「ジウシード……もう一度会えて良かった」
俺も泣いた。会えて良かった……もう一度会えて本当に良かった……ただそれだけだった。
「アキラ」
ジウシードはまたしても大粒の涙を流し、そして俺の後頭部に手を回したかと思うと、唇を合わせた。
それはいつものように齧り付くような獣のキスではなく、ただ唇が触れる……優しく……ただただ優しいキスだった。短いような長いような、時間が止まったかのような、そんな時間。触れる唇の柔らかい感触。それがゆっくりと離れるとき、お互い薄っすらと目を開き、間近に目詰め合う。
鼻先が触れ合い、離れがたいように唇の先端が僅かに触れ合ったまま、最後まで名残惜しいように、ゆっくりと離れた。
「はいはい、再会を喜び合いたい気持ちは大変よく分かるのですが、まずはアキラ様の治療を優先してください」
背後からラウルの声が聞こえギクリとする。そ、そういえばラウルもリョウもいるんだった!!
「治療……」
その言葉にピクリと反応したジウシードは俺の顔を改めて見て悲痛な顔となった。どうやら結構腫れているようだ。口のなかの血の味はもう感じはしないが、切れているのかやはり口内も痛い。
そして俺の手首を掴み、手のひらを見詰め硝子の破片で切った傷を見るとぎょっとし、さらには毛布の隙間から見える俺の上半身を見て、先程の泣きそうな顔から一気に怒りの顔となる。そしておもむろに毛布を開き、俺の全身を眺めた。
「ひっ、やっ、見るな!! 見られたくない!!」
襲われた姿など見られたくない。下半身が露わになり、破かれた上着からは胸と誓約の証が露わになっている。そんな姿を見られたいはずがない。
慌てて毛布を掴み引き寄せた。ジウシードは眉間に深い皺を刻み、再び俺をぎゅうっと抱き締める。
「すまないアキラ……俺のせいで……お前がこんな目に……」
「ジ、ジウシードのせいじゃないだろ!! 俺がこんなだから……男のくせに襲われるとかごめん……自分の身も守れないなんて情けない……」
「それこそお前のせいではない!! 俺が母を放置していたからだ……すまない……」
抱き締めたまま、何度もジウシードは謝罪の言葉を口にし、そして、最後には誰に向かって言ったのか……とてつもなく冷たく低い声で呟いた。
「絶対に許さない……」
72
あなたにおすすめの小説
《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。
かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年
【完】心配性は異世界で番認定された狼獣人に甘やかされる
おはぎ
BL
起きるとそこは見覚えのない場所。死んだ瞬間を思い出して呆然としている優人に、騎士らしき人たちが声を掛けてくる。何で頭に獣耳…?とポカンとしていると、その中の狼獣人のカイラが何故か優しくて、ぴったり身体をくっつけてくる。何でそんなに気遣ってくれるの?と分からない優人は大きな身体に怯えながら何とかこの別世界で生きていこうとする話。
知らない世界に来てあれこれ考えては心配してしまう優人と、優人が可愛くて仕方ないカイラが溺愛しながら支えて甘やかしていきます。
異世界転移して出会っためちゃくちゃ好きな男が全く手を出してこない
春野ひより
BL
前触れもなく異世界転移したトップアイドル、アオイ。
路頭に迷いかけたアオイを拾ったのは娼館のガメツイ女主人で、アオイは半ば強制的に男娼としてデビューすることに。しかし、絶対に抱かれたくないアオイは初めての客である美しい男に交渉する。
「――僕を見てほしいんです」
奇跡的に男に気に入られたアオイ。足繁く通う男。男はアオイに惜しみなく金を注ぎ、アオイは美しい男に恋をするが、男は「私は貴方のファンです」と言うばかりで頑としてアオイを抱かなくて――。
愛されるには理由が必要だと思っているし、理由が無くなれば捨てられて当然だと思っている受けが「それでも愛して欲しい」と手を伸ばせるようになるまでの話です。
金を使うことでしか愛を伝えられない不器用な人外×自分に付けられた値段でしか愛を実感できない不器用な青年
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
勇者になるのを断ったらなぜか敵国の騎士団長に溺愛されました
雪
BL
「勇者様!この国を勝利にお導きください!」
え?勇者って誰のこと?
突如勇者として召喚された俺。
いや、でも勇者ってチート能力持ってるやつのことでしょう?
俺、女神様からそんな能力もらってませんよ?人違いじゃないですか?
ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?
灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。
オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。
ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー
獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。
そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。
だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。
話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。
そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。
みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」
助けたドS皇子がヤンデレになって俺を追いかけてきます!
夜刀神さつき
BL
医者である内藤 賢吾は、過労死した。しかし、死んだことに気がつかないまま異世界転生する。転生先で、急性虫垂炎のセドリック皇子を見つけた彼は、手術をしたくてたまらなくなる。「彼を解剖させてください」と告げ、周囲をドン引きさせる。その後、賢吾はセドリックを手術して助ける。命を助けられたセドリックは、賢吾に惹かれていく。賢吾は、セドリックの告白を断るが、セドリックは、諦めの悪いヤンデレ腹黒男だった。セドリックは、賢吾に助ける代わりに何でも言うことを聞くという約束をする。しかし、賢吾は約束を破り逃げ出し……。ほとんどコメディです。 ヤンデレ腹黒ドS皇子×頭のおかしい主人公
魔王に転生したら幼馴染が勇者になって僕を倒しに来ました。
なつか
BL
ある日、目を開けると魔王になっていた。
この世界の魔王は必ずいつか勇者に倒されるらしい。でも、争いごとは嫌いだし、平和に暮らしたい!
そう思って魔界作りをがんばっていたのに、突然やってきた勇者にあっさりと敗北。
死ぬ直前に過去を思い出して、勇者が大好きだった幼馴染だったことに気が付いたけど、もうどうしようもない。
次、生まれ変わるとしたらもう魔王は嫌だな、と思いながら再び目を覚ますと、なぜかベッドにつながれていた――。
6話完結の短編です。前半は受けの魔王視点。後半は攻めの勇者視点。
性描写は最終話のみに入ります。
※注意
・攻めは過去に女性と関係を持っていますが、詳細な描写はありません。
・多少の流血表現があるため、「残酷な描写あり」タグを保険としてつけています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる