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48-2 選定の儀の目的
しおりを挟む「まあなんでも良いだろう。この試練が終わればこの三人のなかから誰かが国王となるのは決まっているのだ。それは変わらない。要するにこの国の国王というものは、形だけで、本来三人で協力しろ、ということなんだろう」
ジウシードのあっけらかんとした言葉にウェジエが笑った。
「なんか国王になる、ってことに気が抜けるな。『選ばれないといけない』といった強迫観念みたいなものがあったけど、一気に肩の荷が下りた気分だよ」
そうか、そうだよな。皆、平然としていたけど、やっぱり『国王になる』ということはかなりのプレッシャーだっただろうしな。領地を背負って選定の儀を行うということは、それだけで重荷だったんだろうな……。そう思うと、ジウシードが母親から領主になるように、国王になるように、とずっとプレッシャーを与え続けられてきたことにやはり胸が痛んだ。
「だな、もっと気楽にいこうぜ」
アハハ、と豪快に笑ったジェイクに皆が釣られて笑った。
「お前はもう少し気を引き締めたほうがいい気はするがな」
リョウがしれっとそう言うと、ジェイクがキレたのは言うまでもない……ハハ。
「しかし、それならなんで選定の儀の内容を隠す必要があるんだろうな。三領主で協力しろ、って定めておいたらいいだろうに……いや、そもそも選定の儀すらいらないような……」
ウェジエが首を傾げながら言った。そういやそうだな。隠す必要もなければ、そもそも選定の儀もいらない気がする……。
皆がその言葉に首を傾げる。リョウは「ふむ」と顎に手をやり考え込んだかと思うと、なぜか苦笑した。
「ま、それはおそらく初代の領主たちのせいじゃないか?」
「初代領主?」
全員がリョウの言葉に首を傾げた。しかし、リョウは苦笑しながらもその答えを言わない。
「うーん、そうだろうな、と思うくらいで、俺の憶測でしかないからな。初代領主なんて国の根源だろ。そんなものに関わると面倒そうだし、変なことを口走るのはやめておく」
「えぇ、なんだよそれ、気になるじゃないか!!」
「アハハ」
散々リョウに詰め寄り聞いたが、一向に答えをくれなかった。くそぅ。フェシスはなんとなく分かっていそうな雰囲気だったが、ジウシードたち三領主は全く意味が分からない、といった顔をしていた。しかし、一度こうやって口を噤むと二度とその話はしないリョウに、これ以上聞いても無駄だと判断したのか、ジェイクは早々に諦めていた。俺もそんなリョウの性格は分かっていたので、ぐぬぬとなりながらも諦めたのだった。
魔獣から続けて、ドラゴンとの戦闘で、回復薬で回復したとはいえ、三人が疲弊していることには間違いなかったので、今日はここまでということになった。
前日同様に携帯食で食事をし、皆で雑魚寝をしながら、なんとなく寝付けず、ボソッと呟いた。
「この試練ていつまで続くんだろ……」
なんだか終わりがないような錯覚に陥ってしまい、思わず口から漏れた。
「ご、ごめん!」
思わずガバッと身体を起こし謝った。皆が一番しんどいだろうに、俺がそんなことを言ったら駄目だろ! 俺はただ守られているだけだってのに! 責任の重さも試練を受けるしんどさもジウシードたちが一番大変だろうに……。
「それな!! ほんといつ終わるんだよ!!」
謝ったことなど聞いていなかったかのように、ジェイクが寝ころんだまま吐き捨てるように言った。頭の後ろに腕を組み、脚も組んでブラブラとさせている。まだ眠っていなかったんだな。
「もう丸二日ですしね」
「だよなぁ、いい加減太陽を浴びたい……」
フェシスまでも溜め息を吐きながら呟き、ウェジエはシクシクと泣き真似でもするように言った。結局全員まだ起きていたんだな。
「皆、うんざりしてんだよ、兄貴だけじゃない。気にし過ぎだ」
失言だと思い、すぐさま謝ったことに対し、リョウは苦笑した。シラーッとした目を向けられ「だからいつも気にし過ぎだって言ってるだろ」と言われている気がして、俺自身も苦笑してしまった。自分の性格はなかなか変えられないんだよな……。でもそんな俺の言葉を皆はこうやってサラッと受け止めてくれることに嬉しさが込み上げた。
「俺はアキラと一緒ならばいつまででもどこにでも平気だがな」
皆の優しさにじんわりと良い気分になっていたら、ジウシードの小っ恥ずかしい台詞に「んぐっ」と思わず喉から変な音が出ました……。皆のシラーッとした視線が痛い……。
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