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番外編
国王選定の儀 リョウ×ジェイク編①
しおりを挟む「ご無事でのご帰還をお待ちしております」
「おう!」
側近から恭しく言葉を掛けられ、ジェイクはニッと笑った。
部屋では大勢の人々に見守られ、そして魔導師たちが発動した魔法陣が足元に輝く。紫色に輝く魔法陣はジェイクの足元を明るく照らし、そしてひと際大きく輝くとジェイクを光の膜で包み込んだ……。
国王選定の儀。ジェイクは自身の運命の相手の元へと導かれて行った。
ドサッ! 浮遊感を感じ、鈍い痛みと共に音を上げ、自身の身体がどこかに放り投げられたことに気付く。
「痛っ」
ジェイクは打ち付けた腰を摩りながら周りを見回した。見たことのない部屋。狭いその部屋はどこかの小屋だろうか、と考えるが、なにやら見慣れぬものが並んでいた。
閑散とはしているが、ベッドがすぐ横にあるのだけは分かった。こんな小さなベッドで眠れるのか、と思うような見たこともない小ささ。
呆然としていると突然ガチャリとなにかが開く音がした。慌てて振り向くと、そこには小さな扉があり、その扉からひとりの男が現れた。
首にタオルを巻き、ラフな格好をいていたその男は髪が濡れ、良い香りを漂わせていた。綺麗な黒髪に整った顔。体格は細身だが、しかし、それなりに鍛えてあるのか引き締まった身体のように見えた。
男はこちらにチラリと視線が向いたかと思うと、驚き目を見開いた。黒髪と同様に輝く黒い瞳。あまり見たことがない色だ、と、ジェイクはその色に見惚れた。
「だ、誰だお前」
見惚れていたジェイクをよそに、その男はじりっと後退り不審な目を向ける。そして睨むように言った。
あ、しまった。見惚れてる場合じゃねー……って、見惚れてた訳でもない!
ジェイクは慌てて立ち上がるが、筋肉質で体格もよく背も高いジェイクだ。この狭い空間で立ち上がったジェイクが相手に威圧感を与えることは必然だった。それを理解していたジェイクは溜め息を吐くと、頭をガシガシと掻きなるべく穏やかに話し出す。
「すまん。俺はジェイク・アヴァルガンって者だ」
「…………どうやってこの部屋に入って来た」
「ん? あー、魔法陣で?」
「は?」
男は「なに言ってんだ、こいつ」といった顔でジェイクを見た。しかし、ジェイクは周りを見回し、なんとなくの状況を把握する。自身の国では見たことがないような物ばかりが並ぶ部屋。他国、もしくはそれよりももっと違うどこか……。
「すまんが、お前のいるこの国はなんという国か教えてくれ」
「は? 国?」
「あぁ」
「日本だが」
「ニホン……」
やはり聞いたことのない名だ、と、ジェイクは再び頭をガシガシと掻き、深い溜め息を吐いた。
「チッ、めんどくさいな。まさかの異世界か」
「異世界? は? なに言ってんだ、お前」
「あー、お前の名は?」
「…………」
「おい! 俺だって名乗ったんだから、お前も名前くらい教えろ!」
「見知らぬ人間……しかも不法侵入するような人間に名乗るような馬鹿がいるか」
シラーッとした目で見られ、ジェイクはイラッとした。しかし、不法侵入者と言われれば反論出来ないことに、ガクリと肩を落とす。
「不法侵入は……その、故意ではない。だが、お前にしてみれば……不審者だよな……すまん」
ガクリと項垂れたままジェイクは謝罪を口にした。
「プッ」
項垂れていた頭上からなにやら噴き出す音が聞こえ、ガバッと顔を上げると、男は腕で顔を隠しながら横へと視線を逸らしていた。そして肩を震わす……。
「おい」
「ブフッ。い、いや、見かけによらないというか……ククッ、素直だな、ブフフッ」
若干涙目になりながら笑いを堪えている……いや、堪えてはいない……。
「く、くそっ、笑うな!」
「アハハッ」
先程まで睨んでいたのが嘘のように笑うその姿は、なにやら幼くも見え、可愛いと思ってしまった。ジェイクはなにやらソワソワと落ち着かない気分となり、胸が高鳴ることに戸惑い、顔が熱くなる。
運命の相手……相手が男だなんて予想外だった。予想外だったのに、なぜか心が震える。会えたことに嬉しさを覚える。
これが『運命の相手』ということか……。会った瞬間に『運命』ということを理解するのか、『運命』と言われて会うからこそ意識をしてしまうのか。そんなことを考えもするが、だがしかし、実際今目の前にいる男を見ると胸が高鳴ることに間違いはない。
ジェイクは戸惑いながらも真っ直ぐに見詰めた。
「リョウ」
「え?」
「西嶺凌、俺の名だ」
「え、なんで……」
つい先程、名乗る訳がない、と宣言したじゃないか、とジェイクはたじろいだ。
「んー、まあ、なんかお前……ばか……いや、なんか悪い奴には見えないし。ハハ」
「お、お前、今、馬鹿って言っただろ」
「んー? それよりジェイクだっけ? で、お前はなんなの? どこから来て、何者だ?」
ジロッと睨むがリョウはシレッと話を逸らす。
「話さないなら追い出すぞ? それとも通報でもするか」
「ちょ、ちょっと待て!」
腕を組み、顎を上げながら目線で扉を差す。先程までの幼そうな笑顔とは違い、冷静にこの状況を見ている。冷たい視線を向けられぞわりとした。
「そんな目で見るな! お、お前は俺の運命の相手なんだからな!」
運命の相手にそんな冷たい目で見られるとなにやら苦しくなる。そんな目で見られたくない。ジェイクは焦るように叫ぶ。
「は? 運命の相手?」
いきなりなにを言っているんだ、と怪訝な顔をするリョウ。それに対し、明らかに「しまった」と頭を抱えるジェイク。
リョウは溜め息を吐きながら、落ち着け、とばかりにジェイクをベッドに座らせた。
「最初から順を追って話せ」
リョウはジェイクの隣に腰かけ、ひとつずつ質問をしていった。
ジェイクがアルヴェスタ王国アヴァルガン領領主であること。そこはいわゆる異世界と呼ばれる世界で、魔法陣でやって来たこと。アルヴェスタでは三つの領地があり、それぞれの領主が国王になるために、国王選定の儀を行うこと。そして、最初に運命の相手を見付けるということ。
「……それで、俺がお前の運命の相手って?」
「そうだ」
「ふーん? で、結ばれて国に帰還したい、と」
「あぁ」
「へー……まあ、断るけど」
「は!?」
あっけらかんと言われたその言葉にジェイクは驚き、隣に座るリョウのほうへとガバッと向いた。
「いや、そんなもん当然だろ。俺になんのメリットもないし。逆になんで了承すると思ってんの?」
呆れたように鼻で笑われ、ジェイクはぐぬぬとなる。
「いや、でも、お前が受け入れてくれないと俺は帰ることも出来ないんだぞ!?」
「そんなの知るか。そんなのお前らの都合だろ。俺の人生どうなるんだよ。今ここで俺は生活してるんだよ。家族もいるんだよ。それを全て捨てろってか? お前にそんな権利あるのかよ」
「うぐっ、いや、でも……俺にだって領民がいる。領民を見捨てることなんて出来ないんだよ! 何万人と抱えているんだ!! お前とは違う!!」
リョウに詰め寄りながら怒りに任せ叫ぶ。ジェイクにも領主という責任がある。自分の肩には多くの領民たちの想いを背負って来ているのだという自負がある。今ここで諦める訳にはいかないのだ。
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