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第1章 最強最悪PKチームの異世界転生
【第1話】 警告色
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大規模多人数同時参加型オンラインRPG(MMORPG)「 百魔蹂躙」。
「人間社会の傍ら、夜の世界では妖怪・モンスター・伝承生物が今でもひっそりと生活している」という言葉から始まるこのゲームは、今や全世界プレイヤー総数一千万人を超える。
世界の謎を解き明かす冒険からほのぼのスローライフまで、リアルタイムで他者と関わりながら自由に行動をすることができる。
プレイヤーは古今東西あらゆる妖怪・モンスター・空想生物からキャラクターを選び、自分だけのアバターとして行動する。様々な特徴を持つワールドが存在する世界で、プレイヤーはキャラクターを操作して他者と関わりながら、文字通りキャラクターと共に成長をしていく。
中でも人気種族である西洋モンスターの姿をしたプレイヤーが三人、大都市マルヴェラの石畳の上を走っていた。中世ヨーロッパを模した石作りの低い建物に挟まれ、迷路のように入り組んだ細道を縫うように走る。
マップを見ずにあえて障害物の最短経路を進む様子から、かなりの熟練プレイヤーだとわかる。
丁度道に置かれた木箱を飛び越えた先頭の男は、青白い肌に長い手足、先が尖った耳と口から覗く吸血歯が特徴的な容姿の吸血鬼だ。
隠密性に優れている魔族の中でも敏捷性が高く、人気の高い種族とされている。艶やかな黒髪をなびかせて夜明けの空のような東雲色の瞳で振り返った吸血鬼は、仲間に口を開いた。
「ちゃっちゃと走れや!
愚図ども!」
「口が悪いでござるよ、このコウモリ男!」
口の悪い言葉に即座に言い返したのは、吸血鬼よりも一回りは体躯の大きいツギハギだらけの男だ。
聳え立つような僧帽筋や服の上からでもわかる肥大化した胸筋と、鋼のような身体。パズルのようにあちらこちらで皮膚の色が異なる見た目と頭に刺さったボルトが前衛的なフランケンシュタインだった。
体力・攻撃力に優れた人造人間ではあるがその分足が遅く、今も列の最後尾で障害物の木箱をタックルで破壊したところだ。
そして二人に挟まれた、燃えるような赤髪とエメラルドグリーンの瞳を持つ、箒に横乗りで空を飛ぶ女は無言を貫く。
言うまでもなく、彼女は魔法使いだ。
だが思うところがあったのか、手を吸血鬼に向けた。
青白く発光しながら魔力が練られて球体状になり、真っ直ぐ吸血鬼の背中に向かって命中する。
「あ!?てめぇフォマ!」
HPが減って攻撃を受けたことに気づいた吸血鬼が、この中で唯一遠距離攻撃に特化した魔法使いのフォマを非難する。
フレンドリーファイアというシステム上、このゲームでは例え仲間同士であっても攻撃を受ける。
足が止まった吸血鬼は後方のフォマに蹴りを入れようとするが、あっさりと躱されて悔しげな声を上げた。
だが、通常攻撃と言われる先ほどの魔法攻撃でへばるような者はここにはいない。
こうしたじゃれ合いはよくあることだった。
「文句を言うなら、私ではなく残業続きで今日までウィークリーミッションが出来なかった奴に言って欲しいものです。
ねぇ、サカナさん?」
ゲーム内の時刻は現実世界とリンクしており、現在は11時50分。
あと十分もすればゲーム世界における日付が変わり、同時にゲーム内では一日ごと・一週間のタスクが刷新される。
「うむ、拙者もそう思うでござる。
今のはキングが悪いでござるよ」
「うるせぇ!
じゃあてめぇも蹴らせろ!サカナ!」
視界が開け、目の前に巨大なモダニズム建築が現れる。
スペインのバロセロナにあるカトリック教会がモデルと言われる石造りの建物は、聳え立つような十本の尖塔とその足元に八の字型の柱で囲まれた精巧な肖像が埋め込まれたファザードがある。
通称「串刺し公の居城」と呼ばれる城の周りは常に日の光が届かず、暗く重厚な雰囲気と悪魔のレリーフが相まって不気味な印象を受ける。
しかしここヴァレンタイン広場には他のプレイヤーも存在し、皆これからの冒険の行先を決めようと明るく談笑していた。
三人は掲示板と呼ばれる立て札の前に立つと、代表でサカナと呼ばれたフランケンシュタインがミッションを受けるための操作をする。
人が集まる広場は「緩衝地帯」となっており、攻撃ができない。
欲求不満なキングと暇なフォマは、操作中のサカナにダメージの入らない蹴りや拳を入れた。
その様子を見た周囲のプレイヤーの一人は
「げぇっ!?」
「ばか!見るな…!」
と声を上げて、すぐに仲間に注意を受けた。
声を上げたプレイヤーは頭から角を生やした小鬼、仲間の方は猫耳を生やした猫又の姿をしている。
しかし初めて間もないためか、服装や見た目はシンプルな初期装備のままだった。
彼が声を上げたのは、キングの装備が夜間舞踏会のような英国紳士風の燕尾服に純白のウイングカラーシャツ、艶やかな革靴と典型的な吸血鬼スタイル…。
否、課金装備だったからではない。
ましてやフォマの服装が、大胆に肩と背中を露出したホルターネックのブラックドレスで、箒に座ると細い腰元に巻き付いたドレスが引っ張られてマントの間から健康的な太腿がチラチラと見え隠れするからでもない。
彼の驚きは、キングだけではなく三人を見てだった。
吸血鬼・フランケンシュタイン・#ソーサレス__最上位魔法使い_#。
それはストーリーと通常ミッションを全て終了していることを意味する。さらにそれぞれの種族と職業のレベルを限界まで上げることで、魔族なら小鬼から#西洋鬼__コボルト_#へ、西洋鬼から#一本鬼__オーク_#へと進化をしていき、さらに#二本鬼__オーガ_#や#サキュバス__夢鬼_#を経由した先にある、完全形態の種族である。
最終的にはプレイヤーが目指す選択肢の一つであり、種族ごとに専用の能力と強力な独自技を持つ種族だ。
「で、でもよ…」
「下手に目を付けられたらどうするんだ、じっとしてろ」
だが、小鬼の青年の瞳には尊敬の念ではなく恐怖が浮かんでいた。
吸血鬼・フランケンシュタイン・ソーサレスは、中でも#PVP__プレイヤー同士の戦闘_#に特化した種族である。つまり、彼らの姿は自分たちが非常に好戦的なネトゲ廃人だと言っているようなものだ。
さらに通常は胸の上辺りで青く表示されるプレイヤー名
「キング」
「フォマ・ディディモ」
「魚@くそ雑魚侍参上!」は、各々の頭の上で警告色に表示されていた。
プレイヤー名が警告色になるのは、過去お互いに同意のないPVPを行って相手を殺した#PK__プレイヤーキラー_#である証拠である。
どれだけ名前がふざけていようが、現実世界でいうシリアルキラーだ。
「なんで上級者のPKが、こんなとこにいんだよ…。
別フィールドに行けってんだ」
「まぁ、大方他のミッションはやりつくしたんだろ」
もちろん全てのプレイヤーがPVPを好むわけではなく、初心者で温厚なプレイヤーにとって、彼らは報酬を奪われ時には一方的に攻撃される恐怖の対象だった。
特にPKに対しては、ある事件をきかっけに利用者の間で深い溝がある。
そのため運営も出来る限り古参プレイヤーと初期プレイヤーが接触しないように手をつくし、結果このゲーム内では広大な敷地面積が保有されている。
また利用者が増えるにつれて増えた壱~伍までのサーバーでは、サーバー間の利用制限がある。
だが、未だに度々いざこざがあるのも事実だった。
「よし行くでござる」
「おう」
「……」
『ウィークリーミッション「貌のない猫からの挑戦状」を始めます』
サカナがミッションの中から迷わず最高難易度のものを選択すると、別のフィールドへ転移が始まる。
三人の足元から青白い光が生まれ、まるで意思を持っているかのように動き出し魔法陣を描いていく。
魔法陣がさらに眩く発光し、雷鳴のように辺りを照らしたかと思えば三人は既に別の空間に立っていた。
「キイイィイィ!!」
ガラスを爪でひっかいたような不快な叫び声が、洞窟内に反響して広がる。
宝石の採掘場となっている鉱山内に生息するシャンタク鳥が、硝石で覆われた翼を開き馬のように縦に長い頭をもたげて威嚇する。
鱗に覆われたかぎ爪はクジラすらも握り潰せる巨大さで、しかし小さな三人の侵入者を明確な敵と認識したようだ。
「拙者が気を引くでござる、キングとフォマは背後から攻撃するでござるよ」
「あー…確か、範囲攻撃をする前に嘶くんだっけか?」
「えぇ、わかったらさっさと片付けますよ」
「キュィイイイー!!」
高く嘶いて鳥足を振り下ろしたシャンタク鳥に、三人は身をひるがえして躱す。
シャンタク鳥が獲物の姿を探して身体を左へ向ける頃には、キングは小刀を抜いて走り出し、フォマは魔法を構築し、サカナはハンマーを振り上げていた。
「人間社会の傍ら、夜の世界では妖怪・モンスター・伝承生物が今でもひっそりと生活している」という言葉から始まるこのゲームは、今や全世界プレイヤー総数一千万人を超える。
世界の謎を解き明かす冒険からほのぼのスローライフまで、リアルタイムで他者と関わりながら自由に行動をすることができる。
プレイヤーは古今東西あらゆる妖怪・モンスター・空想生物からキャラクターを選び、自分だけのアバターとして行動する。様々な特徴を持つワールドが存在する世界で、プレイヤーはキャラクターを操作して他者と関わりながら、文字通りキャラクターと共に成長をしていく。
中でも人気種族である西洋モンスターの姿をしたプレイヤーが三人、大都市マルヴェラの石畳の上を走っていた。中世ヨーロッパを模した石作りの低い建物に挟まれ、迷路のように入り組んだ細道を縫うように走る。
マップを見ずにあえて障害物の最短経路を進む様子から、かなりの熟練プレイヤーだとわかる。
丁度道に置かれた木箱を飛び越えた先頭の男は、青白い肌に長い手足、先が尖った耳と口から覗く吸血歯が特徴的な容姿の吸血鬼だ。
隠密性に優れている魔族の中でも敏捷性が高く、人気の高い種族とされている。艶やかな黒髪をなびかせて夜明けの空のような東雲色の瞳で振り返った吸血鬼は、仲間に口を開いた。
「ちゃっちゃと走れや!
愚図ども!」
「口が悪いでござるよ、このコウモリ男!」
口の悪い言葉に即座に言い返したのは、吸血鬼よりも一回りは体躯の大きいツギハギだらけの男だ。
聳え立つような僧帽筋や服の上からでもわかる肥大化した胸筋と、鋼のような身体。パズルのようにあちらこちらで皮膚の色が異なる見た目と頭に刺さったボルトが前衛的なフランケンシュタインだった。
体力・攻撃力に優れた人造人間ではあるがその分足が遅く、今も列の最後尾で障害物の木箱をタックルで破壊したところだ。
そして二人に挟まれた、燃えるような赤髪とエメラルドグリーンの瞳を持つ、箒に横乗りで空を飛ぶ女は無言を貫く。
言うまでもなく、彼女は魔法使いだ。
だが思うところがあったのか、手を吸血鬼に向けた。
青白く発光しながら魔力が練られて球体状になり、真っ直ぐ吸血鬼の背中に向かって命中する。
「あ!?てめぇフォマ!」
HPが減って攻撃を受けたことに気づいた吸血鬼が、この中で唯一遠距離攻撃に特化した魔法使いのフォマを非難する。
フレンドリーファイアというシステム上、このゲームでは例え仲間同士であっても攻撃を受ける。
足が止まった吸血鬼は後方のフォマに蹴りを入れようとするが、あっさりと躱されて悔しげな声を上げた。
だが、通常攻撃と言われる先ほどの魔法攻撃でへばるような者はここにはいない。
こうしたじゃれ合いはよくあることだった。
「文句を言うなら、私ではなく残業続きで今日までウィークリーミッションが出来なかった奴に言って欲しいものです。
ねぇ、サカナさん?」
ゲーム内の時刻は現実世界とリンクしており、現在は11時50分。
あと十分もすればゲーム世界における日付が変わり、同時にゲーム内では一日ごと・一週間のタスクが刷新される。
「うむ、拙者もそう思うでござる。
今のはキングが悪いでござるよ」
「うるせぇ!
じゃあてめぇも蹴らせろ!サカナ!」
視界が開け、目の前に巨大なモダニズム建築が現れる。
スペインのバロセロナにあるカトリック教会がモデルと言われる石造りの建物は、聳え立つような十本の尖塔とその足元に八の字型の柱で囲まれた精巧な肖像が埋め込まれたファザードがある。
通称「串刺し公の居城」と呼ばれる城の周りは常に日の光が届かず、暗く重厚な雰囲気と悪魔のレリーフが相まって不気味な印象を受ける。
しかしここヴァレンタイン広場には他のプレイヤーも存在し、皆これからの冒険の行先を決めようと明るく談笑していた。
三人は掲示板と呼ばれる立て札の前に立つと、代表でサカナと呼ばれたフランケンシュタインがミッションを受けるための操作をする。
人が集まる広場は「緩衝地帯」となっており、攻撃ができない。
欲求不満なキングと暇なフォマは、操作中のサカナにダメージの入らない蹴りや拳を入れた。
その様子を見た周囲のプレイヤーの一人は
「げぇっ!?」
「ばか!見るな…!」
と声を上げて、すぐに仲間に注意を受けた。
声を上げたプレイヤーは頭から角を生やした小鬼、仲間の方は猫耳を生やした猫又の姿をしている。
しかし初めて間もないためか、服装や見た目はシンプルな初期装備のままだった。
彼が声を上げたのは、キングの装備が夜間舞踏会のような英国紳士風の燕尾服に純白のウイングカラーシャツ、艶やかな革靴と典型的な吸血鬼スタイル…。
否、課金装備だったからではない。
ましてやフォマの服装が、大胆に肩と背中を露出したホルターネックのブラックドレスで、箒に座ると細い腰元に巻き付いたドレスが引っ張られてマントの間から健康的な太腿がチラチラと見え隠れするからでもない。
彼の驚きは、キングだけではなく三人を見てだった。
吸血鬼・フランケンシュタイン・#ソーサレス__最上位魔法使い_#。
それはストーリーと通常ミッションを全て終了していることを意味する。さらにそれぞれの種族と職業のレベルを限界まで上げることで、魔族なら小鬼から#西洋鬼__コボルト_#へ、西洋鬼から#一本鬼__オーク_#へと進化をしていき、さらに#二本鬼__オーガ_#や#サキュバス__夢鬼_#を経由した先にある、完全形態の種族である。
最終的にはプレイヤーが目指す選択肢の一つであり、種族ごとに専用の能力と強力な独自技を持つ種族だ。
「で、でもよ…」
「下手に目を付けられたらどうするんだ、じっとしてろ」
だが、小鬼の青年の瞳には尊敬の念ではなく恐怖が浮かんでいた。
吸血鬼・フランケンシュタイン・ソーサレスは、中でも#PVP__プレイヤー同士の戦闘_#に特化した種族である。つまり、彼らの姿は自分たちが非常に好戦的なネトゲ廃人だと言っているようなものだ。
さらに通常は胸の上辺りで青く表示されるプレイヤー名
「キング」
「フォマ・ディディモ」
「魚@くそ雑魚侍参上!」は、各々の頭の上で警告色に表示されていた。
プレイヤー名が警告色になるのは、過去お互いに同意のないPVPを行って相手を殺した#PK__プレイヤーキラー_#である証拠である。
どれだけ名前がふざけていようが、現実世界でいうシリアルキラーだ。
「なんで上級者のPKが、こんなとこにいんだよ…。
別フィールドに行けってんだ」
「まぁ、大方他のミッションはやりつくしたんだろ」
もちろん全てのプレイヤーがPVPを好むわけではなく、初心者で温厚なプレイヤーにとって、彼らは報酬を奪われ時には一方的に攻撃される恐怖の対象だった。
特にPKに対しては、ある事件をきかっけに利用者の間で深い溝がある。
そのため運営も出来る限り古参プレイヤーと初期プレイヤーが接触しないように手をつくし、結果このゲーム内では広大な敷地面積が保有されている。
また利用者が増えるにつれて増えた壱~伍までのサーバーでは、サーバー間の利用制限がある。
だが、未だに度々いざこざがあるのも事実だった。
「よし行くでござる」
「おう」
「……」
『ウィークリーミッション「貌のない猫からの挑戦状」を始めます』
サカナがミッションの中から迷わず最高難易度のものを選択すると、別のフィールドへ転移が始まる。
三人の足元から青白い光が生まれ、まるで意思を持っているかのように動き出し魔法陣を描いていく。
魔法陣がさらに眩く発光し、雷鳴のように辺りを照らしたかと思えば三人は既に別の空間に立っていた。
「キイイィイィ!!」
ガラスを爪でひっかいたような不快な叫び声が、洞窟内に反響して広がる。
宝石の採掘場となっている鉱山内に生息するシャンタク鳥が、硝石で覆われた翼を開き馬のように縦に長い頭をもたげて威嚇する。
鱗に覆われたかぎ爪はクジラすらも握り潰せる巨大さで、しかし小さな三人の侵入者を明確な敵と認識したようだ。
「拙者が気を引くでござる、キングとフォマは背後から攻撃するでござるよ」
「あー…確か、範囲攻撃をする前に嘶くんだっけか?」
「えぇ、わかったらさっさと片付けますよ」
「キュィイイイー!!」
高く嘶いて鳥足を振り下ろしたシャンタク鳥に、三人は身をひるがえして躱す。
シャンタク鳥が獲物の姿を探して身体を左へ向ける頃には、キングは小刀を抜いて走り出し、フォマは魔法を構築し、サカナはハンマーを振り上げていた。
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