プレイヤーキラー~PKギルドの世界征服~

栗金団(くりきんとん)

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第1章 最強最悪PKチームの異世界転生

【第4話】 個人主義

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 「やれやれ、二人とも急に飛び出さないで欲しいでござるよ」

 「売られた喧嘩は買わねぇとだろ」
 まばらに生えた白髪を掻きながら非難するサカナに、ストレス発散をして落ち着いたキングが乱暴に返答する。  
 PVPの報酬はレベルの差を考慮して与えられるため、格下と戦闘しても三人には旨味がない。
 タイミング悪くキングの八つ当たり相手となった四人に、サカナは「可哀そうに」と呟く。
 ただ、攻撃を仕掛ける側が変わるだけでどのみちキングの弱い者いじめに付き合わされていたかもしれないとも思う。
 そして死体を足蹴にして持ち物をあさる、もう一人の仲間にも目を向ける。
 「大したものは持ってないですね。
 何で仕掛けたのか不思議なくらいです」
 「…それを本当の死体蹴りと言うのござる」
 「喧嘩を売っといて負ける方が悪いんですよ」
 「もしかしたら、貴重な情報提供者になったかもしれないでござるのに。
 二人とも、もうこれがただの不具合ではないと気づいているでござろう?」
 サカナは、二人を気まずそうに見上げた。
 まるで現実の身体のような五感があり、リアリティが存在する。
 目の前にあるのは現代のグラフィックでは表現できないほど色彩豊かな臓物の色見に、決して伝わらないはずの血だまりの暖かみ。
 サカナは、さっそくプレイヤーを殺害した仲間の心を慮る。
 幾多のプレイヤーを傷つけたとはいえ、正当防衛とはいえ、フィクションの中で人を殺すのとはわけが違う。
 「あぁ、そういえば攻撃を受けた時に痛みを感じたな。
 しかも、走っている感覚があった」
 「私は特に何も」
 「あぁ……そうでござった。
 お主らはそういう人間でござった」
 「何だ?」
 「いや、つくづく二人とはリア友でなくて良かったなと思ったでござるよ」
 元々気軽にプレイヤーを殺害して回っていた二人である。
 今更まともな倫理観を期待する方がおかしいというものだと、サカナはため息をつく。もちろん、それを見過ごしてきたサカナも同罪だ。
 だが元より、彼らはお互いにレベルが近いからつるんでいるだけのビジネスパートナーだった。
 現実世界ではどこに住んでいるどんな人間なのか、顔や名前ですらお互いに知らない。
 「何ですか?
 オフパコ狙いですか?」
 「馬鹿、誰が男と会うかよ」
 「わからないでござるよ。
 拙者が愛らしいJKの可能性も捨てきれないでござる」
 「ギャハハ!!なわけねぇだろ!」
 「しかし、これが異世界転生というやつでござるか。
 となれば、まずは何より情報収集でござるな」
 「情報収集?」
 「恐らく、ここは百魔蹂躙というゲーム内に似た異世界でござる。
 が、先ほどのようにゲームとはシステムが違う可能性が高いでござる」
 「確かにそうですね。
 というかこの死体、いつまでここにあるんですか?」
 ゲームでは、プレイヤーやモンスターに倒されたプレイヤーは近くの街に強制的に転移する。
 倒される前と違って武器は消費し持ち物はほとんど落とした状態にはなるが、現実世界のようにいつまでもケガを負っていたり、やり直しがきかなかったりというわけではない。
 死体が消えないということは、現実世界と同じようにこの世界で死んだことを意味している。
 だがそれを知るためにやることはいつもと変わらず、 この世界のゲーム研究である。
 「戦闘やギルドチャットは使えるでござるが、ゲーム設定はいじれないでござる。
 一応、今までのマップや地図などは使えるでござる」
 「ギルドの方はどうですか?
 誰かオンラインになっていますか?」
 ギルドというのは、五人以上のプレイヤーが所属する組合のようなものである。
 基本的に百魔蹂躙は一人でも行えるゲームだが、ストーリーをやり終えたプレイヤーはその限りではない。
 レベルをカンスト(上限までレベルが上がること)させ、さらなる強力な武器を得るため、またストーリー後に解放されるミッションをクリアするためには、最低でも三人以上のプレイヤーが必要な場合がある。
 そうして出来るのがチームであり、さらに大きな団体がギルドだった。
 ギルドはミッションで人数が足りない時にも活躍するが、新しい仲間と出会う場所であり、共に切磋琢磨する場所である。
 もちろん、中にはそう思わないプレイヤーもいる。
 「…ギルドに入ってねぇと、ゲットできないアイテムがあるっつうから所属してはいるけどよぉ」
 「他のプレイヤーが足手まといですか?
 別にいいじゃないですか、どうせクエストはこの面子でやるんですし」
 「メリットがねぇって話だ。
 ギルドミッションも、ほとんど俺らがクリアしているようなもんだろ」
 「それは仕方ないでござるよ。
 我々古株は、新しい者を導く役割があるでござる」
 ギルドメンバーが協力してミッションを達成すると、報酬で特別なアイテムを得られる。
 だからこそ、ゲームに対するやる気やレベルの違いからギルド内で揉め事が起きるのはよくある話だった。
 中にはゲームにログインすらしなくなってしまうプレイヤーもおり、そうしたプレイヤーによってギルド全体の士気が落ち、さらにギルドメンバーが減るという負の連鎖が生まれることもある。
 そうならないために、ギルドマスターのサカナは積極的にギルドメンバーと交流していた。
 「みなオフラインになっているでござる。
 拙者たちはオンライン扱いでござるな」
 「…そうですか」
 「あぁ、そういえばフォマにはお気に入りの新人がいるんだったか」
 「えぇ、座敷童に狼男と仙狐。
 ひざ丈種族でチームを組んでいるそうです」
 ひざ丈種族とは、フランケンシュタインや吸血鬼のような背の高い巨大種族に対して、彼らの膝上ほどの背の小さな種族である。
 同じギルドとはいえ、一緒に行動をしているチームは異なるため接する機会はほとんどない。
 他人の顔が覚えられないキングに至っては、存在を認知しているかすら怪しい。
 しかし、キングはフォマの記憶力は邪な欲望から来るものだと知っていた。
 「…ロリコン犯罪者が」
 「彼女たち、こっちに来ているのではないかと思ったのですが…」
 「まだ諦めるのは早いでござるよ。
 時間差で転移してくる可能性があるでござるからな。
 それにオンライン状況は手動で切り替えられるでござるから、オフラインにしたままということもあるでござる」
 「それは良かった」
 「来たところで足手まといだ、来ない方がまだましだろ」
 「は?」
 「あ?」
 「あー!
 ギルドメンバーが来るまでは!情報収集をするのはどうでござろうか!?
 幸い、近くに三つ街があるでござる」
 「はーん?
 三つ?」
 「ここはヨーフラン大陸の端、始まりの地でござる。
 ここから北には始まりの街、南東にはエルフの森、そして東には宿場村オーウェンがあるでござるよ。
 さぁ、どこに行くでござるか?」
 「せっかくだ、賭けようぜ」
 「誰が一番有益な情報を得るかですか?」

 「いや、“誰が一番多く殺せるか“だ」

 「…おかしいでござる。
 拙者は確かに情報収取と言ったはずでござるが」
 「どうやら、この世界でもプレイヤー同士は殺し合ってるみたいだからな。
 半殺しにしてから情報を聞き出して、恨まれる前に始末した方が効率も良いだろ」
 「あの世で恨まれてそうでござるな」 
 「何を今更、私は乗りました」
 死体を積み上げた山に腰かけていたフォマが立ち上がって、箒を出現させる。
 外套を片手で掴み身軽な身体と共に翻して箒に跨る姿を見ながら、サカナはマップ上の目的地にピンを指してチャットで共有する。
 念のため、忠告も忘れない。
 「単独行動は危険でござるよ。
 が、拙者は始まりの街に行くでござる」
 「あっ、てめぇ…!?」
 「では、私はエルフの森に」
 「ちっ、勝ったやつがゴールド十枚な」
 「わかりました」

 「それでは、よーいドンでござる!」

 (拙者もライドで加速させてもらうでござる)

 一斉に三方向に走り出す三人。
 箒で滑るように進むフォマを見て、重量のあるサカナもライドを試みる。
 どうやら、街中と違ってここには乗り物の制限はないらしい。
 本来はショートカットキーを押して二基のジェットを搭載したキックボードを空中に出現させるが、念じるだけで、乗り物が出現してその上に飛び乗る。
 走るよりも操作が楽で速いので、これで多少はまともな勝負ができると思ったのも束の間。
 遠くから馬の嘶く声がする。
 見れば、キングが水しぶきを上げて地中からケルピー水の悪魔を呼び出して鞍に乗っていた。
 たてがみから尾先まで黒一色の馬の姿をしたケルピーは、水際で人をおびき寄せて引きずり込むと言われている。
 しかし魔族最強と言われる吸血鬼のキングが手綱を引けば、健脚を蹴り上げて勢いよく駆け出す。
 結局、サカナは自分が最後に目的地にたどり着きそうだと肩を落とした。
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