神様と契約を

小都

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「終わったな」

抱きとめていた一葉を放し水光は辺りを見渡した。
志津が育てていた妖もすでに式神たちが浄化し終わっている。

「さあ、帰ろう」

水光がそう言って一葉を見ると、一葉は俯いていた。
志津が去った後でも未だ意識が呑まれたままなのかと
水光が一葉の顔を覗くと、一葉の瞳には光が戻っているように見える。

「一葉?」

水光が再び問いかけ、一葉に手を伸ばそうとすると、
一葉はその手に身体をびく、と震わせた。

「一葉・・・?」

「あ、すみませ・・・」

光は戻ってはいるけれど、どこか少しおかしい。
何かを考えているのか、それとも何かに思考を囚われているのか、
一葉は心ここにあらずといったようにぼうっとしていた。

水光はそんな一葉が何を考えているのか分からなかったけれど
疲れ切った身体も、心もまずは休める事だと、一葉を家に連れ帰る事に決めた。




その日の晩、いつもと同じように一緒の布団で眠ろうとすると、
一葉は少しの躊躇いをみせ、中々布団に入ってこようとはしなかった。

「一葉?」

家に帰ってきた一葉は、家族の前では普段通りに過ごしていたが、
水光と二人きりになると途端に口数が減った。
水光は、先ほどの志津の言葉で思う事が色々あるのかと思ったが、
思い違いをしてほしくはないと思いながら一葉を見つめた。

何より一葉は風呂から上がったばかりだ。
寝巻の浴衣一枚でうろうろしていては風邪を引くと思い
水光は無理やりにでもと布団に一葉を引きこんだ。


「み、水光様・・・」

最初は少しうろたえて布団の中でもぞもぞ動いていた一葉だけど、
水光が腕の中に抱きしめてそのまま動かないでいると
その腕の温かさに安心したのかゆっくりと身体の力を抜いた。

水光の腕の中でほう、と吐息を吐いた一葉を見て
水光は一葉に問いかけた。

「落ち着いたか?」

「水光様・・・」

一葉が水光の顔を見ると、優しげな眼差しで見返された。
一葉はその瞳をみているとじわじわと瞳が滲んでくる。

その涙の理由は一葉本人でもよく分からなかった。
今日一日で色々な事を考えた気がする。
だからなのか、今までの気持ちが爆発したのか、
それとも隣にいる水光に安心しているのか、
一葉に答えは出なかった。

「なにか、考えているのか?」

「・・・・・」

水光は一葉にそう問いかける。
それを聞いて一葉は、少し迷った後
何とか水光に話そうと口を開けるのだが、
何をどう言ったらいいのか分からなくて止まってしまった。

すると次第に肩が震えだし、一葉の瞳にさらに涙が滲んでいた。

「こわ、・・・怖いんです・・・」

ぽつりと小さな声でそう言ったあと、ぽろぽろと涙が流れ出す。
水光はそんな一葉の頭をゆっくりと撫でた。

「ここ数日は、っ本当に、・・・っ本当に幸せで、
 水光様が隣にいて、っ毎日が穏やかで、っ本当に」

ひく、ひく、と泣きながらそれでも一生懸命話そうとする一葉に
水光は頭を撫でながらうん、うんと頷きながら聞いていた。

「こんなに幸せでいいのか、というぐらいで・・・・・
 ・・・でも、でもっ、本当は、本当は」

「一葉・・・」

「それと同じくらい毎日が不安だったんですっ・・・」

そう言った一葉は水光の腕の中で顔を隠すように俯いてしまう。
泣いているのを見られるのが嫌なのか、
それとも感情を吐露した事で気まずく思ったのか、
水光の視線からまるで隠れるように。

「一葉・・・何がそんなに不安に思う?」

「それは・・・それは・・・」

俯きながら小さい声で言う一葉を水光はゆっくりと待つ。
こうして自分の感情を言う事は、とても少ない。
一葉は自分の生い立ちの所為か自分の気持ちを押し込めてしまう癖がある。
水光はそれを、抑えなくても、話してもいいのだと一葉に伝えたかった。

それを直接一葉に言っても、一葉は控えめに微笑むだけだろう。
こうしてちゃんと一葉が話せる場所を、作らないといけないのだ。

「いつか、この幸せに終わりがくる・・・
 すぐに水光様がいなくなる、それが、そう思うのが、こわい・・・」

そう言った一葉は水光の胸にきゅと縋りついた。

「すぐに、水光様は帰るんだって、この幸せに慣れちゃいけないって、
 自分にずっと言い聞かせていた・・・でも、本当はずっと、こわいんです・・・」

もぞ、と一葉が動いたと思うと、水光の身体に自分の身体を密着させるように
まるで放っておかれた猫のように一葉は水光に身体を付けた。

水光は今まで優しく守るように回していた腕を、
それを見てすぐにきつく一葉を抱きしめた。

ひく、ひく、という一葉のしゃくり上げる息と共に身体も揺れる。
それを何とか落ち着かせたくて水光はそのまま力を入れていた。

「それでも、一時でも幸せだったと、自分には過ぎた幸せだと、
 そう思おうとしたんです・・・」

「一葉、そんな事は・・・」

「でも、志津、さんの気持ちが私の意識の中に流れてくるような、
 そんな錯覚を感じた時に、その不安が全身に広がったような気がして・・・」

志津に同調して意識を呑まれた時だろう。
きっとその時、一葉は彼女の気持ちに深く同意したのだ。
同じ、神に恋する同士として。

「私にもいつか、悲しい別れがくる。どうしても避けられない別れが。
 どんなに好きになっても、契約が終われば二度と会えない・・・
 それがどうしようもなく怖いんです・・・っ」

胸の中で小さく叫ぶ一葉を、切ない想いで水光は抱きしめる。
そんなにも思いつめていたのかと。

水光がどんなに言葉で好きだと、愛していると言っても、
本当の意味で一葉には届いていなかったのだ。
退妖師の力が、それに纏わる数々の重責が、
一葉の心を固く閉ざしてしまっていた。

「一葉」

未だ揺れる一葉の身体を水光は抱きしめながら背中を擦る。
そのせいかは分からないが、
ゆっくりゆっくりと息を吐いて、一葉は息を整えようとしていた。

「水光様・・・」

水光の名前を呟いてしがみ付く一葉を、
水光はとても愛おしいと思う。

控えめでいつも自分の感情を殺して人に尽くす。
自分が幸せになる事など考えずに、
普通の人間なら当たり前のように要求する事を、できずに怯えている。

そんな一葉を、どうして手放せるだろうか。

自分が一葉を不幸にすることなど、考えも及ばない。


先ほど志津という死霊に言った言葉は、その場の勢いで言った事ではない。
その為にずっと準備をしてきたのだ。

それがやっと形になろうとしている。


水光は一葉にそれを伝える為に口を開いた。



「一葉、そんなに不安に思わなくてもいい」

ぽろぽろ流れた一葉の涙が布団に染み込んでゆく。
それが不安の大きさだったのだと水光は思った。

「俺が何故こちらとあちらを行ったり来たりしていると思う?」

そう問いかけると、一葉はまだ濡れた瞳をゆっくりと上げる。
その瞳には、不思議そうな色が滲んでいた。

「新月の夜に神が降りやすいのは本当だ。だが、それ以外でも降りられない訳じゃない。
 今までそうする神がいなかった。だから誰もしなかった。それだけだ。
 いつしかそれが当たり前のように掟になっていた」

それは人間の掟でも同じ。
新月の夜に契約の儀式を行う。
それはずっと昔から繋がってきた退妖師の掟だ。

「・・・でもある時、変わり者の神は思うんだ。
 それはおかしいんじゃないかと」

一葉はその話がどういう意図を持ったものかが分からず、
水光の話しをただ聞く事しかできなかった。
一葉はその掟に、今まで一度も疑問を抱いた事はない。
ただ、そう言うものなのだと思って従ってきただけだ。

だから何がおかしいのかなんて、その時の一葉には全く思い当たらなかった。

「神々にも身分差があってな、その変わり者は上の偉い神々に取りあった。
 神の世界の掟では、勝手に人間の世界に介入はできない。
 勝手な行動をすると俺の知り合いのように幽閉されてしまうんだ。
 だからその神はそうならない為にも何とかそれを証明する為の期間をもらったんだ」

そう言った水光は一葉の顔を覗き込んだ。
その水光の顔は少し楽しそうに笑んでいた。

「何だと思う?」

「え・・・?」


その問いかけに一葉は首を傾げる。
水光がいう変わり者の神、とは自分の事なのだろう。
そして、最近ずっと一葉の傍にいるのが、その証明するための期間という事か・・・

でも、それが何のための証明か、
何を証明するのか、それは一葉には思い浮かばない。

分からない、といったように瞬きを繰り返していると
水光は再び話を続けた。

「最近、一葉の体調がいい。顔色も、肌や、髪の艶も。
 そして回復がとても早くなった。つまりは、そういう事だよ」

「え、え・・・?」

にこりと笑う水光は一葉の頭を撫でながら楽しそうにそう言った。
一葉にはそれが今の話とどう繋がったのかがわからない。

今まで泣いていた分、すぐには頭の切り替えができていない。
それに、一葉は普段良い事は期待しないように自分の心を抑え続けてきた。
自分に都合の良い事はあまり考えない事も原因だろう。

不思議そうに水光を見つめる一葉の顔を、
水光は優しく両頬を包み込みすぐ近くで見つめ合うように固定した。


「新月の夜にだけ降りる儀式では、退妖師の力を繋ぎとめるしかできない。
 しかし定期的に儀式を行えば退妖師の力はより強くなるんだ」

「・・・え?」

「それがほぼ実証された。一葉のおかげだ
 元々神は妖を退治する力がない。万能ではないんだ。
 制約が多すぎて人間の世界に介入ができないしな。
 だから秩序を乱す妖の退治が出来る退妖師の力は、
 神の側から見てもとても貴重なんだ。」

おかげだと、水光に言われたけれど一葉は何もしていない。
ただ水光が傍にいる事で幸せを感じていただけだ。
それ以外に何か特別な事などしていない一葉は、
目をぱちぱちと動かす事しかできない。

「神々もほぼ認めている。確実に決まってから言おうと思っていたが、
 もう決まったようなものだからな、大丈夫だろう」

「み、水光様・・・?それは、つまり・・・」

一葉がそう問うと、水光は顔を近づけて、一葉の額に自分の額をくっつける。
そして楽しそうに

「つまり、ずっと一葉の傍にいられるってことだよ」

と言ったのだ。


「・・・・・う、そ・・・」

「それだけじゃない。一葉を俺の伴侶にする許可も得た」

「・・・・・え?」

あまりに唐突に水光から紡がれる言葉に一葉はついていけなかった。

どれをどう考えても、自分にあまりに都合のよい言葉ばかりなのだ。
これが現実だとどうして思えようか。

それに、伴侶だと、水光はそう言ったのだろうか。
それこそ一葉には理解ができないことだった。

一葉は呆然と、その言葉の意味を繰り返し頭の中で考えていた。


「しばらく人間として俺はここで暮らす。
 こちらへ降りて、人間の格好をしていたのも、人間の姿に慣れる為だ。
 そして契約が終わっても一葉が人間としての生を全うするまでここにいる」

水光はそう言って一葉の瞼に口づけを落とした。
少し場所や角度を変えながら、何度も。

それは、混乱している一葉に、それを教え込むような仕草だった。
それにより、確かに一葉の頭は落ち着いた。
水光が今言った事を一生懸命のみこもうと一葉は目を閉じた。

水光は、確かに言った。
ずっと不安に思っていた水光との別れ。
それが、契約の終わりが、こないのだと。

そして・・・


「そして一葉が人間としての生を全うしたら・・・」

「し、したら・・・?」

一葉は静かにこくりと固唾をのんだ。

これ以上、これ以上の事があるんだろうか。
もうこれだけで、信じられないぐらい、
理解できないぐらいの事を聞かされているというのに。


「神の世界へ一緒に連れていく。伴侶としてな」

その言葉を聞いて一葉は目を見開いた。

今、今なんと言ったのだろう。
なにか自分は聞き間違えたのだろうか。

水光が、一葉を神の世界へと、

そう言ったのだ。

ざっと、一葉の全身に鳥肌が立った。




「・・・そ、そんな事できるのですか?」

一葉にはそう言う事が精一杯だった。

神の世界になど、人間の自分が行くなどと、
そんなこと出来る筈がないのに

「その許可をもぎ取ったのだ。普段、神という名を名乗ってはいても
 何に対しても興味も持たずにやる気を出さなかった変わり者が、
 いきなりやる気になった。しかも大切な退妖師に関してだ。
 神の世界の歴史を変えたと、神々は盛り上がっているぞ。
 だからだ。この功績の代わりに交渉して許可をちゃんと得た」

それなのに平然と水光はそう言うのだ。

一葉は頭がまだ理解をしておらず、言葉についていく事さえ必死だというのに

あまりの事に、顔を見つめる事しかもう、できないというのに


なのに言うのだ。
笑って、さらりと、楽しげに、

「だから一葉、不安に思う事なんてもうない。
 あるとすれば、もうずっと俺から逃げられない不安だろうな」

と。



その言葉を聞いて、漸く一葉の脳内にその意味が浸透したのか、
一葉は再び肩を震わせて涙を流し始めた。
ぼたぼたと流れ落ちる雫は、それまでとは違い
悲痛な一葉の不安をまるで洗い落とすかのようだった。

一葉は目を閉じる。
そして今水光に言われた言葉を何度も何度も思い返す。

目は閉じていても、涙は止まる事がなかった。

「一葉、勝手に決めてしまったが、一葉は・・・」

静かに水光が一葉に問いかける。
その言葉に、一葉は目を開いた。
そしてまだ滲んで視界が定まらない瞳で水光を見返した。

「嬉しい・・・っ、嬉しいです・・・!」

そうして腕を水光の胸元に移動させて、
その胸にぎゅっとしがみ付いた。

こんなに自分に都合のよい事ばかりで、いいのだろうか。
これは夢ではないだろうかと、一葉は何度も思う。

けれどこの温かい胸は、腕は、声は、
決して幻なんかではなかった。

「水光様、水光様・・・」

その腕の中で何度も何度も名前を呼ぶ。

それ以外に、この感情の表し方が分からなかった。

こんな気持ち、こんな溢れる感情を、
どう言葉で表せるのだろう。

「一葉、愛している」

しがみ付く一葉を少し離して、水光は一葉の顔に唇を落としながらそう言った。

そしてその言葉をもらった瞬間に、一葉は

ああ、そうだと思った。


この気持ちは、こんな気持ちを言うのだ。

「愛しています、水光様・・・」

前に言ってくれた水光の言葉。
それは不安が一葉を覆い尽くしていて分からなかった。

けれど今なら分かる。


それが、この気持ちなのだと。


「水光さま・・・」

「ああ、愛している」

「私も・・・私も、愛しています」

その溢れる思いを言の葉にのせて
それが終わるとすぐに水光の唇が一葉に降りてきた。


こんな風に、感情に溢れた口づけは初めてだった。
いつもいつも、嬉しいと思いながらも不安や、
負い目を感じて素直になれなかった。

けれど、もういいんだ。

もう、いいんだ。


水光に愛していると、言える事も、言われる事も、

素直に感じていいのだ。
ありのままに。


熱い、熱い口づけが解け、少し息の荒い口を開いて一葉は言った。

「水光様・・・抱いて下さい・・・」

「・・・いいのか?」

「大丈夫ですから・・・」


今日一日でこんなに色々な事があって
お互いに疲れているだろうけど、
今がいい。今じゃなきゃだめだ。

契約も何も関係なしに、
今、水光様に抱いてほしい

一葉はそう思って水光の首に両腕を回した。




肌を撫でる手も、肌に感じる唇も、吐息も、
全てが自分のものだと、そう思うと一葉は胸が跳ねあがる。

今までは契約という文字が付いて回っていたけれど、
これは違う。

そう思った途端、一葉は胸が壊れてしまうと思うぐらいの
鼓動と興奮を覚えた。

「あ、あ、あぁ」

肩や背中、脇腹を撫でられながら胸に口づけられ
一葉は身体がびくびくと意思とは関係なしに動くのを止められない。

だんだんと水光の手は下肢を目指すのに、
口はずっと胸で留まり舐めて、食んで、執拗に弄られる。

長い時間をかけて同じ場所を続けて弄られ、
一葉は蕩けだしそうになっている。

そうしているうちに手は下肢の最も敏感な部分に辿り着き
一葉は更なる刺激に翻弄されていた。

「あっ!やぁ、あ、あ!」

自分の心も高揚しているせいか今までと比べ物にならないくらい
一葉は敏感に反応を返していた。

そしてやっと胸から水光の口が離れたかと思ったら
すぐさま水光は後ろを解す為に指で慣らし始める。

「ふぅ、ん!ん!」

ここ最近は新月など関係なしに水光に抱かれていた所為か
少し慣らすだけでそこは水光の指にすぐ馴染んでゆく。

そしてそう時間をかける事もなく準備は整う。

「一葉、いくぞ」

「はい・・・んぁ、あぁ・・・!」

水光もいつもと違い早急に中に入り込んでくる。
慣れているとはいえ、一葉はその刺激に
生理的な涙を流していた。

すると、それを水光がついと指先で拭って笑った。

「今日だけでどれだけ泣くんだ一葉、干からびてしまうぞ」

それを聞いて一葉もふ、と笑って、身体の力が抜ける。
そして水光にぎゅとしがみ付き

「干からびたら、潤してくださいね」

と笑って言った。
その笑顔を見て、水光は再び一葉に口づける。

愛おしい、愛おしいと、お互いが言い合っているかのような、
そんな口づけだった。


「いいのか一葉、一生、いや、死んでも俺から逃げられないのだぞ?
 それこそ、未来永劫離れる事はないんだ。それでもいいのか?」

「はい・・・嬉しいです。水光様こそ・・・
 私の事、嫌になって放りだしたりしないでくださいね」

「誰がそんな勿体ない事するか」

口づけの合間合間に、そんな会話を繰り返す。

もうお互いに、瞳に映るのはお互いだけで。

水光さえ、一葉さえ、
傍にいれば、

そんな風に考えていた。


「動くぞ」

そう水光が言った瞬間、一葉の中を激しく穿つ。

一葉はその刺激に声を我慢することなどできなかった。

「ああぁ!っふあ、ああぁ!」

その動きだけで一葉はもう何も考えられなくて
びくびくと身体が勝手に動いてしまうというのに、
水光は動きはそのままに、再び唇を一葉の胸に寄せた。

「ああん・・・!い、いぁああ」

また執拗に胸を弄られ、さらにもう片方も手で摘まれ
一葉は何か所も一度に弄るその刺激に耐えられず
身体を仰け反らせ、気がついた時には沢山の白濁を零していた。

「あ、ああ、あ、あ」

頭の中が真っ白になって、身体はびくびくと波打つ。
絶頂に達し、苦しいぐらいの快感を得たというのに、
水光は容赦なく一葉の中を堪能する。

「まだだよ一葉」

「あ、いや、待って、まって・・・っ」

休みを入れずに動かれるのはつらい、
それは充分水光も承知のはずだが、それを止めてくれる気配はなかった。

「無理だ・・・っ」

「いやああっ、むり、むりぃ」

お互いに興奮していた所為か、
普段ならば加減もしてくれるのだが、
今日ばかりは一葉が何を言っても水光は耳を貸そうとはしなかった。

「ふあぁぁぁ」

「っ・・・!」

涙を流しながら喘ぐ一葉にすまないと思いながらも水光は止められず、
しばらくそのまま一葉の中で動き続け、漸く水光も果てた。

そのあとも、全てを一葉の中に注ぎ込むようにと、
何度も何度も、ぐっと一葉を穿つ。

その度にびく、びくと動く一葉に、
興奮した自分が治まる気配など微塵も感じず、水光はそんな自分を笑った。

いやいやと言うかのように首を左右に振る一葉だが、
そんな一葉の胸を再び摘まめば、困ったように水光を見るが
それでも腕を伸ばして水光の頭を抱きしめるように抱える。


あぁ、今日は止まらないだろう。


そう思いながら水光も一葉の背に腕を強く回した。



次の日

一葉は父や母、そして二葉にこれからの事を全て話した。
隣にいる水光と、共に生きる事を。

当然のことであるが、それを聞いた家族は皆驚き、
最初は何を言う事も出来なかった。

けれど一葉、そして水光の瞳は真剣そのもので
とてもそれが嘘を言っているようには見えない。

銀香は特に、神がどういう存在で、
人間と一緒になる事など有り得ない事だと経験が物語っていた所為で
それを受け入れるとは別に頭で理解するのが遅れた。

まさか、常識が全て覆るとは、思いもしなかったのだ。


それは、これからずっと一緒にいる水光に慣れて
少しずつ理解してもらうしかないと一葉は思っていた。


「でも、そんな気がしていた・・・」

しかし、そう言ったのは、二葉だった。

「二葉・・・?」

二葉の方を一葉が見ると、
二葉は泣きそうな顔をして微笑んでいた。

「そんな気がしていました。2人が離れるはずないと・・・」

二葉はずっと、退妖の力を誤って一葉に移してしまった事を嘆いていた。
最初は当然嫉妬もあっただろう。
けれど一族の者による仕打ちを見続けて、
それに身体を壊しながらも立ち上がる一葉を見続けて、
自分がなんて事をしたのかと思い知りずっと負い目を抱えてきた。

だからだろうか。
二葉はずっと一葉を気にしていて、小さな事でも気にかけていた。
誰よりも、誰よりも幸せになっていいはずだと、思っていた。

「・・・私の所為でずっとお兄様を苦しめてしまった。
 だから、苦しんだ分お兄様がこれから幸せになるなら、
 こんなに嬉しい事はない・・・良かった、良かった・・・」

涙を滲ませる二葉に、一葉は自分も泣きそうになり、
二葉を抱きしめた。

「二葉こそ・・・私の所為でずいぶん苦しめてしまった・・・
 二葉も、もう罪悪感を抱える必要はないんだ・・・
 いいんだ、幸せになって・・・」

二葉は一葉の胸の中でぽろぽろと涙を流した。
ずっと不安を抱えていただろう。
きっと思っていた。
一葉が幸せでないなら、自分も幸せになどなってはいけないだろうと。

二葉は、そういう性格だった。

「二葉も、いいんだ。想う人と、幸せに・・・」

「はい・・・」


泣きやまない二葉を抱きしめていると、
そこへ水光がやって来て、何も言わずに二葉の額に手をあてた。

「・・・水光様・・・?」

何をするのだろうと水光の顔を見ると、
水光は手を離してひとつ首を縦に動かしてからふっと笑った。

「あぁ、大丈夫だ」

何がだろう、そう思って水光をじっと見ると、
水光は安心しろ、と一葉と二葉両方に向かって言った。

「退妖の力は完全に一葉に移った訳ではない。
 二葉の中にも残っている。今は眠っているようなものだろう。
 この先二葉が子供を産んだら、きっとその子供が力を受け継ぐだろう」

その言葉を受けて二葉はばっと顔をあげて水光を見た。
その瞬間、ぴたりと涙が止まった。

「本当、ですか・・・?」

「ああ。微力だが、感じられる」

「・・・良かった・・・」

ほっと、吐息をついた二葉は、最後に一粒だけ涙を流した。
その目を閉じて微笑んだ頬に、その雫は輝いた。

一葉はそんな二葉を、もう一度ぎゅっと強く抱きしめた。





「では、行ってまいります」

玄関を出て振り返ると、家族が笑顔で送り出してくれた。
いつものように見回りに街へ出かけるだけなのに、
今日はどうして清々しいのだろう。

きっと、一葉の不安が解消されたせい、
そして、隣に水光がいてくれるせい。

そう思って一葉は水光と手を繋ぎ歩き出した。


昨日、たった昨日の出来事なのに、
こんなにも見える世界が違う事に一葉は嬉しく思う。

つい何時間か前にはこんな未来がくることなんて、想像もしていなかった。


手を取り合い歩いていると昨日戦闘をしたあの森の入口に差しかかる。
今日はとても天気が良く、森の木々がきらきらしている。

妖がいなくなって木々も安心したせいだろうか。
それとも、不安を抱えるあまりいつも下を向いていて、
こんなに周りがきらきら輝いているのに気付かなかっただけだろうか。

こんな風に心に余裕を持って周りを見渡すのなんて、
初めてかもしれないと一葉は思った。

そして、ふと思う。

「志津さんは、成仏できたでしょうか・・・」

思っていた事が、口に出てしまっていた。
森の奥を見つめ、そう呟くと、どうだろうな、と水光が返す。

「あの世で罪を償い、清い魂となれば・・・
 そしてあの神も幽閉が解けた後に会いたいと思ったなら、
 2人が再び会える可能性も、なくはない」

それを聞いた一葉は目を瞠って水光を見た。

「そうなのですか!?」

「ああ、今のままでは時間はかかるが・・・
 全てはあの2人次第、だな」

それを聞いて一葉は安心して息を吐いた。
可能性が、全くない訳じゃないんだ・・・なら、
希望を捨てないでいてほしい・・・

同調してしまったせいで、一葉には少なからず志津の気持ちがわかる。
自分もその同じ思いに悩まされた。

だから、少しでも、この先に光が見えるなら


一葉はそう思って木々の先、遠い空を見上げた。



「あ、しまった」

木々が終わり、そろそろ街が見えてくる頃、水光はそう呟く。

いきなり声を発した水光に一葉は何かあったのかと不安げに顔を見る。
そんな一葉に水光は何でもないと言うが、
何かまずい事があるのだろうと不安になり、一葉は俯く。

そんな一葉を見て、水光は慌てて説明をした。

「あ、いや、そんな困る事でもないんだ。
 ただ、神の仕事も少しの間休むことになるから、
 後任の神に仕事を引き継いでこなければならないんだ。
 数日はやはり、こちらと行ったり来たりになるだろうと思ってな」

それを聞いて一葉はぽかんと口を開けてしまっていた。

「え、えぇ、神の仕事は、お休みできるんですか・・・?
 それに、後任とか引き継ぎとかが、あるんですか?」

まるで、人間の世界のようで一葉は驚いた。
神というのは、一人の神が司るものがあり、
それはその神にしかできないものだとばかり一葉は思っていたのに。

「ああ、神というのも、役職のようなものだからな。
 実際水光というのも本当は女性神でな、
 結婚するから辞めるといって、俺が後を継いだんだ」

「ええ!?」


一葉は驚きすぎて水光の顔を凝視してしまっていた。
今、一葉はものすごく大事な事を聞いたのではないだろうか、と
混乱する頭を抱えた。

「み、みひかりさま?」

「どうした?」

混乱する一葉に気付かず、水光は一葉に笑いかける。
そんな水光を一葉は信じられない思いで見つめた。

「水光様は、水光様じゃなくて?
 本当の水光様は女性で、水光様はそれを後継したと?」

「ああ、そういう事だが・・・知らなかったのか?」

「し、知りません・・・!」


一葉は何でそんな大切なことを言わなかったのか、と思う。
いや、きっと水光は言ったつもりか、それとも知ってると思ったのか、
そのどちらかなのだろう。

そんなに大切な事ではないだろう、と飄々としているけれど
それを知らなかった一葉からしてみれば大きな衝撃だった。

だって、それはつまり、

「水光様の名前は、本当は役職・・・神様の名前であって、
 本当の名前ではないって、そういう事なんですよね?」

「ああ、・・・一葉?言ってなかった、か。すまない・・・」

一葉がじっと水光を涙目で睨んでいると、
さすがに焦ったのか水光が謝ってくる。

知らなかった。
もう水光と出会って二年経つ。
さらに伴侶となる約束までしたというのに、一葉は知らなかったのだ。

水光の、本当の名前を。



「では、水光様の本当の名前は・・・?」

「ああ、火貴という」

「ほたか、さま・・・」

一葉は何度かその名前を呟いた。
もうずっと、水光の名前で呼んでいたのに、
慣れ親しんだその名前は神としての名前。
水光本体の名前ではないという。

「これから、そうお呼びしても・・・?」

一葉が遠慮気味に水光を見上げてそう言うと、
水光は嬉しそうな笑みで頷いた。

「ああ、嬉しいな」


そう笑った一葉の姿が映る瞳は橙色で、
確かに火貴という名前が、水光にはあっている・・・

そう一葉は思った。



「火貴様・・・」

「ああ、なんだ一葉・・・」


一葉と火貴が通り過ぎた木々の上では、
妖から助けてくれてありがとうとでも言うかのように、
鳥たちが一葉たちを眺めながら歌っていた。

遠くから見てもわかる。
手を繋ぎ、共に歩く後ろ姿からは、
二人が互いを思い合っているのが見てとれる。

その姿は、これから先、
何十年と、一葉が老いるまでずっと続けられる光景だろう。


木々の間から射す光が二人を照らし
一葉の帯からは、玉簪がきらりと光った。







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