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私は一度だけ、イデア様に出会ったことがある。
城から一度も出ることを許されていない、
存在は周知されているけれど、その尊顔を拝謁した経験があるのは極々一握り。
婚約者、という特別な立場故に許された、たった一度限りの謁見。
ーー謁見、というよりは鑑賞に近かった。
そう、鑑賞。
イデア様を初めて見た時の感想は、美しいの一言だった。
壊れやすい、ガラス細工の美術品のような。
繊細で、丁寧な作品のような。
そんな印象。
あの方とお話をすることはできないかった。
だから、私にどういった感情をーー感想を抱いているかは分からない。
短い、これは本当の、実際的な意味で、短かったため、分からない。
その短い時間でさえ、あのお方は口を開くどころか、目を開けることもできなかったのだから。
「ありがとう、リトア。君のそういうところ、私は好きだよ」
言いつつ、カストリア様は私の頭をもう一度撫でた。
あぁ、ああ。
そんなに優しくされては困ってしまう。
私にどれほどの想いがあるか分からないというのに、
その好きという一言に、どれくらいの重さがあるか分からないというのに。
期待してしまう。
まさか、もしかしたら、あるいは、と。
「リトアも、お父様によろしくね」
その言葉が、締めの言葉だった。
手が笑顔と共に離れていく。
私の元から去っていく。
あのお方自身も、私に背をむけ、扉へと足を向ける。
「あ、あのっーー」
言いかけて、言葉に詰まる。
これも、あのお方の決まり文句と同様の、いつもの流れ。
引き止めたくて、何か言わないといけないと思って。
それで……
「どうしたんだい?」
あのお方の言葉と笑顔を見ると、何も言えなくなってしまう。
気の利いた言葉を、魅了する笑顔を。
いつも準備していたはずなのに。
何もかもが、霧散してしまう。
「……いえ、何もーーお気をつけて、お帰りください」
「うん、リトアも気をつけて」
ここまでの流れが、いつも通りというところか。
ありきたりな予定調和。
ばたり、と扉が閉まり、私一人取り残されてる。
一人ぼっちの空間。
時よ止まれと思った空間も、今では見るかげもなく虚しい。
あのお方は、全てをもっているが故に、全てを奪い去る。
どれだけ良い場所でも、あのお方がいなくなった落差は埋められない。
この部屋も、色々と考え、準備させたものなのに。
それでも、それでもーー
「また、あのお方の笑顔を見ることができただけでも、十分と思いましょう」
私は呟く。
そして、次に備えて頑張る。
あぁ、予定調和といえば、ここまでがそうなのかもしれません。
城から一度も出ることを許されていない、
存在は周知されているけれど、その尊顔を拝謁した経験があるのは極々一握り。
婚約者、という特別な立場故に許された、たった一度限りの謁見。
ーー謁見、というよりは鑑賞に近かった。
そう、鑑賞。
イデア様を初めて見た時の感想は、美しいの一言だった。
壊れやすい、ガラス細工の美術品のような。
繊細で、丁寧な作品のような。
そんな印象。
あの方とお話をすることはできないかった。
だから、私にどういった感情をーー感想を抱いているかは分からない。
短い、これは本当の、実際的な意味で、短かったため、分からない。
その短い時間でさえ、あのお方は口を開くどころか、目を開けることもできなかったのだから。
「ありがとう、リトア。君のそういうところ、私は好きだよ」
言いつつ、カストリア様は私の頭をもう一度撫でた。
あぁ、ああ。
そんなに優しくされては困ってしまう。
私にどれほどの想いがあるか分からないというのに、
その好きという一言に、どれくらいの重さがあるか分からないというのに。
期待してしまう。
まさか、もしかしたら、あるいは、と。
「リトアも、お父様によろしくね」
その言葉が、締めの言葉だった。
手が笑顔と共に離れていく。
私の元から去っていく。
あのお方自身も、私に背をむけ、扉へと足を向ける。
「あ、あのっーー」
言いかけて、言葉に詰まる。
これも、あのお方の決まり文句と同様の、いつもの流れ。
引き止めたくて、何か言わないといけないと思って。
それで……
「どうしたんだい?」
あのお方の言葉と笑顔を見ると、何も言えなくなってしまう。
気の利いた言葉を、魅了する笑顔を。
いつも準備していたはずなのに。
何もかもが、霧散してしまう。
「……いえ、何もーーお気をつけて、お帰りください」
「うん、リトアも気をつけて」
ここまでの流れが、いつも通りというところか。
ありきたりな予定調和。
ばたり、と扉が閉まり、私一人取り残されてる。
一人ぼっちの空間。
時よ止まれと思った空間も、今では見るかげもなく虚しい。
あのお方は、全てをもっているが故に、全てを奪い去る。
どれだけ良い場所でも、あのお方がいなくなった落差は埋められない。
この部屋も、色々と考え、準備させたものなのに。
それでも、それでもーー
「また、あのお方の笑顔を見ることができただけでも、十分と思いましょう」
私は呟く。
そして、次に備えて頑張る。
あぁ、予定調和といえば、ここまでがそうなのかもしれません。
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