6 / 51
一章
5.自笑の悪役
しおりを挟む
破り捨てた紙の感触を思い出しながら、パトリシアは思った。
どうして、正攻法でやろうとしていたのか、と。
それは、今まで自身がやろうとしていた方法に、ではない。
本来のーー生来のパトリシアならば、自身の幸せを掴むために、わざわざ旦那であるアンドレア・エーテルザットの改良、なんて面倒な手段をとらないからだ。
生来の彼女であれば、彼を亡き者にしていたはずだ。
それでなくとも、自身の自由意思で動くような傀儡に仕立て上げていた筈だ。
無論、アンドレアの努力や想いによるものではなく、物理的・精神的強制力をもった方法でやっていた筈だ。
「……っ、あはっ」
彼女は薄く笑った。
手で口元を隠し、
かつてのように、自然に、悪魔のように。
何かを嘲るように笑った。
そこにはパトリシア以外誰もいない。
様子を見にきたのであろうアンドレアは、手紙を破り捨てた彼女の行動に疑問符を浮かべつつも、それ以上は何も考えず、後にした。
そこで、言葉をかければ、その後の彼の不幸はなかったのかもしれない。
……いや、それは甘い予測だろう。
だが、少なくとも遅らせることはできたはずだ。
彼女が彼女に戻ることを、遅らせることぐらいはできた筈だ。
しかし、彼は何もしないしできなかった。
手も握らせてくれない伴侶との会話よりも、無言で幸せを与えてくれる甘いお菓子の方が、大事だったからだ。
だから、パトリシアは悪くない。
アンドレアの方が悪い。
ーーいや、一概に決めつけるのも良くない。
彼という男を、最愛の女性よりも重要視させる食べ物が悪いのかもしれない。
アンドレアは、哀れな被害者の一人に過ぎないのかもしれない。
ーーけれど、そう簡単に結論づけるのも如何なものか。
食べ物というのは、料理というのは人に誰かに食べられるためにある。
故に、それらは悪意をもって彼ら彼女らに接している訳ではない。
そのように生まれたから、そうなるしかない。
選択肢を、そもそも与えられていない。
ならば、本当に悪いのはこの世界なのかもしれない。
そこに思い至ったところで、彼女は思考を止めた。
「私としたことが、ショックで自分を見失っていたようですね」
彼女は1人、呟くように言いながら、くるんと回る。
「いや、ショックを受けてしまうということ自体、通常の私ではありえないことですし」
軽やかに、しなやかなに、ステップを踏む。
「恋は盲目、ということでしょう。異国の言葉は身に染みます」
誰もいない部屋で、
「ですが、それも終わりです。この大きな瞳は開かれました」
誰のためでもない、
「少女の時代は終わりです。恋に生きるのも、当然お終い」
ただ、自分がそうしたいからという理由で踊る。
くるくると、
たんたんと。
「誰かの為ではなく、自分のために、生きましょう」
純粋な欲望、
無垢な心。
「これまで通り、今まで通り」
混じり気がないが故に、彼女の踊りは美しい。
たとえ、それを見たいと望む観客がいなくとも。
「必要であれば、悪役を演じることも、致しましょう」
どうして、正攻法でやろうとしていたのか、と。
それは、今まで自身がやろうとしていた方法に、ではない。
本来のーー生来のパトリシアならば、自身の幸せを掴むために、わざわざ旦那であるアンドレア・エーテルザットの改良、なんて面倒な手段をとらないからだ。
生来の彼女であれば、彼を亡き者にしていたはずだ。
それでなくとも、自身の自由意思で動くような傀儡に仕立て上げていた筈だ。
無論、アンドレアの努力や想いによるものではなく、物理的・精神的強制力をもった方法でやっていた筈だ。
「……っ、あはっ」
彼女は薄く笑った。
手で口元を隠し、
かつてのように、自然に、悪魔のように。
何かを嘲るように笑った。
そこにはパトリシア以外誰もいない。
様子を見にきたのであろうアンドレアは、手紙を破り捨てた彼女の行動に疑問符を浮かべつつも、それ以上は何も考えず、後にした。
そこで、言葉をかければ、その後の彼の不幸はなかったのかもしれない。
……いや、それは甘い予測だろう。
だが、少なくとも遅らせることはできたはずだ。
彼女が彼女に戻ることを、遅らせることぐらいはできた筈だ。
しかし、彼は何もしないしできなかった。
手も握らせてくれない伴侶との会話よりも、無言で幸せを与えてくれる甘いお菓子の方が、大事だったからだ。
だから、パトリシアは悪くない。
アンドレアの方が悪い。
ーーいや、一概に決めつけるのも良くない。
彼という男を、最愛の女性よりも重要視させる食べ物が悪いのかもしれない。
アンドレアは、哀れな被害者の一人に過ぎないのかもしれない。
ーーけれど、そう簡単に結論づけるのも如何なものか。
食べ物というのは、料理というのは人に誰かに食べられるためにある。
故に、それらは悪意をもって彼ら彼女らに接している訳ではない。
そのように生まれたから、そうなるしかない。
選択肢を、そもそも与えられていない。
ならば、本当に悪いのはこの世界なのかもしれない。
そこに思い至ったところで、彼女は思考を止めた。
「私としたことが、ショックで自分を見失っていたようですね」
彼女は1人、呟くように言いながら、くるんと回る。
「いや、ショックを受けてしまうということ自体、通常の私ではありえないことですし」
軽やかに、しなやかなに、ステップを踏む。
「恋は盲目、ということでしょう。異国の言葉は身に染みます」
誰もいない部屋で、
「ですが、それも終わりです。この大きな瞳は開かれました」
誰のためでもない、
「少女の時代は終わりです。恋に生きるのも、当然お終い」
ただ、自分がそうしたいからという理由で踊る。
くるくると、
たんたんと。
「誰かの為ではなく、自分のために、生きましょう」
純粋な欲望、
無垢な心。
「これまで通り、今まで通り」
混じり気がないが故に、彼女の踊りは美しい。
たとえ、それを見たいと望む観客がいなくとも。
「必要であれば、悪役を演じることも、致しましょう」
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
仕事で疲れて会えないと、恋人に距離を置かれましたが、彼の上司に溺愛されているので幸せです!
ぽんちゃん
恋愛
――仕事で疲れて会えない。
十年付き合ってきた恋人を支えてきたけど、いつも後回しにされる日々。
記念日すら仕事を優先する彼に、十分だけでいいから会いたいとお願いすると、『距離を置こう』と言われてしまう。
そして、思い出の高級レストランで、予約した席に座る恋人が、他の女性と食事をしているところを目撃してしまい――!?
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる